【第4部〜西洋の神々編〜】 第9章 西洋の神々⑧
東洋天界では大騒ぎになっていた。闇の女帝が行方不明になっていたからだ。それとほぼ同時に阿弥陀如来が、天帝の命令だと偽って、西門から出て行って戻って来ないとの報告を受けた。西門より先には、西洋天界の神々がこちらに侵攻中である。阿弥陀如来が女帝を献上して、投降したと思われる節があった。侍女の1人が、阿弥陀如来に介抱されながら、部屋に入る女帝の姿を見ていたのだ。天帝は追ってを差し向けた。項羽も、ロードと戯れたばかりにこんな事になってしまったと、後悔して追った。ロードは、結果的に陛下を裏切ってしまった。万が一の事があれば、自分は生きてはいられないと思い、全力で追った。
「ここから先には一歩も進めんぞ!」
筋骨隆々の大男が軍勢を率いて、立ち塞がった。
「邪魔するな、そこを退け!」
項羽が一撃で葬り去ったと思われる強烈な一撃を放ったが、受け止められて驚愕した。
「ほぅ、なかなかやるな。東洋にも、こんな奴がいたのか?」
大男が持つ巨大な槌が、項羽の頭上を掠めた。殴り、叩き潰そうと繰り出された攻撃を項羽は、弾き、受け流し、また弾き、そして打ち返した。両者の武勇は拮抗し、どちらが強いか甲乙付け難い様に見えた。
「そろそろ身体が温まって来たぜ。喰らえ、トールハンマー!」
大男の繰り出された必殺の一撃を、項羽は受ける事なく逸らした。しかし、後ろにいた魔軍は躱わす事が出来ず、喰らった者は消し炭となって消えた。
「こいつを喰らって生きてた奴は、お前を入れて3人目だ。1人目は、オーディン。2人目はアダムだ」
項羽は無言でトールの槌を捌きながら、牙戟を繰り出していた。既に五十合を打ち合っていたが、体力が衰える事なく、斬り結んでいた。
「おい、そろそろ代われよ」
「ポセイドン、お前では無理だ。こいつは俺と同じファイブスターだ。フォース(SSSSランク)のお前では無理だ」
ポセイドンと呼ばれた男は三叉の矛を構えていたが、舌打ちをして一騎打ちを見ていた。
「もう宜しいでしょう?東洋には大した戦闘力も無い。いてもせいぜいがSSSでしょう?そんなの私達の相手じゃないわ」
籠に乗って生足を組んでいる様は、妖艶な美女だった。東洋天界を見下す様に言ったこの美女は、ゼウスの妻・ヘラだ。ゼウスよりも強く、ファイブスターのゼウスでさえ頭が上がらない恐妻だ。
「何て事だ。西洋天界の精鋭が勢揃いしている。本当に東洋を滅ぼすつもりか?」
西洋の軍勢を見て恐れた者が、震えながら言った。
よく目を凝らして見れば、ファイブスターより上と言われ、ゼウスをも凌ぐ神、大地母神ガイア、奈落の神タルタロス、夜の女神ニュクスの3神に加えて、もう1人のゼウスの兄弟である冥界の神ハデス、太陽神アポロン、他にもオーディンやロキなどの姿が見えた。ここからは見えないが、まだまだ強い神々がいそうだ。
「今攻められたら、東洋天界は終わるのでは?」
その言葉を吐いた神兵は、ガタガタと震えた。恐怖というものは伝染する。皆んな顔面蒼白になり、誰かが逃げ出せば、後に続く者が現れて恐慌状態に陥る事だろう。そうならなかったのは、1人の神が前に歩み寄ったからだ。