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第二十九話「仕様の穴と世界の穴」

マジでロクなのがいねえな。(*´∀`*)




――それは奴から始まった。


 < 修練の門 >第一層フィールドボス ゴブリン十六魔将第一席 睾丸破壊のディディー。

 俺の行く手に突如出現した、執拗に金玉のみを狙い続ける狂気の戦闘マシーンである。その身は矮躯であるゴブリンの中でも更に小さく、戦闘力は並のゴブリンと変わらないが、戦闘スタイルだけで対峙する者を恐怖に陥れる悪夢の存在だ。儀式によって復活しかけたり、早過ぎた肉巨人になってもその本質は変わらないという、謎の執念で動いているゴブリンである。他の十六魔将からも嫌われているらしい。


 < 修練の門 >第二層フィールドボス ゴブリン十六魔将第六席 掟破りのイザー

 フィールドボスでありながらフロアボスの戦闘に隠れて乱入してくるという掟破りの存在。あまりにも唐突な出現に驚愕させられる事は間違いないが、それを乗り越えてしまえばただのゴブリンである。

 こいつの何が卑怯かと言われれば、フロアボスが侵入者を待ち構えているというのに、自分はのうのうと隠し部屋で待機しているというところだろう。きっと、侵入者が強者だったら隠れたまま出てこないに違いない。


 < 修練の門 >第三層フィールドボス ゴブリン十六魔将第五席 悪質なプロップ

 背後から忍び寄り、落とし穴に飛ばすという悪質なタックルをかましてくる卑怯な存在。いつの間にか倒してしまっていたが、不意打ち、落下、モンスターハウスと酷い目に遭わされたのは記憶に新しい。

 別にこいつでもなくとも十六魔将ならこれくらいやってくるような気がしないでもないが、それはそれとして卑怯さを前面に押し出している事には変わりない。きっとこれまで数多の選手生命を奪ってきた事だろう。


 < 修練の門 >第四層フィールドボス ゴブリン十六魔将第十二席 放送出来ないエクス

 存在そのものが発禁モノなのか、正体不明のゴブリン……多分ゴブリンである。別に強くはない。

 存在も行動もモザイクに隠れて一体何をやっているのか分からないというのに、非常に気持ち悪い。モザイクが不自然に動いている以上、何かしているのは確かだというのがまた気持ち悪い。きっと放送出来ないような事をしているのだろう。モザイクの向こうで何もしていないと言われても信じる事はできない。

 こいつよりもむしろ、最近会った吉田さんのほうが存在自体にモザイクかけなければいけないような気がしないでもない。AVが日本基準なら普通にかかっている気がしないでもないが。


 < 修練の門 >第五層フィールドボス ゴブリン十六魔将第十四席 伸縮自在のバルン

 異様に伸びる手を鞭のように扱う、とにかく見た目のバランスが悪くて気持ち悪いゴブリンだ。リーチは極めて長いものの、懐に入ったら何もできなくなるという生物的欠陥を持つ。

 戦っている時は気付かなかったが、名鑑で確認したところ、穴が空くと破裂して飛んで行ってしまうらしい。風船か。


 おまけに< 修練の門 >第八層フィールドボス ゴブリン十六魔将第八席 腹痛のゴンベエ

 実際に会ったわけではないが、多分フィールドボス。腹痛でトイレに籠もりっぱなしだが、トイレでは強いとかそういうタイプなんだろう。トイレットペーパーを盗み出すだけで無力化できるような気がしないでもない。

 トイレから出てこないらしいから、ひょっとしたら八層まで行っても遭遇しない可能性は高い。それでいいのかフィールドボス。


 このように、一応ボスではあるし油断できない存在でもあるが、基本ネタまみれなのがゴブリン十六魔将という存在だ。少なくとも三分の一はそうだと判明している。

 そんな中現れた新たな推定十六魔将は、武器弾きという切り札を備える真っ当な強者だった。俺がそんな馬鹿なと思ったのも不思議ではないだろう。




-1-




「お前のような十六魔将がいるかっ!!」

「うおっ!?」


 目を覚ますと、そこはいつもの拠点だった。

 つい叫びながら跳ね起きてしまったが、あんな理不尽な体験をしてしまったのだからおかしくもないはずだ。


「な、何事だ、御主人様。ダンジョンで死んだっぽいのは分かるが」

「……あぁ、ちょっとな。理不尽な存在に理不尽な事をされたんだ……って、アレ?」


 リョーマに問われて思い出したが、すぐに確認しなければいけない事がある。寝起きとか言ってる場合じゃない。

 俺はあわててウインドウを開き、フリーゾーンのものも含めてカードを確認した。


「……馬鹿な。マジかよ」


 見間違いかもしれないと、何度も確認してみるがやはり"ない"。イクイップゾーンの一つが空。……現在の主力武器である< ハルバード+ >がなくなっている。


「壊れたのかね? 御主人様の体感では、まだ問題なさそうだという話だったが」

「そうじゃない。……弾かれたんだ」

「???」


 意味が伝わらないであろうリョーマに対し、六層の事も含めて一から説明する事にした。正直、俺の再認識の意味合いもある。


「なるほど……つまり、フォークやカーブばかり投げてくる相手に対して、次はどんな魔球を投げてくるのかと警戒していたらど真ん中の剛速球が飛んできたというわけか」

「何故野球に例えるのかは分からんが、そうだな。ど真ん中というよりもビーンボールだが」


 しかも、打者を仕留める気満々の危険球である。きっとヘルメットを弾き飛ばすのだ。

 ついでにいうなら、他の奴らも普通の変化球で例えてはいけないだろう。アレらはどちらかといえば、人間の限界を超えて投球モーションをエディットできる野球ゲームのピッチャーのようなものだ。縦回転しながら投げてきたりするやつ。パーフェクトなまでにボークで、メジャーな変化球どころか漫画で見かける魔球にたとえるのすら失礼に当たる。


「いやまて、実は十六魔将ではないという可能性も……」


 ネタまみれの中に正統派が混ざっているから違和感があるのだ。アレが単独で存在しているフィールドボスか何かだったら、俺だって納得はできる。

 倒していないから詳細は不明だが、エンカウントした時点で名前だけはモンスター名鑑に記載されるはずだ。いちいち十六魔将に席次までつけられているのだから間違えようもない。


「……思いっきり十六魔将じゃねーか」


 しかし、そこにはゴブリン十六魔将第三席 豪腕のマッシという名前が追加されていた。

 なんという違和感。それともまさか、これは緩急を利用した奴らの策謀だというのか。馬鹿な、ここまでネタまみれな奴らの中にまともな強者がいるはずがない。きっと、こいつも何かしらネタ的な……。


「いや、奴がネタ存在であるかどうかは別にいいんだ。実をいえば関係ない」

「関係ないのかね?」

「ゴブリンの中にオーガが混ざっているようなもんだが、違和感で気持ち悪くなるくらいで、それ自体に問題はないからな。今回の問題はそんな事じゃなく、あの武器弾きだ」


 ぶっちゃけ、奴自体はそこまで強いというほどでもない。いや、強いには強いが、敵わないと感じるほどの相手ではない。普通にボスクラスではあってもそれ以上ではない。

 慣れない環境、疲労、直前に受けた心理的ダメージや召喚トラップによる混戦で混乱気味ではあったが、そんなマイナスしかないような状態でも普通に戦えてはいたのだ。ある程度でも手の内が判明した以上、次やれば確実に勝てる……とまで自信は持てないが、勝算は普通にあると思う。


「実をいえば、武器弾きや装備解除自体はあると思ってたんだ。ただ、こんな早く出てくるとは思わなかっただけで」

「何か根拠でも?」

「ゲーム。全部が全部リアルに落とし込めるはずはないが、参考にしているのがそういうものである以上、可能性だけは警戒しておくべきだろうってな」


 武器弾きも、俺の知っているゲームの中に存在していたシステムだ。そのまま後ろの敵にぶつかって消滅した事だってある。思わず絶句するような仕様だ。


「大体、結構悪辣なトラップまで用意しているこのダンジョンで、装備のロストが全損だけっていうのは優し過ぎる。一度手に入れれば対策もなしに壊れるまで使い続けられるわけがない」

「確かに。使えるかは別にしても、武器自体は結構出てるしな。お気に入りだけを長期間使い続けるなら、他はただの飾りになりかねない」

「そういう思惑もあると思う。ただ、それはもっと後の事だと思ってたんだよな。結構ハードになってきたとはいえ、チュートリアルに毛が生えたような段階で出してくるものじゃないと思うんだよ」


 タイミングとしては、ある程度武器が確保できてその中で最もいい厳選装備を使い始めた頃。そういう時にロストの悲しみを与えるために配置するのが一番心理的ダメージが大きいのではないだろうか。

 ……なんで俺が自分自身のダメージが大きくなるような設定を考えているのか分からんが、大きく的外れというわけでもないと思う。


「だって、貴重な武器っていってもたかだかアンコモンの武器だぞ。強化はしているが、同じ強化用マテリアルカードだってすでにあるような状態だし」


 これが何か特別な武器、なんでもいいが例えばイベント報酬のユニーク武器だったりしたら目も当てられない被害だが、アレはそういう類のモノではない。

 ロクに予備らしい予備もない状況だから引き直せばいいと楽観的に考える事はできないものの、それは今の俺の価値観からすればの話である。アレはちょっと強い武器が手に入っただけで使わなくなるような中継ぎの武器なのだ。実在したとはいえ、正直あのキテレツなコンセプトの武器を上手く使い熟せていた気もしないし。

 だからこそ、奴の存在が解せない。まるで出現する場所を間違っているような違和感だ。十六魔将の存在自体が間違っていると言われれば確かにそうなんだが、意味はちょっと違う。


「さっそくリベンジといきたいところだが、どの道準備は必要だ。奴は入念な準備の上で仕留めるとしよう」


 ムカつくのはムカつくので、草の根分けてでも探し出してリベンジしてやる。たとえ無駄に時間を喰う事になってもだ。


「武器を失ってやる気がなくなったりは?」

「……喪失感はあるが、別に」


 実はそこまで消沈しているわけではない。第六層自体の難易度が高く、攻略が困難と考えていたのも大きいのだろう。

 実体験に適用していいものかは分からないが、元々俺にこういう気質はあった。FPSやRTS、ターン制のシミュレーション、格闘ゲームなど、ジャンルを問わず俺のネット対戦の成績はそれほど良くない。

 俺は時間と回数を熟して勝率を上げるタイプで、慣れない新規のゲームはもちろん、初見殺しのような未知の戦法にも弱いのだ。加えて、一度劣勢になればそれを覆す事もできない。

 トーナメント戦よりリーグ戦。一発勝負に弱く、俺はどこまでも一般人で、未知の強者相手に勝ちを拾える勇者タイプではないという事だ。

 だから次こそはと対策する。五分五分の確率ならまず負けるから、確率そのものを上げる。そうやって平均点を上げる。

 足りない事は多いし、勢いを重視して我武者羅に突っ込む事もある。慣れてきたとはいえ痛いのは嫌なので、死亡前提の攻略もしたくない。ただ、傾向で見るなら、そういうやろうと思えば誰でもできる事を普通に熟すタイプなのである。それはゲームに限らずリアルでも同じだ。新規の客相手に契約取れた事もないし。


「とりあえず、質問フォームに投げてみるか。せっかく修正してもらったわけだし。あとは……第六層の対策だな」

「灯りと足場か。前に< 輝く竹光 >は出たが」

「武器として竹光はどうかと思うが、灯り目的の使い捨てならアリかもな。マテリアライズして」


 というわけで、質問を投げた後に< 輝く竹光 >のテストをしてみた。普通に武器としてセットして通路に出ただけだが。


「眩しすぎるわっ!!」


 < 輝く竹光 >は至近距離で目視できないほどに光り輝いていた。広い部屋に置いて灯りとして使うならともかく、武器としては無理があり過ぎる。

 背中に背負っておけば視界は確保できそうだが、それでも眩しいのには変わりない。今のところ機会はないが、めっちゃ目立つから隠密行動も難しいだろう。

 ……布か何かを巻けば……ああ、かなりマシだ。面倒臭え。


「灯り代わりの消耗品としてはギリギリ保留ってところだが、記念館行きのほうが有用な気もする」

「< ウエポン・チェンジ >を使えば目眩ましに使えそうだな」

「……確かに。問題はその< ウエポン・チェンジ >が当たらないって事だが」

「そこはガチャで頑張るしかあるまい」


 運なので、むしろ頑張っても仕方ない気もするのだが。どちらかといえば、頑張るのはチケットを稼ぐ事だ。

 < 輝く竹光 >を使用するかは別にして、とりあえず手元には残しておく事にする。


「使い回しできるライト……手が塞がるのは厳しいから、ヘッドライト付きのヘルメットとかがベストなんだがな」


 ダンジョン攻略モノの創作物で考えるなら、無難な松明、カンテラ、専用の魔法とか。人数の問題が改善されない以上、手持ちは厳しい。< 輝く竹光 >がちゃんと武器として使えるなら手は塞がらないが竹光だし。

 そもそもイクイップゾーン枠の問題もある。他の装備を外してまでそういったアイテムを装備するかって話だ。洞窟って面倒臭い。

 そういうピンポイントで有用なものがガチャで出てくる気もしない。そういう機能は持っていてもなんか違うものが出るのが俺の運だからだ。俺自身の体が光るスキルとか。……なんかそれでもいいような気もしてきた。


「ライトを持つユニットを連れていくとかどうだ?」

「まあ、アリと言えばアリだな。それ以前に、普通にライト機能ついてるマシンとかありそうだ」


 自動車だって自動二輪だって、なんなら自転車にだってライトは付いてる。なら、標準装備になっているマシンがいてもおかしくはない。

 フライングバインダーにその機能はないし、強化枠もすでにないが、そういう戦力にならないサポートユニットでも今なら十分に採用圏内だ。浮かびながらついてくるサーチライト的な。

 リョーマの言うように、ゴブリンを連れて行って灯りを持たせるというのも妥協点としてなくはない。さっきみたいに乱戦になったら死ぬだろうが、そこは諦めるとして。


「足場のほうは単に靴履けばいいだけなんだが、こっちもやっぱり枠の問題があるんだよな。< スタテッドレザーブーツ >は持ってるんだから」


 他の種族が出てくる環境なら、実績ボーナスでもう少し枠に余裕があっただろうに。大体ゴブリンが悪い気がしてきたぞ。


 そんな事を話していると、質問フォームの返信があった。ちょっと長くなるので、神様が直接説明に来るらしい。最近直接来る事が多いな。暇なのか。




-2-




「確認しましたが、仕様の穴をついた特殊例ですね」


 リョーマを避難させて迎え入れた神様は、来た早々挨拶もなしにそんな事を言い始めた。余計なやり取りがないのはいつもの事である。


「アレは一応仕様の範囲内の事ではあると?」

「はい。予め定められた仕様には沿っているようです」


 なんてこった。ゴブリン十六魔将第三席 豪腕のマッシは武器弾きも含めて仕様上問題のない存在であると。という事は、それを突いての補填は無理っぽいな。


「まず前提として、武器弾き、防具弾きなどの効果を持つスキルや特性は普通に存在します」

「まあ、あるだろうと思ってましたが」


 装備弾きはシステム上に存在すると明言されてしまった。つまり、問題はそこではないという事だ。


「ただ、出てくるのが想定していた層よりかなり早いですね。控え目に見ても第十層以前で所持するモンスターは出現しないと思ってました。というか、"まず"有り得ません」

「えーと、そもそも何が出るのかはランダムって話では?」


 ゴブリンばっかり出るから認識がおかしくなっているが、吉田さんから聞いた話によればモンスターは各層でランダムに種族が決まり、更に保有能力や特徴、武装を含めてランダムに生成される。

 階層ごとのダンジョン構成時に種族はある程度決まるものの、個々の特徴はバラバラのはずだ。しかし、それなら装備弾きスキルを持ったモンスターだって有り得ないと言えるほどではないわけで、何か別の要因があるって話なんだろう。


「自動生成されるモンスターに関しては階層ごとにメリット、デメリットのポイント制限がかけられていて、その範囲内で収まるようになっています。装備やスキル、ダンジョン内の制限や出現間隔も含めて、あまり逸脱した能力のモンスターは出現できない仕様なわけです」

「ほう」


 なるほど。攻撃力Upのようなメリットはプラス、弱点追加などのデメリットはマイナス的な計算がされていて、各層ごとにその範囲が異なると。


「ゴブリンは弱小モンスターの括りなので、種族自体がデメリット扱いになり、その分強化ポイントが多く割り振られます。とはいえ、その設定もランダムなんでポイントを使い切る事は稀ですが」

「デメリットを多く抱えたモンスターなら、強いメリットが付与される……"事もある"と」


 割とどうでもいいカードを見てきた身からすれば、多分ろくでもないメリットやデメリットもあるんだろうなと思う。そういう無駄によってランダム性が増しているというわけだ。

 デメリットを多く抱えたからといって強いメリットを持っているとは限らないが、強いメリットを持った奴は確実に大きなデメリットを抱えている。汎用はいても万能はいないって事だな。


「そうなんですが、装備弾きのような強力なメリットは第六層のような浅い層では付与されません。各メリット・デメリットに関しても階層に合わせて段階的に開放される仕組みなので。一応、ボスの類はこのポイントの枠が大きくなるよう調整されてますし、ボス専用の特徴もありますが、候補にないものは付与できない」


 浅い層ではそもそもピーキーな特徴はつけられないと。

 それは分かったが、それだけならアレはバグって事になってしまう。仕様範囲内って話だったのに。


「ちょっと脱線になるかもしれませんが、未知の特徴についてはどういう判定で?」


 ここのシステムは多数の世界から概念を収集する事を目的としている。という事は異世界から未知の概念が含まれる事は普通にあるわけで、それを事前に組み込むのは無理があるだろう。

 俺の< 幻装器手 >だって、元々は存在しない概念を形にしたものって話だったはずだ。モンスターに付与される特徴だって同じじゃないんだろうか。


「確認されて認識された時点で、既存の特徴を参考に自動採点されてシステムに組み込まれます。使徒さんは察しがいいようですが……」

「あいつは元々そういうスキルを保持していた」

「ビンゴです」


 ダンジョンに出現する以前から装備を弾くような特徴を持ったスキルを取得していて、アレはそれをダンジョン向けに最適化したものって事だ。


「つまり、そのフィールドボス……というか多分十六魔将と名付けられている存在は、スキルを含めて異世界の存在を再現したものという事ですね」

「いや、むしろあいつらがランダムに自動生成されましたっていうほうが不自然な気が」

「まあそうなんですが、それでも確証はなかったので。ですが、これで確定です」


 あいつらは異世界から来た。そのものか再現されたものかは別にしても、システムとしては意図的に呼び込んだイレギュラーという事になる。

 奴の装備弾きもダンジョンに出現する以前から保有していた特徴で、未知を再現した結果、候補にないスキルを再現してしまったわけだ。強力な特徴を持つ分、多大なデメリットも追加で付与されているのかもしれないが、仕様内には収まっているって事だ。


「第一層で復活しかけたディディーは? その仕様だと、あんなに極端なモンスターにならないだろうし、護衛の連中でさえ無理があるような」

「さあ。そもそも、あんな復活の儀式自体が想定外なので」


 つまり、仕様の枠を飛び越えてくる可能性もあるって事じゃねーか。なんなの、あいつら。


「とにかく、元々高かった彼らのユニットカードの価値は更に跳ね上がりました。サンプルとして確保したいので、頑張って手に入れて下さい。とりあえず一枚でもいいんで」


 ……そういう事なんだよな。直接の当事者でない神様から見れば、ただそれだけの話なのだ。


「あの……確証がない状況ならともかく、あいつらが異世界の存在だとはっきりした今なら神様が出向いていってゲットするというのは?」

「使徒さんが実績ボーナスを得る機会が減りますけど」

「別のボスを配置してもらうとか。というか、あいつらがいなくなるならそれでも構いませんし」


 ぶっちゃけ、あんな奴らはいないならいないほうがいい。その結果、真っ当に強い奴が配置されたとしても、使徒としての成長を鑑みればそちらのほうがいい気がする。

 ここまでイレギュラーの塊だと、ゴブリンだらけなのは奴らのせいって可能性も浮上してくるのだ。


「うーん……説明するか悩みどころではあるんですが」

「何か懸念でも?」

「多分、私……というか使徒さん以外の誰がやってもユニットカードはドロップしないと思います」

「は? ……ああ、ひょっとしてここのダンジョンが俺用に最適化されているからとかそういう」

「そういう事でいいです。実は私も確証は持ってない話なので」


 どっちやねん。……良く分からないが、俺以外だと確率が下がるとかそういう事を懸念しているっぽい……のか? 機会損失を懸念しているなら、復活の儀式を始めた奴を倒してくれるだけでもいいんだが。


「尚、これを説明すると自動的に、使徒さんが心を殺して単純作業を続けないといけない案件が舞い込みます」

「スルーで」


 興味はあっても、実害が確定しているところに踏み込みたくはなかった。


「それで話を戻しますと、いくつかのイレギュラーである事は確かですが、第六層のフィールドボスは仕様の範囲内であるという回答になります」

「なるほど」


 たしかに、これを質問フォームで回答するのは厳しいだろう。実際説明されてもかなり端折られてる気がするし。


「とはいえ、本来有り得ない事態ではありますので補填を考えています」

「あれ」


 そのまま何もなしに終了するかと思っていたのだが、何故か向こうから補填を切り出された。


「え、いりませんか? 武器揃ってないところで結構な痛手だったと思うんですが」

「ああいえ、いります。虎の子の武器を失ってどうしようかと悩んでたので補填欲しいなー」


 そこまでではないが、概ね事実である。困ってなくても補填は欲しい。


「そのまま返ってくるって話じゃないですよね? チケット支給的な話ですか? < ブロンズチケット >一枚とか」

「いえ、先日使徒さんが吉田氏と話したミッションに補填案を組み込もうかと。具体的に言えば、初回のデイリーミッションでこういうものを予定しています」


 そう言いつつ神様が取り出したのは一枚のカードだ。この神様の場合、インゴッドでもなければ大抵カードの形でやり取りするのでそれ自体はおかしな事ではない。


「……< 質屋『ロストの質流れ』 >?」


 それは、< カード記念館 >と同じくエクストラレアのルームカードだった。まさか、質に入れるから買い戻せという事なのだろうか。


「全損以外でのロスト。今回のようにダンジョン内に置いて死亡・帰還したとかそういう場合の補填策になります」

「し、質草としてロストしたモノが売られると」

「そういう事です」


 場合によっちゃ随分悪趣味な話ではある。が、基本的には俺にとってもメリットになる話だろう。今回のハルバードはともかく、失われて二度と手に入らないと思っていたものでも取り戻す事ができるのだから。

 ガチャで同じものが出るのを期待するよりはよっぽどマシだ。……対価が何かによるが。


「買い戻すにしても現金とかじゃないですよね。この前弟に財布ごとやったばっかりなんですが」

「現金じゃないです。とはいえ、無償で返還ってわけでもありません」


 最初からそれは期待していない。この神様がそんな甘いわけないし。


「ガチャの中に< 質草交換券 >を用意しましたので、同レアリティ以上の券で引き換えて下さい」


 続いて取り出したのは、< 質草交換券 >と書かれたアンコモンのカードだ。つまり、コレをガチャで引いて交換しろという事である。つまりアンコモンの質草を交換するのにアンコモンの引換券が必要なわけである。

 狙ったモノを交換できる等価交換といえば聞こえはいいだろう。


「そんな気はしてた」

「それじゃ、コレは初回特典という事で差し上げます」

「え……っ?」


 ガチャを回して万が一でも当たったら御の字と考えていたのだが、いつになく神様が優しい。まさか実は偽物とかそんな事は……。


「あれ、いりません? 報酬で用意しておいて、一度も使えない可能性があるのは問題かと思ったんですが」

「いえいえいえいえ、いります。欲しいです」

「なら、おまけにコモン用の引換券も三枚つけておきましょう」


 何故こんな大盤振る舞いなのか。困惑を隠し切れない。


「あの、多分期待しているほどにお得ではないと思いますよ?」

「え、実は何かデメリットがあるとか」

「いえ、別にそんな事は。使徒さんなら冷静に考えれば分かると思いますが」

「…………」


 ……ああ、今はハルバード+を買い戻すっていう選択肢があるものの、それは結局ロストしたものがある事が前提だ。現状ではマッシの弾き以外でロストする可能性は低く、それも初見以外では成功し辛いだろう。


「ロクな質草が並んでない?」

「はい」


 加えて、アンコモンならまだしもコモンのロスト品なんてゴミ同然だ。ノーマルカードの使い回しはできるかもしれないが、それくらいしか用途が浮かばない。消耗品ですら、使ったらなくなってしまうのでロスト扱いにならない。引換券があっても、何を引き換えろという話になるのだ。


「しばらくは渋いラインナップになりそうなので、テコ入れで回収しなかったカード類も含もうかと考えていたくらいで」

「チケット類は?」

「現状、適用外です。あまりに棚が寂しかったら検討するという形にする予定です」

「よろしくお願いします」


 チケットが駄目なら、コモンで引き換えできるモノなど< ゴブリンの腰巻き >や< ゴブリンの棍棒 >など、奴らが時々落とす装備品くらいだ。それも有用そうなものは拾っているので、並ぶのは確実にいらないものばかりである。それをガチャで出た引換券と交換って言われても……うん、マジで微妙だわ。交換対象を選択できるメリットはあっても、それだけじゃな。


「まあ、今後を見据えてという事で。ないよりはマシですし」


 強化したスーパーレアの装備なんかをロストしたら、どうにか取り戻せないか検討するだろう。保険として、高レアリティの引換券を確保しておきたいところだな。

 アンコモンの引換券をもらった以上、< ハルバード+ >は取り戻せそうだし、質屋が微妙なだけで結果は上々かな。将来的には保険として考えるならアリだろうし。

 もちろん、< 質屋『ロストの質流れ』 >をミッションで手に入れる必要はあるが、最初からいきなりクリア困難な課題は出されないと思う。




-3-




「それともう一点、今回の件とは関係ありませんが、< Uターン・テレポート >の再使用までもう少しですよね?」

「え、ああ、はい。まだちょっとありますが……早ければ明後日くらいですかね?」


 チャージに要するのは二週間。セットしておかなければいけないので少し遅れているものの、それでももう少しでチャージ完了する。コレ、結構デジタル時計として使えるのだ。

 神様的に異世界案件は最優先事項だ。当たり前だが、俺のダンジョン案件よりよっぽど重要といえる。……むしろこっちが本題かな。


「何か向こうでやってきて欲しい事があるとか」

「はい。……えっと、まずコレを」

「< 界間通信塔 >?」


 手渡されたのは、謎の塔が描かれたカード。それが三枚だ。ノーマルカードなので、そのままマテリアライズできるのだと思われる。これを持っていけと?


「それを向こうに設置してきて下さい。上手くいけば、向こうと通信……最悪でも座標特定には繋がると思うので」

「三枚なのは?」

「予備の意味もありますが、それぞれ通信方式が違います。それを最低でも10キロメートル以上離してマテリアライズして設置して下さい。なんらかの事情で作業が困難な場合でも、転移先のビル屋上には設置してくるように。簡単なミッションなので、一つにつきブロンズチケット一枚くらいの報酬を予定しています」

「それは向こうさんに説明しても?」

「問題ありません。というか、通信テストに必要だと思うので説明して下さい」


 なら特に問題はなさそうだ。期間的に向こうも移動手段は確保しただろうし、カード状態で持ち運ぶなら設置も楽勝だ。固定の必要はあるかもしれんが、そこはまあ九十九姉妹に頼むって事で。

 詳しく聞いてみれば、できれば屋外で標高が高いほうが望ましいとの事。ただ、かなり大きいのでそれは努力目標。ついでに、マテリアライズに必要なMPもちょっと多めらしい。


「前に報告しましたけど、あいつらこっちに移住を求めてくる気がするんですが、なんて回答します?」

「技術的に困難なので確約はできませんが、基本的に希望しなくても保護の方向で考えていると伝えて下さい」


 保護するのは問題ないと。技術的ハードルがどれだけ高いかは知らないが、通信できるようになったら一気に進みそうではある。コレ、通信機を含めて別のチームの案件だよな。


「ただ、ウチの日本に受け入れるのはちょっと問題がありそうです」

「そりゃ、あんな殺伐とした世界に生きてた連中を受け入れるのは多少どころじゃなく問題あるでしょうが」


 いきなり大鎌で襲ってくるような物騒な奴らを、そのまま社会に溶け込ませるのは無理がある。一応それぞれ特徴付けしているっぽいが、同じ顔が十三人ってのはビジュアル的なインパクトもでかい。実際に調べてみたら人間じゃないっぽいというのも問題だろう。研究材料にされる。


「それもありますが、同一世界に複数の同一存在が共存できるかという課題があります。多分問題はないんですが、前例もないので。原因不明の対消滅とか発生しても困りますし」


 確か二号が言っていたが、こっちの九十九花は引き籠もりやってるんだったか。別の世界とはいえ、生きている環境が違うだけで同じ存在であるならば何が起こるか分からないというのは理解できる。

 このプロジェクトだって平行世界を含む異世界の事を調査するためにやっているのだ。情報不足なのは仕方ないだろう。


「……えっと、それはまさか俺が平行世界の俺に会っても危険って事なんでしょうか」


 ドッペルゲンガー的な扱いをされるくらいならともかく、いきなり対消滅は勘弁してほしい。いや、さすがに対消滅はネタだろうが。


「使徒さんの場合はすでに使徒になっているので問題ありません。同じように、彼女たちも誰かの使徒になれば日本に行っても問題ないでしょう」

「あの、その場合でもさすがに企画モノAVの神様とかを紹介するのは勘弁してあげて欲しいんですが」

「紹介する気もありませんし、普通はお互いに合意が必要ですし」

「そうなんですか……あれ、俺って合意してないような」

「そうでしたっけ?」


 ……まあ、いいけど。今更辞める気もないし。きっと、どうにでもできる抜け道があったりするんだろう。


「神様が使徒にするってのは? 俺の後輩的な意味で」

「駄目じゃないですが、私だと枠が一人分しかないんですよね。こないだ増えてそれなので、十三人はさすがに無理があります。そこら辺は彼女たちの選択次第なわけですが、一人だけでも勧誘します?」

「……いや、やめときます」


 向こうから打診されたならともかく、立場上こちら側から言うのは問題がある気がする。第一接触者で保護者側って立場はちょっと強過ぎるだろう。どうしたって選択の自由を奪う。

 企画モノAVの使徒になりそうだったらさすがに止めるが、基本的には口出しはしない方針でいこう。


「あと、チュバ子ちゃん……あー、動画実況の神候補の子からお土産を預かってるので渡して下さい」

「チュバ子って……」

「ただのあだ名です。内輪で呼ぶのに、呼び名がないと不便な事もあるので」


 幼女二号の事か。ウチの神様はガチャ子だし、別に問題はないか。俺の事をチュバ夫に改名させようとしてたのはそこら辺からきてるんだろうか。


「あいつからって何を……あ、はい」


 神様から渡されたのは、< 玄米俵 >だった。画像だと十俵以上積まれているように見える。

 奴の思惑は分からんでもないが、明らかに取り込みにかかってるな。食料事情はある程度改善しているだろうが、それでもきちんと栽培されたモノと野生化したようなモノでは比べるべくもない。玄米なら栄養面もバッチリだし、白米がいいなら精米する手段もあるはずだ。パックご飯に泣くような奴なら、さすがに恩に感じるだろう。卑怯な奴め。


「尚、手違いで使徒さんの食料にしたら怒られます。面白そうという理由でやるなら止めませんが、擁護もできません」

「いや、やりませんけど。……神様的にこのお土産は宜しいので?」

「いいんじゃないですかね、どうでも」


 ウチの神様の反応は辛辣だった。実際、二号の意図とかどうでも良さそうだ。


「別に使徒がいるからといって昇格し易くなるなんて前例はありませんし、それは何度も言ってるはずなんですけどね」

「ビジュアル的に、九十九姉妹なら実況者には向いてるような気がしないでもないですが」

「それもどうなんですかね。同一存在であるところのこっちの九十九花は容姿で嫌がらせを受けて引き籠もってるみたいですよ。女性受けは悪いらしくて」


 実際に会った身としては、確かに有り得なくもない気はする。特に美容に気を使ってる風でもなかったのに、素のままであの容姿は嫉妬するだろう。あんまり人付き合い良くなさそうだし。

 容姿だけ良い学内カースト下位なんて、格好の虐め対象だろう。俺の知ってる九十九花なら反撃しそうだが、こっちの世界ならホムンクルスだっていないだろうし。


「それにしても、基本的に同じ存在でも環境によって随分違うんですね」


 平行世界の俺の中には完全に別人のような奴もいたりするんだろうか。神じゃなく悪魔と契約していたりとか。


「こっちの九十九花も結構な事やってますけどね。同級生の親を社会的に追い込んで自主退学に追い込んだり、当時の担任を退職に追い込んだり」

「何やってんの、あいつ」

「根っこの部分は同じって事なんでしょうね。逆境に強いというかなんというか」


 地獄のような世界を生き抜ける素養はあるって事か。俺にはなさそうな素養だが、あんまり羨ましくはないな。




-4-




 そんな感じで、神様的には九十九世界のほうが重要っぽい扱いではあるが、それは最低でも二日後の事である。

 ポストアポカリプスでスローライフ送ってる可能性が高い連中よりも、俺としてはどちらかといえば目の前の問題……場違いのマッシもとい豪腕のマッシへのリベンジのほうが重要だ。


 そのために必要なものはいくつかあるが、最も重要なのはやはり武器だろう。一応、ハルバード+は回収できると半ば確定してるものの、ミッションが発令されるのは来週頭以降、そこから課題をクリアしてとなるとプラス数日はかかってしまう。そのミッション攻略にだって武器は必要だろうし、九十九世界に行く前に奴とはケリをつけておきたいものだ。


「武器がないわけじゃないんだよな」


 一応、今回のピックアップも仕事をしてないわけじゃなく、武器はいくつか手に入れている。< アイアンソード >とか< ショートスピア >とか< アイアンアックス >とか、そういう無難な代物だ。ちなみに全部コモンである。

 代用武器として見るならアリなのだろうが、欲をかくならもう少し良い武器が欲しい。マテリアルカードもいくつか手に入れているのでアンコモンの< アイアンソード >でもいいのだ。


「< ウッドブーメラン >に< レザーウィップ >、< コンパウンドボウ >と扱い辛い武器が多いな」

「それな」


 何故か、そういう特殊技能を必要とする武器も多く当たっている。矢も手に入ってはいるし、使えば強いのだろうが、如何せんソロで弓矢は無理がある。矢をつがえている最中に攻撃される事間違いなしだ。


「武器を持てるユニットカードがあれば話は変わってくるんだが」


 近接武器でも弓矢でも、なんなら盾だけ持たせても戦術の幅は大きく広がる。もちろん連携訓練必須だろうが、ソロとは比べるべくもない。

 尤も、単にライトを持てるだけのユニットでも欲しいので、望み過ぎかもしれない。


「入場禁止制限が解けたら適当な武器持って何周かチケット集めして、ガチャに期待するか」

「あまりいつもと変わらんな」

「準備足りてねーから先の層に進むわけにいかないんだよ」


 気分的にはフリーゾーンの枠を溢れさせてでも攻略を進める気はあるのだが、その準備が足りていない。なら準備のためにチケット収集をするのは無難な流れである。というか、あんまり選択肢ないし。


「第六層でドロップしたというカテゴリチケットはやはり使わないと?」

「…………悩みどころではある」


 こうして入場制限中にあーだこーだ言っている中、ガチャを回せるチケットがあるとつい使いたくなる。効率的に考えるなら、せめて十連でまとめて使うのが良いと分かっていてもだ。


 第六層からドロップするようになったカテゴリチケットだが、鑑定の結果、これが非常に悩ましいモノである事が判明している。


 まず一枚ずつ使う場合。これは単純に指定されたカテゴリのカードが排出されやすくなるというだけだ。< カテゴリチケット(イクイップ) >なら単純にイクイップカードのピックアップガチャになる。

 これが十連になると、ピックアップ確率が更に上がる。これはノーマルチケットと同じ仕様だ。そう、このカテゴリチケット、何のカテゴリを指定してても混ぜて使う事ができるらしい。<カテゴリチケット >でありさえすれば、十連の対象として使えるのだ。

 それだけなら悩む必要はないのだが、問題は指定カテゴリまですべて合わせて十連を引いた場合。この場合、十連すべてがそのカテゴリのカードで確定するらしい。

 例えば< カテゴリチケット(ユニット) >を十枚使って十連を回せば、すべてユニットカードが排出されるのだ。特に必要としていないカテゴリもあるからなんでもかんでも合わせる必要はないものの、狙ってガチャをするには極めて有効的な手段なのである。

 そして、俺の手元には十枚以上のカテゴリチケットはあるものの、指定カテゴリはバラバラである。


「追加でカテゴリチケットを集めるには第六層に行く必要がある。しかし今必要なのはその第六層にいくための準備だ」

「冷静に考えるなら、これは保管しておいて、準備のためのチケットは別に集めるべきだろう」

「んな事は分かってる。冷静でなくとも自明の理だ」


 だがしかし、理屈ではないのである。今は待機中で、目の前に使えるチケットがあれば使いたくなってしまうのが自然だろう。加えて、第六層にいけたとしても、同一カテゴリのチケットを十枚集めるのは大変そうだというのもある。ゴブリンチケットやノーマルチケット十枚とは比べ物にならない難易度だ。絶対、後一枚足りないとかそういう事態になる。


「御主人様が切望しているユニットカードだって、十枚確定ならさすがに有用なカードは出るだろうしな」

「しかしゴチャ混ぜの十連でも、なんなら単品でも出やすくはなるんだ」


 単に< カテゴリチケット >という括りなら十枚以上確保しているから、普通に十連は回せるのである。


「それで望んだものが出ないのが御主人様の運ではないのかね?」

「……痛いところを」


 そうだ。確かに俺はそういう星の元に生まれているらしい事を実感している。ピックアップされていても、ニアミスでなんか違う珍しいものが当たるのが俺だ。

 これが対象カテゴリのカード十枚すべて確定なら……やはり変なモノは出るかもしれんが、望んだモノも当たるだろう。

 だから、ランダム性の高いガチャはノーマルチケットやゴブリンチケットに任せて、カテゴリチケットは保管しておくのが上策。なんというジレンマだ。うごごごごご……。

 これを考えたのが神様か吉田さんか、あるいは他の誰かかは知らないが、実に良く人間の欲求を分かっている。もしマグロが発案者だったら鉄火丼にして食ってやりたいくらい悩ましい。


「たとえばこの< カテゴリチケット(ノーマル) >なら明らかに十枚揃える必要はないわけで、単品で使うのもアリではなかろうか」

「あぶれるモノを十枚集めて十連が無難だろうな。いや、別には私は御主人様を止める気などないが」

「ノーマル指定されていても、確定じゃないならイクイップピックアップに引っ掛かる可能性はある」

「いや、だから止める気はない」

「なんでだよっ! 止めろよ!!」

「何故逆ギレされるのか分からんのだが」


 ストッパーがいないと心の赴くままにガチャを回すマシーンが誕生してしまいそうだ。我ながら駄目な感じはするが、これは自分一人の意志では止められそうにないのである。

 ソシャゲのように金銭的なストッパーがあればいい、今回の件にしてもチケットそのものがなければ血迷ったりはしない。しかし、それはあるのだ。


「ガチャの使徒である以上、ある意味それは正常なのかもしれんが」

「むむむ……」

「そもそも、私はガチャ出身のペットだ。あのマシンはいわば故郷のようなものでもある。それを使うなというのはなかなかに厳しいものがある」


 なんか良い事を言っているような雰囲気だが、俺たち揃って駄目な感じじゃないだろうか。


「よ、よし、じゃあ、この< カテゴリチケット(ノーマル) >とこの< カテゴリチケット(インテリア) >の二枚だけ使おう。これは確定でも嬉しくないし」

「想像以上に御主人様のガチャ汚染が進んでいる件について」

「お前、止めるのか止めないのかはっきりしろよ!」

「だから止める気はない」


 よ、よーし、なんか俺の駄目な部分が浮き彫りになってしまった気がするが、二回だけ、二回だけだから。いくぞ……。



[ ペレット鶏糞 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 金属たわし コモン ノーマル/アイテム ]



 あまりに無残な結果に、俺は崩れ落ちた。

 毎回毎回同じようなオチつけやがって。懲りない俺も俺だが。





ガチャ太郎は九十九世界の現状を知らないので。(*´∀`*)

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[良い点] 面白い [一言] 九十九さんのバイタリティ見てるとシーチキンって渾名の親戚がいないか心配になります(何)
[良い点] 豪腕のマッシ…普通に十六魔将だったんですね。 大丈夫?いぢめられてない?
[良い点] 待望の質屋 [一言] 理由があればガチャを引いても良い理論は非常にわかりみがある。運が良ければガチャを引き運が悪ければガチャを引くのだ。
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