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【第5部〜旧世界の魔神編〜】  第3章 神経剤VXの脅威

 連日の様に、女神アナトについて報道されている。アナトが降臨したと言う事は、3大宗教にとっては大きな意味がある。何故なら、アナトは唯一神の娘であり、アナトが存在するならヤハウェ(イスラム教では、アッラー)も存在すると言う証明になったからだ。しかし、仏教徒が多い日本なんかに何故、降臨したのだ?と論争が巻き起こり、あれは女神アナトの名を語る邪神だと騒ぎ出した。

 アストピアはこの論争を利用し、女神の降臨によって、「悪」のレッテルを貼られ、自分達の宗教を信じられなくなっていた信者達に対して、あれはアナト(女神)ではない、と説き伏せて、「邪神に惑わされるな!今こそ我らの神の試練の時!」と更なるテロを画策した。

 アストピアは地下に潜り続け、ホスゲンだけで無く、史上最強最悪と言われた神経系毒ガスVX精製の研究を始めていた。研究には、密かに東側諸国からの情報や資金援助を受けた。完成の暁には、そのまま優良顧客となる。

 全ての毒ガスは、1925年のジュネーブ議定書によって、化学兵器の戦争使用を禁止している。これを破ると、世界的に非難を受ける事になる。しかし、戦争ではなく、テロであったなら悪名を着るのはテロリスト達だ。東側諸国は、アストピアを利用し、戦争で禁止されている化学兵器を、テロの名を借りて使用しようと企んだ。利用し、利用される関係だ。勿論そんな事はアストピアも承知している。

(日本を滅ぼす!)

 最初は政権を奪い、自分達の理想郷を築き上げるのが目的であった。しかし、いつしか復讐の念にかられて、捻じ曲がってしまった。「アストピアをおとしめた日本人を許さない!」ドス黒い怨念の様な執念で、たった1年でVXを完成させてしまったのである。

 VXはサリンとは違い揮発性が低く、その場に留まりやすい。その為、殺傷能力は桁違いだ。特殊な防護服にでも身を包まない限り、防ぐ事は出来ない。皮膚や目から入って必ず死に至る。時間経過で拭き取ったとしても、拭き取った物から揮発して、再被害を出す恐るべき毒ガスだ。神経剤の毒ガスの効果を専門的に述べると、読者の方々がついて来れなくなりそうなので、省略する。分かりやすい例えなら、キングコブラの毒は神経毒だ(出血毒も含まれるが)。それの最強版が霧吹き状の毒ガスVXだ。キングコブラの毒は直接体内に入らないと効果は無い。VXは空気中に漂っているだけで、その空気に肌が触れた者を必ず殺す。そう考えて頂ければ、これがどれほど恐ろしい毒ガスなのか、想像して頂ける事だろう。

 実は私は最初から、東側諸国とのアストピアの繋がりを疑っていた。宗教を信じている人は根が純粋だ。しかし世間は泥にまみれ、汚れている。その泥臭さに耐えられず逃げ込んだ先が宗教だったのだ。

 そもそも、神様を崇めるのであれば、欲にまみれているはずがない。だから高額なお布施や、高額な壺などを売る筈が無い。無料で配布するなら分かる。それが人徳と言うものだろう。信者を増やす為に自らの財産を投げ打ち、利益など度外視で神と信者の為に尽くす。そんな教祖がいるのなら、その宗教は本物だろうから信じてやる。そこまでされたら、教祖様が破産されてしまいますと、信者が自分の意思で無理のない範囲で、勝手に援助してくれるだろう。また、自発的に援助される様なカリスマのある教祖でなければ認めない、と私は思っている。

 しかし嘆かわしい事に昨今は、あの手この手を使って、信者達から金を巻き上げる事しか考えない、金の亡者と化した教祖の何と多い事か。それは最早、神の名を借りて金儲けをしている、商売に過ぎない。宗教でも何でも無い。なんなら私が適当に、アナト教でも作ってやろうか?そしたら、宗教法人は税金を納める必要は無く、神の名の下で金儲けをし、その利益をせしめて影で豪遊する。信者達には質素倹約こそが美徳だと唱えて、限界までお布施をさせて見ぐるみを剥がす。こんな如何わしい宗教など信じるに値しない。神とはこの私、アナトだ。神はここにいる自分自身の中にこそあるのだ。


「麻生さん、山下を見ましたか?」

「あ、青山くん。山下くんは、女神様ロスで体調を崩して早退したよ」

「早退?あの馬鹿…」

 大体が思入れ強すぎなんだよ。夢の中で山下は彼氏であり、夫となっていた。ただの先輩後輩で、友人と言うだけでは無い。山下が傷付いていると、何故かほっとけなくなるのは、私の中にいるもう1人の人格のせいだろう。青山瑞稀と神崎瑞稀は同一人物でありながら、全くの別人だと言える。

 私は気がつくとアナトになって、山下の自宅アパートを訪れていた。

「えっ!?嘘っ!何で???」

 頭がパニックになっているのが目に見える様だ。ドアの前で待っていると、ドタバタと部屋を慌てて走り回って着替えたり、部屋を片付けているみたいだ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…お待たせしました…はぁ、はぁ…」

苦しそうに息を切らせながら、ドアを開いた。

「何か、ごめんなさいね。具合が悪いのに、走り回らせちゃって。そのままでも気にしないよ?」

「いえ、そう言う訳には…。所で何でこちらに?」

「え、えーっと。具合が悪いと聞いたので、お見舞いに…」

「あ、ありがとうございます」

「ふふふ、私って女神様に似てるでしょう?それで騒がれちゃって。別人なんだけどね?」

「えっ!?あっ、別人なんですか?」

ジロジロと顔から身体中を舐め回す様に見られた。

「何処見てるの?Hね?」

「すみません。そんなつもりは…。あの、会った事、ありますよね?」

「はい。ありますよ。神崎です。忘れましたか?」

「忘れる訳ない!忘れるはずが無いですよ」

(おいっ!それでは好きだって言ってる様なものだぞ?)

 山下は自分が出会って惚れたのは、今目の前にいる彼女で、彼女にそっくりな女神様は天に帰って行った別人だと納得した。

(ふぅ、上手く誤魔化せたかな?)

 山下と趣味の合う華流ファリュウドラマの話題で盛り上がり、ゲームをして楽しんだ。山下の元気も出た事だし、明日からはまた元気な姿で出社してくれれば、と思った。

「じゃあ、そろそろ私、帰るね」

「神崎さん!待って」

立ち上がった左手を引っ張られて、抱き寄せられた。

「キャア!ちょ、ちょっと…」

「ごめんなさい。でも好きなんです、神崎さんの事が。忘れられない。俺と結婚して下さい!」

「けっ、結婚って…付き合っても無いのに?気が早過ぎなんじゃ…?」

「だから、付き合って下さい。結婚を前提に」

「えぇーっと、その…先ずは友達からでは…ダメですか?」

「やったぁ!」

 山下は大喜びしながら、私を抱きしめて回転するので、足が浮いてクルクル回った。

「?」

「先ずは友達になりたかったんです。でも断られそうで、結婚って言ったら、やっぱり先ずは友達からって言いますもんね?俺の作戦勝ちです」

「あははは、何よそれ?してやられたって事?」

 2人して大笑いした。アナトの人格の時の私は、山下に好意がある。夢の中とは言え、きっとあれは現実だったのだ。山下は彼氏で夫だった。好意があるのは当然だろう。アナトの姿で山下に関わると、一線を軽く越えてしまいそうで怖いのだ。だからなるべく関わらない様にしていた。しかし、私の事が好き過ぎて、体調を崩して早退までした話を聞くと、居ても立っても居られなかったのだ。

「もう私の為に会社を早退したり、休んだりしてはダメだよ?」

手を振って山下と別れると、空を飛んで帰った。

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