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第四十二話「ロスト・エラー」

引き続き、今回の投稿は某所で開催中の「次回Web投稿作品選定コース」に支援頂いたsou/右眼さんへのリターンとなります。(*´∀`*)


溢れる質草は不景気な時代の象徴かもしれない。(*´∀`*)




-1-



[ < 質屋『ロストの質流れ』 >の質草スロットが一杯です ]


 表示されたメッセージについて、意味と原因を考えてみる。

 俺が< 質屋『ロストの質流れ』 >を利用したのは、< ハルバード+ >を買い戻した時の一回だけで、それ以降はセットすらしていない。理由は当然の事ながら俺がカードをロストしていないからで、延いてはセットしても買い戻すカードが存在しないからだ。つまり、溢れるどころかスッカスカなのが俺の質屋に対するイメージである。

 店を訪れた時に見た限り、店内の質草の枠は最低でも数十あったはずだ。もちろん店頭に並ぶだけですべてとも思えないから、あくまで最低でもである。しかし、この質草スロットとやらの上限が店頭分の数十しかないとしても溢れるのは不自然だし、予備があるなら尚更溢れる事はないだろう。

 以前神様が言っていたように、回収しなかったアイテム群も質草に入れるようサイレントアップデートした可能性もなくはないが、それはそれでどうだろうかとも思う。イレギュラーや不測の事態はここまで色々発生しているようだが、神様や吉田さんが質草を増やす条件を緩和した事でカードが溢れるなんて根本的な問題に気付かないとも思えないからだ。

 俺にゲームやアプリ開発の経験などないが、RPGなどでアイテム欄の所持数上限が99個だったりするのは、それが予め決められた枠だからだと知っている。それが多用されているのは、一般的なプレイ上はそれで問題ないと判断されているからで、必要ならば初期の段階で桁を増やすなり別の格納手段をとるなりデザインするのは基本のはずだ。

 そして、こんな未知のシステムを構築しようという時なら、想定できる限界以上の枠をとるだろう。リソースに余裕がないのなら分かるが、そんな事はない……よな? そこら辺のレンタルサーバーじゃないんだから。

 ガチャで出てくるカード種の事を考慮すれば、想定できる桁数だって二桁や三桁で足りない事は容易に想像がつく。万や億のカードがストックされる仕様だったとしても何もおかしくはないのだから、それが溢れるというのが如何に不自然なものか分かるはずだ。つまり、異常事態って事である。


 というわけで神様にはQAで連絡を送っておいたが、反応がない。これはその場にいないパターンだな。


「あかりは独自の連絡手段とか持ってたりするのか?」

「アシスタント用の連絡手段は用意されてますけど、基本的にその質問フォームと同じところに行くと思います。一応、こちらでも投げておきますか?」

「念の為に頼む」


 別段今すぐどうこうってわけでもないのかもしれないが、明確にエラーを吐き出している以上は対処が必要だろう。

 あと出来る事といえば……というか、別に俺が何かする必要はないんだが、気になるといえば気になるしな。かといって、質屋を確認しようにもエラー出してるカードをセットするのはちょっと怖い。

 ……いや、別にエラーってわけでもないのか。これは単に警告メッセージで、むしろ正常に動作してるって事でもある。


「ちょっと質屋覗いてみるか。あかりも来るか……って、そもそも入れるのか? < カード記念館 >とか< ぼっち食堂 >にリョーマは入れなかったんだけど」

「それはどちらも一人用に制限されてる施設ですね。基本的にはペットもアシスタントも移動可能ですよ」


 < カード記念館 >はともかく……< ぼっち食堂 >は名前の通りぼっち用なのに人連れてくるんじゃねーよって話なんだろうか。ひでえ話だ。


「じゃあ、ついでにリョーマ……は無理そうだな」


 ウチの自称愛玩犬は返事すらなかった。犬の本能に負けてハッスルしてしまった体験は想像以上にダメージを残してしまったらしい。ここの仕様ならすぐに回復するだろうが。



[ 質屋『ロストの質流れ』 ]



「……なんだこりゃ」


 というわけで、神様に報告する前に状況確認だけしておこうと、あかりを伴って足を踏み入れた質屋は、想像以上に異様な光景が広がっていた。

 質草が飾られるスロットがすべて埋まり、その上に表示された宙空ウインドウでは砂嵐が舞っている。< ハルバード+ >の時には俺のやられシーンが繰り返し表示されていたアレだ。砂嵐でないものもあるが、その場合は何も映ってない。

 飾られているカード自体を見てみれば、< Uターン・テレポート >のような■表示のものが多い。中にはカード名だけでなくレアリティやカテゴリ、あるいはそのすべてが文字化けしているものまである。


「なんでしょうね、コレ。エラーカードかな?」

「時折出るってやつか」


 フリーゾーンに入るかどうかでチェックできるという話だが、切羽詰まっていたあの時と違って、ここのカードで試してみたいとは思えない。< ブロンズアーマー アンコモン イクイップ/アーマー >のように、いくつは正常に表示されているものもあるが、ほとんどはエラーっぽい表示になっている。こんだけあったら時折もクソもない気がするんだが。


「うーん、コレは多分、ウチのロスト品じゃないな」

「え、分かるんですか? マスターがロストしてなくても、モブ夫さんたちが回収せずに放置したものとか」

「ウチで< バジリスクの尾 >なんてアイテムは出ない」

「あー確かに、バジリスクなんて< 修練の門 >の浅層で出るはずないですよね。第二ダンジョンなら分かりませんが、まだ攻略を始めてないわけですし」


 そういう意味ではない。ゴブリン以外出ないんだから、こんなアイテムが出るはずないって事だ。

 バジリスクっぽいゴブリンが出たらドロップするかもしれんが、名鑑に載っていないからそれもない。明言されたわけではないが、これはモブ夫たちが遭遇したモンスターも登録されているはずだし。

 < 龍鱗 >のようにガチャから出る可能性ならあるものの、わざわざダンジョンに持っていく必要はないし、それなら俺が把握してない事はあり得ない。


「いくつか知らないカテゴリのカードもありますね。というか、第二カテゴリって増えるものだったんですね」

「は?」


 第二カテゴリって、イクイップ/ウエポンでいうウエポン部分か。俺が新規に増えたと聞いた必殺技は第三カテゴリだぞ。

 妙に納得気味なあかりの脇からカードを覗いてみれば、そこにはカード名とレアリティがエラーで、カテゴリのみが表示されているカードがあった。


< ■■■■■■■■ ■■■■ イクイップ/ソウル >


「……ソウルってなんだ?」

「他にも似たようなのはありますよ。こっちのは< スキル/マジック >になってますし、< ノーマル/フード >っていうのもあります。こっちは< ベース/ワールド >とか……ワールドとはまた壮大ですね」


 それは俺が神様に言って、ないと断言されたカテゴリだ。あるんじゃねーかって感じではあるが、多分こっちがイレギュラーなんだろう。

 < スキル/マジック >にしても、ウチのスキルはまずアクションかパッシヴかで分かれていて、~魔術っていうのは第三カテゴリになっているし、食い物にしたって同じだ。

 いちいちウチのルールと噛み合わない。これじゃまるで、別システムから間違って飛んで来たような……。


「他の神様のところで色々やってるってのは聞いてるが、そこから飛んできたとかかな。お前なんか知ってる?」

「すいません。他のチームがある事は知ってますが、詳細はちょっと。私、あくまでここのカードなので」

「まあ、そうだよな」


 一応聞いてはみたが、良く考えてみたらガチャから生まれたあかりが知っているほうが不自然だろう。


「これもエラー、これもエラー……やっぱり大体エラーカードだな」

「ほとんど項目のどれかがエラーになってますね」

「まさかこれで全部じゃないよな? ここに並んでるのって、せいぜい五十個くらいだろ」


 最初に想定したように、簡単に溢れるような仕様にしているとも思えない。保持期間が過ぎて質流れするにしても、さすがに五十個って事はないだろう。


「ええ、確かこの手の施設は、オーバーした分は別にストックされるはずです。ここは時間ごとに商品が切り替わるとかそういう仕組みですかね? まあ、警告出てるって事はそこも埋まってるんじゃないかと」

「……だよな」


 この分じゃ、どれだけ意味不明なカードで埋まってるのか分かりゃしない。


「お前のリスト化の機能って、ここの奴も対象だったりしない?」

「すいません。私は質屋の店員さんではないので」

「そりゃそうだが、そもそも店員いらんだろ、ここ」

「店員のワーカーを置けば在庫分も把握できるかと思いますよ? それ以上になると、能力次第なところがあると思いますが」


 マジかよ。そんな事もできるのか。客が俺しか来ないようなところの店員とか寂しすぎるだろ。まさか、ゴブリン・ワーカーでもいいんだろうか……喋れないよな、あいつら。

 ……というか、< 質屋『ロストの質流れ』 >ってレアリティがエクストラだから強化の対象外なんだよな。こういう場合って、どうやって店員配置するんだろう。


「一応、ここにある分だけでも紙に書き出しておくか。神様はいつ反応するか分からんし」


 酒は入っているが全然酔った感じはしないし、やれる事はやっておこう。試しに交換するって手もあるが、それは神様来てからって事で。くそ、< ハブ酒 >飲んでみようかと思ったのに、そんな気分じゃなくなってしまった。

 可能であれば書き出すのはあかりに頼みたいところだが、物理的な干渉のできない奴にペンを持たせるのは不可能という事で、カード情報を読み上げてもらう事にした。全部で五十枚、しかもほとんどは読めないエラー表示なので、それほど時間もかからずに終了だ。書いてある間に商品ラインナップが切り替わる様子もなかった。


「個人的にはこの< 漆黒豹の全身鎧 >が欲しいんだが」

「エラーは出てないですが、ハイレアじゃ無理ですね」


 いくつか読める物の中には俺の物欲を刺激するものもあった。この鎧の何がいいかって、中二的な格好良さではなく単純に全身が隠せるというところだ。ある程度装備が充実してきて重要部分こそ隠せるようになった俺だが、未だ変態ルックからは抜け出せていない。それがこの一枚だけで一端の戦士に早変わりである。< ウォーアックス >だって、今の変態ルックよりはこのほうが似合うだろう。

 重くて動けない可能性はあるものの、そこは俺が鍛えればいい話である。そろそろ人外の領域に手が届きつつある今の俺なら不可能ではない。

 まあ、手が出るとしても、エラーまみれなカード群の中にあるカードなんて怖くて手が出ないが。


 一通りリスト化も終わってそんな事を話していると、入り口からフラフラな状態のリョーマが入ってきた。


「ご主人様、創造主様……かどうか分からんが、誰か来たぞ」


 どうやら、思ったより早く対応してくれたらしい。




-2-




「うーん……なんでしょうね、コレ」


 しかし、あかりとリョーマを避難させた上で招いた神様の反応は期待していたものではなかった。


「神様でも、なんなのか分からないんですか?」

「さっぱり分かりません」


 そんなんでいいのかってくらいバッサリである。


「異世界絡みか、別の神様のところでやってるっていう実験? が影響してるんじゃないかって思ったんですが」

「あるとしたら前者かなー。後者はちょっと考え難いですね。このシステムってランダムで情報収集はしてますけど、他システムと直接的な繋がりはありませんし、内容的にもカード使って云々なものでもないですし。大部分は普通の研究ですよ?」

「こんな昭和の深夜番組みたいな事をやってるのは俺くらいだと?」

「使徒さんが上手くいったから真似して似たような事しようとしてるところはあるみたいですけど、基本的にシステムは全然違いますしね」


 俺以外にも理不尽な境遇に身を置かされてる奴はいるのか。いつか一緒に酒飲んで神様の愚痴を言い合いたい。

 でも、俺のせいでそんな事になったとか言われたらどうしよう。状況によって普通に殴られそうなんだけど。『貴様のせいで露出に目覚めちまったじゃねーかっ!!』って怒鳴られたら、ガチ土下座するしかない。


「まあ、異世界絡みって前提なら、ある程度の推測はつきますが」

「その推測を聞かせてもらっても?」

「別のチームじゃなくて、異世界で使徒さんと似たような事をしてるんじゃないかと。溢れている量から考えると、もっと大々的に。それが間違ってこちらに流れて来たって事じゃないですかね」


 やっぱりそういう方向の話になるよな。


「それも、質屋に酷似したシステムを採用している可能性が大ですね。そのものって事はないでしょうが、ある程度類似した点がないとこうして間違って飛んできたりしないでしょうし」

「単にダンジョンみたいなところでロストした装備が、行き場がなくて流れ着いただけって可能性は?」

「ないとは言えませんが、それだと普通にガチャのカードとして登録されるだけかと」


 ああ、単に情報収集だけならガチャがもっと広範囲かつ柔軟にやってるのか。こっちに来るとしたら、その理由があるはずって事だ。


「つまり、ここに流れてくるようなカードは元からカードだったものって事になる……んじゃないかなーと。それも、ガチャ太郎ウインドウに似たシステムの。もちろん完全に合致する事はないでしょうから、この無数のエラーはこちらのルールに合致しないものや翻訳不可能な概念だからって事なんでしょう」

「その割には、ないって言われたカテゴリがあるんですが。それならエラーになるだけですよね?」

「びっくりですよね。なんですかね、ベース/ワールドって。世界をセットできちゃうんですか?」


 それでいいのか、神様。


「こうしてちゃんと翻訳されているものは、元々近しい概念があって、こちらのシステムでも認識できてしまったって事なんでしょうね。そして、カテゴリとして成立してしまった以上はガチャからも出るようになったはずです。私も初見なので、どんな効果なのかは分かりませんけど」

「……それは俺が聞いてもいい話なんですかね」

「いいんじゃないですかね? まずいなら阻害されて認識できないと思いますし」


 そういう範疇の外側じゃないかって懸念なんだが……まあいいか。


「元々該当するカテゴリがないワールドやソウルはともかくとして、フードなんかはどんな扱いになるんですか?」

「システムが走り出す前のプロトタイプにはありましたから、そこから読み取ってるとか? 第三カテゴリに類似のものがあるから、単にそこから読み取ってるだけかもですが。今後ガチャからフードカードが出てくるって事はないと思います、多分、きっと」


 俺の中では食料はアイテムカードって認識されてるから、今更細分化されると気持ち悪いんだけど。逆に言えば、気持ち悪いくらいで実害はないんだが。


「まーカテゴリが増えるとか、大規模アップデートみたいな認識で捉えておけばいいんじゃないですかね。そういう時は大抵普段より多くガチャが回されますし」

「いや、ソシャゲじゃないんで」


 大体、回すのは俺だけなんだから、キャンペーンをやろうが違いはたかが知れてる。


「にしても、どんな世界から飛んで来たんですかね、コレ。言っちゃなんですが、私たちのやってる事ってかなり変則的なんですけど、どこの世界にも似たような事を考える存在はいるって事なんでしょうか」

「< ブロンズアーマー >とか< バジリスクの尾 >とかあるなら中世ファンタジー的な……いや、そうでもないのか」

「近似システムを活用してるなら違う気がしますが」


 ある程度ファンタジー的な要素はあるにしても、情報が行き場を間違うくらい似通ったシステムとなると……。


「……平行世界の俺って可能性は? いや、俺じゃなくてもガチャの使徒とか」

「そもそも平行世界に私たちがいるかどうかってところから不明なんですが、いるならその可能性が高いでしょうね。まったく無関係なファンタジー世界でカードだの質屋を使ってるって言われるよりは、その方が納得できます」


 平行世界というなら可能性の分岐分だけ存在していて、ほとんど同一の世界があるんだろうと考えたりするが、神様たちだって実態が分からないから異世界について探りを入れてるわけで、同じような存在がいたとしても把握はしていないのが今の状況だ。少なくとも九十九姉妹や男吉田さんはそういった存在と接触してないらしいからな。陰陽師がいるあたり、完全にオカルトがないってわけでもないんだろうが、それと神々の存在はまた別だろう。

 とはいえ、平行世界自体は確認できてるわけだし、無数にある世界を見渡せば俺みたいな事をやってる奴だって……。


「ってあれ? ひょっとして、飛んで来る元が一箇所とは限らない?」

「むしろ一箇所って可能性は低いと思います。似たようなシステムを使っている色んな世界から流れてきたってほうが自然ですね。こんだけ飛んで来てるわけですし」


 無数に存在するだろう世界を母数とするなら、たとえ極小の可能性だろうが膨大だ。そりゃこうやって溢れてもおかしくはないか。

 というか、それを考えるとすさまじい手かがりだよな、コレって。何気に俺が九十九世界に行ったのよりも……。


「そろそろ気付いたと思いますけど、どうしましょうかね、この成果……。正直なところ、お腹一杯なんですが」


 斜め上の問題がやってきたぞ。しばらく大人しくしてようって話したばっかなのに。そうだよ、コレとんでもない成果だぞ。


「……今回に関しては何もやってないんですが」

「それはそうなんですが、間違いなく重要な情報なので、じゃあ誰の功績かって話には確実になるんですよね」

「神様でいいんじゃないですかね」

「それは必然的にそうなると思いますが、使徒さんの存在は誤魔化せないかと。現状、この質屋の所有権は誰にあるかって話になると、使徒さんなので」


 そりゃ誤魔化しようがないよな。俺が考えている以上にそこら辺の情報は管理されてるだろうし、ちゃんと調べれば簡単に分かる範疇だろう。


「吉田さん……かどうかは分からないですが、コレを開発した人にぶん投げるとか」

「全部は無理でしょうが、そうやって分散するしかなさそうですね。それでも結局統括は私なので、そこは誤魔化しようがないんですが。最近、報告会に行くと別チームの視線が痛くて……『なんだあいつ、一人だけイキってんじゃねーぞ』的な」


 そんな世俗的な感想を持つ連中の集まりなんだろうか。イメージの問題があるから、神様の被害妄想であってほしいんだが。

 まあ、なかなか結果が出ないだろう大規模プロジェクトで、数年単位……下手すれば数十年単位で無難な報告だけを上げていればやり過ごせると思っていた中、何故か一人だけ結果を出している奴がいれば、じゃあ他の奴は何をやっているのかという話になりかねない。しかも、それが単発ではなく続報が次々に飛んでくるとなれば尚更だ。他の出席者もそうだろうが、新人らしいウチの神様はさぞかし居心地が悪い事だろう。


「また昇格したら、今度こそ使徒を増やさないといけなくなりますし」

「あんまり増やす気がないのはなんとなく分かりますが、そこは予備枠って事で放置はできないんですか?」

「今の空き枠がそれみたいなもんなんで。まあ、最悪そこら辺の社会不適合者を攫ってくるという手もありますが」

「それなら九十九姉妹の誰かでいいじゃないですか」


 わざわざ攫う算段を立てるよりはよっぽど真っ当だ。あいつらだって、何も知らない相手の下に付くよりは、少しでも話した事のある相手の庇護下のほうが気は楽になるだろうし。


「うーん、あの子たちを懐に入れると更に功績が積み上がりそうな気がひしひしとするんですよね……そうしたら負の……じゃなくて、正のスパイラルに巻き込まれて身動き取れなくなりそうです」


 初めて聞くよ、そんな表現。言わんとしている事は分からんでもないが。


「悪い事してるわけじゃないのに、なんでこんなに悩まなければいけないのか」

「ちなみに、隠蔽とかまずいですよね?」

「さすがにそれは駄目……というか、そもそも隠せません。ここって多重にフィルター掛かってるんで短期的には可能ですけど、定期的に提出しているログまで改竄する手段がありません。そんな危ない橋渡るくらいなら普通に報告します」


 功績隠しのために悪事働くとか意味分からんしな。バレたらそっちのほうが問題だ。現場から離れたくなくて撃墜数誤魔化すエースパイロットじゃないんだから。


「にご……チュバ子様に投げるというのは如何でしょうか?」

「……実はもう投げてるんです。実際助けてもらってるので、正式な報酬と言えば報酬なんですけどね。本人はボランティアのつもりだし、内緒なんですけど。こうまで功績が大きくなると……しばらくしたら、何故か正規の神に昇格するという謎の事態が発生してたりして」


 ……マジかよ。仕事回してもらえなくなるとか言ってたから、てっきり下積みのような認識だと思ってたのに。


「だから、できるだけ不自然にならないように仕事を回す必要もあります。それで、できるだけ自然に、実は上のほうの目にとまって~的な流れにもっていきたい」

「……大筋だけなら問題はなさそうですけどね」


 これが自分の実力で手に入れたものでなければ意味がないとか言い出す奴なら別だが、あいつの場合は棚ぼたでも気にしなそうだし。とはいえ、その昇進はお前の手柄じゃなくて別の奴のおこぼれだからなって指摘されたりしたらどう思うかは未知数だ。俺ならあんまりいい気はしない。


「あの……オフレコでお願いしますね? こんなところでないと口に出せないような話ではあるんで」

「そもそも知りたくなかった」

「使徒さんは私の使徒さんなので、苦楽を分かち合う義務があるんですっ!!」


 立場上、ある程度仕方ない部分はあると思うが、この苦楽は分かち合う必要があったのかと疑問を持たざるを得ない。ただの道連れじゃねーか。

 ……ここ一ヶ月の動向は知らんが、動画実況は世界的に流行ってるわけだから、あいつが突然昇格してもおかしくはないよな、うん。

 以前、候補が使徒を用意しても昇格には意味がないなんて事を言っていたが、今の内に紹介しておけばそれが理由で昇格したと勘違いしてくれるかもしれないな……本気で検討しておこう。何故、俺がこんな根回しのような事をしなけりゃいかんのか分からんが。




「で、話を戻しますが、これらについてはどう対応しますか? 目的からしてシャットアウトって線がない事は分かりますが、エラーカードは回収が必要でしょうし、受け皿も増やす必要ありますよね?」

「流れてくる情報をストップするのはもちろんなしです。警告対策としてストック容量については桁をいくつか……十桁くらい追加しておきましょう」


 文字通り桁が違った。さすがに十桁違えばそうそう溢れる事はないだろうな。


「質屋自体の回収はしないんですか? 俺としては、補填貰えるならそれでもいいんですが」

「うーん……なしで。使徒さんの持ち物としてここにあるが故の現象って可能性がありますし、検証目的でそれを動かして今後手に入るかもしれない情報を逃すのは痛い。一応、持ち帰って検討はしますが、多分回答は変わらないかと。質草スロットの改修もシステム側から遠隔でやります」


 あんまり考えたくはないが、俺が持ってるからこういう事になったって可能性は捨てきれないわけか。

 カード単品なら< 負け犬 >みたいに引き渡すのがいいんだろうが、継続して異世界情報が飛んでくるとなると環境の変化がどう影響するか分からない。確かに判断が難しいところだ。


「今ある大量のエラーカードについては?」

「それはもちろん回収します。使徒さんも不便でしょうし……ちょっと失礼」


 と言うと、神様はどこからか取り出したカードを質草スロットの投入口に差し込んだ。しかし、カードはそのまま投入口から戻ってきてしまう。


「やっぱり、交換そのものを受け付けないか……回収も遠隔でやりますね」


 そもそも、ここからじゃ回収できないってオチか。交換できない質草に占拠されてたら質屋の意味がないな。


「でも、せっかくですから使えそうなカードはそのまま並べておきましょうか」

「商品が増えるのはありがたいですけど、エラーに紛れて飛んできたカードとか、セットするのが怖いんですが」

「もちろんチェックは挟んだ上で、問題ないやつだけを通すようにはします。チェック時にこちらで一旦回収する事になりますから、ガチャから出たカードのように異世界産のカードと交換してボーナスって形にはできませんけど」

「功績多過ぎって話をしてるんだし、いいんじゃないですかね」


 ボーナスは欲しいが、ガチャから出たものと違って並んでる質草を自分のモノとは思えないし、そこにあると分かっているのに交換して提供っていうのも馬鹿らしいだろう。その段階で異世界産だと分かっているなら、そちらで回収すればいいのだ。


 というわけで、この件に関しては俺が特に何かするわけではなく、遠隔でシステム改修してもらう事となった。

 しばらくすれば、謎の世界から飛んで来たらしいカード群が質屋に並ぶ事になるだろう。ただ、無関係なものばかりが並ぶのは元々の目的からいって本末転倒なので、俺がロストしたものは優先して店内に並ぶようにしてくれるらしい。

 しかし、桁外れの在庫からランダムで店頭に並ぶとなれば、定期的な商品チェックは必要になるな。そこら辺はリョーマやあかりに頼むとして、とりあえず質流れになる前にあの全身鎧を手に入れたい。




-3-




「来たついでに、九十九姉妹救出の手順についても説明しておきますね」

「あれから一日とちょっとしか経ってないんですが、何か進展があったんですか?」

「ちょうどさっきまでその打ち合わせをしていたので」


 ああ、なるほど。反応が遅かったのはその打ち合わせに出ていたからか。割と近々のスケジュールを予定してるみたいだし、そういう打ち合わせが詰め込まれててもおかしくはない。


「なにか準備とか必要ですかね。準備と言っても、ここじゃできる事は限られますけど」

「使徒さんは別に改めて準備する事はありません。ただ、こちらからある施設を持って行ってもらうのと、その設置をお願いする事になります。なので、< Uターン・テレポート >一回分の時間は九十九世界に拘束されると考えて下さい」

「はい」


 つまり、その間はダンジョンアタックもガチャもできないって事だな。モブ夫たちを周回させるのはアリだろうが。


「持っていく施設とは?」

「物自体はまだ用意できてないんですが、前回の< 界間通信塔 >のようなものです。今のところ使徒さんをアンカーにした限定的な移動しかできませんが、これをクリアするための施設です」

「それを設置すれば、神様たちが移動できるようになると?」

「いえ、私たちはこの日本から離れられないので、移動するとしたら使徒か人間の協力者ですね」


 ああ、そこは変わらんのか。< Uターン・テレポート >がなくても移動できるようになるとかそんな感じかな。


「もしくは神候補とか?」

「候補でも使えますが、使徒よりもかなり制限を受けるので利用する予定はないかと。ただ、今回の作戦にチュバ子ちゃんは同行します。まあ、使徒さんのボディガードのようなものと思って下さい」

「……何か危険を想定しているとか?」


 単に功績分散目的って線はあるが、戦力としてかなり頼りになる事は分かっているので、あいつの参加は正直助かる。だが、想定している危険があるなら事前に共有してもらいたいもんだが。


「さすがにないとは思うんですが、使徒さんのこれまでがこれまでですからね」


 想定されてるのは俺の問題だった。確かにまともに移動できた試しがないからな。


「もし、また狭間の世界に行ってしまった場合は?」

「チュバ子ちゃんがいるかどうかで変わりますが、今回用意する施設を可能な限り設置して下さい。で、こちらから干渉可能なようなら対策を検討、駄目そうなら前回と同じように移動して脱出ですかね」


 現時点でほとんど情報がないのだから、対策もそれからになるって事か。そりゃそうかって感じではあるが。

 もし飛ばされたら桜に状況説明して、施設設置してそのまま脱出かな。あいつには悪いが、さすがに今回だけで救出は無理だろう。


「例の陰陽師への対応は?」

「未知数なので、可能な限り接触は控えて下さい。現時点では判断の分かれてるところなんですが、世界を渡る術を持つ者とその背景世界に接触するのはちょっと危険かと。どうも、ウチの日本と価値観が異なりそうですし」


 吉田さんの反応もアレだったし、警戒したほうがいいってのは俺も同感だ。同じ日本ではあるんだろうが、武家社会が存続してたり帝国主義的な国って事も有り得るのだ。当然、背景となる社会構造によって対応も変わる。


「一方的にこちらの情報を吸い取られそうなのが特にネックなんですよね。作戦行動中だけでも使徒さんに精神防御用の装備を持たせようって話もあったんですが、どんな方法で干渉してくるか分からない以上は対策は難しいだろうって話になりました。……なのでこれを」

「なんですか。……メガネ?」



 少なくとも今回は対策不可って事で話は終わりかと思ったが、神様は何やらカードを渡してきた。絵柄を見れば、ただのメガネ……というかグラサンに見える。


「これを装着して観察すれば勝手に記録がとれるようになってます。心を読むという術以外でも最低限あたりは付けられるので、機会があったら使って下さい」

「着けるのはいいんですけど、なんでグラサンなんですか?」

「さあ? 私が用意したわけじゃないので」


 普通のメガネでいいがな。俺が使う分には度を入れる必要すらないぞ。あんな真っ暗なところでグラサンしてたら不自然極まるだろうに。


「保険として着けたまんまのほうがいいですかね? 制限時間とか使用制限みたいなものは……」

「特にはないですね。あー、なら今回はそれを着けたまま行動してもらってもいいですか。狭間の世界でも九十九世界でも映像資料としては使えますし。恥ずかしい事をする時は外せばいいので」

「何故俺が恥ずかしい事をするという前提なのか」

「いやまあ、使徒さんにもプライベートはあるでしょうし」


 そりゃ見せたくないプライベートの一つや二つはあるが、わざわざ異世界行って変な事をする気は……いや、割と変な事してるな、俺。無意味に体毛剃ったりとか。しかも、あの時は何故か実況風に見せつける体でやっていたとか突っ込んではいけない。


「じゃ、まあ保険として着けて行きます。そもそも狭間の世界に行くかどうかも、その上で陰陽師と遭遇するどうかも分からないわけですけど」

「もうちょっと情報があれば良かったんですけどね。人伝の情報で、更にその人があまりいい印象を持ってないとなると安易に判断もできないですし」


 やっぱり未知数過ぎて事前に対応決めるのは無理か。

 万が一戦闘になった場合、世界を渡る陰陽師なんてキワモノ相手でも二号ならどうにかするだろう。俺一人で対処が必要な場合は逃げの一択だから悩む必要もない。

 ……やっぱり戦闘がある事は想定しておいたほうがいいな。フリーゾーンにその手のカードは突っ込んでおこう。


「ちなみにですが、ユニットカードって向こうでも実体化できます?」

「想定している相手を考えると護衛に使えるかは微妙なところですが、ダンジョンに連れていけるユニットならできますよ。アシスタントとペットは無理ですね」


 なら、一応モブ夫たちもカードで持って行くか。ガチャだけ考えるなら周回させておいたほうがいいが、不測の事態には備えておきたい。

 俺の立場的にはあいつらを盾にしてでも逃げる事を考えないといけないんだろうな。やりたくないし、やる気もないが、その覚悟だけはしておいたほうがいいだろう。今回に限らず、ずっと付いて回る問題だ。


「盾にするだけなら< ゴブリン・ワーカー >でも……あ、でもこいつワーカーだから駄目か」

「セットはできませんが、マテリアライズすれば肉壁くらいにはなるかもしれませんね」

「……え、ユニットカードってマテリアライズの対象なんですか?」


 初耳……というか、考えもしなかったんだが。


「カードとしての性能や拡張性はすべて失われますが、一応できますね。正直、カードのままのほうが役には立つかと思いますが」


 餓死とかの可能性を考慮するなら、ペットゾーンに拘る必要はないって事なんだろうか。いやまて……あかりをマテリアライズすればお触りできるのでは……いやいや、アシスタントとしての機能を損なわせたら単なる扶養家族ができただけに……そうだ、俺には桃源郷というパラダイスがあるんだから、女体成分はそれで補えばいい。何故、せっかく手に入れた後方支援を投げ捨てるような真似をしなければいけないのか。


「なら、一応肉壁用として< ゴブリン・ワーカー >や< 大人しいペットゴブリン >も持って行きますか」


 相手が苦手としていた場合は虫のペットカードも有効活用できるかもしれない。マテリアライズの出現位置指定を上手く利用して目の前に突然ジャイアントウェタが出現させられれば、まともな感性の持ち主なら驚きはするだろう。俺だったら情けない悲鳴を上げてしまうかもしれない。まさかこんなところで活用方法が出てくるなんて……。


「ちなみに、俺は持ってないんですが、< マンモス >とかのカードを元の世界でマテリアライズしたりなんかしちゃったら」

「ニュースになるんじゃないですかね?」


 マジかよ。……そんな冷静な反応するよりもまず止めろよ。


「あ、ちなみに私が薬局に置いて来たインゴットもニュースになってました」


 むしろ、本人のほうが止めないといけない存在だった。薬局の人、絶対困っただろうに。


 その後も九十九姉妹救出の手順について確認したが、聞く限り本当に俺の作業はほとんどなく、むしろ設置するという施設さえ必須ではないのだという。どうも、< Uターン・テレポート >があれば行き来自体は可能なので、またの機会でも構わないって判断らしい。

 ただ、この設置作業はスペシャルミッションとして扱われ、設置した基数によってボーナスが変わってるとの事なので手を抜くつもりはなかった。いつ正式稼働するか分からないのでミッションボーナスはできるだけ確保しておきたい。それがゾーン拡張系のボーナスともなれば尚更だ。


「来週はゾーン拡張系ピックアップなので、ありがたみは薄れるかもしれませんが」

「いや、いります。むしろ最優先です」


 というか、来週のピックアップがゾーン拡張とか、もっと早く公開してほしかった。あんまり時間はないが、今の内に溜め込んでおかないと。


「とりあえず報告事項としてはそんな感じですが……」

「が?」

「コレが気になってしょうがないんですよね。検証した上で報告しても功績としては変わりませんし、ちょうど交換券のあるコモンですし、試してみませんか?」


 神様が指差しているのは質草の内の一枚だ。確かに気にはなるんだが……。


「エラーに紛れてるカードですし、そういうのって大抵ロクな事にならないような気が」

「もちろんチェックはして、入念に準備を整えた上でです。今ならなんと護衛付き!」


 むしろその護衛に功績を稼がせる名目が欲しいだけじゃないかという気もするが、興味があるのも事実っぽかった。

 エラーチェックを通らない可能性もあるし、さっき神様がやったように交換券を弾かれる可能性もあるだろうと駄目元で試してみるが、特になんの問題もなく交換できてしまった。

 ……いきなり変な事に巻き込まれるよりは、覚悟ができる分マシかな。カテゴリが増えたというなら、いつかは試す必要のあるカードではあるし。




-4-




 引っ張る必要もないので正体を明かしてしまえば、神様が試してみようと言い出したのは< ポケットワールド コモン ベース/ワールド >である。

 ワールドなんてゾーンは持っていないが、ベースカードである以上、親ゾーンであるベースにセットはできるはずだ。

 変な効果があるとまずいので入念なエラーチェックをした上で鑑定まで行い、なにかあったら対応できるようにモニタリングもするらしい。……ただ、そこまでやっても対応できなかった狭間の世界という前例があるので、楽観視はできないだろう。時空間が歪んでる場所への対処なんて、どうすりゃいいのか分からんけど。


『しっかし、良く分かんない事象引っ張り込むわよね。本当に何か呪われてたりするんじゃないの? ガチャ太郎』

「問題は、呪いを祓ってくれそうな神秘の塊がそれを許容してしまっているって事だな」


 数時間後、カードのエラーチェックも済み、鑑定まで終わった状態で、あとはセットするだけというところまで漕ぎ着けてしまった。護衛役兼功績の投げ付け先である二号もスタンバっている。ここまで来たら腹を括るしかないだろう。


『< ポケットワールド >って、これ自体が世界って事なのかしらね? コモンの世界って意味分かんないけど』

「それをこれから試すんだが……まあ、意味不明ではあるよな」


 本当、なんだコモンのワールドカードって。世界にレアリティもクソもあるかって感じだ。


[ モニタリングの準備はできたので、早速始めましょうか ]


 部屋の中にここにはいない神様の声が響く。どうも、別なところから監視しているらしい。


[ まずはちゃんとセットできるかどうかからお願いします ]


 一応、このテストを始める前にフリーゾーンに突っ込んだりはしてみたのだが、その際には特に問題はなかった。

 実際にベースゾーンにセットしたらどういう現象が起きるかも分からないので、この段階でも立派なテストなのだ。

 ちょっと緊張しつつ、化外の王の正面に飛ばされたりとかじゃなければ大丈夫と自分の中で覚悟を決めつつ、< ポケットワールド >のカードをセットする。


『……なんか、普通に扉が出てきたわね』

[ 普通のベースカードと同じですね。好きに行き来できるタイプって事でしょうか ]


 今のところ、< スモールルーム >や< 武装実験場 >と大差ない挙動である。デフォルトの仕様なのか、見覚えのある扉が壁に追加されただけだ。


『じゃあ、まず私から入るわね。この先が異世界っていうなら多分入れないだろうけど』


 普通のベースカードなら二号でも移動できるはずだが、この先にあるのがもしも本当に異世界なのだとしたら、日本の神格に縛られてる存在は移動制限を受けるらしい。九十九世界に行くのにわざわざ俺をアンカーにしないといけない理由だ。


 二号が躊躇する素振りも見せずに開いた扉の先は、ただの真っ暗闇だった。この時点ですでに不安になる光景である。


『よっ……と、駄目ね、入れない。本当に異世界なのかも』


 結果は移動不可。まるでそこに壁があるかのように、行く手を阻まれている。


「……マイクは通るわね」


 ならばと、アイデンティティであるマイクを突っ込んでみれば、それは普通に通ってしまった。ここまで来ると予想通りの仕様って線が有力視されてくる。


『マイク入れても壊れてたりはしてないみたいだし、ガチャ太郎が入っても大丈夫じゃない?』

[ まー、段階的にいきましょうか。持った物、指、顔を突っ込んで向こうが見えるか、で、問題なさそうなら移動って事で ]


 気軽に言ってくれるが、本人としてはさっきから緊張しっぱなしなんだが。本人たちは実験感覚なんだろうが、神々でも未知の領域だぞ。


「よ、よーし、行くぞ」


 問題があれば即撤退。問題があれば即撤退と心の中で叫びつつも、指までは通ってしまった。特にダメージがあったりもしないし、気温などの変化も感じられない。指の先から伝わってくるのは今いる場所と変わりない感覚だ。

 向こう側が真空だとまずいので、息を止めて顔だけを突っ込んでみる。


「……白い、な」


 扉の向こう側には何もなかった。

 空気は……ある。普通に息は吸える。気圧なども別段おかしなところは見られない。拠点と同じだ。というところで一旦顔を戻してみた。


[ ベースカードは通常セットした拠点に合わせて環境調整されるので、それが普通に有効化されてるんでしょう ]


 どうやら環境が同じっぽいのはベースカードに備わってる機能らしい。


「なんか、なんもない白いだけの空間でしたね。そっちはモニタリングできました?」

[ はい。使徒さんの視界にリンクさせてましたが、問題なく。地面もありましたね ]


 そう、何もないというか、白い空間に地面だけが続いているのだ。遠近感が掴めないので、どこまで続いているかは分からない。


『ガチャ太郎が向こう行ったらアンカー処理できるだろうから、とりあえず行ってらっしゃい。命綱は持っててあげるから』


 危険はなさそうだという事で、対応がおざなりになりかけている二号に特製らしいロープを持ってもらい、それを俺の体に括り付ける。一応このために用意してもらったのだが、ペットにでもなった気分だ。



[ ポケットワールド ]



 といっても油断はできないので恐る恐る足を踏み入れてみるが、意外というか予想通りというか、なんの問題もなく移動できてしまった。

 何もなさ過ぎて不安になる光景ではあるが、人間の活動できる空間ではあるらしい。移動した直後に入り口が消えたりという事もなく、命綱を含めて普通に行き来ができるようだ。

 本当にただの何もない空間だ。


『……何もないわね』

[ ここまでくると拍子抜けってくらい何もないですね ]


 アンカー処理をしたらしい二号もこちらに移動できたし、通信用の宙空ウインドウも表示されている。通信自体も問題ないし、モニタリングもできているようだ。


[ 扉が見える範囲でいいので、どれくらい広いのか確認してもらってもいいですか? 九十九世界のように、いきなり地面がなくなるって事もありえますから慎重に ]

『はい』


 突然二号にボールを渡されて困惑してしまうが、確かにこれを投げれば見えない境界線があっても確認できるな。説明しろよ。


「ちょいやっ!!」


 というわけでボールを投げてみた。全力というほどでもないが、やや遠投気味に。


「…………」


 そして、僅か数メートル先で跳ね返ってきた。


『……は?』


 間の抜けた二号の声が響くが、現象を素直に受け入れるなら……この空間は数メートルくらいしかない狭い空間という事になる。

 試しに俺がそこまで行ってみれば、見えない壁があった。しかも、その方向だけでなく扉のある方向以外すべてが数メートルしかない。ちなみに扉の横もすぐ壁だった。


『狭っ!? なにこれ? いくら< ポケットワールド >って言ったって、こんなんでワールド名乗るつもりっ!?』


 自動でカテゴライズされただけで名乗っているわけではないと思うが、俺も同感だった。……なんじゃこりゃ。< スモールルーム >より狭いんだが。


「なんかの手違いでカテゴライズされてるだけで、実は中身はまったく別のベースカードって事はないですかね?」

[ うーん。ないとは言えないのが困ったところですね ]


 とはいえ、こんなところではやれる事も限られるという事で測量だけして戻る事になった。結果、なんと上方向も同じ距離しかなかった事が判明。外周は急な曲面を描く半球状のドーム型である事が分かった。あまりに狭い。< スモールルーム >と比較すれば上方向に広いが、どっこいどっこいの面積しかない。未知の新世界を想像して緊張していたのが馬鹿らしくなるほどの狭さだ。


 この様子ではワールドというのも表示上のバグか何かかもしれないと思いつつ、拠点への扉を潜る。




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 ……しかし、どうやら異世界ではあると判定されたらしい。




三つ目の異世界体験ツアーから戻って来てキリのいいところで、次回は引き籠もりヒーローです。(*´∀`*)


未だ内容は未定ですが、三章は始まりません。多分。

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが気になります! 引きこもりが一段落したら是非に…
[一言] そう言えば実績系に「ユニットカードの戦闘破壊」ってのがあったって事は 装備カードの戦闘破壊でも実績が解放されるんじゃないかな。 狙ってやるならコモン系カードを使えば比較的簡単に達成出来そう。…
[気になる点] 雑魚寝と言ってますがソファーで寝てるのでは?
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