緑屋へようこそ!
「ウチは、基本的にはお野菜やお花を育てているんです」
「もしかして、村の入口にあったあれも?」
「というか、お花が好きなので、お世話している感じですね」
エフィとヤタラさんの手伝いとして働くことになった俺は、エフィ先輩に研修を受けていた。とても嬉しそうな顔で、説明してくれる。
自分のところが作った野菜や花に、自信を持っているってことなのだろう。
「お店は、すぐ隣のここです!」
「『緑屋』……店名か」
「すみません、ネーミングセンスがなくて」
照れたように笑うエフィだが、まあ野菜や花を取り扱っているのなら、あながち間違いでもないだろう。
店頭には、数々の野菜や花が並んでいる。こころなしか良いにおいもする。
みずみずしく新鮮で、生でもとてもおいしそうだ。
「このお店の裏に、野菜を育てている畑があるのです」
「おぉ、結構大きいな」
案内された先は、野菜を育てている畑。思ったよりも大きく、数々の野菜が育てられている。
売り物としてはもちろん、お裾分けや自給自足としても、様々な種類を育てているらしい。
「こっちは、お花です。贈り物をしたいとか、そういった方々に売れていますね」
「なるほど」
それから俺は、エフィにレクチャーを受けていく。育て方や、どういったものがどんな人に売れるか……さらには、客に対する接客の仕方とか。
「ヤッホー、やってるねー」
「ケエラさん!」
「おぉ、やっとるかね少年」
「まだ見習いですけどね」
隣でエフィの接客を観察する。エフィはその人柄もあってか、来る客みんなから人気のようだ。
初対面の俺にもあんなによくしてくれるくらいだし、同じ村に住む人は俺以上に、エフィがいい子だと知っていることだろう。
「じゃあ、そろそろお昼にしましょうか」
エフィが作ったお弁当を広げ、もぐもぐと食べる。うん、美味しい。味付けも、バッチリだ。
エフィの手作りだという。今度、料理も習おうかな。
「あ、ヨッちゃん」
「だからヨッちゃんじゃねぇ! ……そいつ、一緒に働いてるんだな」
見知った顔も、やって来る。ヨルガ……だったか。
他の客と同じように、エフィと話し込んでいくが……なんか、他の客とはちょっと、違うような?
これは、もしかして……
「いらっしゃいませー」
その後も、客足は途絶えることなく賑わっていく。ヤタラさんと二人で回しているとのことだが、今回ヤタラさんは基本的に後ろで見守っていた。
そして、日も傾き、閉店の時間が近づいてきた頃……
「いらっしゃいませ」
俺も、練習だと接客をするように。うん、うまくいったはずだ。
下げた頭を上げ、初接客の客の顔を、見る。
そこにいたのは、一人の男性。スラリと背が高く、ニコニコと笑みを浮かべた……糸目の、男……
「……あん?」
「あれ?」
その顔を見て、動きが止まる。お互いに、だ。
じーっと顔を見つめ合い、数秒……沈黙が、流れる。
「あー、チマ兄だ。帰ってきてたん……」
「あーーーーーー!?」
「あーーーーーー!?」
何事か言いかけたエフィの言葉を遮り、俺と糸目の男……マーチは、お互いに声を上げる。互いに指さしながら。
この反応、間違いない。マーチだ……! 魔王を討つ旅の最後、ついに魔王と対峙し、これから倒そうというところで、魔王は死んでいた。
そして、魔王を殺したのが……この、マーチという男だ!
「おま、お、お前、なんで、ここに……」
「あれ、二人とも、知り合い……?」
「悪いエフィ、ちょっと野暮用を思い出して。また……!」
俺の顔を見るや、店から出ていこうとするマーチ。やっぱり、他人の空似ではありえない反応だ。
ならば、逃さない。【勇者】発動!
「まあまあ。せっかくですから、話しましょうよ。ねぇ?」
「……っ」
目にも留まらぬ速さでマーチの正面へと回り込み、肩を掴んで……逃げ場を、封じた。
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