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慢心

 職場である地方の役場で、俺は色々と考えていた。


 現在の職場は雑事を片付け、非常に快適だ。


 煩わしい上司や、そいつらと繋がっていた地元の悪い連中は一掃して問題など起きていない。


 起こしたら実力を以って排除してやった。


 おかげで快適な職場環境が手に入り、誰も俺の邪魔をしない。


 今は仕事を終え、後は帰るだけの状態だ。


 残り時間は十五分――。


 色々と考えていた。


 第一に――星間国家間の戦争に勝たなければならない。


 第二に、領内の沈静化。


 第三に一閃流を馬鹿にした連中を叩き潰す。


 第一と第二は必須で時間的な余裕がない。


 第三は時間をかけてもいいので後回しだ。


 一閃流が最高の剣術である事実は揺るがない。


 ただ、戦争は待ってくれない。


 星間国家同士の戦争は規模が大きすぎて、戦争準備にも時間がかかる。


 それでも、後数年で互いに動き出してしまう。


「さて、誰をどこに配置するべきか」


 俺が今いるのは、無能上司の上司が使っていた執務室だ。


 研修中の身であるが、上司共を綺麗に掃除したので俺がこの地位にいる。


 研修とはいったい何なのだろうか? そんなことも考えたが、仕事などどうでもいいのですぐに考えることを止めた。


 それよりも、今は大事なことがある。


「問題なのは首都星だな」


 首都星に戦力を配置しないと、安心して戦えない。


 思案していると、影からククリが姿を現す。


「リアム様、少しよろしいでしょうか?」


「どうした?」


「――最近、首都星でテロが起きております」


「よくある話だな」


「それが怪しいのです。主義主張はありふれているのですが、手際が良すぎています。また、帝国の機関が本気で捕らえようとしていません」


 それだけ聞けば、嫌でも気が付いてしまう。


 テロを騙った暗殺集団だ。


 ククリが報告してきたとなれば、ターゲットは俺たちだな。


 そいつらが俺たちを殺しても、テロに巻き込まれただけと言い訳するのだろう。


 回りくどいやり方だ。――俺も参考にしよう。


「お前らで処理できるか?」


「多少の無茶をすれば」


「なら放置だ。お前らには別にやってもらうことがある。――裏切り者共を調べ上げろ。だが、手は出すな。利用する」


「はい。しかし、裏切り者となりますと――連合王国の伯爵が怪しいのですが、派遣するには時間もかかりますね。統合政府には、既にこちらの手の者を向かわせているのですが」


 デモが起きた時に、統合政府には人を派遣していたようだ。


 ククリ、お前は働き者だな。


「伯爵か? あいつは裏切る。人を出すまでもない」


「――処分しますか?」


「暇が出来たら消す。今は気にするな」


 ノーデン伯爵だったか? トーマスを経由して俺と付き合いがあった伯爵だが、連合王国の悪徳領主だ。


 しかし、ノーデンはうちにもいたような気がするな? 男爵家だったか?


 まぁ、どうでもいい。


 同じ悪人同士仲良くしたかったが、俺の状況を知れば裏切るだろう。


 逆の立場なら、俺なら絶対に裏切るからな。


「あいつから流れてくる情報には気を付けろ。こちらから流す情報には必ずフェイクを入れるのを忘れるなよ」


「ノーデン伯爵は戦場に出てくると聞いておりますが?」


「余裕があれば消したいところだが――それよりも、今の問題は首都星だな」


 ご丁寧にテロ集団を用意して、俺たちを消しにかかっている。


 誰を残しても不安が残ってしまう。


 ――待てよ?


 わざわざ俺が戦場に出なくてもいいのではなかろうか?


 俺は自分を首都星に配置し、そこから人員の配置を再構築していく。


「いけるな。ククリ、戻ったら主立った連中を集めろ」


「はっ」



 クラウスという騎士がいた。


 リアムの騎士団の中では、一般的な普通の騎士である。


 それなりの経験がある苦労性ということで、過激な連中ばかりが多いリアムの騎士団にあっては貴重な一般騎士だ。


 そんなクラウスが胃の痛みに震えていた。


(嘘でしょぉぉぉ!!)


 高級ホテルの会議室。


 そこで割り振られた今後の人事を前に、全員が困惑している。


 リアムは椅子に座り堂々としていた。


 冗談を言っている様子はない。


「クレオ殿下の遠征軍だが、総大将は実質クラウス――お前だ」


「リアム様、さすがに数百万隻の大艦隊を動かした経験がありません」


「問題ない」


「いえ、問題しかありません!?」


 何が問題ないというのか? クラウスには問題にしか感じられなかった。


 帝国の正規艦隊だけではなく、貴族たちの艦隊もまとめて指揮を執る立場だった。


 おまけに、リアムから六万隻という大艦隊を預けられる。


 そのような立場に、ティアとマリーが嫉妬のこもった視線を向けてきていた。


 この二人、騎士団の中でも一二を争う有能な問題児たちだ。


「いい立場じゃないか、クラウス殿」


「荷が重いなら替わってあげてもよろしくてよ」


 二人の視線を無視していると、リアムが声を低くする。


「俺の人選に文句があるのか?」


 それを聞いたティアとマリーが、慌てて膝をついて謝罪する。


「そ、そのようなことはありません!」


「リアム様に文句などと! で、ですが、本当にクラウス殿でよろしいのですか? これだけの規模の艦隊を運用した実績がないと聞いておりますが?」


 数百万の大艦隊同士の戦争経験者など――リアムの陣営では二人しかいない。


 その二人が、ティアとマリーだ。


 姫騎士として活躍していた頃に、ティアは他国と協力してそれだけの規模の艦隊がぶつかる戦争に参加していた。


 マリーの方は、過去の帝国で三騎士と呼ばれていた程だ。


 星間国家同士の戦争にも参加し、その一翼で指揮を執っていた。


 クラウスよりも経験が豊富だ。


「リアム様、私では荷が重いと――」


「お前なら出来る。俺は確信している。お前の下にティアをつけてやるから、こき使ってやれ。それから、チェンシー」


 リアムが先程から興味を示さないチェンシーの名前を呼ぶ。


 リアムを殺しにかかったぶっ飛んだ騎士だ。


「何か?」


「うちで一番強いのはお前だ。クラウスの下についてクレオ殿下を護衛しろ」


「――私を信用するのですか?」


「与えられた仕事を全うすれば、また遊んでやる」


 それを聞いたチェンシーが、頬を染めて身震いしていた。


 クラウスは思う。


(待ってリアム様! それって、問題児二人を私に押しつけるという意味では!?)


 マリーが小さく手を上げていた。


 自分の名前が呼ばれず、寂しく思っている顔をしている。


「リアム様、このマリーの配置は?」


「――お前は三千隻を率いて海賊退治だ。領内の防衛を任せる。少ないが、守り切って見せろ」


「は、はい!」


 リアムの領地を守るということは、それだけ信用されている証でもある。


 何しろ、リアムはしばらく首都星での生活だ。


 クラウスはそちらも心配していた。


「リアム様、首都星にはどれだけの戦力を残すつもりですか?」


「――三千もあれば十分だろ」


「い、いや、それでは少なすぎます! カルヴァン派の貴族たちが、絶対にこの隙を見逃しはしません!」


「それでいいんだ。お前らは、クレオ殿下を勝たせればいい。俺は首都星でノンビリと見学させてもらう」


 ノンビリと言っているが、首都星だって戦場になるのが分かりきっていた。


 そこに、リアムを置くのは――かなり危険である。


 餌として考えても、危うすぎる。


「し、しかし」


「くどい! ――それよりも、ユリーシアはどうした? あいつにも働いてもらうつもりなんだが?」


 リアムがこの場にいないユリーシアを気にかけると、クラウスが首をかしげる。


「あの、ユリーシア様なら一度軍に復帰させるとロゼッタ様が仰っていましたが? 何でも、最近たるんでいるとか何とか」


「――あいつはこんな忙しい時に何をしているんだ? さっさと呼び戻せ! 騒がしい領内で仕事をさせてやる」


 ユリーシアのことを忘れていたのではないか?


 クラウスは自分の主人を疑うのだった。


(これは、側室コースはないかもしれないな。――はぁ)



 会議室を出た俺は、すぐに試着室に来ていた。


 呼び出したのは、ニューランズ商会のパトリス――俺の御用商人の一人である。


 今はロゼッタの相手をしていた。


「お似合いでございますよ、ロゼッタ様」


「え、えっと、こんなにドレスを用意してどうするの? もう、三十着目よ」


「パーティー用でございます」


「パーティーに出るの? これだけあれば、何十年と苦労しないわね」


「いえ、一度使用したドレスは着用しませんので、一ヶ月で使い終わるかと」


「え!? あ、もしかして、どれも安いとか? 使い捨てのドレスなのね」


「はい、お安くなっております。お値段にしてこれくらいですね」


「た、高っ! でも、三十着もあればこれくらいするのかしら?」


「あ、それ一着分です」


「――え?」


 ロゼッタが驚いて固まっている。


 その横で、同じようにシエルも固まっていた。


 シエルもパーティーに参加させるため、同じようにドレスを用意させているのだ。


 真面目なシエルちゃんは、お高いドレスを着てパーティーなどきっと嫌いだろう。


 ――俺は大好きだけどね。


 無駄な浪費こそ悪徳領主の醍醐味だ!


 さて、どうしてこんなことをしているのかと言えば――首都星では連日パーティーを開催するからだ。


 首都星に残る俺は遊び呆けるつもりだった。


 そんな俺にちょっかいを出してくる奴らがいれば、相手をするだけだ。


 探し回るよりも、相手を待ち構える方がいい。


 何しろ、俺が参加するパーティーは別名義で開催しているが――全て俺が裏で取り仕切っている。


 暇そうなウォーレスに連日のパーティーを取り仕切らせ、俺は参加だけして遊び回るというわけだ。


 パトリスが俺に近付いてくる。


「リアム様、統合政府の高官たちからの伝言です。デモに絡んではいないそうです。むしろ、驚いていましたよ。彼らがすぐにデモなどを起こすなど信じられない、と」


 手厚い歓迎をした結果、勘違いをした連中が工作員に煽られたのだろう。


 そちらはどうでもいいし、統合政府が絡んでいるとは考えていない。


 スパイくらい潜り込ませているだろうが、そんなのどこもやっていることだ。


「そちらはあまり疑っていないさ」


「――デモの首謀者たちはどうします? 帝国流でいくなら、星ごと焼くことになりますね。むしろ、そちらを懸念していましたよ」


「元国民にお優しいことだな。焼いたりはしないさ。だが、報いは受けてもらおう」


 俺の領地で騒いだ罰は受けてもらう。


「それよりも、連合王国との戦争は勝てるのですか? 勝てたとしても、派閥の力は大きく下がると思いますが? それに、人が足りないのでは?」


 優秀な人材が足りていないのではないか?


 心配してくれるパトリスに、俺は笑みを浮かべた。


「世の中、投資は大事だよな」


「何か伝でも?」


「――回収するべき時が来た。それだけだ」


 今まで何となく領内の若者たちを留学させてきたが、そろそろ俺のために働いてもらうとしよう。


 軍関係者、役人――俺の支援を受けた人間は沢山いるのだ。


 俺も今まで忘れていたのは内緒だ。


「人数の問題はない。戦争の方は――裏切り者を利用させてもらうさ」


 ロゼッタとシエルが、次々に用意されるドレスを着用している姿を見ながら、俺はこれから先の出来事を楽しみにする。


「パトリス、この戦いは勝ったぞ」


「負けてもらっては困りますからね。連合王国に勝っても、その後はカルヴァン派閥が待っていますから」


 こいつは何も理解していないな。


 俺が勝ったと言った相手は――カルヴァンだ。


 カルヴァンの奴は、絶対に勝てると考えて不用意に動いた。


 まさか、こんなに早くカルヴァンが動くとは思わなかった。


 この幸運には感謝しかない。



 帝国軍第七兵器工場は――過去に例を見ないほどの好景気を迎えていた。


「あははは、笑いが止まらないわ!」


 クレオ派閥が国家間戦争に引きずり出されることになり、その兵器を生産するのが第三、第六、第九の兵器工場である。


 第七は省かれていたのだが、ここでリアムからの大量受注が発生した。


 ゲラゲラと笑っているニアスの横で、工場がフル稼働している光景を見る後輩。


 彼女もニコニコしていた。


「エクスナー男爵家の兵器も総入れ替えするみたいですよ。いや~、バンフィールド伯爵は気前が良いですね」


 自派閥の貴族たちの中で、艦隊に不安の残る領主たちへ大盤振る舞いをしていた。


 最新鋭の戦艦や機動騎士――その他諸々の装備を提供していたのだ。


 クレオが国家間戦争に参加するため、帝国は“表向き”には最大支援を約束している。


 誰に気兼ねすることなく、兵器を建造して売り払える。


 しかも、建造すればするほど売れる。


 在庫も買い取ってもらい、笑いが止まらない状況だった。


「戦時特需って凄いわね」


「戦争自体はまだ始まっていませんけどね。まぁ――でも」


 ただし、第七兵器工場が生産しているのは――新型でもバンフィールド家からの苦情を受けて改良した代物ばかりだ。


 デザインが気に入らない。


 内装が気に入らない。


 性能は変わらないが、余計な機能が追加された第七兵器工場らしくない兵器ばかりだ。


 本当は建造したくないが、第七兵器工場の純粋モデルは売れない。


 まったく人気がない。


 バンフィールド家仕様以外は、まったく注文が入らない。


「うちの純粋モデルは数隻しか売れていませんし、プライドがボロボロですね」


「私が設計してないから問題ないわ」


 クレオ派閥は多少無理をしてでも、戦争準備を優先しているため兵器が飛ぶように売れていた。


 また、リアムが領主たちに金を貸している。


 リアムは派閥内で影響力を更に高めつつ、派閥の強化に成功していた。


 戦争を理由に派手に動き回っている。


 ニアスは両手で頬に触れ、だらしない顔をして目の前の戦艦を見ている。


「そ、れ、よ、り、も――私の最新鋭の戦艦の方が大事なの。見て、この素晴らしい性能を!」


 リアムのために建造された三千メートル級の旗艦クラスの戦艦は、レアメタルをふんだんに使った究極の戦艦だった。


「動力、エンジンにだってレアメタルを使ったのよ。出力が違うの。出力が! 砲身にはアロンダイトで、熱伝導には――」


 これをやれば確実に最強! ――でも、予算も資源もない。


 だから理論上の産物でしかなかった幻の巨大戦艦。


 しかし、リアムのおかげで完成してしまった。


 ニアスは完成させてしまった。


「ぐふ、ぐふふふ――」


 ニアスがしばらく現実世界に戻ってきそうにもないので、後輩は仕事に戻るのだった。


「ま、こっちは大儲けできていいですけどね。それにしても、クレオ派閥の貴族の皆さんは、良いタイミングで世代交代をしましたね」


 新兵器が出たタイミングもあり、現行の主流である兵器は旧式となっている。


 クレオ派閥が一番に兵器の世代交代をした形になっていた。


ブライアン(´・ω・`)「クラウス殿にシンパシーを覚えますぞ。それよりも、リアム様が研修先で真面目に働いているようで、このブライアンは安心しましたぞ。幸いです」


若木ちゃん( ゜∀゜)「ついに明日は【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5巻】の発売日! みんな買ってね! アンケート特典に答えると、特典として三万字ごえのアンケート用特典が読めるわよ。私もついに登場するの!」


若木ちゃん( ゜言゜)「絶対に買って、人気投票は私に入れてね」


モニカ( ゜∀゜)「そして明後日 1月31日 には【セブンス 9巻】が発売します! こちらもよろしくお願いします!」


ブライアン(´;ω;`)「せっかくのブライアンの出番が、乗っ取られて辛いです」

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[良い点] >  この二人、騎士団の中でも一二を争う有能な問題児たちだ。 新しい言葉。「有能な問題児」w [一言] 読ませて戴き、ありがとうございました。
2022/12/19 00:38 退会済み
管理
[一言] パトリスって、だれ??
[良い点] 毎日更新嬉しい! [一言] 誰も触れてないけど、ツライアンが一瞬サイワイアンになってるよね?
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