妹の幸せを見守りたい
注意食事中に読むと危険な話が前半あります
「お兄さま。わたくし結婚したい方が出来ましたの」
いきなり可愛い妹からそんなことを言われたシスコン兄の気持ちを答えろ。(配点10点)
「結婚……? へぇ~~どこの馬……違った。どこの誰なんだ?」
馬の骨と言いかけた言葉を止めて確認する。
公爵令嬢の妹の結婚相手。王子との婚約フラグは叩き折ったのでそれ以外だと思う……いや、そう思わせておいて王家から打診があったかもしれない。
俺(公爵家子息)には前世の記憶がある。タイトルこそ忘れたが、前世の姉に無理やり隠しルートを出せないからと命令されて乙女ゲームをやらされた記憶が、まあ、まさかさ、そのゲームをクリアした次の日にバイト先のコンビニで強盗に襲われて死ぬなんて思わなかった……。
で、公爵子息に転生してラッキーとか思ったんだよね。最初は中世ヨーロッパだと思ったからその時代の治安の悪さとか衛生面の酷さは知っていたし……、某音楽家の曲で当時の憧れの宮殿の衛生管理の酷さを知ってショックを受けたし。
だもんで、貴族令息ならまだまともな生活が出来るだろうとホッとしたけど、しばらくして、その手の病気の原因が衛生観念だったのを知っていたから警戒をしていたら違和感を感じ始めたのだ。
時代劇を見て育ったから貴族の馬車が通る時に病人を背負った庶民が走っていくのを馬車が親切に停まってくれるのを見て、ヨーロッパもそんな文化あったのかと驚かされた。
それを皮切りに衛生面も気を付けているのが判明し、何よりも香水とかが……うん。最初はその手の臭いを誤魔化すためだったというのを聞いていたからそんなこともなく、お風呂の設備も充実していたのだ。
……大衆向けの風呂では最初に身体を洗うことも徹底されていた。
そこでようやくこの世界はヨーロッパに似た別の世界だと判明して、妹が乙女ゲームの悪役令嬢だと判明したわけだ。
そんなことで違うのを発覚するのもどうかなと内心落ち込んでしまったが。
「で、システィーア。結婚したい人とは」
我が可愛い妹は王子ルートの悪役令嬢だ。このシナリオでは婿入りするはずの王子がヒロインに誑かされて、恋人関係になる。それを再三注意するが王子もヒロインも聞く耳もたず、最終的に王子は婿入りするが、愛人にヒロインを連れて来て、その半年後妻であった悪役令嬢は謎の病で亡くなる。
実質御家乗っ取りだろう。
それでめでたしめでたしになる展開がおかしいだろうと制作者に突っ込みたくなった。
と、言うかあのゲームでは………。
「執事見習のアルフォード」
システィーアの言葉を聞いて思わず感情的に叫びそうになったのを一瞬耐えた。
「アルフォード。だと……」
あくまで一瞬だった。
「はい。我が家は公爵家ですからもっと身分で釣り合いの取れるものをと思いましたが、我が家を脅威に思っている輩が暗殺者を送りこんでいる現状わたくしの夫になる人が御家乗っ取りを企んでお兄様を亡き者にしようと行動に移すかもしれません」
「それ前提で送られたのがアルフォードなんだがっ!!」
事実である。おそらくゲーム時空ではアルフォードに殺されていたが、システィーアが悪役令嬢だと気付いた時点でそれを回避しようと死に物狂いで身体を鍛えた。
どうやら、ヒロインのライバルとして立ち塞がる悪役令嬢の兄というポジションは死ぬはずの設定でも能力値は高かったようで……鍛えれば強くなった。
それでも勝てなかったのは寝込みを襲われたのと鍛えていなかったという前提条件で、アルフォードも攻略対象だったからだ。
(アルフォードルートは不快でしかなかったんだよな)
悪役令嬢の兄を暗殺して、ヒロインと接しているうちに罪悪感を抱いて、懺悔するかのように罪をヒロインに告げると、ヒロインは、
『謝れば許してくれるわ。一緒に謝りに行きましょう』
それでENDだった。
いや、許さないだろう。悪役令嬢であったシスティーアは死んだ兄の分も努力をして、その所為で心身追い詰められていたのにその元凶が謝ってきて許せるだろうか。
なのにそんなアルフォードと結婚……。
「襲ってきたアルフォードを返り討ちにして、すっかり従順な犬に調教してしまったお兄様が言うセリフですか」
いや、前世のアルフォードルートが苛ついたので実際であってその分のフラストレーションで色々やらかしたけど、そこを突かれると………。
「我が家の事情を考えて、毒になりそうな輩を排除したい。その意味ではアルフォードは都合のいい相手でしょう」
「そこは好きになったから結婚したいと言ってほしかったな~」
恋愛的意味なら百歩……いや、千歩譲って結婚を許したけど。
グダグダ言ってきそうな父たちも抑えるけど。
「大丈夫です。恋愛感情かと言われれば微妙ですが、好意を抱いている相手じゃなきゃ結婚相手に選ばないから」
「…………アルフォード。お前の意見は」
実はずっと傍で控えていたアルフォードに尋ねると、
「ライムライトさまの傍でお仕えできるなら何でもします」
恭しく頭を下げられて調教し過ぎたと頭を抱える。
取り合えず、両者の意見が一致しているのなら。
「幸せになるんだぞ…………」
としか言えない。
(まあ、これで破滅ルートを潰せたならいいか)
そう言い聞かせるしかできなかった。
シスコンとブラコンで両思い
兄妹箱推しもと暗殺者