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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編
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父の魔石(バート視点)

エイミーが思いのほか冷静で、ノアをかばって何も言えないレイや、父親のことがまだ納得できていないノアに代わって、さらわれた状況を説明してくれた。


レイがいくらかばっても、レイもノアも、そして安易に許可を出した使用人にも責任はある。それは反省してもらいたい。しかし虚族を安全なところから見ておきたいというのは大切なことなのだ。反省さえすれば責めることはない。


つい一緒に外にリアを連れ出してしまったエイミーは泣いて謝ったが、それこそノアやレイと同じ程度の責任だ。むしろリアの誘拐に巻き込まれた被害者だろう。


エイミーは泣き疲れて眠ってしまったし、リアは犯人という一番大事なところと、エイミーが巻き添えで捨てられそうだったことをきちんと話したらやっぱりあっという間に眠ってしまった。


「さ、ノアとレイももう休んだ方がいい。軽率な行いは、自分だけでなく周りも巻き込むことをちゃんと理解しろよ」

「はい」

「……はい」


俺の言葉にレイは素直に、ノアはまだ不服そうに返事をした。横でアリスターが立ち上がりそうになるのを何とか抑える。俺はため息をつき、腰のポーチから魔石をざらざらと取り出した。


「バート、それは今回の?」

「ああ、リアとエイミーを襲っていた虚族の魔石だ」


虚族から取れる魔石は大小さまざまだ。大きさの違いは、その虚族がどれだけ長く生きたか、つまりどれだけ他の生き物の命を吸ったかによると言われている。子どもたちだけでなく、部屋中の大人の目が釘付けになる中、町長は一番大きい魔石を手に取った。


「これほど大きいのはほとんど見たことがない。うちの結界箱の魔石と同じくらいではないか」


確かにそれは大きかったし、それこそが俺の見せたかったものだった。


「ノア」

「はい」

「これがお前の父親の命を吸った虚族の魔石だ」

「え……」


ノアは町長がそっとテーブルに置いた魔石を何のことかわからないというような目で見た。


「エバンスだけじゃねえ。これだけ大きいということは、どれだけたくさんの命を吸ったことか。ただ、おそらく最後がエバンスだったか、エバンスの後は小さい生き物の命しか吸わなかったか、そのどちらかだろう。だからエバンスの姿を取った。そういうことだ」


ノアは確かめるようにアリスターを見た。アリスターは頷き、


「確かにお前の父さんがこの魔石になるのを見た」


と言い切った。ノアはその石をじっと見ている。


「これ、おまえにやるよ」


俺のこの言葉に、


「バカな。お前たちの何年分の収入になると思う」


と町長が驚いた。まあ、俺の仲間たちは平然としているけどな。言わなくてもお互いにわかるってやつだ。もっともそのせいで「仲間のほうが分かり合えていていいわね」と女に振られたことが数え切れ、いや、それはいい。


「まあ、二年分かな」


ごくりと唾を飲み込むノアに、俺は静かに言い聞かせた。


「これは間違いなくエバンスの形見と言える。けどな、大切にとっておくのは一日か二日でいい」

「なんで。父さんの命が入ってるんだろ」

「エバンスが死んじまって一番悔やんだのは何だと思う」

「……わからない」

「お前と母さんの生活を支えられないことだろうよ」

「母さん」


夫が亡くなってもノアの母さんはけなげにしっかり働いている。ノアもだ。しかし、これからのことを考えると決して楽ではないはずだ。


「売ってしまえ。生きているかもしれないと思われて、お前や他の子の命が脅かされることを、エバンスが望むと思うか」

「思わない」

「そうだ。エバンスはいい奴だったからな」

「いい奴、だった」


ノアはやっと魔石をその手に取った。


「もう、いないのか」


両手で抱えた魔石に涙が落ちた。


「しっかり隠して家に持って行って、母さんにちゃんと話すんだ。お前のやったことも、俺が売れって言ったことも全部な」

「うん」


やっと素直に頷いたノアを見て、ミルが立ち上がった。


「俺、送ってくるわ」

「俺も」


アリスターも斜めのほうを見ながら立ちあがった。怒ってはいたが、大事な友達だってこと、知ってるよ。


ノアは平気だという顔をしたが、ミルに魔石を指されて、素直に送ってもらうことにしたようだ。黙って頭を下げると、魔石をポケットにしまってミルとアリスターと一緒に出て行った。そのタイミングでレイも部屋に戻された。


「さて」


俺は町長を見た。正確には俺たちは、だろう。


「すまなかった。正直、屋敷からさらうものがいるとは思っていなかった。ましてや虚族の出る時間帯に、外からなどとは」


町長は潔く頭を下げた。


「ここに預けたものの、どうにも心配で、ここのところ町長の屋敷の近くで狩りをしていたのが功を奏したな」


キャロは満足そうだ。


「町長、さっきは責めるようなことを言ったが、俺たちがリアを外に連れて行っていたら、おそらくもっと人数を増やした態勢で襲われたに違いない。預けたこと自体は後悔してないんだ。むしろエイミーも巻き込んで申し訳なかった」


俺も頭を下げた。


「いや、それはレイとノアのせいもあるので、どうしようもないが」

「そうだな、謝り合っていても仕方がない。リアは犯人は使者だったと言っていた」

「それだが。信じられるのか」

「信じられる」


力強い声で言ったのはクライドだ。それに頷いて続けたのはキャロだ。


「もう、幼児だからといってリアのことをちゃんと見ないのはやめないか。そもそも町長、リアとエイミーがさらわれてから、結構な時間がたったと聞いた。と言っても、ラグ竜が落ち着かず、リアに何かがあったかと思って俺たちがすぐ駆け付けたから、数十分と言うところか」


キャロは頭の中で計算しながらそう順序立てて状況を考え始めた。


「そうらしい。私が呼ばれてハンターの手配をして駆け付けてからも十分ほどは虚族に囲まれていたと思う。もう正直、完全にあきらめていた」


町長は虚族が集まり、その中心にさらわれたリアと娘がいると知った時の恐怖を思い出したのか、腕をさすっている。


「その中でどうやって二人が生き延びたのか、確かに今考えると助かるわけがないが。もしかしてアリスターの結界箱を預けていたとか?」

「それはない」


俺はすぐさま否定した。


「しかし、助けに行った時、虚族は確かにリアとエイミーからはじかれていた。正直なところ、俺も自信がねえが、リアは自分で結界を張ったとしか考えられない」


キャロとクライドは目をつぶって腕を組んでいる。あの場にいた二人だ。予想していたのだろう。


「は、はは、生身の人間がか。まさか……」


町長は信じられないというように頭を振る。しかし、さっきまで腕をさすっていた手は小刻みに震えていた。


「そんな力があったら、だれだって欲しがるだろう。一介の町長では止められないぞ」


一介のハンターでも止められやしねえよ。俺も心の中でそうつぶやいた。

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