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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編
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それがオールバンス(アリスター視点)

 キーンと。なじみのある感覚が体を通り過ぎていく。俺はベッドからがばっと起き上がった。隣では俺のことをいやみったらしく叔父と呼ぶギルバートが同じように飛び起きていた。


 思わず顔を見合わせる。この際、なんで同じベッドに寝ていたかということはどうでもいい。


「アル、今の感覚」

「アルって呼ぶな! ああ、結界だと思う。一瞬だけ結界が広がって、スッと消えた、そんな感じだった」

「そうか、やっぱりな。俺もファーランドで結界を通り抜ける感覚を体験しているから少しはわかるが、自信はなかった」


 そう言うとギルは寝起きで少しぼさぼさしている髪をかき上げた。結局俺はギルバートのことをギルと呼ぶことになったんだ。距離が詰まるみたいでいやだったんだけど、いやおうなしにだ。しかも俺のことはアルって呼ぶという。そんな風に呼ばれたことなんかないのに。


 俺は髪をかき上げるギルをぼんやりと見つめた。トレントフォースにいた時、寝起きで見ていたのは柔らかい金色の髪とぷくぷくしたほっぺだったのにな、と思いながら。


「なんだ、そんなに俺はハンサムか」

「違う」

「ちょっとくらい悩めよ」


 ギルはすぐに軽口をたたくんだ。それはバートたちとは違って、なんだかむずがゆい感じがして、ちょっと慣れない。


「この間まで一緒にいたのはリアだったなって思って」

「おんなじ部屋だったのか。それはルークには言わないほうがいいな」

「なんなんだよ、あいつ。俺に張り合うみたいに」

「張り合ってるんだろ、実際。何よりリアが大切なやつだからな」


 そんなこと言われたって、四侯の跡継ぎとして、最高の待遇と教育を受けてきたんだろ。俺と対抗する意味が分からない。いや、違った。


「そんなこと言ってる場合じゃない。シーベルでは毎朝結界が発動するとか何かなのか?」

「まさか。肝心の結界箱ですら実際に発動したことはないそうだ。実際ここに滞在してから一度もこんなことはなかった」

「なら小さい結界箱か。いや、それならよほど近くで発動しない限りこの部屋まで結界が届いたりしない。ってことは、これはリア!」


 俺はベッドから飛び降り部屋から飛び出そうとした。


「がっ」


 しかし後ろから服をつかまれ、首がしまって変な声が出てしまった。


「何をするんだ! リアが結界を張るときは、危険が迫ってる時なんだ! 助けに行かないと」

「しっ、静かに」


 俺はそのギルの言葉に思わず動きを止めた。


「なんで」

「落ち着け。いいか、結界が効くのは何に対してだ」

「それは……虚族だ」

「城の中に虚族が出る可能性は?」

「……ない」

「リアが虚族以外で、危険な時結界を張ると思うか?」

「……思わない」

「だからたぶんリアは無事だ」


 落ち着いたギルにかえってイライラする。


「だったらなんでだ」


 ギルは多分心当たりがあるのだろう。少し気まずそうに視線をそらした。


「あー、リアは結界を張れるよな」

「ああ」

「それを知ったら、アルはやりたくならなかったか?」

「……なった。ああ、あいつか」

「おそらくな」


 ギルはまだ俺の服の後ろをつかんだまま、ドアの外を見た。


「調子に乗ってやりすぎたんだろうなあ」


 それは本当の弟のことを案じているような優しい言い方で。なんでか心がちりっとしたんだ。


「でも、俺だってまだ結界を張ることはできてないんだ。たった一晩でできるようになったって言うのか。まだリアがやったって言う方が信じられるよ」

「だって、お前のリアは調子に乗って大きい結界を作ったりするのか?」

「調子には乗る。けど、慎重で無茶はしない」

「なら、やっぱりルークだ。あいつらがちょっと特殊なの、アルも知ってるだろ」


 リアが特別なのは知ってる。しかし、あいつらがと言われても俺はルークのことはわからない。


「四侯は、みんな同じじゃないのか」

「違うんだよ。リスバーンとオールバンスは他の二侯より魔力が大きい。そして王家はさらに大きい。そして、オールバンスはどうやら、魔力を感じる力が強いらしい」

「確かに、リアは魔力が見えるみたいなんだ」

「やっぱりな。ルークもルークの父さんもそうなんだ。そしてそれをなんでもないことのように思ってるから、ちょっとむかつくんだよな」


 むかつくと言っている割には嫌そうな顔じゃない。


「おそらく、リアから結界の張り方を聞いて一発でできたんだろうな。俺ができるようになるにはどのくらいかかることか……」


 ギルは遠い目をした。俺はそのギルの言葉がちょっと意外で、そしてちょっと嬉しかったんだ。ギルも当たり前のように挑戦しようとしている。つまり、リアより全然できない自分でも、努力していることが正しいって、そう言われているような気がしたから。


「まあ、それは後でいい。いいか、ウェスターの王族は気づいたはずだ。それに魔力もちなら何らかの感覚はあったはず。しかし、ヒューバート王子はリアの秘密を守ることに同意したはずだから、何も言わない。つまりだ」


 ギルは俺をつかんだまま俺を見下ろしてこう言った。


「何かあったらしいが、俺たちは知らない。しらを切りとおすんだ」

「じゃあそのことをリアたちにも言わないと」

「あいつらなら、この事態をどうすると思う?」


 ギルは一言一言区切るように俺に問いかけた。ルークはわからない。リアなら?


「なかったことにする」

「だろ? それがオールバンスだ」


 なぜそんなに自慢そうな顔をするんだ。


「さ、何も起きなかった。何も気づかなかった。もう一度寝ようぜ」


 ギルはさっさとベッドにもぐりこんでしまった。仕方ないから俺はもう一つのベッドに行こうとした。


「なんだよ、こっち入れよ」

「嫌だ」

「おしゃべりして夜更かししたから寝過ごして気が付かなかったって、このほうがそれらしいだろ」


 そう言われたら仕方がない。しばらくして城の者が遠慮がちに起こしに来るまで、結局ぽつぽつ話をすることになったのだった。



 やはり王族は気づいたらしいし、魔力のあるものは何らかの感覚があったらしい。それが城の中から外へ広がったことに気づいたものもいて、遠回しに俺たちにも何か心当たりはないか聞かれたのだが、


「そのような感覚には敏感な方なのですが、よほどぐっすり眠ってしまっていたのでしょうね、気が付きませんでした。リアとおしゃべりするのに忙しくて」


 と妹を大切そうに抱き上げるルークを見たら、それ以上追及しようがなかったし、リアは抱き上げられたら楽しそうにキャッキャしてまるで普通の幼児のようで、リアに何かを聞こうとする人など誰もいなかったのだった。


 バートたちも同じだ。


「なんだかおかしな感覚があったが、城で何かあったのか?」


 と逆に不審そうに問いかけてくるとなると、城の者もどうしようもない。


 それは俺たちも同じで。


「語り合ってたらいつの間にか同じベッドで寝落ちしていた」


 というギルの言葉を疑うものは結局いなかったのだった。


 俺はほんのちょっと思ったんだ。大丈夫だろうか、ヒュー王子。ウェスターという国は、こんなに騙されやすくて、いいのかって。


次は木曜日更新の予定です。




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