魔力とは
「この魔石? この大きさならあっという間だぜ」
「にゃい。しゅぐ、にゃい。ゆっくり、ほしょく、いれりゅ」
魔石に魔力を入れる訓練をしようと思ったら、アリスターはわかってくれなかった。魔力量が多い分、あまり考えずに魔力の補充をしていたのだろう。
「ほしょく、しゅくなく、ゆっくり。れんしゅう」
「さすがに今回はリアの言ってること、わかんないや」
アリスターは頭をかいた。まあ、それはそうだろう。私もそんなアリスターにどうしていいかわからず、魔石を握って途方にくれていたら、ひょいと、ミルが私の手から魔石を取っていった。
「ミル?」
アリスターがぽかんとミルを見ると、ミルは、
「アレだろ、要はさ、細く、少なく、ゆっくり魔力を入れろと言うことだろ?」
と言って魔石をぽーん、ぽーんと放り投げては受け止めた。
「ミル、リアの言ってることわかるのか?」
「ん? わかんね」
わかんないのかよ。みんなでがくりとなった。
「でもさ、アリスター、お前がやってることはなんとなくわかるんだ。リアはさ、できるからっていっぺんにやっちゃだめだって言ってるんだろ?」
「あい!」
その通りだ。
「だから、こんな小さい石にでも、少しずつやれって。な?」
「あい!」
すばらしい。
「ほら、見てろよ」
ミルは自分の手のひらをお椀のようにして、そっと小さい魔石を置いた。え?
「みりゅ、まりょく」
「んー?」
ミルの魔力が動いた。細く静かに、魔石に流れ込んでいく。魔石はゆっくりとゆっくりと紫に変わっていった。
「こうか?」
「しょれ!」
ミル、すごい。でも、魔力ないって言ってたのに。
「いや、アリスターの練習を見るまで、これが魔力だって気づいてなくてさ。はは」
笑い事じゃないよ! それを見てバートやキャロやクライドが集まってきた。
「え、お前魔力あんの?」
「初耳!」
そんな声に、
「いや、俺も知らんかったけど」
ミルは相変わらずぼんやりとそう言った。それを見て首をひねっていたバートが、ハッと気づいたように言った。
「もしかしてあれか、虚族の」
「そう、それだよ」
どれだ!
「あー、あれか」
「狩りのな」
四人だけでわかっていてずるい! 私は思わず足をドンドン踏み鳴らした。
「どした、じたばたして」
私はきっとバートをにらんだ。
「お、おう、あー、イライラして?」
それならいい。バートは私とアリスターを交互に見て、
「ほら、俺ら狩りの時、虚族の気配をいち早く感じ取れるよう、感覚を空気に開放するだろう」
アリスターははっと目を見開いた。
「はい! 空気に少しずつ自分を溶かして広げるような、糸を伸ばすような」
「しょれ!」
「それか!」
私とアリスターは声を揃えた。アリスターはよほど嬉しかったのか私を抱え上げてくるくると回った。目が回る目が回る。
「ちびが目を回してんぞ」
「……りあでしゅ」
私はふうと座り込んだ。
「いと、いとのように、ほしょく」
「わかった! あ、でも魔石が……」
「使いかけの奴片っ端から持ってくるぞ!」
アリスターの言葉に四人は走り出し、さっきのように魔石を集めてきた。結界箱まで持ってきている。
「みんな、やりゅ」
「おう」
その中で、アリスターは結界箱から魔石を取り出した。それはどうなんだろう。
「ありしゅた」
私が心配して声をかけると、
「大丈夫だって。俺はこれを使うのが一番慣れてる。要は魔石に吸われるのに負けずに、魔力を、狩りの時のあれを、糸のように細く出せってことだろ」
そう言ってにかっと笑った。
皆がそれぞれ魔石をもって魔力を注ごうとしているのを、私はハラハラしながら眺めた。注ぎすぎたら魔石を叩き落せるように、すぐ動けるように構えながら。
「おっ」
「にゃに?」
バートが声を上げたので私は振り向いた。
「石から反発が来た」
「もう、まりょく、いりゃにゃい」
「そうか。できたな」
「あい。えりゃい」
「はは、えらいか」
バートはそのまま草原に倒れこんだ。
「ん!」
「にゃに?」
今度はクライドだ。
「ん。途中で止めてみた」
見てみると、確かに魔力がだいぶ薄くなっている。
「まりょく、にゃい。あぶにゃい」
「ん。これが限界だな。気を付ける」
「あい」
クライドも倒れこんだ。
「よしっ」
「にゃに?」
今度はキャロだ。
「ちょうどいっぱいになった。多分魔力もギリギリ」
「あい。しょのくりゃいで」
「おう」
後はアリスターとミルだが、
「ん、んー」
「ありしゅた」
「大丈夫。できてる。できてる。ん。どうだ」
魔力は十分残ってる。
「あい」
「合格か」
「あーい」
アリスターもバタンと草原に倒れた。あれ、ミルは?
「みりゅ? しゅる?」
「んー?」
相変わらずぼんやりしているが、ミルは魔石をもたず、その魔力は。
「しょとに、でてる」
「うん。こんな時は、一人くらいは見張ってないとな」
私ははっとして周りを見た。そうだ、昼だからと言って、虚族が絶対出ないわけではないんだ。それなのにみんな魔力が薄くなってる。
「いいんだよ、だからパーティなんだからさあ」
ミルがのんびりと言った。
「今度は俺が見張りの番。そういうこと」
「俺もまだ大丈夫」
「俺とアリスターの番だ。だから心配すんな」
「……あい」
それでは私も一緒に見張りに立とう。魔力を内側でなく、外側に。
アリスターのそばに座り込む。
「こっち」
アリスターが足の間に私を抱え込む。外側に、そとがわに……。
「おひるねだな、ちび」
「……りあ……でしゅ」
「リア」
「……にーに」
春の日差しは暖かかった。