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パーティー再結成


 ラビアン教会に詰まれていた大量の茶葉は、ローズが教会運営とは別に貴族向けに販売をしていたものだった。


 確かに品は一級品である。しかしここ最近、別大陸から品質も良く、価格の安い茶葉が入るようになったらしい。

当初はローズの茶葉販売も上手くいっていたようだったが、結局は価格競争に負け、大量の在庫を抱えることになってしまっていた。


 仕入れのために使った金はラビアン教会を売り払っても到底返せる額ではなかった。

それでも、SSランクとして活躍していたリンカからの仕送りで、なんとかギリギリの線を保てていたらしい。

むしろローズはリンカのことを“金づる”としてしか見ていなかった。


 だがリンカが声を失ったことで、ローズは破綻を余儀なくされた。


 声を失った魔法使いなど、役には立たない。金にもならない。そこでローズは借金を無くすために、借入先であるキンバライトへ売り渡すことで全てを無かったことにしようとしていた。


 キンバライトも、かねてよりラビアン教会から、年端も行かぬ少年少女を買い漁る変質者であった。

 絶望に染まる顔が見たいがために、拉致をして、貪る。

しかしその時既に、拉致された少年少女は皆、拘留期間も無く、いつの間にか奴隷身分となっていて、もはや逃れる術は無い。鬼か、悪魔の所業であった。


 ローズもキンバライトも互いの身の保身を優先し過ぎたために、喋り過ぎてしまっていた。

真実の全てが白日の下に晒され、さすがの聖王国も看過できなくなっていた。


 故に名家として存在したキンバライトは取り潰され、ラビアン教会は聖王国預かりの施設となる。


 当然、リンカの奴隷売買も無効となり、彼女を強奪したロイドへもお咎めは無しとなったのだった。



●●●



 夕焼けが異様に眩しかった。日が傾いても空気は暖かく、アルビオンの街はいつも通りの賑わいを見せている。


 しかしリンカは石橋の淵に寄りかかり、ただひたすら街の水路へ視線を落とし続けていた。

さすがに泣き止んだものの、心ここにあらずといった具合に、茫然自失のていだった。


 それも無理からぬこと。きっと心優しいリンカのことだから、ローズや教会のためにと必死に依頼をこなしていたのだろう。しかし、そんな親同然として育ててくれた人が、彼女を金のために売り払ったのだ。


 もはや今の彼女には誰もいない。声を失った役に立たない魔法使いにもはや明るい未来は存在しない。


 だからこそ、こんなタイミングでしか言えないことがロイドにはあった。

まるでこの状況を利用したようで、少々気が引けるのは確か。

しかしもしも彼女が、望むならば――


「一か月10,000G」


 ロイドはリンカの隣で紙煙草を燻らせながら、ぶっきらぼうに言い放つ。

 水路から顔を上げたリンカは、首を傾げる。

 青い純情無垢な瞳が、ロイドを映し出す。ただそれだけなのに、ロイドの胸の内では心臓が激しい鼓動を放っている。


「も、もしもだ、リンカさえ、良ければだが、その……」

「?」

「俺をまた雇ってくれないか!? 丁度今、次のパーティーを探そうと思っていたんだ! そ、それにリンカは後衛で、俺は前衛であるわけだし、これからのことも考えて、神代文字の勉強もだな!!」


 茜色の夕日の中、リンカはくすくすと笑いだす。そして彼女は肩にかけたポシェットから、虹色に輝くオリハルコンの欠片を手に一杯握りしめる。そしてそれをロイドへ握り渡す。


 どうやらロイドの提案は、受け入れられたらしい。

そしてこれが多分契約料のようなのだが、


「多すぎだ。金はもっと大切にしろ。それはリンカが命をかけて稼いだものだ。大事に使え」


 ロイドはリンカへ虹色に輝く鉄片を握りなおさせる。


 ようやくリンカは笑顔を浮かべて、首を縦に振るのだった。


 もはや陰りは無い。もう大丈夫な様子だった。


 と、そんな中、“くぅ~”と腹の虫が鳴き、夕日の中でもはっきり分かるほど、リンカは頬を赤らめた。


「腹、減ったな。飯にするか?」


 おずおずと首肯するリンカを見て、誰が稀代の魔法使いと思えようか。

今目の前にいるのは、愛くるしくて、温かみを感じる普通の少女がいるだけ。


 ロイドはDランクで、リンカはSSランク。本来は巡り合うことも無い二人。

齢だって一回り以上離れている。

そんなちぐはぐな二人が、何のめぐりあわせか、パーティーを結成する。


(こんなこともあるんだな……)


 それなりの絶望と、無に近い希望――だけど、案外希望は突然現れるのかもしれない。これは長く冒険者を続けてきたロイドへの神様からのちょっとしたボーナスなのかもしれない。


「今日は俺のおごりだ」


 ロイドの提案にリンカは珍しくぶんぶん首を横に振る。


「たまにはかっこつけさせてくれ。一応俺の方が年上なんだからな」


 ロイドとリンカは夜の町へ繰り出してゆく。

 

 もう少し冒険者というものを続けてみよう。

そう思うロイドなのだった。


*これにて1章終了です。ありがとうございました! 2章「勇者パーティー救出」の掲載開始は5/18日(土)正午~です。引き続きよろしくお願いいたします! どんどん盛り上がって参ります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・ロイドの勇気 [気になる点] ・リンカが声を失った理由 [一言] パーティーから捨てられたロイドがリンカを救い、パーティー再結成。いやあ、ほっとしました。
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