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第四十話「桃源郷」

というわけでセットしてみました。(*´∀`*)





 ガチャの使徒となり、半ば人間を辞めて超人化しつつある俺だが、基本的に本質的な欲求は人間の時の延長線上にある。

 食わなくても死なないらしいが、普通に腹は減るし、飯があれば以前よりも遥かに多く食事を摂る。美味いものなら尚いい。

 極めて短い睡眠時間で回復するものの疲れれば眠くなるし、畳やソファが手に入ってからはその時間も増えている。単にロクに寝具のない環境で寝たくないというだけだったのかもしれない。

 では性欲はどうかと言えば、良く分からない。ここに来て以降、風俗に行く事も自慰行為にふける事もないが、それは元のままでも変わらないんじゃないかという気がする。

 刺激がなくとも普通に勃つし、血流の問題なのかサイズも巨大化しているような気もするが、どうしても発射した場合に消耗する体力を気にしてしまうのだ。おっぱいマウスパッドに夢中になっていた頃は、自分で処理するのを忘れるくらい没頭していたのでまた別だ。

 これが深夜番組的なサバイバルでなく吉田さんのような環境だったらまた別だったのだろうが、欲求自体はあってもそれ以上の問題があるために、それらは頭の隅に追いやられているというのが正確なところなのだろう。実は、ゴミが捨てられないという問題も関係してる感はある。あと、ここまで長期間発射していないとゼリー状か何か普通でない状態になっているような気がして怖い。


 だから< ドスケベ清純派アシスタント あかり >なんてあからさまなカードが手に入って、カードイラストが煽情的な衣装を纏った人間の巨乳美少女であれば、そりゃセットしたくなるのも当然なのである。

 たとえ、鑑定結果にお触り禁止と書かれていてもセットする手は止められないのだ。





-1-




「それでは審議を始めたいと思います」


 いつもの拠点がただならぬ空気に包まれていた。この催しに参加しているのは、イルカの着ぐるみパジャマを着た俺とリョーマ、そしてその目の前で正座させられている女の子だ。

 < ドスケベ清純派アシスタント あかり >。その名の通り、見た目からしてエロの権化である。

 ちょっと現実ではありえない薄ピンク色の髪に、無駄なまでにメリハリが利いてて日常生活が困難なんじゃないかというレベルのボディ。童顔な顔を含めて二次元ならいてもおかしくないエロ美少女ではあるが、それが現実に現れると異様な存在感を放っている。


「あ、あの……これは一体? あなたが私のマスターなんですよね?」

「そうなるかは分かりません。あなたの発言次第でしょう」

「敬語キャラ……?」


 俺だって、何も無下にしようとしているわけではない。これは審議の場なのだ。彼女が新たなメンバーとなるかどうかがかかっている。


「それではあかりさん、あなたのできる事を教えて下さい」

「は、はい。えーと、ガチャから生まれるアシスタントカードとしては平均的な」

「私たちにその基準が分からないので説明して下さい。少なくともこちらの……あなたの先輩になるかもしれないリョーマさんは把握していないので」

「うむ」


 事前にリョーマに確認できたアシスタントの情報はほとんどなく、表面的な事しか分からない。せいぜい、ペットやワーカーと同じように拠点内でのみ活動できるユニットというくらいだ。

 神様に質問しても良かったが、数回説明した段階で把握を諦めた。ペットはまだマシだが、カテゴリごとに知るべき情報が多過ぎて質問フォームで確認するのは無理があるのだ。何十回かかるか分からない。

 それならば、専門家っぽいヤツに直接聞いてみるのが一番早いだろう。なにせ、本人なのだから。


「基本的な事からで良いのでしょうか? 時間などは」

「はい。時間は気にする必要はありません」


 ドスケベという単語に気をとられ過ぎて、俺の意識はダンジョンから離れてしまっている。この問題をどうにかしない事には、大きなミスを誘発してしまいかねない。また、ディディーのような敵に遭遇した際に弱点が膨張しているのは危険だ。


「なら……そうですね。一番分かりやすいのはコレでしょうか、ちょうど誰かが探索しているようですし」

「探索?」


 何の話かと思ったが、確かに今、モブ夫たち三人は< 修練の門 >のチケット回収ループ中である。その事を言っているのなら、少なくとも彼女……というかアシスタントは探索状況についてリアルタイムで知る能力を持つという事になる。


「では、まずコレをご覧下さい!」


 彼女がそう言うと、突然宙空ウインドウが表示された。かみさまが時々出すものよりも画面が大きく、テレビ換算でも大型として扱われるようなサイズだ。そこに映されているのは変な格好をしたマネキン二人と宙を漂う機械である。


「……モブ夫?」

「この汎用ユニットはもぶおさんと言うのですか。これは現在攻略中のダンジョンをリアルタイム中継しているものです。基本的に神々の権能でも外部アクセスできないようにセキュリティ設定されていますが、アシスタントはこれを基本機能として使用する事ができます」

「…………」


 やばい。想定以上に有能だった。この時点で使い道が色々思いついてしまう。その上、これが基本的なものだと考えるなら他にも色々できるのか。


「……視点は?」

「自由に切り替えられます。探索済の範囲のみなので、前方からは映せるとは限りませんが……探索済みたいですからここは映せますね」


 そりゃ< 修練の門 >の第二層か三層だろうからな。嫌になるくらい探索してる。

 どうやっているのかは分からないが、画面上の視点は非常に滑らかにグルグルと移動していた。正直、この解像度とフレームレートでFPSしたいくらいだ。そこで気付いたが、音声も拾っているらしく、モブ夫たちの足音が聞こえた。


「まさか、通信できるのか? あと、過去の場面を見れたりとか」

「それはどちらもオプションになります。今のところはリアルタイムの映像を拾って映しているだけで、音声も一方通行ですね」

「オプション?」

「アシスタント専用の追加カード類にそういう機能を持ったモノがあります。いえ、アシスタントに限らないですが」


 リョーマを見ると首を横に振っていた。どうやら知らない情報らしい。


「マスターが保有しているカード……あれ、少ない? えーと、< ペット病院 >などはペットカテゴリ専用のカードですね」


 あれ、ペットカード専用カードだったのか。使う機会がないから知らんかった。だって、リョーマ病気も怪我もしないし。


「他には、私と同じアシスタントカテゴリにインストラクターというカードも存在しますが、彼らは< 訓練所 >系列の施設などでユニットを訓練させる機能などを持っていたりします」

「なるほど。ちなみに、さっき言っていた機能はどういうカードがあれば実現可能なんだ?」

「あれ、敬語キャラ……」

「ちょっと素に戻った」


 ただのノリだし。煩悩が溜まるとキャラが不安定になるのだ。


「色々ありますが、分かりやすいのはベースカードの< コマンドポスト >などでしょうか。その追加スロットに私を配置して頂ければダンジョン中継に関してはほぼ網羅できるかと」

「ユニットを直接配置可能なベースカードがある……いや、確かにもうあるな」


 < アクアリウム >などは正に水棲系のペットを配置するベースカードだ。視覚的要素以外に意味などないが、これも専用みたいなものか。

 いや、ペットゴブリンはセットできるからもうちょっとジャンルは広いか。まあ、セットするカードが限られるという意味なら同じだ。


「ベースに配置する機会が一番多いのはワーカーですが、私たちもそういう機会は多いかと」

「ワーカーってそういうカードなのか。ちなみに、< ゴブリン・ワーカー >ならどんな使い道がある?」

「えーと……こ、鉱山奴隷とかですかね? 参考例の一番上に記述が……」


 すごく辛辣な評価だった。単純作業くらいしかできない役立たずだと。俺も同感ではある。


「あ、農園とか」


 あまり変わってない。どちらも中世で奴隷さんたちが従事させられた仕事である。というか、今だって似たようなところはあるだろう。


「ただのワーカーだとやれる事は限られるので、自ずと使い道も限られてしまいますね」

「……まあ、ある意味履歴書よりもよっぽど残酷な情報を把握してるわけだしな」


 経験を積める以上まったく伸び代がないなんて事はないが、強化値や追加スロットの差が大き過ぎる。


「その点、私はユニークカードでもありますし、本来なら強化値が必要な能力も素で持っているので幅広い育成が可能ですよ」

「本来なら強化値が必要な能力って、こういう中継機能とか?」

「コレはアシスタントが基本で持っている能力ですね。……えっと、一番分かり易いのは言語能力とかですかね、ユニークじゃない方は喋るのにも強化が必要ですが、私たちはデフォで持たされています。この容姿や衣装もそんな感じです」

「そうなのか」


 確かにリョーマは強化の結果、話せるようになったみたいだしな。

 その点、この子の強化値は空のままだ。なのに、モブ夫たちと違って顔も体の特徴も普通にある。なんなら名前もそうだろう。方法は分からないが、これを汎用カードの強化で再現するのはかなり厳しい事は分かる。

 実を言えば、セットした瞬間、この子が全裸で登場する事を期待していたのだ。カードイラストの時点で服を着ていたからそんな気はしていたものの、結果としてエロくはあるが局部は見えない感じの衣装を纏っての登場だった。まあ、これはこれで目に毒ではある。

 衣装はともかく、アシスタントとしての能力に加えてユニークである故の追加能力があると。汎用カードに比べて明らかに優遇されてるな、ユニークカード。


「あ、あの……こちらからも質問してよろしいでしょうか?」

「ああ、どうぞ」

「さきほどから色々チグハグな印象なんですが、マスターは使徒になられてから一体どれくらいなんでしょうか?」

「そういう情報はないのか? チグハグってのは良く分からんが、俺が使徒になってからまだ一ヶ月弱だ」

「……は?」


 あかりの眼が点になった。


「なんかおかしい事言ったか?」

「ああ、その……いえ、確かにおかしくはないですね、はい。……そっか、マスターは異様に強運なのですね」

「変な運とは言われているが、強運な自信はまったくないぞ」


 あんまり言われた事がないし、正直俺も思ってない。変なモンは沢山出るが、望んだもんが出ないんじゃ。


「ですがその……自分で言うのもなんですが、ユニークカードってそうそう出るものではないんです。加えて、現在の所有リストにはデータベースにないカードもいくつかあって……。それどころか、私が知らないカテゴリのものまでありました。普通の人が十万回ガチャを回してもこんなのは出てきません。いえ、レポートにある事前の試行回数と傾向を考えればそれでも……」

「…………」


 色々おかしいと言われている俺の運だが、そんな確率を引き当てているのか。


「ピックアップでユニークは色々紹介されてるだろ。少なくともその分はあるはずじゃないか?」

「ああ、私もピックアップで当てたんですね。それなら納得……です? イベント関連は自動生成で事前テストされていないという話なので、無理やり納得できない事も……」

「いや、お前はゴブリンガチャの十連で出てきたんだが」

「おかしいですよっ!? どうなってるんですか、その運っ!?」


 変だ変だとは言われ続けてきたが、ここまで真正面から言われたのは初めてだ。これまで淡々と反応されていたのは、相手が神様とかだからなのだろうか。


「といってもお前、レアリティとしてはレアだろ? 下から三番目のレアリティの中でレアなだけじゃないのか? それだって確率的に渋いのはかわらんが」

「確かに、もっと上のレアリティのユニークよりは出易くなってはいますけど。……明確な基準はありませんが、ユニークってそれだけで大体三つ四つ上のレアリティを引くようなものなんですが」

「レアの四つ上ってレジェンドやがな」


 むしろそこが上限である。いや、隠しレアリティがあるのかもしれんが、少なくとも現時点では開示されていない。


「あ、すいません。レジェンドは別で。……とにかくそういう確率って言われてました。だから、実際に運用される事になっても数年は出てこないだろうと想定されてました」

「というか、ピックアップ含めたらお前二枚目のユニークカードだぞ」

「二枚目!? え? でも、カードリストには……」

「神様に売った」

「売った!? わ、私も売られるのでしょうか」


 ……どうするか。いや、まあこれだけ情報ペラペラ話すヤツを手放す気はないんだが。汎用のアシスタントと比べてどうだかは知らんが、多分有能なんだろうし。


「神様が言うに、ユニークには異世界情報が含まれている可能性が高いらしくてな。そういうのは基本的に譲渡したほうがいいんじゃないかって話」


 今回だって、どんな面談結果になろうが神様に報告はする。というか確実にバレるだろう。負け犬と違ってセットまでしたのは、どれだけドスケベなのかを確認したかったというのが大きい。

 ……負け犬さんは、今頃どんな事をされてしまっているのか。


「ああ、それなら問題ありません。私、純ガチャ産なので。運用テスト時点でデータベースにも登録されてました」

「そうなのか」


 神様に報告しても不要って言われる対象って事か。


「じゃあ、お前に聞けば登録されているユニークにどんなのがあるのかも分かると」

「はい、たとえばですね……あれ? 情報開示レベルが足りない? ……ってLv6ってどういう事? ああいえ、そういえばこのマスター変なんだった」

「おい」

「す、すいません。この情報レベルだと開示できる情報がなくて。……あ、私の妹のひかりちゃんなら」


 その妹もドスケベなんだろうか。


「固有の設定を持つユニットだから妹がいるのか。どんな?」

「会った事ないので知りません」

「お前、色々大丈夫か?」

「だ、だって、話していい情報と禁止事項がごっちゃになってて。ひかりちゃんと姉妹なのも設定だけですし。そもそも、私今生まれたばかりですし」


 しばらく出てくる気配のなさそうな妹設定のキャラの情報とか別にいらないし。


「じゃあ、話題を変えよう。他にも色々聞きたい事はあるが……さっき、レジェンドはレアリティの中でも別格的な事を言っていたが、どういう意味なんだ?」

「レジェンドはその性質上、すべてユニークなんです。最上位のレアリティであると共に、二番目のウルトラレアとは更に数段階差があるような扱いでして」

「ほう、つまりレジェンドなら無強化の< 棍棒 >が当たったりはしないと」

「そりゃ仕様上はウルトラレアでもそういうモノは出ますけど、そんなのよっぽど……まさか、出てしまったんですか?」

「……うん」


 記念館に煌々と飾られている。飾ってみて分かったんだが、アレ、レアリティによって飾られる台に違いがあるんだよな。めっちゃ豪華なの。でも飾られてるのは< 棍棒 >。

 おい、俺をそんな宇宙人を見るような目で見るな。


「すごい。ガチャの使徒さんが運用するって話で、きっとすごい方なんだろうなって思ってだけど、ここまでとは」

「あんまり嬉しくない褒められ方だな、おい」

「……ひょっとして、あちらのリョーマ先輩もなにかすごい能力が?」

「アレはただの喋るチワワだ」

「チワワである」

「……どういう事なの」


 そんなものは俺が聞きたい。




-2-




「話を戻しますが、この面談は神様に譲渡するかどうかを確認するためのものだったという事でよろしいのでしょうか」

「違うぞ」

「……違うんですか」


 そんな事を聞くために変な面談ごっこをしたわけじゃない。気になるのはもっと別な事だ。


「マスターは一体、アシスタントに何を求めていらっしゃるのですか?」

「求めていたのはシンプルな事よ。エロスだっ!!」

「あ、はい」


 何故、そんな呆れた目をする。ドスケベが。


「ま、まあ、アシスタントというかユニットに対してプレイヤーがそういう邪な感情を持ったりする事は想定されてましたけど。……で、でも駄目ですからねっ!? そういうのは職務外なんですっ!!」

「何を言うか、このドスケベが」

「誰がドスケベだーーっ!!」

「え?」

「……え?」


 どういう事なんだ?


「ちょっと待て。……色々考えるから」

「あの……さっきからマスターのキャラが安定しないんですが、どういう事なんでしょうか、リョーマ先輩」

「ウチの御主人様は今ちょっと不安定なのだ」


 失敬だな。ちょっとどころじゃなく不安定だぞ。自覚症状もある。


「よし、ちゃんと筋道立てて説明しよう。ドスケベなあかりさんならノリで理解してもらえると思って色々端折り過ぎたようだ」

「いや、だからど、ドスケベとか……ないですってば。ひょっとして衣装見て言ったりしてます?」

「非常に現実味のないエロス溢れる衣装だとは思うが、そこじゃない。イベントでコスプレイヤー見て我を忘れるような事はないしな」


 単純に露出度というだけなら九十九柚子という上位互換がいる。あいつは男の俺に一張羅のパンツを渡そうとしたのに、別に俺は襲ったりはしていない。むしろ襲われた側だし、変態行為はしているかもしれないが。


「あかりさんは美少女だし、体付きもエロいが、そういった事でもない」

「ど、どうも……」

「だがしかし、設定としてドスケベ認定されてるなら期待するのが男というものだろう!!」

「だから、何をどう勘違いすればそうなるんですかっ!?」

「< ドスケベ清純派アシスタント あかり >のどこを勘違いしろってんだよっ!!」

「だれがドスケベかっ!! 清純派っていうのも良く分から……あれっ?」


 必死に反論していたあかりの動きが止まった。


「……ちょっと待って下さい。さっきのドスケベ清純……えーと」

「< ドスケベ清純派アシスタント あかり >だな」

「……それは一体どこから生まれた言葉なんでしょうか?」

「どこからって、お前のカード名だろう」

「…………え?」


 今更何を言ってるんだ。リョーマだって自分のカード名は把握してたぞ。その手の知識を持つアシスタントなら当然知ってるはずじゃない……のか?

 ……あれ、なんか急に顔が真っ赤に……というか全身真っ赤になっちゃったぞ。


「な、な、ななななな、なんじゃこりゃーーーーーっ!!!!」


 そして噴火した。


「え、ちょ……え? どういう事なの?」

「どうもこうもない。ほら、良く見ろ。ちゃんと書いてあるだろ?」


 俺はウインドウを開き、アシスタントゾーンにセットされている< ドスケベ清純派アシスタント あかり >を見せつけた。


「……< ドスケベ清純派アシスタント あかり >」

「リピートアフターミー」

「< ドスケベ清純派アシスタント あかり >……って、何言わせるんですかっ!!」

「自己紹介だな」

「違ーーーうっ!! いや、違わないのか……でも……えぇ……」

「というか、お前は自分のカード名を把握してないのか」

「……すいません。まさかこんな謂れなき誹謗中傷の如き名前を付けられるなんて」

「本当に謂われないか? 魂に誓って?」

「……清純派はあってる、かなー」


 それはむしろどうでもいいんじゃ。


「じゃあ、解説文も何が書かれているか知らないって事か。いやまあ、目の前にセットされてるカード読めば分かるんだが」


< ドスケベ清純派アシスタント あかり >

 分類:ユニット/アシスタント/ダンジョンオペレーター

 レアリティ:R

 強化値:☆☆

 性格:ドスケベ

 追加カードゾーン

 イクイップゾーン:[ ][ ]

 スキルゾーン:[ ]

 解説:あくまで清純派を気取るムッツリドスケベなアシスタント。

 ダンジョンオペレーターとしての格は並程度。お触りは禁止である。


 強化+:ドスケベ+/《 ミニサイズ 》

 強化++:ドスケベ++/《 ジャストフィット 》

 強化+++:ドスケベ+++/《 マイクロサイズ 》


「えーと……こ、これは一体……。なんですか、このドスケベ+とか、ミニサイズとか。どんな強化方針ですかっ!?」

「いや、まあそれは別にいいんだ」

「全然良くないんですけど!?」

「問題はここまでドスケベ強調されてるのにお触り禁止ってどういう事だって話でな。お前純情な青少年発狂させたいんか?」


 生殺しもいいところである。今の段階で結構プルプルしてて目に毒なのに。


「お触り禁止? ……どういう意味なんでしょうか」


 しかし、それすら良く分かってない有様だった。俺はどんなペナルティがあるのか不安だから触れないように気をつけているというのに。

 それともまさか、踊り子さんには極力触れないで的な漠然としたマナーを喚起した文だというのか。


「本人が知らないんじゃ確かめるしかないな」

「え、ちょ……マスターのエッチ!!」

「エッチなのは否定しないが、何があるか分からんからとりあえずそっちから触ってみろ」

「あ、はい。えーと、どこ触りましょう?」

「なんでこの展開で股間を凝視するんじゃ。別にそこでもいいが」

「ぎょ、凝視なんてしてないです!! え、えーと、失礼して……」


 あかりはその指先を伸ばし、俺の上腕部に触れようとした。


「あ、あれ? 触れない?」


 しかし、その指先は俺の体に触れず、そのまま埋没……というか、擦り抜けた。


「なるほど、つまりお触り禁止というか、そもそも触れない系か」


 やっぱり生殺しじゃねーか。

 あかりは不思議そうに腕が俺の体を通り抜けるのを見て遊んでいる。


「つまりホログラムかなんかって事なのか?」

「す、すいません。自分でも良く分からなくて。私自身としてはここにいるって認識なんですが」

「……ちょっと待て。ひょっとして、服を脱いだりも」

「な、何言い出すんですか!? ……いや、あれ? どうやって脱げば……って、自分の体には触れるのに、服は擦り抜ける」

「つまり、セルフ揉みなら可能と」

「や、やりませんからね!? 命令とかしないで下さいよ! マスターの権限は重いんですから!?」


 その発言は自爆ではないのか。それともまさか、押すなよ的な意味で命令しろという事なのか。


「まあ、触れないならいいや。色々叫んだらテンション落ち着いたし」


 大体予想通りの結果だったという話なのだ。アシスタント能力自体が極めて使えそうっていうのが確認できてしまったのがメリットでありデメリットだな。長い事処理してない状態で、こんなのがウロチョロしてたら頭おかしくなりそうだ。


「色々不可解なようだが、創造主様に直接聞くのが早いのではないかね?」

「リョーマが正論だな。さすが犬なだけはある」

「まあ、人間の全裸とか見てもなんとも思わんしな。そもそも私が全裸だ」


 そんなところで一旦話をまとめようと考えていたら、急にインターホンが鳴った。


「噂をすれば神が射すという事か」

「誰が上手い事を言えと言った。……多分、ユニーク引いたのを検知して確認しに来たって事かな」


 直接ここやダンジョンを見たりはできないという話だったが、ログとかは残るみたいだし。


「え、え? 創造主様がいらっしゃるんですか?」

「多分だけど、ほとんど二択だからな。あかりは顔通ししないとまずいだろうが、リョーマはどうする?」

「< 武装実験場 >に避難する。後輩よ、漏らさないように気をつけるのだぞ」

「リョーマ先輩もそんな冗談を言うタイプなんですか!?」


 いや、単純に自分の体験から警告してるだけだろう。




-3-




「あ、留守じゃなかったんですね。今日はちょっといい話を持って来ました……よ?」


 リョーマが避難した後、ドアを開けるとそこには予想通り神様がいた。しかし、その反応は予想と違い、あかりを見て目が点になっている。


「ん? 間違えました? って、使徒さんがいるんだからそんなはずないし……どちらさんですか?」

「ウチの新アシスタントなんですが、コレが用件だったわけではない?」


 この反応だと、ユニークが当たった事を検知して訪問しにきたわけじゃなさそうだな。


「ではないです。でもそれ……ユニークカードですか? 相変わらず無茶な運してますね」

「ユニークです。ちょうどいいといえばいいので、紹介を」

「…………」


 しかし、あかりは正座したまま動かなかった。漏らしはしないが、気絶しやがったのか。触れないから揺する事もできん。

 まあいいや、放置で。


「本人は喋れないみたいですが、どうしたもんかと思って。完全にガチャ産らしいですが、ユニークですし」

「< 負け犬 >みたいに引き渡しするかって意味なら、特に必要はないですね。言った通りガチャ産みたいですし。アシスタントならこれまで質問フォームでしていた内容なら問題なく回答できるはずですし、探索の役にも立ちますから上手く活用して下さい」


 やっぱりその程度の事なら直接確認できるのか。探索の役に立つと明言されてしまったし、難儀な話だ。


「あの……ユニークを引いたりとか、結構ヤバい強運だ的な事を言われたんですが、神様の反応は変わりませんね?」

「んー、といっても使徒さんですからね。例の< Uターン・テレポート >なんてそんな比じゃないですよ? レジェンドを当てたっていうほうがまだありそうです」


 そんな確率引き当てたのかよ、俺。それじゃユニークとはいえレアなこいつじゃ反応しようがないな。


「それで、コレが用件だったわけじゃないとすると、一体何の……」

「あ、はい。使徒さんの報奨に関しての相談です。前に第十層を目指すモチベーションになるようなご褒美が欲しいって言ってたじゃないですか」


 それで吉田さんに会いに行ったりしたのだ。結局、第二ダンジョンが出るならそれでいいかなって事になったが、おまけでミッション機能が追加されたりもした。まだ暫定版だが。

 それで終わりかと思っていたが、やっぱりこの生活を改善してくれるとかそういう話なのか。モブ夫たちの自動化が進めば、そろそろ最低限の環境は整いつつあるぞ。トイレはニーハオだし、風呂はないけどな。


「使徒さんが第二ダンジョン追加で納得してるならそれでいいかなーって思ってたんですが、モンスターの出ない採集系ダンジョンになってしまったので、目的と合致しないなと」

「まあ、そうですね。肩透かしってレベルじゃなかったです」


 モンスター出ないから実績解除もしようがない。結局、ゴブリン塗れの< 修練の門 >に逆戻りして、先日の極寒体験だ。ロクな目に遭ってないな。


「加えて、使徒さんの待遇について管轄外からゴチャゴチャ言ってくる神々もいるわけです」

「前も言ってましたが、そんなにいるんですか?」

「数としてはそれほどでもないんですが、別管轄に口出してくるのって大抵権限が上の方の神なんですよね。チミチミ、君のところの環境は問題あるんじゃないのかねって感じで」


 問題あるのは確かだと思うが。とりあえず目に付いたから突っ込んでみました的な感じがする。

 そういう人って、指摘したいだけで改善させたいって気持ちはないもんだろう。


「というわけで、私としても色々考えてみたわけです。使徒さんのモチベーションは大事だと思っているので」

「でも、ガチャ周りは極力手を出さず、生活環境は自力でなんとかって話でしたよね?」

「そこら辺はちょっと手を出したくありませんので、現状維持って事でお願いします」


 やっぱり、生活基盤は変わらんのか。


「じゃあなんですか? 給料貰えるとか? 使い道ないから意味ないですけど」

「現金調達は面倒ですけど、寄付したり、ご両親に仕送りしたいとかなら別に構いませんが」

「いや、多分実家はそんなに困ってはいないので結構です」


 いきなり説明不可能な入金されても親父が困るだけだろうし。額によっては脱税で逮捕されてしまうかもしれん。


「給料は置いておくとして、そんな感じで検討を重ねていたんですが、別のところから声がかかりまして。こんなものを」

「……なんです、それ」


 神様が取り出したのはカードのようなものだった。サイズが全然違うので、多分ガチャチケットではない。どちらかといえばキャッシュカードとか、そういう財布の中に大量に入ってそうなカードだ。


「いわゆる体験チケットですね」

「ああ、試供品的な。なんかの新規展開サービスとか」


 それで気に入ったら利用して下さい的な。良くある話だ。


「いえ、これ自体は実績のあるサービスで、他のところの使徒が良く利用したりしてるみたいです」

「別の使徒とかあんまり想像つかないんですが、なんのサービスなんですか?」

「風俗です」

「めっちゃ下世話!?」


 使徒とか呼ばれる奴らのご褒美が風俗なのかよ。想像付かないどころか、むしろ親近感湧くわ。


「あくまで一例ですけど人気あるんですよね。使徒さんは、人間だった頃は風俗とか行ったりしてました?」

「営業だからって事もないですが、付き合いなんかでそれなりに。偶に地方に行った時なんかは現地の店に連れていかれたり」


 奢ってくれたりはあんまりなかったが、そこそこいい店を紹介してくれたり。あの手の店は当たり外れが大きいので、そういう情報は割と重宝するのだ。紹介してくれた人の性癖がモロに出る店とかはあまり参考にならないが。

 おばちゃんしかいないキャバクラでも、アレはアレで面白かったりはするし。


「前に性奴隷を用意しようとした時は駄目な感じでしたが、こういうのは使徒さん的にどうですかね?」

「目が死んだ相手とかこっちがダメージ受けるだけなんでノーサンキューですが、割り切った関係は大好きです。問題はどこら辺まで許容されるサービスなのかですけど」

「提供してるのは性風俗の神なので、サービスに関しては満足できるもののはずです。これは体験チケットですから、指定しなければ軽い感じのサービスから順に一通りって感じですかね? あくまでスタンダードなもので、異常性癖系はカバーしてないと思いますが」

「異常性癖とかノーサンキューで」


 こういうのは普通でいいのだ。わざわざそんな横道に逸れるような性癖を持つほどノーマルに飽きてないし。


「まあ、とりあえずお試しって事で。良ければ特定階層ごとの報酬にしたり、ガチャに入れるなりしますので。はいどうぞ」

「……これはどうやって使えば?」

「使うって念じるか、多分ガチャ太郎ウインドウのスキルゾーンにセットしても発動して転移するはずです」


 どっか行く系なのか。まさか、また世界の狭間に飛んだりしないだろうな。……別の神様のサービスっていうなら、世界は同じなんだろうが。


「帰りは?」

「自動帰還ではないので、向こうの案内に言えば戻してくれるかと。結構広いので一日くらいかかるかもしれません」

「え、行った事あるんですか?」

「パチンコの連中が接待に使ったりするので、連れられて見学に行った事はあります。まあ、そういう店ばかり集めたアミューズメントパーク的な? マスコットとかいなくて女の子ばっかりですけど」


 俺の中での神様像がどんどん下世話なイメージになっていくな。まったく問題ないが。


「まあ、これで駄目でも色々他に考えておきますんでー」と言い残し、神様は去っていった。後にはカードを手にした俺と正座のまま気絶したあかりが残された。

 なんとなく、この衣装なら下から覗き込めば下乳拝めるかなと、這いつくばってみたりしたのだが、ギリギリ頂点が見えない感じで余計モヤモヤするだけだった。

 このモヤモヤは発散しなくてはいけない。



「リョーマ、神様からご褒美もらったから遊んでくる。最長で一日空ける事になるから、その間モブ夫たちは無理しない範囲でチケット周回か訓練させといて」

「なんだか良くわからんが承知した」


 避難していたリョーマにそう言い残し、俺はチケットをスキルゾーンにセットした。当然のごとくイクイップゾーンは空である。つまり全裸の吶喊だ。














-4-




 (*´∀`*) (*´∀`*) (*´∀`*)

 (*´∀`*)(*■∀■*)(*´∀`*)

 (*´∀`*) (*´∀`*) (*´∀`*)




-5-




「それで、どんな感じだったのかね?」

「俺は真の桃源郷を見た」


 翌日、限界まで堪能した俺は、感想を求めてきたリョーマに対して返答していた。まるで時間が飛んだかのような、極限の密度でのサービス攻勢だったのだ。

 とても言葉では言い表せない。画像ではもっと言い表せない。そういう人智を超えた、正に神のアミューズメントパークである。もし説明しようとしたら、究極のメタ存在が邪魔してくるだろうという確信さえある。危険だ。


「あ、あの、結局私気絶してて良く分からないまま一日過ごしてしまったんですが、マスターはどこに行っていたんでしょうか?」

「お前の好きそうなアミューズメントパークだ。拠点内でしか活動できないお前をつれていけないのは残念だが、そこは使徒の特権という事で勘弁してくれ」

「は、はあ……」


 究極の賢者モードたる今なら、あかりのエロ衣装を見ても特に湧き上がるものは感じない。最高のタイミングで最高のご褒美だったと言えるだろう。正しく神がかっている。

 動く度にプルプル震える物体にはつい目を引かれてしまうが、それによる煩悩メーターの上昇も些細なものだ。


「というわけで、俺はなんとしてでも第十五層にたどり着かなければならない。それを達成したら次は第二十層だ」


 そこに次の桃源郷が待っているのだ。


「それは元々変わらんと思うが」

「自制しないと、今のままの装備でも第十一層に再度吶喊してしまう勢いなんだ」

「それは止めておいたほうがいいと思うが」


 普通に凍死するからな。分かっていても自制が難しい。そういう心理状況なのだ。


「とりあえず、モブ夫たちが周回で稼いでくれたチケットでガチャ回してから、手持ちのカードでできる事の確認だな。あかりが何できるのかも確認しないといけないし」

「は、はい、よろしくお願いします」


 あかりは半分ホログラム的な存在だから、モノを持つ事ができない。筆記用具が持てれば、ダンジョン中継を利用してマップを作成する事も可能なのだが、そのために俺かモブ夫かモブ次を拠点に残さないといけない。

 どうもオプションで自動マッピング機能などもあるらしいのだが、デフォルトの今は極力人力でカバーする必要があるのだ。


「当面は第十一層以降に向けた準備。第七層から十層の十六魔将を狙ってもいいかもな。実績ボーナスで何か有効なモノが手に入るかもしれん。そうすれば、九十九姉妹を保護する前にもう一回……無理かなぁ。でもなぁ……無茶すれば行ける気がしないでもないんだが、ガチャ次第なんだよな……」


 脳はすでに次の桃源郷に向かって暴走を始めていた。




「あ、あの、リョーマ先輩。マスターは大丈夫なんでしょうか、色々」

「問題ないというか、良くある事だからな。なんなら、外部からの誘導や制止すら必要ないだろう。あれで自己解決に長けている御主人様だからな」

「は、はぁ……本当に大丈夫かな」







放送出来ません。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[良い点] る [一言] 活動限界につき作品創作をおやめになる事今知りました。想像もせず突然の事で驚きと悲しみにくれております。無限。大好きでした。止まってからも何度も読み返し再開を心待ちにしていまし…
[一言] 頑張れガチャ太郎 桃源郷パワーで20層もスピード攻略だ
[一言] ちょ。待って。おいていかないで。 本当にありがとうございました。 勇気を頂いておりました。
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