第7話 野生のオークは目の前が真っ暗になった
何、JOJO。突っ込み所が多すぎて突っ込みが追いつかない?
逆に考えるんだ……男なら突っ込み所が多いのは喜ばしい事だと……。
……いや、やっぱ無理か。
JOJO「Σ父さん!?」
「な、何だおまっ……ぐええ!」
「し、侵入……ぐわああああー!」
「あの村の回し者……ぎゃあー!」
「ふっ、よくぞここまで辿り着いた! 俺こそオーク四天王最強の……ぬわあああーー!」
「ま、待て、命だけは……ひぎゃあああああ!」
死々累々、と言えばいいのだろうか。
俺が歩いた後にはオークの死体が転がり、俺の行く先にも死体候補のオークが立ちはだかる。
これ幸いとばかりに様々なスキルを使って試し切りさせてもらっているのだが、これが全く試し切りにならない。
何せどのスキルを使っても相手が即死してしまうのだ。
これでは自分が使っているスキルがどの程度の威力なのかもわからない。
「ディーナ、そっちはどうだ?」
「これは……駄目ですね。外れです」
倒したオークはヒレ部分を取り出して傷がないかを確認し、傷のないヒレが出てくれば確保して袋に入れている。
それ以外に関してはディーナが片付けてくれた。
どうやら彼女、転移魔法が使えるらしく持ちきれないオークの死体全てを塔へ転送してくれているのだ。
彼女曰く『これが終わったら一度塔に戻って晒し者……もとい、干し肉にしてきます』との事。
全く、実に役立つ参謀を持てて嬉しい限りだ。
まあ干し肉にするにしても少し量が多すぎるので、大半は後で塔から戻して市場に流すらしいが、そこは彼女に任せている。
「ここが最奥だな」
扉を蹴破り、中へ押し入る。
入り口付近にいたオークが驚いて立ち上がるが、錬金した剣を脳天に突き刺して仕留め、奥で慌てて逃げようとしている色違いのオークを背中から串刺しにする。
オーク肉を落とすのは普通のオークだけだ。
よってあの色違い――オークロードに用はない。
無数の剣で全身を貫き、悲鳴を上げる間もなく絶命させた。
「これでこの巣のオークは全滅か?」
「恐らく」
ディーナの返事を聞き、俺は一息をつく。
これで依頼達成……随分多く殺してしまったが、相変わらず俺の心には何の動きもない。
まるでこれがただの日常の延長でしかないように落ち着いてしまっている。
元に戻っても――そもそも戻れるかもわからないが、このままだったらどうしようと思ってしまう。
殺しを何とも思わないとか、現代日本だと怖すぎるだけだ。
「ええと、攫われた子達は……いたいた」
ディーナがキョロキョロと辺りを見回し、牢屋を見付けた。
いや、果たしてそれは牢なのだろうか?
確かに逃げられないように牢に入れられている。それは間違いない。
しかし家具は一通り揃っているし、衣服などもちゃんと着せられ、更に宝石や花などが牢の中に入っている。
女達は皆、恐怖に引きつった顔で眠っているが、少なくとも事を成された跡はない。
それどころか、明らかに貢がれていたような跡すらある。
それもそのはずで、オークは実は女に乱暴しない(女限定で)とても優しい生き物なのである。
巷では女攫う=すぐ行為に及ぶ、というイメージがあるだろうがこの世界では違う。
彼等は女を攫う。それは間違いないが、それは実は種の繁殖という切実な理由の為だ。
彼等は一体どういう事か、何をどうやっても必ず雄しか生まれないという可哀想な生態系をしており、他種族の雌を攫うしか繁殖方法がない。
そしてその際狙われるのは人間のみだ。人間のみが人類種で唯一他種族との交配を行えるからな。
エルフ? 見向きもしませんが何か?
しかし攫って抱いて、それで終わりではない。
基本的に暴力しか知らない生まれながらの野蛮人な彼等は子育ても満足に行えないのだ。
だから攫った女には子育てまでしっかりやって貰う必要があるわけだが、ここで彼女達の不興を買って、ましてや無理矢理子供など産ませようものなら育児放棄する母親も当然出て来る。
オークとしてもそれは大いに困るのだ。
だから彼等は女達の機嫌をとにかく取ろうとする。
自分達よりいい生活をさせるし、食べ物も沢山与えるし、宝石や花だって沢山貢いでご機嫌取りに苦心する。
そして相手側の同意を得ない限り絶対に手を出さないし、全力で――それこそ命がけで守りすらする。
その理由こそ不純だが、これでこの豚集団は結構紳士なのだ。
とはいえ、攫われた側にしてみればそんなの関係ないし、豚面に貢がれたって怖いだけだ。
かわいそうだが、結局の所相容れない生き物なのである。
「よし、女達は無事だな。このまま村に帰してやろう」
「記憶も消す事が出来ますが、どうしますか?」
「それは必要か?」
「豚に誘拐された記憶なんて消すべきかと思いますが」
「ふむ。どの程度まで可能だ?」
「その気になれば偽りの人格や記憶を植え付ける事も」
「……何かサラッと怖い事を言ったな。
まあそこまでやる必要はなかろう。何もされていないようだしな」
とりあえず女達はこのままでいいだろう。怖い思いはしただろうが何もされていないわけだし。
とはいえ、一応本当に何もされていないのかのチェックだけはしておく。
勿論チェックは完全にディーナ任せだ。俺は何もしない。
今でこそ女になってしまっている俺だが、その精神は男であり、ハッキリ言って免疫がない。
もっとも、女になった事でそういう事に興味がなくなってしまったのか、女達を見てもそういうアレな感情が沸いて来ないのが元男として情けないとは思う。
……これでも、箪笥の裏にエロ本を隠すくらいには健全な男子だったはずなんだが。
「はい、わかりました。
では少々お待ち下さいね」
「うむ。なるべく早くやってくれ」
女達のチェックをディーナに任せ、俺は部屋の捜索を始める。
ここにはオークが村から奪っただろう僅かな財産や穀物などもあるはずだ。
それを可能な限り回収し、村へ返してやってもいいだろう。
ま、オークも可哀想だと思うんだがこればかりはな。
それに強奪は強奪だ。同情はするがそれで罪が軽くなるわけでもない。
*
オークの巣を出た俺は巣目掛けてアルケミストのスキルを発動した。
あの洞窟そのものに罪などないが、それでも残しておくのはあまりいい事ではない。
オークの匂いに誘われて他のオークが寄って来ないとも限らないし、そうなればまず狙われるのはあの村だ。
だからそうならないように、この洞窟は綺麗に潰しておかなければならない。
「練成、フルングニルの右腕」
俺が宣言すると同時に洞窟の上に巨大な岩の拳が出現する。
サイズにして凡そ50mを超える巨人の右拳。
アルケミストの持つ攻撃スキルの中でも物理攻撃と攻撃範囲に優れた頼りになる技だ。
それが容赦なくオークの巣に突き刺さり、文字通り叩き潰した。
轟音が響き大地が揺れ、余波だけで周囲に風が吹き荒れる。
仮に俺の目を逃れて隠れていたオークがいたとしても、これでお陀仏だろう。
「お疲れ様でした、ルファス様。
オークの巣に囚われていた子達は全員無事でしたよ」
「ああ、ご苦労」
転移魔法で戻ってきたディーナが俺の後ろに立ち、俺は彼女に労いの言葉をかける。
いや本当、彼女には頭が上がらない。
オークの処理に肉の保存、売却、そして女達の確認と全部任せてしまっている。
ゲームだったから仕方ないとはいえ、『俺』になる前のルファスは何故彼女を背景扱いしていたのだろう。
驚く程に有能じゃないか、彼女。
「ああ、そうそう。
これ、ついでに焼いてみたんですけどお食べになります?
色々動いてお腹も空いた頃だと思うんですけど」
「それは……」
ディーナがどこからか一枚の皿を出し、俺の前に見せる。
その皿の上にはいい具合に焼けたステーキが乗せられ、食欲をそそる香りを出していた。
「オークの肉を使ったステーキです。
ライスと合わせて召し上がると美味しいですよ」
「うむ、貰おう」
二の句もなく俺は同意し、切り株に腰をかける。
言われてみれば、こっちに召喚されてからまだ何も食べていない。
物凄く密度が濃かったので忘れかけていたが、まだ俺はこの世界に来て一日も経っていないのだ。
指を鳴らして木製のテーブルを作成し、その上に皿を置かせた。
「そういえば焼いても効果はあるのか?」
「大丈夫です、あくまで傷を付けてはいけないのは生きている間だけですから。
オークのヒレ部分――その中でも最も上質の肉部位は生命力を集める働きがあるらしいのですが、生きている間に損傷するとその機能が失われて他の部位にせっかく集めた生命力が分散してしまうようなんです。
けど、死んだ後なら生命力がヒレ部位に集まったままなんですって」
「何だその不思議生物」
ディーナの説明を聞きながら俺は木製のナイフとフォークを練成し、ステーキを切り分ける。
ナイフで触れた肉は驚く程に柔らかく、食べる前から期待が込み上げる。
そして一口――肉が口の中で溶けて消えるとは使い古された表現だが、なるほど、そうとしか言えない柔らかさだった。
口の中を肉の旨みが支配し、何も言葉を発せなくなる。
ステーキにかけられていた甘辛いタレがまたたまらない。肉の美味さを見事に引き立てている。
辛抱たまらなくなり米をスプーンで掬って口に入れれば、またこれが面白い程に合う。
肉の濃い味が米と合わさる事でまた違った味へと変わり、互いが互いの引き立て役となるのだ。
「このタレは自作か?」
「はい、御気に召しませんでした?」
「いや、いい仕事だ」
この肉ならばいくらでもイケる。
ステーキは牛肉派だったのだが、いやなかなかどうして、豚肉のステーキも侮れないものだ。
オークなんて見た目はかなり醜悪なのだが、これだけ美味いなら見た目の悪さなど許せそうな気さえしてくる。
「ディーナ、其方は喰わんのか?」
「いえ、私はいいんです」
「ふむ」
主人の前だから気を使っているのか、それとも単にオークを毛嫌いしすぎているだけか。
まあ本人がいいと言うのだから無理に聞き出す必要もないだろう。
誰だって嫌な事の一つや二つくらいあるものだ。
俺はオークのステーキを完食し、それから自身のステータスを確認する。
【ルファス・マファール】
レベル 1000
種族:天翼族
HP 335000→335300
SP 44300
STR(攻撃力) 9200
DEX(器用度) 8750
VIT(生命力) 10300
INT(知力) 7300
AGI(素早さ) 10778
MND(精神力) 7550
LUK(幸運) 9280
よし、ちゃんとHPが上昇している。
今回の依頼で得たオークのヒレ部位は残り4個だからHPを最低でも残り400は伸ばす事が出来るはずだ。
既に大分プレイヤーキャラ離れしている俺のHPだが、まだまだ伸ばせそうな気がする。
というかこの世界ならオークを狙うライバルもいなくて狩り放題なので上手く行けば100万越えも夢ではないかもしれない。
……いや、やっぱ無理か。いくら美味いと言ってもそんなにオーク肉ばっか食べてられない。
それに、流石にそんなに狩ったらオークが絶滅してしまいそうだ。
むしろ200年前、よく絶滅しなかったなあいつ等。
「御馳走様。
実に美味だったぞ、ディーナ」
「喜んで頂けて何よりです」
食べ終わった後にテーブルや食器を片付け、ディーナが転移する。
そして数秒してから戻ってきた時にはすっかり荷物がなくなっていた。
多分塔のどこかに置いて来たのだろう。
……いいなあ転移魔法。俺、魔法全然使えないからああいうのは素直に羨ましく思う。
「さあ、戻りましょうルファス様」
「うむ」
ディーナに言われ、俺もその場からの移動を開始する。
しかし無言での帰路というのも寂しいものだ。
道中の話のネタとして、俺はディーナに先程の記憶処理について尋ねる事にした。
「ところで先程の記憶処理の続きだがな、それを施したとして解ける事はないのか?」
「私の記憶処理の魔法は滅多な事では解けませんよ。
しかし、それでも一度刻まれた記憶というのは根強いもの……何らかの拍子に戻ってしまう事も充分あり得ます」
「なるほど。では記憶処理で仮にあの女達の記憶を消しても、何か切っ掛けがあればオークに誘拐された事を思い出すというわけか」
ディーナの説明を受けて俺は呟く。
記憶処理と言っても万能というわけではないらしい。
恐らくこれは記憶を消すのではなく、奥底に封じるだけだ。
だから何かの拍子に取り戻してしまえば、アッサリ元に戻ってしまう事もありえる、と。
「便利だが使いにくい魔法だな」
「そうなんですよ」
ディーナは困ったように笑う。
記憶処理か……事後処理や証拠隠滅には使えそうな魔法だな。
そのうち、どこかで頼る場面があるかもしれん。
そんな事を話しながら俺達二人は気絶している女達を抱えて村へと帰還した。
まあ抱えて、とは言っても相変わらず俺は腕を動かせないので念力で浮かせながらの移動だが。
「おお、戻られましたか!
それにその娘達は! 無事だったのですな!」
村に着くと村長が嬉しそうに駆け寄ってくるのが見えた。
俺は彼の前に女達を置いてやると、一歩後ろに下がる。
会話は相変わらず全部ディーナ任せだ。
「ええ。オーク達はどうやら、まだ手を出す前だったようです」
「おお、それはよかった。娘達が無事だっただけで、こんなに嬉しい事はない」
女達についての説明をし、彼女達を引き渡す。
誘拐されてから数日、結局彼女達はオーク達にひたすら貢がれていただけだ。
しかしその顔は恐怖に歪んでおり、残念ながら女のハートをキャッチ出来たオークは皆無らしい。
所詮この世は顔だ、オークよ。お前達は生まれた瞬間から絶対的ハンデを背負ってしまっている。
どんなに紳士的に接し、甲斐甲斐しく貢ごうとも、その辺で棒立ちしているイケメンには決して勝てない。
世の中はそういう不条理と理不尽に満ちている。
「では、こちらはお礼の1500エルとなります」
「ええ、確かに」
「それと……あの、先ほどから村を守るようにして立っているあのゴーレムは何なのでしょうか?
何やら素人目に見ても凄まじい力を感じるのですが」
「あれは我が主の厚意です。気にせず村の守護者としてお使い下さい」
ディーナと村長の会話を聞きながら俺は考える。
これで当面の食料と資金は得た。
少し俺自身考えるべき事も増えた気がするが、初日からあれこれ考えても仕方ない。
とりあえず今日はもう休み、明日に出発するとしよう。
今日は本当に長い一日だった。
・200年前のオークさんの図
高レベル冒険者「ヒャッハー! オークだ、殺せ!」
高レベル冒険者「お前はもう喰われている……」
オーク「ひいい、やめて、この人でなし! お前達には人の心がないのか!?」
高レベル冒険者「なァにィ? 聞こえんなァー!? 肉こそが全て! いい時代になったものだ!」
高レベル冒険者「てめえの肉は何色だー!?」
高レベル冒険者「せめて痛みを知らず安らかに喰われるがいい」
高レベル×10「何!? オークが生まれる!?
ヒャッハー! 早い者勝ちだ!」ゾロゾロゾロ……
オーク「お前ら人間じゃねえッ!!」
追記:クラスレベルの合計限界値はレベルと同じです。
つまりレベル200のキャラはクラスレベル合計も200までしか伸ばせません。
ルファスの場合は合計値1000が限界なので、ここで打ち止めです。