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【第1部〜序章編〜】 第3話 女性になっちゃった

 壁に掛けてある時計に目をやると、もう20時を過ぎていた。

「課長に挨拶して帰らなくては」

 能力が残念過ぎてガッカリした私は、力無く立ち上がった。

「あ、待って、今日はもう帰れないよ」

「へっ?」

「えっと変な意味でなくて、外が危険だから政府から 夜間の外出禁止令が出されていて、社長命令で残ってる社員は会社に泊まる事になったの」

 確かに会社にはシャワー室もあれば仮眠室もあるし、数日なら飲料や食事にも困らない。

「あれ?そう言えば誰がここまで運んでくれたのかな?」

 もっと早く気付くべきだった。恩人の存在に。非力な彼女が倒れてる私を偶然見つけたとしても、ここまで運べる訳がない。

「山下さんよ、ごめんなさい。もっと早く伝えるべきだったね」

 山下は私の6歳下だが、仕事や恋愛の相談に乗ったり、休日は2人で飲みに行くほど仲は良い。

「山下か…」と言いかけた所で、勢いよく医務室のドアが開けられた。

「先輩、目が覚めたんですね?心配しましたよ、頭から血が流れて倒れてたので、死んじゃったかと思いましたよ」

「でも救急車を呼ぼうにもずっと話し中で繋がらないし、このままだと危ないと思って、ここに運んじゃいました」

 良かった死ななくて、と言って私にしがみついて来た。男に抱きつかれても嬉しくない。困った顔をして彼女に目で助けを求めた。

「もう少し遅かったら危なかったのよ、山下さんに感謝しなさいよ」

 彼女はイタズラっぽく目配せして微笑ほほえんだ。

「助かったよ、ありがとう山下」

 私は彼のハグから解放される為に、質問を投げかけた。

「ところで、山下は何を願ったんだ?」

「あの不思議な声ですね?僕は長生きしたいって願ったんですよ。ちょっと願いと違う気がするんですが…」

 取り敢えず、山下のステイタスを見てみた。

(レベル:26 ランク:AAA 氏名:山下巧 年齢:26歳固定 身長:168㎝ 体重:58㎏ 称号:武闘家AAA スキル:不老長寿・補助魔法AAA 筋力:…)

なるほど、不老長寿ね。

 確かに長寿とは、何年生きられるのか分からない。あと百年も生きれば126歳だから十分長寿だし、千年なのか1万年なのかも分からない。もしかするともっと長く生きられるのかも知れないが、本当は不老不死を願いたかったんだろうな?

「それにしても、山下が武闘家とはね」

 うっかり心の声が口をついて出てしまった。

「先輩、何で分かったんですか?もしかして鑑定とか言うやつですか?」

「えっ、あ、ああ…実は私もよく分からないんだが、見えるみたいだ。逆に見えないのか?」

 山下と麻生さんに目を配らせると、2人とも顔を見合わせて首を横に振った。

(2人とも見えないのか、もしかすると隠しスキルってのが相手のステイタスが見える様になるってスキルなのかな?)

 情報もなく状況もよく分からない。

「先輩、お腹空いてないですか?食堂で食料を配ってますよ」

 山下はお腹をさすって、腹ペコだとジェスチャーで訴えて来た。

「麻生さんも疲れたでしょう?明日に備えてゆっくりしよう」

「ええ、そうしましょう。何だか疲れたし、ニュースでも見て状況を把握しましょう」

「確かにお腹空いたし、シャワーも浴びたいしな。ニュースで何か発表しているのかな?」

 しかし、あの声の主は何だったのだろう?願い事をかなえるとか、まさか本当に神様なのか?それとも集団催眠術にでもかけられてるとか?米軍か北の新手の兵器とか?それに、日本だけで起こった事なのか?世界はどうなっているのか?疑問だらけで、ここで考えても答えは出ない。先ずはニュースで情報と状況の確認だ。

 3人で休憩室のドアを開くと、中にいた社員達が一斉にこちらに注目して来た。なんだか気恥ずかしい。

「おー、青山、無事か?頭から血を流して運ばれて来た時は、もう駄目かと思ったよ」

 私を見かけるなり話しかけて来たこいつは、同期の山城慎吾だ。茶化すようにして話しかけて来たが、心配はしてくれていたらしい。

「麻生先生のおかげでもうすっかり良くなったよ」

 そう言いながら入口近くで売店のおばさんから、パンとコーヒーのパックを受け取ると、3人で空いてる席に座った。私は、皆んなが釘付けになっているテレビのニュースが気になった。

「…付近の上空からの映像です。まるで、テロや大地震の後と言った様相です…」

 パンの袋を開けながらニュースに視線を落とす。

(知りたい情報はこれじゃないんだよな…)と思っていると、先程声をかけて来た山城が、隣に座った。

「あのよく分からない声、世界中で聞こえたらしいぜ」

 ふむふむと相槌を打つと、情報を先に得ている優越感からか、少し得意げに状況を教えてくれた。叶った願い事を悪用した犯罪が、世界中で起こっていて、日本でも今見たニュースの様な光景が広がっているとの事だ。

 他には、音程が微妙だったアイドル歌手は、絶対音感が欲しいと願ったのか突然歌が上手くなったり、陸上選手とかも100m走で世界新記録が出たとか、スポーツ選手は自分の競技を活かした能力を望んだ人が多いらしく、犯罪的な能力を望んだ人ばかりではない事。警察官や自衛隊とかも超人的な強さを得て、犯罪者を捕まえたとかのニュースが流れていたそうだ。

「日本政府から外出禁止令が出されたのは知っているな?」

 ウンとうなずくと、山下は話を続けた。

「会社も今日の所はそれに従って様子見ている。だが、長丁場になるとも踏んでいる、それでこの食料さ」

 本当に困った顔をして肩をすくめた。確かに大の男がパン1袋とコーヒー1パックでは、腹の足しにもならない。タバコを吸って空きっ腹を誤魔化している者、何処から持って来たのか酒盛している連中もいた。そんな様子を、眉をひそめてヒソヒソ話をしてる女性社員たちの目が怖い。マイペースと言うか肝が太いと言うか、違う逆か、不安だから酒でまぎらわせているのか。

「それはそうと、どんな能力が手に入った?」

 山城は興味津々に聞いて来た。山下から順に話はじめて、私の番みたいになった。正直言いたくない、スキルがハズレだったと。麻生さんが目を輝かせて聞いてるので答えない訳にはいかない空気になり、女性化は伏せて説明して、隠しスキルって言うのが多分相手のステイタスが見れるスキルなんだろうと話た。

 麻生さんは期待と違ったみたいで、ガッカリな表情をしていた。いやいや、ガッカリなのは私だよ。

(ふぅ)思わず溜息が出る。

「先輩、相手のステイタスを見るなんて、仕事で気苦労が絶えないんすね?」と、明るく笑って、その場の空気が軽くなった。

 私が営業で普段、他人ひとの顔色をうかがっている事を言っているのだろう。

「山城はどんな願いをしたんだ?」

 山城の方に首を傾けると、声が届く範囲にいる人達も興味があるのか、こちらの会話に耳を傾けている。

「俺は実は子供の頃、剣道を習っていて、剣の達人になりたいって願ったよ」

 照れくさそうに頭を手でかいた。宮本武蔵より強くてなりたいとか願ったのかよ?と、からかって茶化した。

 皆んな不安をき消したくて、わざとらしく賑やかに騒いだ。周りの建物が崩壊するほど治安は悪化し、死者だって出てる。それなのに皆んなどこか他人事で、平和に慣れ過ぎた日本人は、つくづく平和ボケしているなと思う。

 私は汗が気になり、シャワーを浴びて来ると言って席を外そうとすると、麻生さんは、「私も!」と言って女子更衣室にあるシャワー室に向かった。男性シャワー室は勿論、別の場所にある。シャワー室に向かいながら(女性変化を確認するチャンスだ)そう考えを巡らせて、足早に向った。

 ここの男性用シャワー室は入口は1つだが、個室の様にドアで仕切られている所が6箇所あり、他に3箇所ほど仕切られていない所にもついている。日頃はあまり使われないので、無駄に広いシャワー室だと悪い意味で評判だ。私は個室に入って中から鍵を掛けた。

(女性変化…)スキルの使い方がよく分からないので、取り敢えず頭の中で呪文の様に唱えてみた。何の変化も起こらないなと思った瞬間、いていたズボンが足首までズリ落ちた。

 シャワー室の鏡に写る自分は、女性になっていた。しばらくそのまま放心して鏡を見つめていた。女性化した自分に驚いていたのではなく、鏡に写っている女性が女優やアイドルでも見た事がない程の美少女だったからだ。鏡の中の少女は20歳くらいだろうか?それが自分である事を、理解するまでに時間がかかった。

(本当に女性に変化した…)

 驚きと好奇心が相待ってドキドキする。そのままシャツを脱いで上半身裸になった。イヤらしい意味は全く無く、本当に女性の身体になったのか確認したい好奇心が勝っていた。身体を正面にしたり、左右横に身体を振ったりしながら何度も自分の身体を確認した。胸のふくらみに触れてみると、張りのある弾力があり、マシュマロの様にふわふわで柔らかくて気持ち良かった。

 それから右手で恐る恐る、男性に付いているはずのモノを確かめてみたが無くなっていた。女性になってしまった部分に指が触れてしまい、思わず悲鳴の様な声が出てしまった。

「あぅ…」

 その瞬間に脳髄まで電撃が走った様な衝撃を受け、腰がくだけてその場にしゃがみ込んだ。すぐに左手で口をおおって、声を聞かれなかったか周囲の気配を伺った。幸いまだシャワー室には自分だけで、入ろうとしている者の気配もない。

 「ほっ」と胸を撫で下ろした。それにしても、男にあるはずのモノが無いとショックを受けるものだ。

(しかし声を出すつもりは無かったのに…誰にも聞かれなくて良かった、ここで女性の声が聞こえたらヤバいからな)

 急いでシャワーを浴び、耳をすませて辺りに気配が無いのを確認して飛び出した。

(うわっ!)

 勢いよく何かにぶつかり、それはおおかぶさって来た。背中を打ちつけた痛みを感じながら目を開けると、私の上に乗っかっている山下と目が合った。

 私は(バレた?)と焦って、山下を両手で押し除けて「ごめんなさい」と言って逃げた。背中越しに山下が何か言ってる気がしたが、それを聞く心の余裕はなく全力で走った。

 廊下で誰にもすれ違わない間に、男子トイレに駆け込んだ。緊張で足がガクガク震えていた。よろめきながら大の方に入り、ドアを閉めて便座にまたがった。さっきの出来事を思い返すと、また足が震えてきた。

(これ、どうやって元に戻るんだ?戻れ、戻れ、戻れぇ…)

 目をつぶって、心の中で何度も祈る様に「男に戻れ、男に戻れ」と念じる様に繰り返した。するとベルトが急にキツく感じたので慌てて緩めると、いつの間にか男に戻っていた。

 良かったと私は、ほっと胸を撫で下ろした。


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