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番外編:ルーの主張4

 

 まさか……まさか、あたしがお留守番なんて……。

 ルバートのばかー!!


 遠ざかって行く馬車を王宮の窓から見ながら鳴いたのはずいぶん前。

 その時に鳥たちには余計なことを言うから置いていかれるんだって笑われたんだよね。

 ルバートはちゃんとローズを離宮に連れていくつもりで準備してたのにって。それでずっと忙しくしてたんだって。だからあたしのアドバイスはお節介なだけだったって。

 でもそんなこと知らなかったんだもの。仕方ないじゃない。

 だいたいルバートは言葉が足りないんだよ。


 最初はぷんぷん怒ってたあたしだけど、ちょっと冷静になったらルバートがそんな意地悪なことするわけないって気付いたもんね。

 鳥たちにすっかり騙されちゃったけど、あたしは離宮までの馬車の旅に向いてないから、お留守番なんだよ。

 それに同じお留守番のエリオットの相手をしてあげないといけないし。

 エリオットはルバートがいなくて忙しいから、温室には来なくなっちゃった。

 だからあたしが部屋に会いに行くの。

 エリオットには仕事する部屋とは別に、生活する部屋があって、そこで夜に一緒に寝るんだ。

 これもまた幸せ。


 そして、そして、もうすぐローズとルバートが帰ってくるんだよね!

 王宮中がそわそわして楽しみに待ってる。うんうん、わかるよ。

 でもあたしは大人しく待ってるの。だって、別にお留守番でも平気だし。エリオットの相手で忙しかったし。それに鳥たちから二人の噂はいっぱい聞いてたし。

 ローズはルバートといっぱい一緒に過ごして、とっても元気になったんだって。


 ああ、早く帰ってこないかなあ。まだかなあ。

 窓際で行ったり来たりしてたら、鳥たちにまた笑われちゃった。

 ふんだ。自分たちだって楽しみなくせに。………あ、馬車が見えた!


 ローズたちを迎えに行こうと廊下を走って、ふと立ち止まる。

 急いで迎えたら、ずっと待ってたって思われるかな? 寂しかったって気付かれちゃう?

 やっぱり部屋に戻ろう。

 せっかくローズは楽しんで帰って来たのに、あたしが寂しがってたって知られちゃったら、ローズは優しいから悲しんじゃうかも。

 あたしは別に待ってなんかなかったのよ。居心地のいい部屋でのんびり過ごしてたの。

 ゆったりクッションに横になってしっぽを揺らす。


 嬉しそうな王宮の人間たちの声が聞こえて、たくさんの足音が近づいてきて、ついに扉が開いた。

 マリタがまず入って来て、それから……ローズ!


『おかえり! ローズ、ローズ、会いたかったよー!!』


 部屋にいた迎えの人間たちの間を抜けて、ローズに飛びついた。

 ああ、この匂い! 大好き! ローズ、好き好き!


「ただいま、ルー。こんなに歓迎してくれるなんて嬉しいわ。でもひょっとして、寂しい思いをさせてた? ごめんなさいね」

『ち、ちがう、ちがう! あたし別に寂しくなかったし、平気だったし! ただ、ローズが元気そうになって嬉しいだけ!』


 いけない、いけない。ローズに心配かけちゃいけないんだ。

 そそくさとローズから離れて、またクッションに横になる。

 ローズは後から入って来たルバートに助けられて、立ち上がった。

 ゆっくりした動きにどうしたのか見たら、ローズのお腹がすごく大きくなっててビックリ。


『ロ、ローズ! 大丈夫なの? もうすぐ生まれるの? 痛くはないの?』


 おろおろとローズの周りをくるくるしてたら、ルバートがあたしを見て笑ってた。

 何よ、失礼ね。ふんだ。もうルバートにはすりすりしてあげない。

 ぷいってそっぽを向いたら、ルバートはローズをソファに座らせてから、あたしのとこにやって来た。


「ルー、留守番している間はとても良い子だったそうだな。えらいぞ」


 そ、そんな言葉に誤魔化されないんだから。あたしは大人なんだから当たり前だよ。

 でも……でも……撫でて! 撫でて! 抱っこして!

 にゃおんと鳴いて飛びついたら、ルバートは抱っこして撫でてくれた。

 ああ、気持ちいい。ローズも優しく笑ってて、とっても幸せ。

 あたしのアドバイスのお陰だよね? これからはもっともっとみんな幸せになるんだ。

 そう思ってたのに……。



 どうしてこんなことになったの?

 お願い、神様。どうかローズを助けて!

 ローズはいっぱい頑張って、元気な赤ちゃんを生んだのに、どうして?

 どうしてローズばっかり苦しめるの?

 お願い、神様。ローズの代わりにあたしを苦しめて下さい。あたしが死んだっていいから、ローズを元気にして下さい!


 いっぱいいっぱいお祈りしてみたけど、寝床代わりのこの部屋じゃ、ローズがどうなってるのかわからないよ。

 元気な赤ちゃんの泣き声は聞こえるのに、ローズが危ないって聞こえただけで、あとは何もわからない。

 だけど、ここから出してって言うわけにもいかない。邪魔をしちゃダメ。

 部屋の中をうろうろしながらお願いごとしてたから、どれくらい時間がたったのかわからない。

 だけど、外の様子が騒がしくなって、窓辺に飛び乗る。

 鳥たちなら何か知ってるかも。


 窓の外を見てビックリ。

 何これ? いったいどういうこと?


『ちょっと! どうしたの? みんなこんなに集まって、いったい何があるの?』


 少し大きめに鳴いたら、近くを飛んでいたカラスが窓辺までやって来た。

 よりにもよって、何でなの!? でも逃げ出さない! ちゃんと聞くんだから!

 だってローズが大変なこの時に、くだらないことだったら、許せないもの!


『ルバート様がついに、オレたちに声をかけて下さったんだ! 〝力を貸してほしい″って!』

『ルバートが!?』

『ああ、そうだ。ローズ様が大変なことになってるのは、オレたちも知ってたから。もちろん頼まれなくても力になれるなら、なりたかったさ。でも何をすればいいかわからなかったオレたちに、ルバート様が指示を与えて下さったから、みんな精いっぱい自分にできることをしようって動いてるんだ。不謹慎なのはわかってるけど、オレは嬉しい。ルバート様がオレたちを頼ってくれて。だから絶対、ローズ様が助かるように頑張るんだ!』


 そう言って、力強く飛んで行ったカラスを見送って、私は窓辺から降りた。

 あたしも、不謹慎かもしれないけど嬉しい。ローズのことはとっても心配だけど、一方ですごく興奮もしてる。

 だって、奇跡が起きたんだもの。あたしたちと会話ができる人間は奇跡。そして奇跡は奇跡を呼ぶのよ。

 ずっと前に聞いた話。モンテルオの奇跡。

 うん、絶対にローズは助かる。大丈夫に決まってる。

 お願い、神様。どうかブライトンに奇跡を起こして!


 それから次の次の日の朝早く。

 うとうとしてたあたしは、騒がしさに目が覚めた。

 ローズに何かあったの!?

 外だけじゃなく、ローズがいる部屋の方も騒がしくて、すごく心配になっちゃう。

 窓辺に飛び乗って、大きな声で鳴いた。


『何があったの!? 誰か早く教えて! お願い!』


 すると飛んで来てくれたのは、この前と同じカラス。


『隼が薬を持って帰って来たんだよ! と言っても、ここから飛んで行った隼じゃないぜ? 行きはあいつだけで飛んだらしいが、帰りは途中で待機してた奴らが交代して飛んだんだ』

『じゃあ、じゃあ、ローズは助かる? 大丈夫だよね?』

『ああ、もちろんだ! 鳥たちの間でも有名な人間の作った、すごく効く薬らしいからな。それに今は、その人間もこっちに向かってる。オレたちが前もって伝えてるから、馬たちもすごく頑張って飛ばしてるらしいんだ』

『教えてくれて、ありがとう!』


 じゃあなと言って飛んで行くカラスを見送って、あたしは窓辺から飛び降りた。

 ああ、すごく興奮する。

 ルバートがついに鳥たちに声をかけたから、奇跡が起きたんだ。

 部屋の中をうろうろしてたら、いつの間にか夕方になってて、その時ローズのいる部屋から嬉しそうな声がいくつも聞こえた。

 それからすぐに、外で鳥たちも嬉しそうに鳴いた。

 良かった! ローズはもう大丈夫なんだ! 嬉しい!


 神様、ありがとう! ローズを助けてくれて。

 だから、あたしはみんなからすっかり忘れられているようだけど、我慢するよ。

 神様、本当にありがとう!




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