好きな人の話
「えー! 踊り子様と会ったんですかー!?」
「そうなの、しかもこんな距離まで近づいちゃって!」
「キャー! 来てるの知ってたら、私も行ったのに!」
……宿に帰り、店内に響き渡るのは二人の女性の声。黄色い声を上げて、キャッキャと賑わっている。
その主は、エフィとラニーさんだ。話題の中心は、今二人が話している通り、先ほど会った踊り子リーズレッテのことだ。
案の定ファンだったエフィが、リーズレッテとの対面を果たしたラニーさんの自慢話を受けているところだ。
「いいなぁいいなぁ」
「へへへー」
確かラニーさんは、エフィが苦手だと言っていたが……二人とも、仲が良さそうに見える。
やはり、共通に好きな人の話をした場合、お互いの距離は一気に縮まる、ということだろうか?
「やっぱり、エフィもリーズレッテのことは知ってるんだ?」
「もちろん! あの踊りはもはや芸術ですよ……というかアーロさん、踊り子様のこと知ってるんですか!? 名前呼びで親しいんですか!?」
「あー、いやー、まぁ」
つい言わなくていいことまで言ってしまい、苦笑いを浮かべてごまかす。
エフィは俺の事情を知っているからいいんだが、ここにはダガさんやサーさんもいるからな。
「やっぱり踊り子様は大人気なんだねぇ」
「そりゃそうだろうさ。俺だってあと二十年若けりゃ……いや、なんでもねぇですはい」
ダガさんやサーさんもファンらしく、世代を超えて人気のようだな、リーズレッテは。そういった意味では、素直に尊敬できる。
若い人でも年をとった人でも、チンピラでも、いろんな人たちの目を惹き付けることのできる才能……それは、俺にはないものだ。
「次、ラーダ村に行くって言ってたから、楽しみにしておきなよ」
「わぁー、楽しみー!」
それはまるで、恋する乙女のような表情。まあ恋する乙女なんてそんな見たことはないんだがな。
キャーキャー騒いでいるにも関わらず、店に入っている客は文句を言ってこない。それどころか……
「おぉ、わかってるじゃねぇか嬢ちゃんたち」
「そうそう、踊り子様は俺たちの光さ!」
「わはははそうだそうだ!」
踊り子様、リーズレッテに対する人望がすごいな。彼女の踊りはそれだけ人を惹き付ける魅力があるのは、確かだが。
彼女は、人からお金を取っているわけでもない。中には感激してお金を払う客もいるらしいが、それをすべて断っているというのだ。
加えて、あの美貌だ。人気が出ないほうがおかしい。
「踊り子様ばんざーい!』
……名前も呼ばれず踊り子様としか呼ばれない。本人は、そのことに対して少し寂しそうには、していたが。
「うるさいな、なんの騒ぎだ」
そこへ、二階からヨルガが降りてくる。今までずっと二階で休んでいたのだろうか。
寝ていたのか、のんきにあくびをしている。
「あ、ヨッちゃん! あのね、この町に踊り子様が来てるみたいなの!」
「踊り子様ぁ?」
興奮冷めやらぬ様子で、エフィはヨルガに事情を説明する。
踊り子であるリーズレッテ様がこの町に来ていること。好きな人の話をしている姿は、なんとも微笑ましいものか。
「ね、ね!? すごいでしょ!」
「まあ、すごいけど……あんな大声出さないでくれ。頭に響く」
やっぱりこいつ寝ていたな。頭押さえてやがる。
加えて、自分よりもテンションの高い人間がいると自分は冷静になってしまう、あれだ。
「むー、ヨッちゃんテンション低い」
「ほんとー、ヨッちゃん空気読めない」
「ねー」
「うるせぇ! ていうかラニーさんまでヨッちゃん呼びやめてもらえます!?」
いつの間にか意気投合した二人に、ヨルガは翻弄されている。なんとも面白い光景だ。
その後、二人にリーズレッテの良さを延々と説かれ続けるヨルガ。さらにはなぜかそれに加わる客まで現れ、場は混沌となっていった。
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