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案内人のパーフェクトプログラム

今月30日は「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5巻」発売日!


続いて31日は「セブンス 9巻」発売日!


更に来月の5日は「孤島の学園迷宮」が発売日!


今年はもう三冊も出版されます。

――自分、頑張ったので買ってください。

 ――リアムが困っている。


 その事実に、案内人は手が震えていた。


 歓喜。


 今までに感じたことのない喜びが、体中を駆け巡っている。


「リアムが苦労しているだと」


 苦労自体は珍しくもないが、自分が間接的に関わっていたら別の話だ。


 これまで、何をやってもリアムにとって利する結果に終わってきた。


 どれだけ不幸にしてやろうと願ってきたことだろう。


 全て失敗してきた案内人だが、今回の結果には震えが止まらなかった。


「リアムに助力して、カルヴァンを不幸にした――だ、だが、カルヴァンがこれを逆手に取り、逆にリアムが苦しんでいる。私が助力しているのに、リアムは苦労の連続――これはいったいどういうことなのだ!?」


 頭を抱えながら笑顔だった。


 笑いが止まらない。


 これまで、いくらリアムを不幸にしようと頑張っても、失敗に終わってきた。


 今回は逆に、リアムを手助けしようと少しだけ力を貸し――リアムが徐々に追い詰められている。


 快感だった。


 今もリアムの感謝で身を焼くような痛みに苛まれているが、それを忘れるほどの快楽が案内人を駆け巡っている。


「まるで北風と太陽! 私はリアムを不幸にするのではなく、幸福にしてやれば全てうまくいくのだ! そうだ、そうに決まっている!」


 ここまで失敗し続けた案内人は、もう目の前の結果が全てだった。


「そうと決まれば今後もリアムの手助けをしてやる! う~ん、楽しくなってきましたね~」


 口を大きく開けて笑い転げている案内人を、物陰から一匹の犬が睨み付けていた。



 バンフィールド家の領地だが、居住可能惑星は増えている割に人口が少なかった。


 急激に領地を拡大している影響もあり、これ以上は領民が増えるのを待つ必要がある。


 ただ、人――マンパワーを求める今のリアムには、手っ取り早く人口増加のために移民の受け入れを進めていた。


 実際に、移民の数は多かった。


 帝国周辺で起きた内乱のおかげで、故郷を捨てて移住してくる人々が多かった。


 ――ただ、この移民政策には大きな欠点があった。


 バンフィールド家の領地は比較的落ち着き、治安も良い。


 周辺国の状況もあって大量の移民が手に入ったのだが――。


「貴族の独裁を許すなぁぁぁ!」

「貴族政治は独裁主義過ぎる。ここは民主主義を取り入れるべきだ!」

「そうだ。統合政府ではそれが普通だったんだ!」


 ――リアムは多くの領民を獲得したが、同時に多くの惑星で統合政府から流れてきた移民たちのデモが行われていた。


 そんなデモが行われている惑星の一つ。


 人気のない路地で、デモを指揮する男が何者かと相談していた。


「あんたらのおかげで俺たちの仲間が増えた。このまま貴族政治を倒してやる」


 若いリーダーは、民主主義こそが正しい政治体制だと信じ切っていた。


 それを、帝国で実行しようとしていた。


 そんな若いリーダーに助力をするのは、カルヴァン派閥の工作員だった。


「何、俺たちはあんたらを支援したいんだ。一緒にこんな貴族政治を終わらせてやろうぜ」


「もちろんだ! ここを民主主義国家にしてやるぜ!」


 工作員の男は内心で笑っていた。


(精々、我々のために踊れ。そもそも、これがリアムでなければ惑星ごと燃やして綺麗さっぱり――というのが、帝国だと理解していないのだろうな)


 リアムを倒し、彼らが面倒になったら――カルヴァン派閥は、こんな惑星は滅ぼす予定だった。


(帝国に民主主義など不要だ)



「糞共がぁぁぁ!!」


 俺は今、首都星の高級ホテルで怒り狂っていた。


 ようやく職場を綺麗に掃除したところで、今度は領地から緊急の報告が届いたのだ。


 嫌な報告を届けてきたのは――ブライアンだ。


『リアム様、いかがいたしましょう? 受け入れた民たちが、いきなりこのような大規模なデモをするとは考えておりませんでした』


 明らかに誰かが裏で動いている。


 現状では最有力候補はカルヴァンだ。


 だが、尻尾が掴めない。


「――ククリ!」


 呼び出すと、俺の影からククリが姿を現した。


「ここに」


「工作員の類いが動いているはずだ。どうして見つけ出せない? それとも、奴らは本気で自分たちでデモを計画して実行したのか?」


 移り住んですぐにデモ――これが、待遇が悪いのなら話は分かるが、相応の準備をして支援までしている。


 すぐに人的資源として利用するために、俺はしっかり準備をさせた。


 住居、教育、職業訓練――手厚いサポートをさせたのは、すぐにこき使うためだ。


 無一文でも俺の領地に来れば家も仕事も手に入る。


 子供だったら教育だって受けられる。


 それなのに、すぐにデモを起こすだろうか?


 政治体制程度で?


 くそ! 統合政府系の移民の受け入れは、見送るべきだったと今になって後悔している。


 とにかく、誰かが裏で動いているのは確実だ。


「――我々ではなく、バンフィールド家の捜査官たちが何人も行方不明になっております」


「何?」


 ククリたちは優秀だが、全てをカバー出来ない。


 だから、普通にこうした工作員たちを探し出す組織もうちにあるのだが――そいつらが、原因不明の行方不明らしい。


 ブライアンも慌ててそのことについて報告してくる。


『そ、そういえば、そのような報告も上がってきております』


「うちの連中は無能ばかりか?」


 ガッカリしていると、ククリが俺の考えを訂正してくる。


「いえ、無能ではありません。特別秀でているとは言えませんが、それでもこの程度が見破れないとも思えません。――リアム様、我らのような者たちが領内で暗躍しているかと」


「お前らと同じ連中か?」


「はい。帝国には我々のような一族や、組織が存在しております。私共が活躍した時代でも、百を越える集団が暗躍しておりました。その内、我らと長年争っていた一族がおります」


 二千年前の暗部――まだ残っていてもおかしくなく、きっと優秀なのだろう。


「領内に紛れ込んだか」


「――現在、我々はリアム様の護衛と、首都星での活動で手一杯でございます。残念ながら、領内には少数しか配置しておりません」


 ククリたちは優秀ではあるが、その数は多くない。


 この糞忙しい時に、領内まで荒らされるとか本当に許せない。


 ――領内に保管してある錬金箱は、盗まれる前に俺自身が確保しておく必要がある。


 さて、いったいどこにしまっておくべきだろうか?


 苛立っている俺に、ククリが進言してくる。


「――領内へ我々を派遣しますか?」


「どこもかしこも問題だらけだ! お前らを簡単に動かせない。現状維持だ。領内にいるお前の部下たちには、今の任務を最優先するように伝えろ」


「はっ」


 ククリはそのまま床に沈み込み消えていく。


 本当に苛々してくる。


 俺を廃して民主主義だと?


 今すぐ灰にしてやりたいが、忙しくて身動きが取れない。


 ――これは、敵がかなり深くまで潜り込んでいると見た方がいいな。


「――終わったら全て灰にしてやる!」


 俺の言葉を聞いていたブライアンが驚いていた。


『な、なりませんぞ、リアム様! ここは辛抱どころです!』


「俺に耐えろだと? お前は馬鹿か? 本音を言えば、今すぐに領地に戻って馬鹿共をこの手で斬り伏せてやりたいくらいだ。ブライアン、俺は俺に従う領民が好きなんだ。俺の手を離れる奴らは――ゴミ屑なんだよ」


『リ、リアム様』


 ブライアンがショックを受けて落ち込んでいるが、俺は元からこんな性格だ。


 本当に苛々――と、思っていると部屋に天城が入ってきた。


 ブライアンとの通信は切る。


 天城の手を握って一緒に部屋に入ってきたのは、俺の弟子であるエレン・タイラーだ。


 赤毛を外ハネさせた幼女が、木刀を持って天城の後ろに隠れている。


「――エレン、一閃流の弟子が天城の後ろに隠れるとは何事だ?」


 俺を怖がっているエレンを見て、天城が――呆れた顔をしていた。


 普段通りの無表情だが、俺には分かる。


 これは怒っている。


 天城が怒っている。


「あ、天城」


 俺が急に弱腰になると、エレンを庇うように前に立つ。


「旦那様、八つ当たりはみっともないですよ」


「ち、ちがっ! これは、アレだ。ちょっと苛々していて――領民たちがデモを起こしたんだ。貴族として、これは武力をもって――」


「皆がデモを起こしたとは聞いておりません。現地に残した戦力で対処可能なら、任せておけば良いのです」


「い、いや、でも腹が立つし――」


「それよりも、旦那様にはやるべき事があります。――さぁ、エレン様」


 天城に背中を押されたエレンが、俺の前で俯いていた。


「――師匠、修行のお約束――もう、三日も見てくれてないです」


 俺はハッとした。


 ここ最近、忙しくてエレンの修行を見てやれなかった。


 基礎を繰り返す時期なので大丈夫だろうと思っていたが、俺としたことが一閃流の後継者を育てることを忘れるとは――安士師匠に顔向けできない。


 安士師匠は、俺を教えてくれる際はいつも修行を見てくれていた。


 天城が俺を見ている。


「旦那様が面倒を見ると拾ってきたのですよ」


「――う、うん」


 俺が世話をするからと拾ってきたのだ。


 天城に言われては、俺も無理矢理領地に戻って暴れ回ることが出来ない。


 そもそも、そんな暇もない。


 役所で仕事。


 出撃の準備。


 おまけに領地では大規模デモ。


 エレンも育てなければならず、俺はこれまでになく忙しかった。


 天城が俺を諭すように慰めてくる。


「今が大変な時期であると分かっておりますが、もう少し――周囲に目を向けてください。私は、旦那様が心配です」


「うっ!」


 天城に心配させてしまった――これは痛い。


 俺がフラフラと膝をつくと、エレンが駆け寄ってくる。


「師匠! だ、大丈夫ですか、師匠!?」


「へ、平気だ、エレン。とにかく、修行をするぞ。お前を育てるのは――師匠との約束だからな」


「師匠の師匠ですか?」


「あぁ、安士師匠――剣神と呼ばれている男だ。凄い人だぞ」


 剣神と呼ばせるようにしたのは俺だが、そこは安士師匠に相応しい称号なので問題ないだろう。


 師匠、喜んでくれるだろうか?


 俺は立ち上がってエレンを連れて修行場へと向かう。


「行くぞ」


「はい!」


 天城も俺たちについてくる。


「ところでエレン、基礎はちゃんと練習しているだろうな?」


「は、はい! いっぱい頑張りました!」


「旦那様が不在中は、この天城が基本動作の確認をしておりました。エレン様は努力されていましたよ」


「エレン、お前は天城と二人っきりだったのか!? 俺なんか忙しくて、最近は相手もしてもらえていないのに!」


「ご、ごめんなさい」


 謝罪するエレンを見て、天城が本当に呆れかえっている。


 周囲には無表情にしか見えないが、俺には分かる!


「――旦那様、子供に何を言っておられるのですか?」



「来ている。私に風が吹いている!」


 伝わってくるリアムの苦悩が、案内人を幸せにしていた。


 力が湧いてくる。


 理由は分からないが、案内人がリアムを幸福にしようとする度に――邪魔が入ってリアムが苦しむのだ。


 リアムが人を受け入れていたから、大量の人が移住してきた。


 だが、カルヴァンの手により領内はデモが起きている。


 手を貸す度に、リアムが苦しむ。


 案内人は感動していた。


「簡単なことだったのだ。私が勝利するために必要だったのは、リアムを手助けすること――今まではやり方を間違えていた!」


 今までの間違いにようやく気付いた案内人は、リアムに今後も手助けをするために活動しようと決意する。


 もはや、迷いはない。


「リアム、お前が苦しむために、私はお前の幸福の手助けをしてやろう」


 意味の分からないことを呟く案内人だった。


「全力支援! 私の持つ最大限の力で、お前を幸福にしてやるぅぅぅ!」


 案内人が全力でリアムを支援した。



 バンフィールド家の領内。


 デモをしている人たちの横を、元から住んでいる領民たちが通り過ぎる。


「あの人たち、統合政府ってところから来た人たちだよな?」

「元気だよな」

「民主主義、ってそんなにいいものなのかしらね?」

「最近は、領内の若い子たちが参加しているそうよ」

「――昔を知らない子も増えたからね。今がどれだけ幸せか分からないから」

「デモとか数十年ぶりじゃないか? 前は確か――そうだ! 竜巻ヘアーで領主様と揉めた時だ!」

「あ~、あの時は頑張ったわよね。――今は竜巻ヘアーなんて見ないけど」

「お祭りみたいだったわよね。実際、屋台も並んでいたし」

「そうなると、彼らもお祭り気分だったのか」

「そういうことか! 理解した」


 デモを遠巻きに見て話し込む領民たち。


 そんな彼らに、統合政府から移住してきた若者たちが近付いてくる。


「皆さん、このまま貴族政治が続いていいと思いますか?」


「え? いいんじゃない」


「駄目に決まっているだろ!」


 若者たちは激高し、貴族政治がいかに駄目かを熱く語り出す。


「領主の気持ち一つで税が決まり、領主が法に縛られず裁かれないなんておかしいでしょ! たった一人に全てを握られているというのは、大変危険なことなんです! ですから、一人一人が選挙権を持ち、我々で自分たちの代表を選ぶんです!」


「そ、そうですか」


 話を聞いていた老夫婦が、昔を懐かしむ。


「そう言えば、領主様が代替わりをする前は本当に酷かったな」


「そうですね」


 若者たちは笑みを浮かべる。


「そうでしょう! このまま貴族政治が続けば、いつその時に逆戻りするか――」


 若者たちが熱弁を振るっている横で、老夫婦に若い人たちが集まって当時の話を聞いていた。


「うちの両親も言っていましたね。子供の頃は辛かった、的な。そんなに酷かったんですか?」

「酷いなんてものじゃないよ。今でこそこんなに豊かに暮らしていけるけど、リアム様が当主になるまでは本当に貧しい暮らしをしていたんだ。電気だって使えない家が多かったんだよ」

「あ~、それは聞きますね」

「本当にリアム様が当主になられて良かった。このまま、何事もなく新しい当主様もリアム様の政治を引き継いで――引き継いで?」


 老夫婦がハッとした顔をする。


「おい、リアム様に跡取りはいたかな?」

「――き、聞きませんね」


 若者たちが危機感を持つ。


「これ、ヤバくね?」

「今、リアム様が死んだら、うちの領地ってどうなるのかな?」


 老夫婦が過去の話をする。


「そういう時は帝国が代官を派遣してきて――む、昔の生活に逆戻りもあり得るかな? 代官様は、領内の発展に興味がないと聞くからな」


 ざわつく領民たち。


「――リアム様、ロゼッタ様と婚約したよな?」

「妊娠の発表とかないよね?」

「――おい、リアム様、一人で前線に突っ込む人だよな?」


 領民たちの不安が大きく膨れ上がっていく。


 熱弁を振るうデモに参加した若者たちが、周囲の様子がおかしいことに気が付いた。


「あ、あの、俺たちの話を聞いていますか?」


 領民たちは、そんな彼らを睨み付ける。


「こっちは真剣な話をしているんだから、黙ってろ!」

「おい、俺たちもデモをした方がいいんじゃないか?」

「そうだな!」


 デモをすると言い出した彼らを見て、民主主義を広めたい若者たちは気持ちが通じたのだと思いこの場を離れていく。


 ――バンフィールド家の領地では、これまでにない規模でデモが広がっていく。


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。リアム様がお怒りで辛いです。それよりも、天城とこのブライアンの扱いの差が酷すぎて辛いです」

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[一言] 「リアム、お前が苦しむために、私はお前の幸福の手助けをしてやろう」 ごめん、何言ってんのかわからない(笑)。案内人が完全に錯乱している!
[良い点] 子作りしろ!デモは笑う
[良い点] リアム様、後継を作れデモ!(笑)
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