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感無量です

作者: ラーテ

いい人生だった・・・。


両親に恵まれ。


境遇に恵まれ。


良縁に恵まれ。


その背中にあこがれる父親。

聖母のような母親。


飛行機事故による両親の失踪にあったり、

見知らぬ借金が小学生の身に降り注ぐも、

あきらめず必死に努力しそれらを乗り越えた。


高校生の頃には、美しい幼馴染とのラブロマンスに、

修学旅行に襲ってくる謎の組織と戦う超展開や、

互いにその背中を預けあい、ともに窮地を乗り越えた友との冒険譚。


失踪した両親との再会や、両親とともに謎の組織の打倒。


自然とつながる著名人や権力者との縁


その後の平和な日々。


多くのものが憧れうらやむような人生を謳歌し、

今私は旅立とうとしている。


ああ、もう思い残すことなど何もない。

残していく子供たちや孫たちも何不自由なく生活をするどころか、

他人がうらやむほどの成功をおさめ、自慢が止まらないよ。


そんな自慢な家族に見守られながら、私は最後の時を迎える。


なんという勝ち組だろうか・・・


もはやこれ以上望むものはない。


さらば・・・


・・・


・・・


・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


・・・


・・・


・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


・・・


・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!!」


・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!!!」

「おめでとうございま『あの・・・なんでしょうか?』


穏やかに、そして静かに召されようとしていたのに、えらく陽気な声で私を呼びかけるものがいた。

このような声は私の家族にはいなかったような・・・忘れてしまっているのだろうか・・・


「ですから!あなたは700億人に1人の異世界転生者に選ばれたんです!!」


目を向けようとしたのだが、なんだろう何も見えない。

ただそこに何かがいることを感じる。


「はぁ」


異世界転生者・・・どこかで聞いたような・・・そういえば孫の京介(きょうすけ)がそんなタイトルの小説をよくねだっていたような。


「あれ?反応薄いですねぇ・・・。あのみんなの憧れ異世界転生ですよぉ?」


「あこがれ・・・なのですか?」


「ですですよぉ!科学文明ばかりが発展した世界では、絶対に味わえない魔法やスキルなんて特殊技能がつかえてしまう世界にいけてしまう!元居た世界の偉人たちの知恵の歴史を、自分の知識と(のたま)いそうでなくても周囲からはやれ天才だなんだとちぃやほや!強大な力と異常に高い知識に異性はあなたにメロメロのハーレム確定カーニバル!!痛い中二精神爆発でも実力あればそれはまさに英雄!!!」


「はぁ」


「・・・うーん。知らない人にとってはこういう反応なのかなぁ」


「いえ、なんというか、人生もう一度楽しめるみたいな感じは伝わりました。」


「ほうほう!では早速!!」


「いや、あの往生させてください」


「えぇ・・・なぜに?」


「私は今生においてとても満足しております。今はただ、安らかにこの生を終わらせ深い深い眠りにつけたらと・・・正直に言えば、これ以上はおなかいっぱいです。」


「ああ、そうなんだ。でもまぁ、決まちゃったからしかたないのだよね」


「え・・・あの私の意志は・・・」


「全力で無視させていただきます!!」


「ちょっと!?」


「さらば!!そして世界をすくいたまへ!!!」


「ちょっとおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!???」


だんだんと声がとおくなってゆく。


そして気が付くと私は新たな世界で赤子となっていた。


彼が言っていたとおり、新たな世界では魔法やスキルといった不思議な力がつかえるようだ。


私がもっと(精神的に)若かったのなら喜びはしゃいだのだろうが、一度人生を満喫しまくった私としては、なんというかふーんだった。


むしろまた人生が始まるのか・・・そんな思いが私の全身に気怠(けだる)さを感じさせた。

私はひどく完璧主義なところがある。

昔友人に勧められたゲームをしたときに、フルコンプリートを目指してしまった時があった。タイトルは某最後の幻想的な名前だったと思う。あまりにもやり込み度が高すぎるそれは、終わってみればすごい達成感があるものの、そんなものをだれに自慢できるものでもなく、なんて時間の無駄をしたのだろう、ストーリーだけを味わえばよかったではないかと後悔したことか。

その後、最後の幻想なのに次から次へと新しいシリーズが出てくるそのゲームを私はやる気にはなれなかった。やってしまったら最後。またもや、すべてをコンプリートするまでやり切ろうとしかつて味わったなんともいえない空虚な気持ちをまた味わうことになるだろうからだ。


いうなれば、今の私の気持ちはそれである。


あれだけ完璧な人生を過ごした私としては、もう本当にこの人生は蛇足としか思えなかった。


だが私はこの世界の人生も謳歌する今年にした。


自害すること悩みもしたが、新たな両親は私を産みたくて産んでくれたのだ。

両親は優しく、又自身の幸せな生活を守ろうと生きている。

であるならば、わざわざそんな両親を悲しませるようなことをしたいわけでもなし。


私は普通に生きることを決めたのだ。


が、この世界の法則は私にかなり有利なものだったのだろう。


魔法と呼ばれる技術は、程よく力を抜き、また落ち着いて学問をする私にとってとても扱いやすくまた習得しやすいものだった。


その成果、いつしか大賢者と呼ばれるほどの実力者となり、強大な敵国の王を倒したり、人知を超えた天災とも呼べる怪物を退け、英雄扱いされるようになっていった。


美しい姫や気高き女性騎士。多くの女性が私を慕ったが、前世の妻のことを思うと不義理をしたくないという思いも強く、それ以前に精神的に女性に対して異性を感じることはなかった。


だが、親が「孫の顔を・・・」といわれれば、後ろめたさに一児のみをもうけることにした。

紗枝(さえ)よすまん・・・。


そんなこんなで、私はまたも十分に人生を謳歌した。


今回は、この世界の妻に見守られながら、(おごそ)かにかつ静かに瞼をとじる。


よみがえる2つの人生の記憶


一度目の人生の記憶は、もう薄れかかっているものの、それでも涙が出てくる。


ようやく、ようやく私の人生はその幕を下ろす。


ゆっくりと・・・


そうゆっくりと・・・


だれにも邪魔され「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


・・・


・・・


・・・


だれにも「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


・・・


・・・


・・・


「おめでとうございま『あの・・・またですか?』


「はい!またです!!・・・あれ?お兄さん二度目ですか???すごい幸運ですね!」


「いやいや、私はもう・・・」


「はい!そんな幸運なあなたの次なる世界は、なんと宇宙です!ギャラクシーです!!惑星間大戦争です!!!」


「いりません、永眠させてください」


「それでは、いってらっしゃい!!世界をすくってらっしゃい!!!」


「だからぁあ!!?」


そうして私は第3の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「あの・・もういい加減に・・・」


そうして私は第4の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「せめて交渉を・・・」


そうして私は第5の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「・・・・・・」


そうして私は第6の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「やはり来たか!貴様の息の根を・・・っ!!?」


そうして私は第7の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「わたしは・・・なにもの・・・だったのか・・・」


そうして私は第8の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


そうして私は第9の人生を謳歌することに・・・


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


・・・


・・・


・・・


私は、異世界転生を数えきれないほど繰り返した。


その先々でその世界の危機なるものを救い、

その先々で多くの成功を果たし、

その先々で多くの栄誉を手にした。


感慨は、その量を数えきれないほど増やし、拒否を繰り返し続けた私は、

いつしか自身の心の声が聞こえなくなっていった。


だが私がどれほど変化しようと、

私がどれほど不変であろうと、

あの声だけは必ずやってくる。

だから私は決めたのだ、


「おめでとうございます!あたなは異世界転生者に選ばれました!!」


そうして私の新たな人生が始まる。

前世の記憶に蓋をして・・・

読みにくい小説を読んでいただき、お疲れ様です&ありがとうございます。

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