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86:王妃の命令と困った婚約者(ミーア視点)

 デズニム国の王女ミーアは、はらわたが煮えくり返っていた。

 ドスドスと足音を立てて憤慨しながら、よく手入れされた王宮の中庭を歩く。


「あんの、浮気男~……わたくしが妊娠した間に、散々よその令嬢に手を出して……許せませんわ! まあ、泥棒猫は全員勘当させましたが」


 権力をちらつかせれば、全てが自分の思い通りに進む。長年の経験で、ミーアはそれを知っていた。

 なにせ、自分は国内で一番権力を持つ王妃の実子なのだから。

 けれども、恋心ばかりはどうにもならない。あれだけ馬鹿な真似をされてもなお、ミーアはロビンを手放せないのだった。

 しかし、今の状況が良くないことは薄々感じ取れる。

 王宮ではミーアやロビンに対しての悪い噂が広まり始めていた。


(不敬ですわね。見つけ次第、クビにしましたけれど……特に官吏の反発がうるさいですわ)


 実務能力に優れたナゼルバートが辺境へ行ったので、仕事に弊害が出ているらしいのだ。

 公爵令息一人が抜けたくらいで何を大げさなと思ったミーアだが、事実様々な業務が滞っていた。

 それどころか、ナゼルバートの代わりにロビンを押し込んだせいで、余計に周りの仕事が増えている。


(ロビンはお馬鹿だから、仕事ができないのですわ。そんなところに親近感が湧くのだけれど)


 ミーアはずっと、出来のいいナゼルバートに劣等感を抱いてきた。

 自分が努力して努力して積み上げてきたことを、彼は素の状態でいとも簡単に追い越してしまう。屈辱を受ける機会が何度もあり、ミーアのプライドをズタズタにした。

 初めて出会ったときは、見目が良くて大人しい、伴侶に相応しい男だと思っていたのに。

 婚約者として接するうちに、王配教育にのめり込む真面目すぎるナゼルバートがつまらなくなった。

 

 しょっちゅう女王教育を逃げ出すミーアとの差はどんどん開く。

 周りの者が、「能力の足りない王女を補うためにナゼルバートが婚約者に決まった」と噂するたび、ミーアはナゼルバートを嫌いになっていった。

 考えの読めない、人形のような琥珀色の瞳。自分の周囲にいる取り巻きの誰とも違う、こちら側に引き込めない固い考えの持ち主。

 全てにおいて、自分と合わない。

 

 その点自分よりも愚かで、しかしずる賢いロビンは一緒に過ごすと楽なのだ。

 貴族たちにはなかなかいないタイプで、話すと退屈しないし、彼だけが屈託なく自分に甘い言葉をかける。

 王宮しか知らないミーアにとって、外の世界を教えてくれるロビンは新鮮だった。

 

 最近、王妃である母が、ロビンを愛人枠にしてナゼルバートを正式な王配に……などと意味のわからないことを言い始めた。


「あああああー! 腹が立ちますわー!」

 

 なんでそんな面倒な真似をしなければならないのか。でも、ミーアといえども母親には逆らえない。

 婚約破棄の件で、彼女に尻拭いをさせてしまったため尚更だ。


(ふん、名ばかりの王配ですもの。ナゼルバートには仕事だけ押しつけて、わたくしはロビンと二人で自由に暮らせばいいですわ。そうなると芋くさ令嬢と離婚させなければならないわね)

 

 どうせ相手は芋なので、ナゼルバートも未練はないだろうけれど、手続きがややこしい。

 

「芋くさ令嬢には適当な男……勘当された令嬢の婚約者か、妻に先立たれた誰かをあてがって、ナゼルバートを引き抜いてしまえばいいか。辺境の領主は、わたくしを批判する気に入らない貴族を飛ばしてしまいましょう。ああ、またナゼルバートと顔を合わせるなんて嫌ですわ~。鬱ですわ~」


 ミーアは産んだ子供を乳母に任せきりにしている。

 デズニム国の王族の育児はそういうものだし、ミーア自身も子育てが嫌いなのでやりたくない。それより、ロビンと遊ぶ方が楽しい。


(面倒なことはさっさと片付けちゃいましょう。そして、ロビンの魔法で癒やされたいですわ)

 

 彼の魔法は特別で、心の弱った部分をすっと浄化してくれる。

 自室に戻ったミーアは筆をとり、ナゼルバート宛の手紙を書き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] えっ!?お堅い?どこが? アニエスにはドロドロのデロデロに甘やかしてますよ、ナゼルバードは。
[一言] 産廃の王配とか役不足にも程がある
[一言] 〉 彼の魔法は特別で、心の弱った部分をすっと浄化してくれる。 麻薬魔法やん?(白目)
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