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番外編:ルーの主張2


『まあ、可愛い!』

『うん、知ってる! でも、ありがとう!』

『どういたしまして』


 優しく抱っこして撫でてくれるレイチェルの腕の中は、とっても気持ちいい。

 そばにいるだけでも何だか心地よくて、みんなが楽しみにしてたのも納得。

 それにこの小さな人間も、可愛くて好きだな。


「私はジュリエッタよ。よろしくね、ルー」

『こちらこそ、よろしくね。ジュリエッタ』


 にゃあと鳴いて撫でてくれるジュリエッタの手に頭をこすりつける。

 それからローズとレイチェルたちは話し始めたから、あたしはジュリエッタの相手をしてあげるの。


「ルーはどうして、ルーって名前になったの? 私の名前はお父さまのおばあさまから頂いたのよ」

『綺麗な名前ね、すてきだと思う。あたしの名前はね、ル……ルートヴィヒのルー。ローズのおじいさんからもらったの』


 本当はルバートのルーってことは内緒。

 ローズはずっとエスクームに帰るつもりだったから、あたしに大好きなルバートの名前をつけたんだよね。

 でも二人は結婚することになったから、これからもここで一緒に暮らせるの。すごく幸せよね。


『あたしは女の子なんだからって、はじめはどうかと思ったけど、今は気に入ってるからいいんだ』

「そうね。すごくかわいいもの」


 ジュリエッタは楽しくてとっても良い子。それに〝おうじ″のシルヴァンも、あたしたちとは話せないけど、見てて飽きないのよね。まるでルバートが小さくなったみたいでおもしろいの。

 ジュリエッタはお父さんのフェリクス似ね。

 モンテルオって国の〝おうさま″をしてるフェリクスは、見てると何でかいたずらしたくなっちゃう。

 フェリクスはカタブツで冗談が通じないって、エリオットがぼやいてたけどそのせいかな?

 そう言えばエリオットは最近元気がない。どうしたのかな? 笑ってるのに、無理してるみたい。


『それは仕方ないわよ。エリオット様はレイチェル様のことが好きなんだもの』

『ええ!? いつから!?』

『さあ、私が生まれる前からだし……。聞いた話によると、ずっと小さい時からだそうよ』


 みんなが部屋に帰ってから、窓際で鳥たちから聞いた衝撃の事実。

 そんな、エリオットがレイチェルのことを好きなんて……。

 でもレイチェルはフェリクスのことが好きなんだよね? ジュリエッタやシルヴァンもいて、すごく幸せそうだもの。


『……レイチェルはエリオットの気持ちを知らないのかな? そんなの悲しいなあ。みんなも何で教えなかったの?』

『そりゃ、気持ちっていうのは、自分で伝えなきゃダメだからよ。私たちが勝手に教えていいものじゃないの。だからね、ローズ様の気持ちも勝手にルバート様に伝えちゃダメよ』

『ええ? でも二人は結婚するんだから、両想いでしょ? 別にいいじゃない』

『……あなたはまだまだ子供ねえ』


 なんか嫌な感じ。馬鹿にしないでほしいな。まあ、大人なあたしはこれくらいで怒ったりしないんだけどね。

 だから、ルバートがまたローズに花をプレゼントした時も、何も言わなかったの。

 ローズも喜んでいたし、元気になったからね。

 でも次はちゃんと美味しい物がいいよって、アドバイスしてあげなきゃ。そうしたらローズはもっと喜ぶに決まってる。ひょっとして、あたしにも分けてくれるかもしれないし。

 それにしても……。


『ねえ、なんであなたたちは、ローズのことも大切にしてるの? あたしたちの言葉が通じないのに』


 前から疑問だったんだよね。あたしにとっては、命の恩人だし、優しく撫でてくれるし、いい匂いがするし、ご飯も美味しいから、ローズのことは一番に大好きなんだけど。

 鳥たちにとっては、あんまり関係ないんじゃないかな?

 そう思ったけど、鳥たちは訳知り顔で頷いた。何なのよ?


『確かに、ローズ様には私たちの言葉は通じないわ。だけどね、私たちのことをとても大切に思っていて下さるからよ』

『うん、それはわかる』


 あたしたちは人間が言葉を発しなくても、何となくわかるんだよね。何を考えているのか、あたしたちのことをどう思っているかって。でも、それだけ?


『それにね、これは渡り鳥たちから聞いた話なんだけどね、ローズ様は前にとっても酷い人間と結婚されてたらしいの。遊びで私たちの仲間を傷つけるような人間とね。それでローズ様は何度も仲間を庇って下さってたんですって。そのせいでローズ様が殴られることもあったそうよ』

『ええ!? 酷い!! なんなの、それ!?』


 なんて酷い話。ローズが前にも結婚してたのにもビックリだけど、そんな人間が〝おっと″だったなんて。許せないよ!


『その人間はどこにいるの? あたしがこの鋭い爪で引っかいてやるわ!』

『それは無理ね』

『どうしてよ!?』

『だって、幸いなことにもう死んでいるもの。仲間たちが復讐してやったのよ』

『あら、フェリクス様がやっつけたって聞いたわよ?』

『そうだったかしら? ま、とにかくもう死んだの。それでローズ様はあの結婚から解放されたのよ』


 そっか。フェリクスがやっつけたなんて、ちょっと見直したよ。今度会ったらすりすりしてあげよう。

 ほっとして毛づくろいを始めたけど、鳥たちの話はまだ続いた。


『でも、ローズ様はそれからも苦労なされたから』

『そうよねえ』

『え、何? まだ何かあるの?』


 あんなに優しいローズがまだ苦労したなんて信じられない。

 窓越しの鳥たちの話をもっと聞きたくて、耳をぴんと立てる。


『ローズ様の意地悪な叔父さんがね、マリタたちを殺そうとしたの』

『何それ!? 酷過ぎる!!』

『本当にね。それをローズ様は懸命に嘆願なされて、マリタたちを助けたのよ』

『オウセキへのフクセキを認めないって条件でね』

『北の古いお城に移住するって条件もね』

『そうそう、すごく荒れた土地だったそうよ。そこで女子供だけで暮らしていかなければならなかったんだから、どれほど大変だったか……』

『それにキラキラの宝石を手放されたんだよ。ローズ様のお母君が輿入れの時に着けていらした宝石。唯一の形見の品だったのに。ああ、キラキラ宝石。オレもほしい』


 鳥たちの話を信じられない思いで聞いていたあたしは、突然割り込んできた黒い影に驚いて飛び上がった。

 びゃあっと鳴いて、一目散に窓際から逃げ出し、一番遠くの本棚の陰に隠れる。

 カラスは嫌いなの! 突っつくから嫌い!

 隠れてるうちに眠くなってひと眠り。

 目が覚めたら、みんながあたしのことを探してた。

 また部屋から抜け出したと思ったみたい。ごめんね、心配かけて。


 それからしばらくして、大好きなローズとルバートの結婚式。

 これで二人は夫婦になったんだってね。

 ローズはルバートの隣の部屋に引っ越し。これで毎日会えるね。よかったな。

 一緒に引越ししたあたしは幸せいっぱいだった。

 だからまさか、あんな悲しいことになるなんて思ってもなかったの。




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