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騎士爵家 三男の本懐  作者: 龍槍 椀
第三幕 騎士爵家 三男の本懐
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――― 希望の光 深淵への誘い ―――

少々長いです。 大晦日のお楽しみにどうぞ。

 

 保護したまだ子供のように見える『彼女(エスタリアン)』が語る話は、私を混乱に落とし込んだ。


 この世界に『魔の森』と云う脅威(・・)を撒き散らした古代エスタル末裔と云う事。 馴養飼師(テイマー)と云う未知の「技巧(スキル)」…… いや、彼女が言う所の『恩寵(ギフト)』を神より頂いている事、さらには我々とは『生きる時間』が異様に違う事。


 しかし、彼女の物語る事は、人々が知らぬこの世界の歴史だと云う事は理解し得た。


 このまま『生の情報』を直ちに開陳すれば、どれ程の混乱が多くの国々を覆い尽くすか判ったモノでは無い。 よって、兄上も仰った通り全てを秘匿する事にした。 もちろん、兄上とは秘密を共有する事は前提だが……


 彼女は、一応…… 『心』を許してくれた様だった。


 しかし、このままと云う訳にもいかない。 彼女の存在がいずれ『砦』以外にも知れ渡る。 『今』はいい、今は。 『砦』と云う、云うなれば私の私的空間に保護しているからだ。 だが、秘密とはいつ何時漏れるやもしれぬ。 『砦』においても、その例外では無い。 訪れる事を許可している人々も、かなりの数に上る。


 よって、彼女達四十人の身柄を人目に付かぬ場所に移した方が良い事だけは理解している。 しかし、彼女達の意向を無視するような事はしたくない。 これまでの経緯から彼女達は十分すぎる程の苦難を受けて来たのだから。 私は『彼女達の意思』を優先する事にした。 ……出来るだけ平易に、彼女に尋ねる。



「これから、どうしたい?」


「村に…… 村に帰りたいな。 、@、l@;k;lkp@;m…… 勿論、助けてくれた事には感謝しているし、なにかお礼もしたいけど、あたしは…… ・、;:km;…… 何も持ってない」


「村に帰りたいか。 そうか…… ならば、どうだろう。 私達はまだ『中層の森』までしか行きつく事が出来ない。 君を救った場所は、『浅層の森』と『中層の森』の境目近辺なのだ。 私は『君達の事(エスタリアン)』を、もっと良く知りたいと思う。 今後も連絡が取れるようにして貰えたならば、それが何よりの『礼』となるんだが?」


「そうだね……  、mンmlンmk;………… 長老(・・)は云うんだ、” 外には人が居ないか、邪悪な魔物しか存在して無い ” って。 でも…… 『人』は居た。 でも、邪悪だった…… 貴方は、違うみたい。 だから、いいよ。 それで…… ハウゥゥ ……ハウゥゥ」


「息苦しいのか?」


「ん? なんで?」


「君の息遣いがな、少々気に成ってな。 『深層の森』は、魔力濃度が段違いに濃い。 それに比べたら森を抜けた此処は、君達にとっては魔力が無いのも同然と云えるはずだ。 普段呼吸していた『空気』とは違うからな。 体力は戻っても、君達は身体を壊してしまうんじゃないかなと思っている」



 私の考察に、彼女は深く何かを想う。 去来するのは帝国に拉致された後の事か…… 内包魔力が豊富で魔法も行使できる彼女達が、何故帝国の束縛に対抗できなかったか…… その辺りに『鍵』が有りそうだな。 きっと、彼女もまたその事に気が付いたようだ。 小さく言葉を紡ぐ彼女。



「ふーん、そっか。 そう云う事だったのかぁ…… 成程なぁ…… 判った。 お兄さんが言う『中層の森』なら、あたし等も大丈夫だから、連絡を取るんならあそこで逢うのがいい。 お兄さん達が来たら、判る様に「@l;:、。@p んー、” テイミング ” した魔物に中層の森を見ててもらうね」


「そんな事も願えるのか。 凄い事だな、まったく理解が追いつかない」


「あたしだって…… こっち側の森の果てに、こんな人達が住んでいたとは思ってなかったよ…… 『砦』の人達はみんな優しいし、いい匂いのする石で身体を洗って貰えて、暖かい寝床も使っていいって…… ご飯も美味しいし…… 世界って広いんだね」


「全くだ。 未知を知るのは、これ程、心躍るのか」


「『知らない事が有るのを知るのは良い事だ』と、長老は云ってたからね。 この出会いも、きっといい事なんだろうね」


「そう在って欲しいと心から思う。 皆の体力が戻り次第、『中層の森』まで、君達を送る事にする」


「:。・・¥・。@…… ゴメン、手間かけ差す…… いや、”有難う” かな」 



 時々混ざる、異質な発音。 未知の言語への興味も尽きない。 朋が居れば、付いて行くと駄々をこねような。 会えたら…… もう一度、朋に逢えたらなら、この出会いを事細かく教えようと、そう心に決めた。 アイツならば、情報を拡散する事も無いし、多分だが森へ入りたがるだろうしな。



      ――――――



 保護したエスタリアンの代表者とも云える彼女との会話を終えた。有意義なる『話し合いだった』と云えよう。しかし、彼女等の『能力』は伏せておいた方が良い。彼女の言からすると、帝国にはもう『テイマー』は存在しない。別の機会を作り、気に成っていた、帝国が取得したであろう『魔の森』に被害無く入れる手段をどうやって得たのかを聴いた。彼女ならば知っていると踏んだからだ。


 彼女曰く、帝国の手先として動いていた奴隷商人達に 『魔物除けの香』を略奪されたと云う事だった。 最初の一人が捕らえられた時、持っていた『魔物除けの香』の存在を気付かれたのだそうだ。 『魔の森』の中層域での行動を保証する為に、その製法を知る彼女達は厳しく取り調べられ、あるいは拷問され…… 帝国に『魔除けの香』を作る事を強要されたと、彼女は苦々しく云う。


 彼女達が死を迎えなかったのは彼女達の知識を奪う為と、彼女達が魔物を自由に操る事が出来る『テイマー』だったからであろう。 『不幸中の幸い』で有ったと思う。 捕らえられた『エスタリアン』達は誰一人欠ける事無く『砦』に保護できたのだから。 


 『彼女』は云う。 ” その手も、もう直ぐ使えなくなるよ ” と。


 ……彼女達は馬鹿では無い。 自分達を苛んだ者に全てを伝えるような事はしない。 それだけの意思の固さはあり、拷問にも折れなかったのだ。 事実、『魔除けの香』は、時間と共に効力が落ちていくと云う事だけは、帝国に知らせなかった。 仲間達と最後に造った『魔物除けの香』の有効期限はもう過ぎたと、『意味ありげに黒く笑う』彼女……


 ―― つまり、帝国は、全ての『魔の森』を越える『策』を、失った(・・・)と云う事に他ならない。


 ならば、暫くは『エスタリアン』の存在を秘匿(・・)しても問題は無い。 此方に『エスタリアン』達が居ると、帝国に わざわざ教える必要も無いのだ。 あちらも秘匿しておきたい情報でも有るのだからな。 それに…… 帝国側は、帝国兵と共に『エスタリアンたちも失った』と、 そう思っていると思う。 そう思えるような状況だったしな。


 救い出した彼女達を、『表舞台』に出す必要は無い。 彼等の知識や歴史は今の『人』には、受け止めきれないと思う。 この世ならざる世界の記憶を持つ私だからこそ、ある程度の衝撃を受けただけで、彼女達(エスタリアン達)存在(・・)を受け入れる事が出来たのだろうと、そう推測する。


 いずれ、時が満ち、人が自力で『深層の森』に到達した時に、要らぬ軋轢が起きぬ様にするだけでいい。 この世界は『人』だけのモノでは無いと云う事が、彼女との会話で理解できた事なのだから。



     ―――― § ―――



 兄上には『機密保持の為』、わざわざ『砦』に来てもらい話をした。 『砦』に到着された兄上に、彼女との『会話内容』を報告した。 兄上の表情が驚愕に染まる。 伝説上の国が実際に存在し、その末裔が今に続くまで生き長らえている事が信じられない様だった。 が、彼女達の外見が雄弁に物語る、我等との差異。 『癒しの秘術』を受け付けると云う『人』でなくては受けられぬ神の恩寵を受け付けた事が、兄上にとっては信じられぬ事柄でも有ったようだ。


 が、事実は事実。 遥か昔に枝分かれした同胞なのだ。 現在は多分『種』として、隔絶したのだろうと思う。 しかし、意思疎通も可能な上に感情の機微すら通じ合えるのだ。 帝国人よりも、よほど文化的に会話が出来る。 様々な情報を共有した後、兄上は私に問う。



「あの者達の処遇はどうするつもりか? 『砦』にも長くは置けぬだろう?」


「はい、彼女達の意思を確認致しました。 『深層の森』に在る村に帰還を望んでおります。 私はこのまま彼女等を王国近隣に留め置くよりも、本来住まう場所へと帰還させる方が良いと思いました。 しかし、此方との連絡は取れるようにするとの事。 それで、如何でしょうか?」



 彼女達を森に還すと報告を受けた兄上は、一瞬 『悩まれる様な表情』 を浮かべられたが、それもそうだなと頷かれた。 彼女達の体力が戻り次第、『中層の森』へ送る事を約束したのだ、果たさねば成らない。 話し合いの内容(・・)が『荒唐無稽』を通り越していた為、全てを秘匿しなくては成らないと云う事で、兄上と意見の一致を見た。


 今、彼女達『エスタリアン』の存在を表沙汰にする事は、またぞろ誰かに野心を植え付ける事に成りかねない。 人が自力で『魔の森』を越えられる日が来るまでは、ひっそりと交流を続ける事が肝要だと、兄上と合意に至る。 特段、他者に対し優位に立とうとは思っていない。 兄上もその御積りだ。


 我ら兄弟の認識で一致する言葉が浮かび上がる。



      ” まだ、その時では無いのだ ”



 ……と。 衝撃の大きな事ばかりだったが、私は満足だ。 『爺』に色々と話せるからな。 彼女の仲間達の体力が戻り、旅をしても問題が無いと云うまでの二週間。 時間が出来る度に、彼女は執務室に遣って来た。 人払いを成し、語り合った。 到底、他人に聴かせられるような事柄では無い。 注意深く記録を取りつつ、興味深い『深層の森』の話を色々と教えて貰った。


 代わりに、私は『魔道具』を幾つか彼女に渡した。 なんでも『深層の森』では、火を使う事は『ご法度』らしく、温かい食べ物を食べたことが帝国に捕まるまでは無かったのだと聞いて、少々不憫に思う。 


 『友好の(しるし)』として温水瓶(ポット)や、暖を取る為の『魔道具』を贈った。 魔力切れが起こりづらいように、改造し仕込んだ『蓄魔池(バッテリー)』は、上級伯級。 それらの魔法具は、少しの魔力で稼働する為、かなり長く使える筈だ。



「・:。p@:。「@!! ご、ごめん! でもこれで、あったかいお茶が飲めるんだ! きっと長老も喜ぶよ! 嬉しいよ、ありがとう!!」



 多少滑らかにしゃべる事が出来るようになった彼女から、大きな感謝を貰った。 いや、『友好の徴』なんだ。 『工人』でもある私は、『砦』で簡単に量産できるようなモノだから、人数分を用意した。 その様子を傍で見ていた彼女は、かなり驚いていたな、そう云えば。


 そして、旅立ちの日。


 『砦』の通信士の御婦人方が、皆にフード付の外套を贈り『角』が隠れるように配慮した。 旅装で必要なモノを一揃え。 弓を使うと云うので、長弓を用意したが長すぎたために短弓を渡す。 今度は弱すぎると…… 困ったので、以前訓練用に仕込んだクロスボウを渡すと、驚きに目を見開きつつも受け取ってくれた。


 ――― なんだか『面白い』と云う感情が浮かび上がる。


 ” ナイフ ” も記念にと、皆に配る。 『人工魔鉱製』のナイフ。 親方が鍛練習熟用にと大量に作ったモノが『砦』の倉庫に眠っていたので、それに何時も(・・・)の術式を付与してから渡した。 そう云えば彼女達…… 内包魔力が膨大なのは知っていたが、簡易的に測ってみたら『侯爵級』もあった。 少々驚いた。


 いや、そうか…… あれだけ濃い魔力の中で生活しているのだから、そうなるか……



  ―――――



 別れはあっさりしたものだった。


『魔の森』中層域。 『滝』でのお別れ。 中層の森への入口に当たるその場所で、四十人の『エスタリアン』と別れた。 また、私がこの場所に訪れたならば、彼女達の探知網に引っ掛かるらしかった。 そう彼女は別れ際に言ったのだ。



「何時でも来てね。 助けてくれて、本当にありがと! じゃ、また!」



 生きていく事すら難しい『魔の森』の奥地へと歩を進める彼女達の足取りは軽かった。 そして、一つの『真理』に到達する。 なにも『魔の森』とは敵対(・・)するばかりでは いけないのだと。 森と『共存』する未来も、有るのかもしれないと。 そう強く思った。 


 まぁ、その為には強靭な肉体と、魔物魔獣と単独で遣り合う程の剣技を身に付けねば成らないが……


 いずれ…… いずれな。





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― 新着の感想 ―
エスタリアンのような存在がいるかもしれないっていううわさ話が残っていたってことは、もしかして誰かが同じようにエスタリアンと数奇な出会いをして同じようにまだ早いと判断してそれでもいつの日かと思ってうわさ…
この三男が国のトップの権力に組み込まれてなくてよかった……。 どうしても王族に開示して引き合わせるしかないところだった。 そして森を征くのはこちら側の人類の悲願でもあるのだから、その技術に手を伸ばすの…
本年は心躍る物語を、ありがとうございました。 来年も楽しみにしています<(_ _)> 寒い日が続きますが、ご自愛ください。 よいお年を
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