王女としてではなくて
「…………」
ここは、教会の一室。自室を割り当てられた神官たちが就寝につく中、まだ一人、起きている人物がいる。
彼女はベッドに腰掛け、窓から夜空を見上げている。小さく光る星々や、月がとても綺麗だ。
しかし、真に綺麗だと表現するものがあるとすれば、それは……
「! 誰?」
ふいに、窓がコンコンと叩かれた。外に、人の影はない。ぱっと見わからないように、身を隠しているのだろう。
それから、外の人物はなにかを警戒するように、身を現した。部屋の中に、他に人がいないかの確認をしていたのだ。
「……わぁ」
姿を現した人物は、部屋の中にいる人物の姿を目に収め思わず感嘆の声を漏らした。噂には聞いていたし、遠目にも見たことはある。
だが、こうして間近にして、彼女を見るのは初めてのことだった。シャリーディア・ラー・フランツェル……彼女の美貌は、同性ですら、見惚れてしまうほどの美しさであった。
寝間着に着ているのは、白いワンピースのような服のみ……だというのに。いやだからこそと言うべきか、彼女の素体が、これ以上なく活かされている。
今宵の月など、鼻で笑ってしまうくらい比較にもならない。
「あの……」
「あ、し、失礼しました」
突然現れた、黒い服装に身を包んだ女性の登場に、シャリーディアは眉を寄せながらも、窓を開けた。
警戒心がないのか、それとも襲われても返り討ちにする自信があるのか。大神官は体術が強くないイメージがあるが、勇者パーティーとして荒波に揉まれてきた彼女は例外かもしれない。
とにかく、謎の来訪者を前にシャリーディアは、会話に応じる姿勢を取った。
それを見て、シャリーディアに向けて一礼をする
「私は、リリー・マ・ファルマー……いえ、リリー・リリエット様の給仕を勤めております。メラと申します」
「! リリーちゃんの?」
現れた女性……メラは、シャリーディアへ自分の正体を告げる。リリーの、給仕であると。
正直、給仕にしては怪しげな格好をしているが……彼女を無視できない理由が、シャリーディアにはあった。
リリー・マ・ファルマーという王女としての名ではなく、リリー・リリエットという勇者パーティーとしての名前を、出されたからだ。
「……嘘じゃ、ないんですね」
「こんな登場をして説得力はないでしょうが、本当のことです」
「自分でもわかってるのね」
夜中に、突然窓から現れた不審者を、まさか王女のお付きの人とは思うまい。
だが、王女としてではなく勇者パーティーメンバーとして……その名を出されれば、信じないわけにもいかないだろう。その名をわざわざ出す意味、それがわからないシャリーディアではない。
「とにかく、入って」
「失礼します」
シャリーディアは、メラを招き入れる。
教会は普通、外からの侵入不可だ。だが、現にこうして侵入している……恐ろしいほどだ。本当にただの給仕なのだろうか。
それに、彼女がここへ訪れた理由も気になる。それも、わざわざこんな時間に……誰にも、見つからないようにだ。
「単刀直入に、申し上げます。ロア様の、ことです」
「! ロア……」
その名を聞いた瞬間、シャリーディアの目が見開かれる。リリーの、リリー・リリエットの名前を出されたときから、勇者パーティー関係の話だとは、思っていたが。
自然と、シャリーディアは警戒してしまう。リリーは信じている……でも、あの子は純粋だ。
悪意ある者に唆されている可能性も、ゼロではない。
「リリー様は、ずっと一人で……ロア様のことを、調べていました。ロア様が、人を殺すはずがないと」
「……」
メラは、話し始める。それをじっと聞くシャリーディアは、その言葉に嘘がないかを見極める。
……彼女は、リリーのことをとても想っている。そして、リリーもまた、ロアのことを本気で心配している。
その気持ちが、痛いほど伝わってきた。
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