気さくな夫婦
町の中は、ひどく賑わっていた。
「わぁ……なんだ、こりゃあ」
「えへへ、驚きました? このセント町は、人々の交流が盛んで、下手な国よりも賑わいの大きな町なんですよ」
「なんでお前が自慢げなんだ」
エフィの言う通り、確かに活気に満ち溢れている。これは、平時のファルマー王国よりもすごい活気だ。
これが、なにかのお祭りとかそういったイベントではなく、毎日の出来事ならば……
「うん、すごいな」
ラーダ村にたどり着くまで、それなりに多くの人里に行ったが、このセント町は初めてだな。
さすがに徒歩では、どの道を通ったかも覚えていないから、ラーダ村の隣町とはいえ必ずしも訪れはしなかったのだろう。
「ここで、毎回仕入れを?」
「はい。チマ兄のような商人ではないですが、いくつかウチの商品も売ったりするんですよ」
なるほど、だから店からいくつか、野菜や花を持ってきていたのか。
ポニーから降り、エフィとヨルガについていく。これまでは、二人だけで来ていたって言ってたな。
いろいろ町の様子を見ていきたい気持ちはなくもないが、とりあえずは二人についていくとしようか。
「こんにちはー」
とある店の入り口を開け、エフィは足を踏み入れる。その後ろをヨルガ、そして俺とついていく。
店のカウンターには、人のよさそうなおじさんがいた。
「お、エフィちゃん。そろそろじゃないかと、待ってたよ」
「ご無沙汰してます、ダガおじさん」
「はっは。ヨル坊も元気そうだな」
「……どうも」
ヨル坊……ヨルガのことか。
ヨッちゃんといい、なかなかに豊富なあだ名が揃っているな。
「……と、そっちの兄ちゃんは?」
「アーロと言います。少し前から、エフィの店で働かせてもらってて……」
「なんだよ、エフィちゃんの男かい? このこの」
「ち、違いますよっ」
聞いちゃいねえ、このおっさん……まあ、親しみやすくていい人だとは、思うけれども。
しかしそれを面白くなさそうに見ているのが、ヨル坊……じゃなくてヨルガだ。
「はいはい。おおっちゃん、いつものね」
「おぉなんだよヨル坊。肝っ玉のちいせえ男はモテねえぞ?」
「! なな、なんのことだか」
このおっさん、かなりのやり手だな。
俺たちはカウンターに座らされ、ダガさんがなにかを取りに行っている間にお茶をご馳走された。
「ぷはぁ。相変わらずサーさんのお茶はおいしいです」
「おやおや、ありがとね」
お茶を提供してくれたのは、ダガさんの奥さんであるサーさん。なんというか、肝っ玉母さんって印象の女性だ。
……うん、確かに美味しい。これは、ファルマー王国の城で飲んだことのあるお茶と同等か、それ以上のおいしさなんじゃないか。
「けど、エフィちゃんだって同じものは作れるだろう?」
「うーん、いつもお茶っぱは貰ってますけど……淹れ方が違うのか、程遠くて」
「あぁ」
どこかで飲んだことのある味に似ていると思っていたが、以前エフィが淹れてくれたお茶か。
どうやら、お茶っぱを貰っているらしい。だが、同じお茶っぱを使っていても、淹れる人が違えば味だって変わる……ということか。
「けど、俺はエフィのも好きだぞ?」
「! あ、ありがとうございます」
「俺も、悪くはないと、思うぞ」
この店とは、それこそエフィの親の代からやり取りをしているらしい。こうして、商品の仕入れ以外にも、日用品など貰ったりあげたりしている。
徒歩ではとても数日はかかる距離だが、ポニーに乗れば数時間。決して遠い距離ではない。付き合いは深く……こういう関係も、いいものだな。
「待たせたな。こいつが例の品だ」
「……これは?」
そこに、店の奥からダガさんが戻ってきた。両手に抱えるほどの木箱……それを、カウンターに置いた。
その中には、野菜や花の種など、店で扱う商品が並んでいたが……その中に、黒く光る石が、入っていた。
「これは?」
「これは、コアウルフのフンだ」
「ふーん……!?」
なんだと……今なんか、すごいさらっと流してしまった。
モンスターの、フン!? それも、コアウルフの!? そんなもん取ってあるの!?
そもそもフンにしては、石っぽいが……
「ふふ、そんな顔しないでください。これは、私たちのお店に必要なものなんですから」
「フンが?」
「フンが、です」
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