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 フロレンシア姫の部屋はまるでバニラのような甘ったるい香りがした。

 広い部屋の中には、コリンの言った通り、争ったような痕跡はどこにもない。

 続きのバスルームもバルコニーにもおかしなところはどこにもなく、ベッドの乱れもまったくと言っていいほどに存在しなかった。だが逆にそれが、オリヴィアの中に大きな違和感を落とす。


(……体調が悪くてずっと寝ていたはずなのに、どうしてこんなにベッドが綺麗なのかしら?)


 誰かがずっと眠っていたなら、シーツが乱れているのが普通だ。ベッドメイクを終えた後のように綺麗というわけではないが、それにしても整いすぎている。それに、ベッドの足元にだけが、何か重たいものをおいたように、他よりも皺だらけになっていた。


「それにしても妙に甘い香りがするな。気分が悪くなりそうだ」


 アランがそう言って、バルコニーに続く窓を開けようとする。


(甘い香り……、廊下でも同じ香りがしたけど)


 オリヴィアは急にこの甘ったるい香りが気になった。香りはどうやら、ベッドサイトの棚の上におかれた香壺から漂っているようだ。香は燃え尽きていて、香壺には香りの残滓が残っているだけだが、鼻を近づけると、香りが甘すぎるせいか、少しだけ頭がくらりとする。


(フロレンシア姫が炊いていた香かしら? 甘すぎてわたしは好きじゃないけど、フロレンシア姫はこういう香りが好きなのかしら? でも、体調が悪い時にこんな香りをかいだら、余計体調が悪くなりそ……ん?)


 オリヴィアは香壺の蓋を開けて、中の燃えかすを覗き込む。中の燃えかすは、香木ではなく、乾いた葉を燃やしたような細かな灰だった。

 オリヴィアはハッと顔を上げて、フロレンシア姫の部屋から飛び出した。


「オリヴィア?」


 サイラスとアランが慌てたように出ていったオリヴィアに驚いて、あとをついてくる。

 オリヴィアは自分の部屋に駆けこむと、ベッドの枕元に置いていた読みかけの本を手に取って、急いでページをめくった。最近読んでいた香について書かれた本である。


 オリヴィアを追って部屋に入ってきたサイラスとアランが、彼女の手元の本を見て首をひねる。


「突然どうしたんだ?」

「何かわかったの?」

「はい。もしかしたらですけど……、あった」


 オリヴィアは目当てのページを見つけると手を止めて、アランとサイラスも見えるように、サイドテーブルの上におく。


「フロレンシア姫の部屋でした香りですけど、これではないでしょうか?」


 オリヴィアが開いたページを覗き込んだサイラスとアランは、ぐっと眉を寄せた。


 オリヴィアが開いたページに書かれていた香は、カルツォル国に存在するという呪術師がまじないをするときに使う香だ。アールワームという名前で、香りを嗅いだものの意識を混濁させる強い睡眠作用のある香である。香壺に鼻を近づけた時にくらりと眩暈を覚えたのも、アランが気分が悪くなると言ったのもそのせいだったのだろう。香はすでに燃え尽きていて、香りもさほど残っていないのにそれだけの反応が出たのならば、締め切った部屋で香を焚いていたらどうなったか。考えなくてもわかる。


「つまり、護衛官と侍女はこの香りのせいで倒れたのか?」

「そうだと思います。香壺に残った燃えかすを調べることはできますか? あの香がアールワームと一致すれば間違いないはずです」

「わかった。すぐに調べさせよう。この本を借りていっていいか?」


 アランはオリヴィアから本を受け取ると、急いで部屋から出て行った。


「よくわかったね、オリヴィア」

「たまたまお香について調べていたので……。でも、あのお香がアールワームだったら、不可解な点がいくつか残ります」


 香が炊かれたということは、誰かがその香を入手して炊いたということになる。香は勝手に香壺に入って勝手に燃えたりしないからだ。ならば、いったい誰が何の目的で香を手に入れて火を入れたのか。


(……この手のお香は、お香を取り扱っている普通のお店では売られてない。つまり、アールワームの香が何なのかを知っていて、わざわざ手に入れたということになるわ)


 部屋の中に不審な点はない。争った形跡もない。むしろ不自然なほどにきれいで、鍵を壊した後もない。


(お香は密閉した部屋の中でないと効果が薄れる。倒れるほどの効果が出ていたのならば、お香が炊かれたときは部屋は閉め切られていたはず。そして、部屋の鍵は開いていて、不審な人物を見た人はいない。これではまるで……)


 いなくなったのは、フロレンシア姫とレギオンのただ二人。たどり着いた可能性に、オリヴィアはきゅっと唇をかむ。

 オリヴィアが思いついたのだ。アランもサイラスもじきにその可能性に気がつくだろう。


(……レギオンがフロレンシア姫を攫った、ということかしら)


 そう考えるのが一番しっくりくる。だが、理由がわからない。フロレンシア姫はレギオンをとても信頼していたようだったし、レギオンも姫を大切にしているように見えた。レギオンがフロレンシア姫を傷つけるとは思えない。


(決めつけたらだめよね。……もう少し、調べなきゃわからないわ)


 だが、悠長なことはやっていられない。もし悪意を持ってレギオンがフロレンシア姫を攫ったのであれば、時間がたてばたつほど状況が悪くなるだろう。

 オリヴィアがもう一度フロレンシア姫の部屋の中を確認しようと立ち上がった時、フロレンシア姫の侍女と護衛官が目を覚ましたと知らせが入った。


お読みいただきありがとうございます!


~~~~~~

【殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です】

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どうぞ、よろしくお願いいたします(*^^*)

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