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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編
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トレントフォースの町

町に近付くと、ただの草原とは異なり、明らかに麦や豆だろうと思われる農地が現れ、そこここに農作業をしていると思われる人がおり、そのそばには必ずと言っていいほどラグ竜がいた。バートたちに気づくとその姿を腰に手をやって眺めたり、手を振ったりする人もいる。


そんなのどかな場所を通り過ぎると、遠くのほうに町が見えてきた。町の手前には簡素だががっちりと建てられた、大きな建物が二つ立っている。その少し手前でキーンと空気が変わった。


並んで走っているアリスターを見ると、


「結界だ。ここからキングダムの結界に入る」


と教えてくれた。この結界の中に、お父様と兄さまもいるのに。その間には大きな山脈が挟まってたどりつけないというのだ。


一行は二つ並んだ大きな建物のところでいったん止まった。バートが振り向いて、


「ここがトレントフォースの町だぜ。ようこそリア」


とおどけたようすで手を広げて見せた。


バートがどこか得意そうに指さしたそこは、思ったよりずっとにぎわっていた。この世界に生まれて私が見た町といえば、さらわれた途中の夜の繁華街だけだったから、このトレントフォースの町がどのくらいの規模なのかはわからない。しかし、見張り小屋を通り過ぎると何もない大きな広場があり、その向こうにはしっかりと建てられた木造の家々が立ち並んでいた。木の枠に、壁は白く、清潔で明るい印象だ。広い道にはたくさんの人が行き来しているのが見えた。


家々の向こう側にはすぐ森が迫っており、森に張り付くように作られた町だということがわかる。


「よう、バート、ずいぶん遅いお帰りだなあ。ブランデルが発狂しそうなほど心配してたぞ。納品は済んだのか」

「ブランデルがか。俺たちなら心配ないってわかってるだろうに」

「夕闇は優秀なパーティでも、ケアリーまでの往復はめったにやらないだろ。そりゃ心配だって」

「わかった。町に戻ったらすぐに顔を出すよ。町に変わったことはないか」

「ひと月ほど前に結界がだいぶ弱ってた時期があって、警戒したくらいだな。すぐ元に戻ったぜ」

「そりゃよかったよ」


見張りの建物から出てきた衛兵のような人と、バートは話し込んでいたが、すぐに話は終わった。


「さ、家に帰るぞ。そこから魔石屋に報告だ」


そう言うと下りていたラグ竜にさっとまたがった。


「キーエ」


もっとも返事をしたのはラグ竜だけだったが。動き出した一行を見送っていた見張りが、突然はっとして声を上げた。


「バート、お前、その荷物はなんだ! まるで、その、子どもみたいだが?」

「ん? 途中で拾ったんだ」

「はあ? おい、詳しく」

「悪い、急ぐんでな!」


バートは少しラグ竜を急がせ、町の中に入った。町の手前でみんなラグ竜を降り、手綱を引いて歩く。手綱を引かなくてもラグ竜はついてくるのだが、町ではそれが決まりらしい。


「バート!」

「キャロ!」


のように、町のあちこちから大丈夫だったかの声がかかる。ラグ竜のかごの中に荷物のようにちんまりと収まっている私に気づくものはほとんどいなかった。


「アリスター!」


おお、アリスターも呼ばれている。さすがに同年代の声だ。そう思って私のラグ竜の手綱を引いて歩いているアリスターを見ると、ちょっとうんざりした顔をしている。


「アリスター! 返事くらいしろよ、友達に向かってまったく」


そうやって息を切らしてやってきたのは、兄さまほどではないが、アリスターより良い身なりをした濃い金髪の男の子だった。


「レイ」

「ずいぶんかかったな。一か月以上いなくてさみしかったぞ!」


そう快活に言う子供は、アリスターに会えた嬉しさに目が輝いている。


「レイだけずるいわ!」


そんな声を上げて今度は女の子も走ってきた。


レイと呼ばれた男の子よりも少し小さいだろうか。長い金髪を風に揺らして、よく似ているから兄妹なのだろう。


「まったく、遊んでばかりの奴は暇だよなあ」


そう言って、小道からぬっと顔を出してきたのはちょっと薄汚れた格好をした男の子だ。かぶった帽子から黒髪がはみ出ている。


「アリスター、後で話を聞かせろよ」

「おう」


アリスターは今度は普通に返事をした。


「僕にもな。後で家に来いよ。おやつを用意して待ってるからさ!」

「悪いけど、仕事があるからさ」


そう言ってアリスターは断ってしまった。子どもは子どもなりに人間関係があるんだなあと思ってそれを聞いていると、


「それ、何?」


と女の子が急に言い出した。


「なんだよ、エイミー」

「あのかごのところ!」

「かご?」


私はどうしたらいいだろうか。目立たないようにポンチョのフードをかぶって、まるで置物のように座っていたのだが、注目されるとは思わなかったのだ。


「じゃあな、またな」


アリスターはそう言うといかにも忙しそうに子どもたちの前からすたすたと歩き去った。置物の私は置物のままで、しかし、小道から出てきて壁に寄り掛かっていた男の子とは通りすがりにうっかり目が合ってしまった。男の子の目は驚きに見開いたが、こちらは口をつぐむだけの賢さはあったようだ。ただ視線だけがいつまでも私を追ってくるような気がした。


さすがに家までついてくる人はいなかった。バートが向かったのは、町の中心からほんの少し入ったところにある、古い一軒家だった。


キャロがまずドアを開け、すぐ家に入り、


「埃っぽいな」


と言いながら窓を開けたり、何かをしている横で、残りの皆はラグ竜から荷物を下ろしたりと楽しそうだ。私もやっと荷物のかごから降ろしてもらった。


「リア、すぐに家に入れ、あ」

「キーエ」


バートが急いで私を家に入れようとしたが、私はラグ竜に止められてしまった。


「キーエ」


そしてラグ竜は私を押してどこかに連れて行こうとする。


「まさかお前たち、リアを牧場に連れて行く気か?」

「キーエ」


当たり前だというようにラグ竜が鳴いた。バートは頭をがりがりとかいた。


「仕方ない。クライド、お前、竜を戻してくるついでにリアも連れてけ。で、アリスターは牧場に着いたら、何とかラグ竜を説得して来い。俺らは荷物の整理をして、まずはブランデルのとこに行ってこなくちゃなんねえから」

「いいぜ」


クライドは私をまたかごに収めた。


「バート、待ってくれよ。一緒に行くのはいいけど、俺ラグ竜の説得なんてできないよ」


アリスターが難しい指令に泣き言を言う。


「じゃあ聞くが、お前以外に少しでもラグ竜に話を聞いてもらえそうなやつがいるか、俺たちの中に」

「……いない」

「だろ。行ってこい。でないとリアが牧場で過ごすことになるからな」


それは嫌だ。それにしても、最近かまってこないから油断していた。ラグ竜め。

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