表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士爵家 三男の本懐  作者: 龍槍 椀
第二幕 辺境の過酷な現実
34/144

――― 願望の具現化 ② ―――


 わたしの細やかな願望を支える、()()()()()()に目途が立った。


 必要な物は手に入った。 次に魔道具を製作する為に設備を整える事を考えねば成らなかった。


冶金組合(スミスギルド)』の親方達とも、友好的に話し合いを進め、『砦』内に鍛冶場の設置許可を得た。 これは、強い火炎を用意する為の処置でもある。 『炉』を新規に()()()()()()には、その許可を組合(ギルド)に要請し、『登録』せねば成らない。


 『炉』の所有者を決め、『炉』の責任者を登録せねば、周囲の者達が安心して暮らせないからなのだ。 貴族が所有している鍛冶場も、皆それに準じた『登録』をしなくては成らない。 王国法により規定されてもいる。


 わたしが、わたし専用の『鍛冶場』を必要としたのは、『魔晶(クリスタル)』の特性に依るものだった。 『魔晶』は、熱により融解、焼結し単一の『物質』に戻る事は確認している。 


 『魔晶粉』を型に入れ、高温で焼結させると、透明で均一な物質に生成出来る事は、錬金塔での実験でも確認していた。 上級伯家の級友の家に渡した『冷蔵保管庫』に使う侯爵級の魔力を保持できる『蓄魔池(バッテリー)』で開発した技術(モノ)だ。


 『魔晶』は、魔法で作った火炎で炙っても焼結はしない。 魔力が()に成っている炎なのだから、魔法の火炎は『魔力の具現化』だから道理だ。 魔力で生成した火炎は、それ自体が魔力そのものだから、容易に魔晶(クリスタル)に吸い込まれて行き、焼結温度に達しないのだ。


 だが、実際に木炭から生み出された火炎では、しっかりと焼結する。 単に温度の問題ならば、火炎魔法でもよい筈なのだが、それは経験則から不可能であると結論付けた。 『魔法』の不思議というやつだな。 この世界の物理法則は、理解するまで大変だった。



 『高い温度を恒常的に手に入れる為』に必要な設備が『鍛冶場』と云う訳だ。



 鍛冶場の完成と同時に、『魔力遮断塗料』の「特許権パテント」の共同使用の許可が、級友の元から届いた。 必要なモノが揃ったのだ。 これで、我が愛する郷里で『蓄魔池(バッテリー)』の生産に『法的許可』という ”後ろ盾” が出来たという事だった。


 『蓄魔池(バッテリー)』量産の為に、幾枚も、幾枚も綴った書類は、逐次王都に送り、そして、審査され『許可認定書』と共に送り返された。


 いやはや、大変な思いをしたが、これで大手を振って大々的使用に踏み切れる。 最初に生産したのは、『蓄魔池(バッテリー)』。 内包魔力は男爵級から子爵級。 低位貴族の持つ内包魔力に相当する魔力量なのだが、それにも理由が有る。 潤沢な魔力無くして、魔道具は動かないからだ。 まして、騎士爵家の兵員が使用する魔道具なのだ。



 ――― 『魔力切れ』になれば、それこそ一大事。



 使おうと思っていた付与魔法は、結構な量の『魔力』を喰うのだ。 それに見合う内包魔力を有する者が、男爵級、子爵級の内包魔力保持者。 辺境に於いて、その様な内包魔力保持者を大量に抱える事は、魚に空を飛べという様なモノ。 だからこその、低位貴族(男爵子爵)級の内包魔力相当の『蓄魔池(バッテリー)』だった。


 最初に出来上がったそれを手に、ニンマリと笑みが零れる。 『所定の量』の連続的魔力放出を確認できた時には、天にも昇る気持ちだった。 これで、兵の損耗率を大幅に下げられる。 そう、確信した。



 反対に……



 魔道具の作成には、大きな困難を感じなかった。 その辺にある材料を搔き集めて、適当にでっち上げるだけである。 前世の記憶がココでは有用(・・)に活用される。 周辺の魔物や魔獣の反応を見つけるだけなのだから、其処は容易い。 奴等には『蓄魔器官』とも云える()()を体内に有する。


 ――― ならば、その臓器に集中した魔力を『見つけれ』ば良いだけなのだ。


 【索敵魔法】という特殊で高度な魔法術式を編む必要もない。 ただの【魔力検知術式】が必要なだけだった。 高度で複雑な術式を組み合わせた ”繊細な【索敵魔法】” と魔導コンロにも使用されている ”雑多な術式構成の【魔力検知】術式 " の魔法術式の差は、それこそ雲泥の差。


 考え込んだのは、それをどう現実に落とし込むか だった。 前世の記憶の中で、使えそうなモノが有った。 脳裏に浮かんだのは、ゲーム雑誌の表紙に大々的に掲載されていた製品の事。 実際に手に取った事は無い。 同僚が捨てて行ったゲーム雑誌の記事からの知識だ。 それが本当に実在したのかは、わたしは知らない。 だが、記事にはあったのだ。


 目の前に仮想現実を展開し、プレーヤーに没入感を与える装置。 そう、『VRゴーグル』と云う名だったか。 前世では解像度と、如何に軽く作るかが、その装置の出来にも関わっていたが、現世では重さは関係ない。 使うのが兵士なのだから。


 頭に付けると云う事で、外殻はそれっぽい昆虫型の魔獣の頭蓋を使用した。 目に当たる部分には、魔獣の複眼の裏側が来るように調整した。 被ると、ヘルメットの様な形状と成る。 まぁ、仮初のでっち上げだ。 外見については、目を瞑ろう。 その内、幾つもの改善点が見つけられるのだから、でっち上げとしては合格だろう。


 内部に、クッション素材としてキルティングを装着して、被り心地を改善した。 魔獣の複眼に当たる場所の左をくり抜き、右側の内側を薄く削り込んだ。 右側の薄く削り込んだ場所に、下地として『魔力遮断塗料』を塗り込む。 これで、表示部が他の魔法や術式との干渉は防ぐ事が出来るのだ。


 粘土を用意して、内側に張りつけ、型を取る。 その型に『魔晶粉』厚く盛り、鍛冶場の炉で高温焼結させる。 術式を書き込む。 同心円を幾つか書き込み、更に十字の基本線を入れる。 自身の前に当たる部分を上に設定し、背後を下とする。 左右はそのまま。 頭部中央の頭頂部、魔獣の角が有る部分に、『魔力検知術式』を符呪した。 出力されるのは、” 方角と距離 ” のみ。


 それを受けるのが、右側複眼の裏側の『焼結魔晶』の薄い板。 自身の頭の向きで、常に『顔』が向いている方向が上に表示されるように設定した。


 肉眼では見つけ辛い、小型の魔獣でも内包魔力が浮かび上がる赤点となり、『焼結魔晶』にプロットされる。 距離は同心円の数を数えればよいだけだ。 対象の魔力の溜まり方により、赤点の輝度が変化する。


 ――― 少なければ暗く、多ければ明るく。 対象の脅威度はコレで判断できるのだ。


 ヘルメット状のそれに、『蓄魔池』を入れ込む場所を刻む。 簡単に言えば、バッテリーケースの様なモノだ。 其処から『魔晶粉』で魔力伝達の為の ”導線” を作り、符呪した『魔力検知術式』に魔力供給の道を付ける。 途中に、『起動魔法術式』と『停止魔法術式』の二つの魔法術式を挟み込む。


 これで、必要な時に発動可能で、不必要に成れば停止も出来るようになった。 それらを纏め上げ、魔獣の頭部を利用した兜の中に押し込んだ。 (ボタン)二つで、術式始動と停止が出来るのだから、判りやすい。


 ”試作第五号”を、五つ(・・)


 作り上げた後に…… 『爺との会話』となったのは幸いだったと思う。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドラゴンボールレーダーのようなものが魔物の右眼裏側にハマってる状態なんですかね?便利そう これはVR(仮想現実)というよりAR(拡張現実)というやつになるんじゃないでしょうか
否定的に捉えて欲しくはないのですが、 探知したものを映すのがレーダーのPPIスコープの様なものである場合、VRゴーグルの様にしなくとも手持ち機器の方が使い勝手が良いでしょう。ゴーグルにしなければならな…
まるで最初期の戦闘機用ヘルメット型ヘッドマウントディスプレイですね、機体情報がなくレーダーのみですが 画期的というより革命的発明ですよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »