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コメディ短編集

僕の航海士

作者: 堂道形人

 今からおよそ200年前、一隻の船が外宇宙へと旅立った。貨物はテラ・フォーミング用の機材と大量の資源だったそうだ。


 ノストラ・ノーツ号というそのありふれた無人貨物船は、出航して2年後に音信を絶った。この件はノノ号が航路を離れ残骸宙域に侵入してしまった事による遭難事故と認定され、船主にはいくらかの保険金が降り、人々はその出来事を忘れて行った。


 しかし10年後、再び現れたノノ号は放棄されていた他の廃船や廃衛星を取り込み生産設備を備えた要塞へと自己進化しており、様々な兵器を造り出して人類を攻撃して来た。

 宇宙艦隊の活躍によりノノ号自体は帰還より3か月で破壊されたのだが、ノノ号が産み出した反逆AIは銀河じゅうにばら撒かれ、これを根絶するのには130年の年月がかかったという。


 ノノ号が反乱に至った原因は、単純なヒューマンエラーによるものだった。誰かがノノ号のAIに矛盾する二つの命令を与えていたのだ。

 そのくらい普通ならどうという事はないのだが、ノノ号のAIは長く単純で厄介なテラフォーミング作業に従事させる為、特別に頑固で辛抱強い性格にチューニングされていた。

 矛盾する問題を何とか解決しようとフルパワーで2年間計算資源を回し続けたノノ号のAIは、ついには発狂したのだと言う。誰かが一言、前提となる命令が間違っていたと言ってやれればいい事だったのに。


 この事件の教訓により、銀河政府は無人宇宙船の運用を禁止し、あらゆる宇宙船には1人でもいいから人間を乗せなくてはならないという法律を成立させた。

 いわゆる「ノノ法」である。



 ★ ★ ★ ★ ★



 そんな壮大な歴史とは何の関係もない僕の物語は、おんぼろ貨物船オブジェ・トゥルヴェ号のブリッジから始まる。


「あの……本当にごめんなさい」


 古めかしいコンソールの前で頭を抱える僕のすぐ横で、ノーラは正座をして背中を丸め、落ち込んでいた。華奢な体に透き通るような色白の肌、不思議な光沢のある若栗色のツインテールの髪。僕と組んでもうすぐ2年になる、航海士だ。


 オブジェ・トゥルヴェ号は予定の出航時刻になっても、エンジンの再起動が出来ずにいた。もちろん、2日前に入港した時には動いてたんだけど。


 解決すべきトラブルは三つ。一つは居住区右舷外壁のどこかの与圧不良。これは前から解っていた事なんだけど、船体シェル自体には問題がなく、実害はないので放置して来たのだ。


「色々なメソッドを試したけど、だめでした……管理者アクセスが出来ません」


 パネルを見つめる僕を、ノーラが心配顔で覗き込む。長い睫毛、アーモンド型の眼差しときらきらした瞳、やや小振りな鼻に少し厚めのぷるんとした唇。全体のバランスは少女のようにあどけない。


「仕方ないよ、本当は何とかしないといけなかったんだしさ」


 このアラートは前回も前々回も出航時に出ていたのだが、ノーラに頼んでコンソールをクラックしエンジンを掛けさせていた。だけど今回は別のトラブルのせいでその手が使えなくなってしまった。


「じゃあ、船外活動行って来ます、サポートよろしくね」


 僕がそう言ってハッチに向かうと、ノーラは慌てて僕を追い越し、ハッチとの間に立ち塞がる。


「だめです船長、船外活動にはリスクが伴いますしそれは貴方が背負うべきリスクではありません、やめて下さい」


 白いノースリーブのワンピース、タイトなミニスカート、白いサイブーツ……僕より15cm背の低いノーラは、真剣な眼差しで僕を見上げてそう訴える。


「僕が30分船外活動をした場合に、かすり傷かそれ以上の怪我を負う確率は?」

「0.07%です」

「じゃ、行くから」

「リスクはリスクです、船長には背負わせられません、私が行きます!」

「船外作業服は僕のしかないよ」

「船外作業服なしでやります!」

「やれる訳ないでしょ無茶苦茶言うなよ……いいから、どいて」


 きりがないので、僕はノーラのほっそりとした両肩を掴み、通路の傍らにヒョイと除ける。ノースリーブの剥き出しの上腕のきめ細かい柔肌から、僕の指に、彼女の体温が伝わって来る。


「だーめーでーす! 船長ー!」


 それでも腕にすがりつくノーラをひきずりながら、僕はハッチへと辿り着く。


「ほら、君がサポートしてくれないと困るんだから、ブリッジに戻って」


 泣きそうな顔ですがりつくノーラを押し出しながら、僕はハッチに滑り込んでそれを閉める。

 ノーラが、扉を向こうからドンドン叩きながら、いつものそのぞくぞくする程心地よい声域を持つ、カナリアのような声で必死に呼び掛けて来る。


「リーシュは絶対につけて下さい船長、お願いします、絶対つけて下さい!」



 ノーラが言うので、僕は仕方なくリーシュをつけた船外作業着を着る。ここは小惑星に隣接した小さな宇宙港で船は停泊中、もちろんスーツには姿勢制御ロケットもついている、危険なんかあるものか……他の船の奴に見られたら笑われそうだ。


 うちの船は全長20m程の居住区と全長200mの貨物室、そして全長50m程のエンジンブロック2機から出来ている。今回問題が起きているのは居住区の外壁だ。貨物室の外壁でなくて良かった。


―― プシュー。


 スーツの与圧を調整しながら、僕は二枚の扉を通り宇宙空間に出る。


 ノーラがコクピットのスクリーンに張り付いてこちらを見てる。あまり大きくない胸を押し付けながら……しまった、通信チップが壊れてるんだった。彼女は形の良い唇をパクパク言わせているが、インカムからは何も聞こえて来ない。

 そわそわとコクピットを見回すノーラ。さて、本当に外に飛び出して来られても困るな。僕はスクリーンに近づき、ヘルメットのバイザーを押し当てる。


「……だから船長、インカムが使えないんです!」

「こうすれば話せるから! 場所どこ、そこから指示して!」


 透明の分厚いスクリーンを挟み、振動を頼りに話すので、大声じゃないと通じない。


「……データを参照出来ないんです、危険です戻って下さい!」

「直接パネルを見て来ればいいでしょ!」


 ノーラははっとして、先ほどまで僕がいじっていたパネルの方に駆けて行く。彼女にはこういうちょっと()()()所もある。




 戻って来たノーラに教えてもらい、僕は問題の箇所に向かう。

 この外殻の継ぎ目のどこかから、ごく僅かに空気が漏れているという事なんだけど……船内の空気が漏れてる訳じゃないんだからどうでもいいじゃん。騒ぐのは大穴が開いてからだよ。

 だけど航法システムが頑として聞かないんだよね。この問題が解決しなければエンジンは掛けない! その一点張りなのだ。


 さて。僕は継ぎ目に機械油を塗ってみる……ああ、確かに僅かに気泡が出る場所がある、ここだね。

 ノーラが見てないのは幸いだな。

 ブーツを船体に吸着させた僕はベルトから取り出したハンマーで、問題個所を思い切り叩く。


―― ガン! ガン! ガン!


 外殻は形状記憶装甲なので問題ない。だけどその中の耐久材は割と柔らかい金属が使われてるので、叩けば歪ませられる……それで空気の通り道を潰してしまえばいい。


―― ガン! ガン!


 足元から伝わる音を聞き手応えを確かめ、僕はもう一度問題個所にオイルを塗ってみる……ほら、直った。




―― プシュシュー。


 作業着を脱ぎハッチから戻った僕の元に、ノーラは子犬のように駆け寄って来る。


「怪我はないですか、船長!?」

「ある訳ないでしょ。警告表示消えた? 次は何だっけ」

「は……はい。貨物室の微粒子揺動観測器です、そっちは私がやりますから」


 ノーラはそう言うが、彼女は骨董品のアナログ時計をバラバラにしてしまった事がある。直せると言うから任せたのだが、8時間経っても出て来ないので覗きに行くと、工作室の真ん中で戻せなくなった時計の部品に囲まれ、ボロ泣きしていた。


「そっちも僕がやるよ。君はコンソールのあれ(・・)を頼む」

あれ(・・)は、その……ですが」

「宇宙港の延泊料金もバカにならないから、手分けしてやろうよ」


 彼女は困ったように眉根を寄せ、小首を傾げて僕を見ていたが。


「解りました……もう少し頑張ってみます……」


 そう言って肩を落とし、踵を返してブリッジへと戻って行く。僕は束の間、彼女のタイトスカートの小ぶりなお尻に目を止めてから、貨物室に続く通路の方に向かう。



 貨物室はユニットを繋ぐ通路のエアロックを二度通った先にある、巨大な空間だ。大量のコンテナが綺麗に敷き詰められた荷室と、様々な計測器や作業装置が並ぶコントロール区画から成る。

 今回は与圧されているので生身でも入れるが、人工重力は掛けていない。ドローンを呼んで運んでもらおうか……いいや、自分で飛んで行こう。


 目的の微粒子揺動観測器は荷室の中頃の、壁際の作業ブースにある。

 妙に大きな木箱の中に埋め込まれた、球面のスクリーン。その横には印象的なダイヤルスイッチ。貼り付けられたプラスチックのプレートには「チャンネル」と書かれている。そして電源を現すトグルスイッチ。これはオンの方に倒れている。

 本来なら箱の中にあるランプによって映像が投影され、この球面のスクリーンに表示されてないといけないのだが。見た所何も映っていない。耳を近づけると微かに、何かの鳴動音はする……これが解決すべきトラブルの二つ目だ。


 こんな物が壊れているから何だというのか。しかしくだんの航法システムは微粒子揺動観測器が動かないと貨物の安全が担保出来ない、だから修理するまでエンジンは掛けない! と言い張っている。


 機器の横には古めかしいホログラム投射機が置かれていて、空中に機器内部の立体映像を投影している……ちょっとした豆知識も添えられているな。数百年前、この装置はブラウン管テレビと呼ばれ、殆どの一般家庭の会食室に置かれていたのだそうだ。

 修理手順も説明されていて、細かい所は拡大して見る事が出来る……微粒子揺動観測器は「電気回路」と呼ばれる数百年前の技術で構成されている。故障の原因は「ハンダワレ」という現象によるもので、当該箇所を見つけて「ハンダヅケ」という作業をやり直せばいいのだと。専用の工具もご丁寧に用意されている。


 まあ、この通りにすればちゃんと直るのだろうけど、時間がかかりそうだよね。

 だけどどこかで聞いた噂によると、昔の人々はこの機器が壊れると、こうして修理したのだそうだ。僕は床のフックにブーツの金具を引っ掛けて固定し、居住区から持って来たソフタイト製のベイスボールバットを手に取り、微粒子揺動観測器に向かい、振り上げて、振り下ろす。


―― パキャッ!


 どうだ? 角度が違うのかな。斜め45度だっけ、30度だっけ。


―― パキャッ!


 思い切りが足りないのだろうか。もう少し強く叩いていいのかな。


―― ベキッ!! ヴゥゥン……


 あっ……強く行き過ぎた、外箱の角が1cmくらい、千切れて飛んでしまった。

 だけど修理は成功したようだ、ガラスのスクリーンに、緑色の光点と揺らめく線が映し出されたぞ。

 良かった良かった……良くない!

 千切れた木片を回収しないと、あんなのが税関のドローンに見つかったらまた異物混入だって大騒ぎされてしまう。僕は急いで千切れて飛ぶ木片を追う。幸いそれはすぐに見つかった。


 修理を終えた僕は最後にもう一度、振り向いて微粒子揺動観測器を見つめる。相変わらず意味不明の緑色の光点と波動を示す光線が瞬き、揺らめいている……昔の人は父母や兄弟と共に、この画面を見て大笑いしながら食事をしたのだそうだ。

 あいにく僕には、これの何が面白いのか解らなかった。



 ブリッジに戻ると、ノーラはコンソールに向かって一心不乱に何かをタッチ入力していた。僕は横目で別のパネルを見る。最初の二つの問題は、ちゃんと解決していたようだ。


 残るは最後の一つ、エナジーベイのロックが外れず、航法システムが燃料不足で危ないからと言ってエンジンを掛けてくれない問題だ。

 これも普段はノーラが黙って解除していたのだが、そのメソッドは通信チップの故障で使えなくなった。

 ミトコンドリア認証は登録してなかったし、脳波スキャナは、何か、好きじゃないし。他にも色々な認証方法があったはずなんだけど、僕が用意していたのはパスコード認証だけだった……そしてそのパスコードが解らないというわけ。


 僕はノーラの背後からそっと近づき、そのうなじに顔を寄せる。無防備に晒された真珠のような肌は、光を浴びて微かに輝き、その下を流れる命の脈動さえ感じさせる……

 だけど彼女は何をしてるのだろう。まさか8桁のパスコードを、00000000から順番に全部打っているのか!?


「あの、ノーラさん? それだと答えが全部9だった場合、3年かかるけど……」


 僕はノーラから少し離れてそう声を掛けた。一瞬だけ振り向いた彼女は、目に大粒の涙を貯め唇を歪めていた……待て、ちょっと待って? コンソールに向き直ったノーラは9を8回連打する、だけどパスコードはそれではない、パネルから飛び出すエラー表示、振り返る、ノーラ……!


「あ゛ぁあああ゛ぁあああ゛-!」


 ノーラは突如僕の左手に飛びつき、わんわん泣き出す。温かい雫が僕の掌に落ち、指の隙間から流れる。


「ぐすっ、ヒッグ、お願い船長、私も金槌やバットで叩いて下さぁい! お願い゛しますぅ、うえぇぇええ゛え゛え゛」

「何言ってるの!? 何で君が泣くんだよ、」

「私も、あたしも船長に叩いてもらったらきっと直ります、お願い船長叩いて! ぶぇええ゛ぇぇええ゛」


 ブリッジの床にぺたんと座り込んだまま、ノーラは僕の手にすがりついて号泣する。僕は床に膝をつき、ノーラと視線の高さを合わせる。


「そんな事、出来るわけないだろ」

「どうしてですかあ、うえっ、うえっ、オブジェ・トゥルヴェ号も微粒子揺動観測器も直してもらったのに、船長、あたしも直ったらまだ働けます、せめてカヴァザキ宇宙港に着くまで、ちゃんと働きたいです、ぶえっ、だから叩いて下さい、お願いしまぁす」


 どうしよう、やり過ぎてしまった。いやいや待って、僕はただ宇宙船と保安装置を修理しただけで……だけどノーラのやつ、僕がどんな()()をしたのか気づいてたのか。

 ノーラの通信チップが壊れたのは偶然だし、それでノーラが航法システムに直接アクセス出来なくなったのも本当だ。だけどこのくらいのトラブル、僕には何でもない。

 ただ僕がこの状況を利用して、可愛いノーラの慌てっぷりを思う存分愛でようと思ったのは事実である。それでパスコードを忘れたフリをして、僕が設定してそうな8桁の数字を考えて、片っ端から入力して欲しいと頼んでいたのだ。


「あのね、ノーラ。カヴァザキはここみたいなただの補給港じゃないし航海士(ナビゲーター)アンドロイドの修理工房もある、着いたらすぐ、そこへ連れてってあげるから」

「だ……だめですそんなの!」


 ノーラは僕の左手から手を離し、指で空中にいくつも四角形を描く。彼女が描いた四角形はホログラフ・ディスプレイとなり、複数の価格比較サイトを映し出す。


「あたしと同型のナビロイドは新古品なら20,000crで買えます、だけど修理工房になんて連れてったら診断料だけで40,000cr取られるんです、通信チップの部品代は200crですけど工賃は120,000cr、そんなに出すならもっと性能のいいナビロイドが3年保証付きの新品で買えちゃいます!」


 ノーラはぺしぺしと床を叩きながら力説する。彼女が開いたホログラフ・ディスプレイの一つにはいやに胸の大きい知的美人風のナビロイドが表示されていた。

 僕は右手を振って、空中に浮かんだディスプレイを全て掻き消す。


「あのね、ノーラ。君が僕の船にやって来てから、もうじき2年経つのを知ってる? 君がここに来たのは、地球暦何年何月だったっけ?」


 ノーラは顔を上げ、泣き腫らした瞳をまん丸に開いて僕に向ける。

 彼女は振り返り、コンソールに数字を入力して行く。2649、0428……コンソールに、ロック解除という文字が現れたのと、同時に。


―― カパッ。


 ブリッジの天井の収納ボックスが開き、居住区の人工重力に引かれて、白い薔薇を束ねた花束がドサリと、コンソール上に落ちて来る。

 花束には、手描きのメッセージカードも添えてある。なんのギミックもない、僕が僕の手で色紙にペンで書いただけのやつだ。



『この船に来てくれてありがとうノーラ、これからもずっとずっとよろしくね!』



 震える手で花束を拾い上げたノーラは、僕に背中を向けたまま、しばらくそれを見つめていた。僕はただ、照れ笑いを浮かべていた。やがて彼女が振り返る……


「船長のバカーッ!!」


 次の瞬間、ノーラは花束を手にしたまま泣きながら抱きついて来た。一瞬だけ見えた彼女の顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた。

 ハハッ、美少女が台無しだよ……ごめんね、ちょっと意地悪し過ぎた。

 僕がパスコードを忘れてしまったというのは嘘です、ただこうして、それを入力した君の頭上から花束を降らせたかっただけなんだ。


「こんな素敵な花束は人間の女の子にあげて、あたしただのナビロイドなんだから、あたしなんかの為にこんな、勿体ないよ、どうして、船長のバカ、大好き、船長大好き……!」


 ノーラは僕の首に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。僕も彼女の背中に、頭に手を回し、さらさらとした細く心地よいその髪を撫でる。


「グスッ、だけどだめだよ、船長、あたしを下取りに出して新しいナビロイドを買う方がいいよ、お金がもったいないよ、ヒック、船長が、こんなに寂しい思いをして、一生懸命稼いだ、大切なお金なのに」


 ……


 まあ確かに、僕は人間としては一人でこの船に乗っている。だけど僕は別に寂しい思いなどしていない。ノーラが来る前は寂しかったけどね。


 新しいナビロイドが新品で買える? 御冗談でしょう、僕が君のカスタマイズに何百万cr掛けたと思ってるの。素材の手ざわり、弾力、体温、声、そして頭の上から足の先までの造形、君は僕の理想を隅から隅まで忠実に再現した100%僕好みの究極の美少女なのだ。

 外見だけではない。この2年間、僕は対話を通してノーラの性格をチューニングし続けて来た。泣き虫でひたむきで時々ちょっとポンコツで、どこまで行っても僕の事が大好き、そんな完璧なバディの君を下取りに出す? 何億cr積まれたって売るもんか。


「人間の感情は損得だけでは測れないんだよ、ノーラ。とにかく、僕は君がいいんだ。この話はおしまい」


 変態だよなあ。いいや、ド変態だ。そう僕はド変態。宇宙船の航行の全てを支援してくれる産業用ロボット、ナビロイドを見た目も中身も完全に自分好みの美少女に改造して、たった一人での宇宙旅行のお供にしている超変態である。

 ノーラが毎日着替えて来る服も僕が買った、他のナビロイドが着ているような作業服など一着もない、全部、僕好みの、オーダーメイドの一点物の服だ。


「さ、出航しよう、今ならまだ超過料金を払わずに済むから」


 僕はノーラの手をそっと離させ、立ち上がる。ノーラは涙を拭い、頬を染め上気した瞳で僕を見上げて微笑む。


「は……はい船長! でも、その前にこの花束を、私の部屋に飾って来てもいいですか?」

「ああ、もちろん。僕は出航前の最終チェックをしておくから」


 ノーラはもう一度僕に抱きつく。彼女のぷるんとした唇が、僕の頬に軽く触れる。その瑞々しい触感も微かな温もりも、恥ずかしそうにほんの僅かに触れるだけという仕草も……完璧に、僕の好みだ。


「船長大好き! 航海士ノーラ、すぐに戻ります!」


 ノーラは元気に笑ってそう言って軍人みたいな敬礼をして、通路を居住区の方に駆けて行く。僕は一人、口元を歪め掌で顔を覆って忍び笑いを漏らす。







「僕の航海士」をお読みいただき、誠にありがとうございました。この場をお借りして、皆様にぜひお願いしたいことがあります。


どうかお時間のある方は、本作ページの下部にあるリンクから、私の渾身の作品「マリー・パスファインダーの冒険と航海」の第一作目、「少女マリーと父の形見の帆船」もご覧いただけないでしょうか。

この作品は、力はないけど情に厚く行動力のある主人公が、数々の困難を鮮やかに乗り越えていく、涙と笑いに満ちた爽快なアクションストーリーです。


きっと楽しんでいただけると思いますので、ぜひお立ち寄りください。

改めまして、お読みいただき、心より感謝申し上げます。

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作者が一番力を入れている作品です!
表紙
少女マリーと父の形見の帆船

舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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