押し寄せる魔物の大群
「……来たぞ!」
ミランシェからの報せを受け、わずか数分。視界の先には、砂嵐を上げるほどに勢いよく荒野を駆ける、たくさんの生き物の姿があった。
まるで、黒い塊が一気に押し寄せてくるようだ。
「ま、魔物……」
「あんなに……敵も、本格的に俺たちを潰しに来たのか」
これまで一度に相手をした魔物は、多くても五体。だが、視界の先に広がるのは、とてもその比じゃない。
何十……いや、もしかしたら百を超えているのかもしれない。
「って、観察してる場合じゃない。ここにたどり着かれる前に、一匹でも多く仕留めよう!」
「おぉ!」
わざわざ、魔物の大群がここにたどり着くまで待っている必要はない。俺たちは、事前に立てた作戦通り動く。
作戦とはいっても、遠距離で攻撃できるシャリーディアとミランシェが、なるべく多くの魔物を減らすというものだが。
「いきます!」
「私も……!」
シャリーディアは精霊術で、ミランシェは【百発百中】で、それぞれ挑む。
ミランシェの矢だけでは、魔物に致命傷は与えられない。普段なら、ゲルドの【鑑定眼】との組み合わせで力を発揮するのだが……
「さすがに、あんな遠くの……それも、あの数相手に一匹一匹の弱所を暴くのは骨が折れる。だから頼んだぜ、シャリーディア」
「言われなくても!」
ゲルドとのコンビネーションがいつものように使えない以上、残された手はシャリーディアの精霊術との組み合わせだ。
精霊術の力を付与した矢なら、魔物にも致命傷を与えられる。
だが……
「……くっ」
精霊術は、それなりに集中力を使う。しかも、今のシャリーディアはミランシェの矢に精霊術を付与する以外にも、精霊術単体で魔物に攻撃を放っているのだ。
その消耗は、俺には想像もつかない。
「っ、数が、多すぎる!」
ミランシェも奮闘し、一度に三本の矢を放つなど、魔物の数を減らそうと考えを巡らせている。
だが、迫り来る無数の魔物に対し、反撃できるのは二人。その差は、すぐに埋まる。
それに……
「! 空からも来た!」
「にゃろう……!」
敵は、地上だけではない。空からも、飛べる魔物は襲ってくる。
魔物も、魔法を使える。ただこれは、魔族のものと違いただ、黒いエネルギー弾を無差別に放つだけのもの……知性のない獣が、無心に力を振るっているだけだ。
……今はその無心が、ただただ恐ろしい。
「任せて!」
空からの魔法が届くより先に、リリーが【絶対防御】によりそれらを打ち消す。気弱な女の子であるリリーが、この旅の中ですっかりたくましくなった。
魔法が通じず、中には捨て身の体当たりをしてくるものもいる。当然、壁は壊れないが……
「っ……」
死んだ魔物は消滅するとはいえ……壁に直撃し、命を散らした直後の魔物は、とにかくグロイ。
あまり見ていて気分のいいものじゃない。
「じれったいな……私にも、戦える武器があれば」
「焦りはわかりますが、落ち着いてくださいドーマスさん」
「なあ、あの魔物の大群も、空の奴と同じように壁にぶつかったら死ぬんじゃねえか」
「可能性はあるけど……そうならなかったら、周りが魔物で埋め尽くされることになるよ」
「……想像したくはねえな」
今はなんとか、防げているが……地上の魔物まで合流したら、魔物の波にのまれてしまう。
【絶対防御】の力があるとはいえ、魔物の波にのまれてしまえば身動きが取れなくなってしまう。
そうなる前に、俺たちで叩く……!
「壁の中にこもるのは、最後の手段だ」
「こもってるうちに奴ら帰ってくれりゃいいんだがな」
「おい、そろそろヤバそうだぞ」
シャリーディアの集中力も、長くは続かない。それに、リリーだって【絶対防御】を出せる時間はずいぶん伸びたが、無制限ではない。
どのみち、時間をかけることは得策ではない。短時間だが、リリーに任せておけば空からの魔物はひとまず安心だとわかった。
あとは、シャリーディアとミランシェに援護を任せつつ、魔物を叩く!
「じゃ、そろそろ出るとすっか」
「ドーマスさんもゲルドも、無理はしないでよ!」
「ロアこそな!」
迫る魔物の大群を前に……俺、ゲルド、ドーマスさんの三人は、それぞれ違う方向に飛び出した。
俺が正面……ゲルドが右側、ドーマスさんが左側だ!
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