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番外編:ルーの主張3

 

 ローズとルバートが結婚してから何回かの夜が来て朝が来て、今はお昼過ぎ。

 あたしは部屋から抜け出して、とぼとぼ廊下を歩いてた。

 今では、あたしは〝おうひさまのねこさま″って呼ばれて、みんな自由にさせてくれる。

 だからって、悪いことはしないの。美味しそうな匂いがしても調理場には行かないし、高い所に登って物を落としたりもしない。

 ローズが困るとあたしもつらいから。

 だから、だから、どんなに悲しくても我慢するの。ローズと一緒に眠れなくても、我慢するの!

 だって、ローズは幸せだから。もう夜に一人で泣いたりしていないから。そうだよね?

 最近のローズは前よりもずっと綺麗だもの。

 あたしはローズの幸せのために身を引くの。

 一緒に眠れないのは、すごくすごく悲しいけどね。ああ、悲しい。


 にゃあ、とため息を吐いて、最近のお気に入りの場所に向かう。

 風を通すために開いた窓からするりと入ると、先客発見。

 ここはあったかくてお昼寝に最適の場所なんだけど、邪魔しちゃ悪いから今日はやめとこう。


「やあ、ルー。君もお昼寝に来たの?」

『……そうよ。ローズは〝おうひさま″の仕事が忙しいから、退屈なの』


 見つかっちゃったから、遠慮なくエリオットのそばに近寄る。

 撫でて! 撫でて!

 あたしはエリオットが大好きだよ。だから、ここで一人で悲しまないで。

 温室の中にある長椅子に座ってくつろいでたエリオットは、さっきまでどこかつらそうな顔をしてた。でも今は笑ってる。

 あたしの前では無理しなくていいんだよ。たまにここでぼんやりしてるのは、レイチェルのことが忘れられないから?

 ああ、あたしが人間だったら、エリオットに好き好き攻撃をして、元気になってもらえるのに。

 そうだ、別に今でも好き好き攻撃はできるね。


 撫でてくれるエリオットの大きな手の中からするりと抜け出て、よいしょと背伸び。

 あたしはエリオットが大好きだよ! すっごく好きだよ!

 エリオットのほっぺたをぺろぺろ舐めたら、エリオットは笑ってくれた。


「こら、ルー。くすぐったいだろ」


 あたしがこれをすると、ローズは必ず笑ってくれる。ルバートも笑ってくれる。

 だからあたしにとって特別な好き好き攻撃は、特別な人間にしかしないの。

 大丈夫。エリオットにももうすぐあたしみたいな可愛い子が現れるよ。


「ありがとう、ルー。さて、そろそろ戻らないと。陛下に怒られるからね」


 いつもの明るい笑顔になって、エリオットは最後にもう一回あたしを撫でてから温室から出ていった。

 どうにか元気になってくれたみたい。うん。良かった。

 エリオットを見送って、まだぬくもりの残る長椅子の上で丸くなる。

 うーん。ローズも大好きなルバートと結婚したのに、時々悲しそうな顔をするし、恋ってむずかしいなあ。

 でもルバートがいけないんだよね。ローズのことが好きなのに、自分を抑えてる感じ。

 やっぱり人間ってめんどくさい。

 今度はやれやれとため息を吐いて、大あくび。まあ、きっとみんなが幸せになれる日がくるよ。


 そう呑気に考えて、お昼寝をした時からどれくらい時間がたったかよくわからない。

 また何回も夜が来て、朝が来て、お外はだんだん寒くなってきて、鳥たちが言うにはもうすぐ〝ふゆ″が来るんだって。

 温室が恋しくなってきたけど、あたしはできるだけローズの部屋からは出ないようしてる。

 だって、ずっとローズの調子が悪いから。

 お腹に赤ちゃんがいて、それで気分が悪いらしいの。

 だからローズがあたしを必要な時にはそばにいてあげたい。


 こんなにローズがつらい思いをしてるのに、王宮のみんなは良かった良かったって言ってて、ちょっと嫌な感じ。

 でも、ローズが一番喜んでるんだよね。だからあたしも嬉しい。

 それなのに、なぜだかルバートは時々むずかしい顔をしてる。喜んでるのに嬉しくないの? 変なの。もっと喜んで、今こそローズに好きだよって伝えるべきなのに!

 そうしたらきっと、ローズも元気になるよ。

 ホント、ルバートって女心がわかってないんだから。

 ちょっとあたしが言ってあげなきゃ。


 ローズがお昼寝するために寝室に行っちゃったのを見届けて、あたしは廊下に出る。

 うう、あたしも一緒に寝たいよ。でもあの部屋には結局一度も入れてもらえない。

 ルバートがいなくて、ローズは悲しんでるのに。

 だんだん腹が立ってきた。ぷりぷりしながら廊下を進んで、ルバートの仕事してる部屋の前に到着。


『開けて、ルバート。早く、早く!』


 怖い人間の前を通って扉をカリカリ。

 すると、あの伝言をいつも伝えにくる人間が中から扉を開けてくれた。

 うん、ご苦労さま。ちょっと席を外してくれないかな?


「ロビン、この書類をエリオットへ届けてきてくれ」


 気が利いたルバートの言葉で、あの人間……ロビンっていうらしい人間が出ていくと、あたしはルバートの机の上に飛び乗った。

 行儀が悪いのはもちろん知ってる。でも、きっちり言わせてもらうから。


『ルバート! 今のままじゃローズがかわいそうよ! あんなに苦しんでるのに。仕事なんて誰かに任せて、もっとローズと一緒にいてあげて!』


 ホントはもっと言いたいけど、気持ちは勝手に伝えられない。ああ、もどかしい。

 ルバートは黙ったまま、机の上の紙を見てるけど、あたしの言葉はわかってるはず。

 もう、頑固なんだから!


『ルバートはちっとも女心がわかってない! ローズと赤ちゃんが大切なら、ちゃんと態度で示さないと!』


 しっぽでぺしぺし机の上を叩いたら、紙が何枚か落ちちゃった。

 悪いことはしないつもりだったのに。……まあ、いいや。

 女心のわからないルバートには、あたしのアドバイスが必要ね。


『えっと……そうね、ローズはなかなかご飯を食べられなかったけど、最近はどうにか食べられるようになったから、美味しいものをあげればいいと思うの。それに寒くなって来たから、あったかい所に行くのはどうかな? そこでのんびりお昼寝できたら幸せよね』


 鳥たちの中には、寒くなる前にってあったかい土地に移った子たちがいるんだよね。

 いいなあ。今はぬくぬく過ごしてるのかな?

 うっとりしてたらロビンが帰って来た。

 仕方ないな。今日はこれくらいにしといてあげる。


『じゃあね、ルバート!』


 にゃあと挨拶して、ロビンの開けた扉をするりと抜け出る。

 ローズの部屋に帰る前に、ちょっとだけ寄り道。

 さっきロビンの話し声が聞こえたんだよね。エリオットは部屋にいなかったって。

 外からこっそり覗いたら、やっぱりいた。

 そーっと、そーっと近づくと、エリオットは目をつぶったまま。寝てるのかな?

 眉間にしわが寄ってるよ? 長椅子じゃきゅうくつそうだね。

 でも、そのきゅうくつさがたまらない。

 少しだけの隙間目指して長椅子に飛び乗ると、エリオットはっと目を開けた。

 ご、ごめんなさい。

 申し訳なさでいっぱいになったけど、エリオットはあたしを見るとまた目を閉じちゃった。

 うん、邪魔じゃないってことかな?

 そう解釈してエリオットにぴったりくっついて丸くなったら、あっという間に夢の中。

 ああ、あったかいなあ。




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