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剣の捜索と選定の儀式 2

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「今日はどこを探したの?」

「一階の、ここから、ここまでの部屋です。……陛下が洗濯室に入るわけないと思うのですけど、ユージーナ様がいうには、陛下は本当にあちこち歩き回るらしくて、先入観は捨てて調べた方がいいとのことでした」

「ああ、エドワール殿下もそんなことを言っていたな。面白いよね、ウィルソン陛下って。僕は父上よりもよっぽど親しみが持てるけどなあ」

「そんなことを言ったら、ジュール陛下が怒りますよ?」


 次の日の夜、オリヴィアはサイラスの部屋で城の見取り図と睨めっこをしていた。サイラスの部屋は人払いをされていて、護衛官のコリンまで追い出されている。


 この見取り図は、探索に必要だろうと、エドワールが用意してくれたものだ。

 サイラスはエドワールのチームが調べた場所と、オリヴィアたちが行った場所に、×をつけていく。


「それにしても、選定の剣を置き忘れたなんて……掃除のメイドが気づきそうなものでしょうけどね」

「メイドが入らない場所に置き忘れたとか?」

「それはもう、置き忘れたというより、どこかに落としたと言った方がいいかもしれませんね」


 落としたにしても、例えば棚の隙間や、ベッドの下など、掃除のメイドが気づかない場所でない限り、すでに誰かが見つけていてもおかしくないのだ。メイドが部屋で見つけたものをそのまま懐に入れるとは考えにくいが、まったくないわけでもない。もちろんエドワールたちもその線は考えているだろうが、そうだとしても、国王が大々的に「選定の儀式」の開始を唱えたので、思い当たるものがいれば、急いで元あった場所に戻すだろう。国宝の剣を盗んだとあれば即刻処刑は免れない。下手を知れば一家郎党すべて処刑の対象に上がるはずだ。そんなことにも気づかないメイドはいないだろう。


「まあ、これからは、見つけても触らないだろうけどね。なんて言ったって儀式だから」


 サイラスがペンを置いて、地図を折りたたむと、立ち上がって棚の引き出しの中に納めた。部屋には掃除のメイドも出入りするから、こういうものは目につかないところに隠しておいた方がいい。

 戻ってきたサイラスは、先ほどまでいた対面のソファではなくオリヴィアの隣に腰を下ろした。ぴたりとくっつくように座ったサイラスに、オリヴィアの心臓が小さく跳ねる。


「変なことに巻き込まれたせいで、オリヴィアとゆっくりできる時間が極端に減った気がするよ。さっさと見つけて、ゆっくりしたいよね。観光もしたいしさ。フィラルーシュは綺麗なものがたくさんあるから」


 サイラスの言う通り、フィラルーシュ国には観光名所が数多く存在する。時間がなくて今まで一度も行けていないが、海沿いにはとても綺麗な街があるのだそうだ。そのほかにも、遺跡もあるし、古い町並みがそのまま保全されているところもある。確か北の湖には湖底遺跡もあったはずだ。ゆっくり時間があるときでなければ見て回ることはできないけれど、いつか行ってみたい。

 うっとりと目を細めるオリヴィアの考えていることが読めたのか、さりげなくオリヴィアの肩を引き寄せながら、サイラスが耳元でささやいた。


「今は時間が取れないけどさ、ほら、新婚旅行でフィラルーシュに来るのもいいと思わない?」

「そうですね……へ!?」

(新婚旅行!?)


 婚約式もまだなのに、新婚旅行まで話が飛躍して、オリヴィアは耳まで赤くなる。


「あれ? オリヴィアはいや? もちろん、旅行先は国内でもいいけど、そう言うときでない限り、ゆっくり時間は取れないと思うよ?」

「い、いえ、嫌じゃないですし、もちろんフィラルーシュ国も素敵だと思いますです、きっと、はい!」

「オリヴィア、変な言い回しになってるよ」


 サイラスがぷっと吹き出した。

 サイラスはたまに、オリヴィアが照れることをわかっていて仕掛けてくる節があるが、今日も間違いなくそれだろう。小さく睨むと、彼の笑みがさらに濃くなる。


(うぅ……もちろん、そんなに先の未来でないことくらい、わかっているけど……恥ずかしい)


 オリヴィアは十七歳だ。アランとの婚約を解消していなければ、来年か再来年には結婚式を挙げていただろう。実際、そろそろ準備をという話はあった。

 だから、サイラスと婚約から結婚までの道のりがとても短いことはわかっている。おそらく、二年もない。

 サイラスとの結婚は嫌だと思っていないし、もちろん、したいとも思っている。サイラスのことは好きだ。ドキドキしてわけがわからなくなるだけで、近い距離ももちろん嬉しい。だが、心配事が一つ。


(わたしの心臓……持つかしら?)


 テイラーはよく、オリヴィアの恋愛観は幼児並みだと言うけれど、否定できない。

 アランとは婚約者同士の触れ合いと言うものがほぼ皆無だった。だからだろうか、恋人同士の触れ合いと言うのがどうにも苦手なのだ。


「オリヴィアはどこに行きたい? 僕はね、西の沿岸沿いの『女神の浮橋』に行ってみたいな」

「あ! わたくしも行きたいです!!」


 ドキドキと高鳴る心臓におろおろしていたオリヴィアは、『女神の浮橋』の一言に一転、ばっと顔をあげた。


 フィラルーシュ国の西に、大潮の時だけに現れる、陸と孤島をつなぐ白い砂浜の細い小道を、俗に『女神の浮橋』と言うらしい。

 その孤島は、グラノリア帝国時代に、今はない民族だけで構成された小さな島国だった。現在は誰もすんでいないが、孤島の中には数多くの遺跡が残されていて、絶滅してしまったと言われている文化の異なる民族の暮らしがどのようなものだったのかを知る貴重な資料だ。ぜひこの目で見てみたい。


「あの孤島へは、特別な許可がなければ船を出すことができないため、浮橋が現れているときだけが唯一渡ることのできる機会なんです。時間にしたら僅かなもので、すぐに引き返さなくてはいけないでしょうけど、急いでいけば三十分は滞在できるはずなんです。ぜひこの目で見てみたいです!」

「うん、そうだね、オリヴィアはそう言うと思っていたよ。でも僕は、浮橋のジンクスの方に興味があるかなあ」

「ジンクス?」

「そう。何でも、『女神の浮橋』を手をつないで渡り切った恋人たちは、永遠に一緒にいられるらしいよ」


 すっと顔近づけられながら言われて、オリヴィアの心臓が再びドキドキとうるさくなった。


「えっ、と……」

「僕はオリヴィアと、それこそ死んでも生まれ変わってもずっと一緒にいたいから、一緒に『女神の浮橋』を渡りたいなあ」

「ひぇっ」


 お願いだから甘い声でささやかないでほしい。


(わざとだわ、絶対、わざとだわ!)


 隙あらばオリヴィアをドキドキさせて楽しむサイラスは、絶対にわざとそんなことを言い出したのだ。


「ねえ、オリヴィアは僕とずっと一緒にいたくない?」


 すすーっと距離をつめられて、気がつけばサイラスの腕の中に閉じ込められている。

 逃がさないとばかりに両腕がオリヴィアの背中に回っていて、オリヴィアは目を白黒させながらサイラスを見上げた。


 これは答えても答えなくても、ドキドキする展開に持っていかれる気がする。

 どうしようどうしようと、オリヴィアがぎゅうっと目を閉じたその時だった。


「殿下、まだですか? まさかいかがわしいことをしているんじゃないでしょうね? 度を越したら駄目ですからね。アトワール公爵に殺されますよ」


 部屋から追い出されたコリンが、無遠慮に大きく扉を叩きながら、声をかけてきた。

 サイラスが「……コリンはたまに無粋だよね」と顔をしかめて、仕方が無さそうにオリヴィアを解放してくれる。

 立ち上がって扉を開けに行ったサイラスに、オリヴィアはほーっと息を吐いて、まだうるさい心臓の上を押さえる。


(永遠……。サイラス殿下はわたしとずっと一緒にいたいと、思ってくれているのね……)


 すごくすごくドキドキしたけれど、サイラスのその気持ちが嬉しくて、オリヴィアはふにゃりと頬を緩めた。




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