91:王女殿下の出産パーティー
昨日は色々あったけれど、私とナゼル様はいよいよ王女殿下の出産祝パーティーに参加することとなった。
生まれたのは男児だと聞いているが、子供の誕生パーティーでないところがミーア殿下らしいといえばらしい。
(主役はあくまで王女殿下なのね)
会場は婚約破棄の時と同様、城の中心にある大広間だ。
部屋の手前まで移動すると、第二王子レオナルド殿下と第一王子妃ラトリーチェ様が立っていた。
第一王子ベルトラン殿下は病気だという設定のため、今はまだ出てこない。
二人は私たちを待っていたようで、見るなり声を掛けてくる。
「準備は万端だな、ナゼルバート」
「ええ、もちろんです殿下。スートレナ領とエバンテール領の件では、全ての証拠を揃えております」
「アニエス夫人、不快な思いをするかもしれないが、少しの間だけ茶番に付き合ってもらおう」
「大丈夫ですよ、わかっていますから。私も演技をします」
「いや……君は普通にしていてくれていい。以前とは違う姿を見せるだけで、会場は勝手に騒ぎになるだろうから」
(お芝居に参加したかったのだけれど、それなら黙っていようかな)
ナゼル様が私を行かせたくないというように、じっと見つめてくる。今日で二十回目だ。
「アニエス……」
「大丈夫ですよ。なにかあれば、魔法で会場の皆さんを守ります」
私の身体強化の魔法で、万が一追い詰められた王女殿下やロビン様が暴れても、他の参加者に害が及ばないようにできる。
(魔法を使わずに済むのが一番だけど)
私たちは四人で一緒に会場に足を踏み入れた。
ナゼル様が右手をぎゅっと握ってくれる。
(大丈夫、独りじゃない)
婚約破棄の際はアウェイだったけれど、今は城の中にも味方が大勢いるのだから。
四人で登場する私たちに気づいた参加者から、ちらちらと視線が向けられる。
あからさまなものではないが、そわそわと興味を持たれているのがわかった。
「第二王子のレオナルド殿下に、第一王子妃のラトリーチェ様だわ」
「ラトリーチェ様も苦労しますわよね。第一王子殿下が病気で寝たきりでは……」
「普段は粛々と夫の看病をしているなんて、慎ましやかで優しい方だ」
今日のラトリーチェ様は完璧な猫を被っていた。
王女殿下とロビン様は遅れての登場となるようだ。
「それにしても、ナゼルバート様の隣にいるのは誰かしら」
「愛人では?」
静かに聞き耳を立てて周囲の様子を探る。
(また始まったわ。このパターン……)
第二王子主催のパーティーと同様に、私は噂の的になっていた。
だが、その時に芋くさ令嬢だと知った人たちもいる。
「あれは、アニエス様だ」
「お化粧を落とされたら、美人さんですのよね」
「お似合いの二人だな」
私たちに好意的な声も多く、そっと息を吐いて安堵した。
(さあ、本番はこれからよ)
気合いを入れて王女の登場を待っていると、衛兵が続々と入場し、王女殿下の登場を告げる。
高らかにラッパが吹き鳴らされる音がした。