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バークリー艦隊

「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ1巻」が発売中です!

電子書籍も出ているので、是非ともチェックしてみてください。


あと、カバーを外すと特典SSやら新規イラストなどが楽しめます。

 バークリー家の本拠地。


 そこでカシミロは一人の軍人を前にしていた。


「――お前の作戦は見せてもらった。実に素晴らしいじゃないか。もっとも、バンフィールド家の小僧を倒すために、大規模な改革が必要だけどな」


 その軍人とは少佐に昇進していたドルフだった。


 軍では閑職に回されていたが、その中でも出世をしてリアムを倒すことだけを考えてきた男だ。


 そんなドルフが、カシミロと出会ってしまった。


 それは偶然ともいうべき出会いだ。


 だから、ドルフはこの作戦に全身全霊で挑もうとしていた。


「お言葉ですが、この程度でも足りないくらいです。現実的に時間と予算を考慮し、この程度までおさえたのです」


「――艦艇を全て買い換えて、編制まで大きく変えて、か? 中距離や近距離に特化した艦艇の大量購入なんて聞いたこともないな」


 ドルフがカシミロの前に映像を投影する。


 そこにはバンフィールド家の艦隊が映し出されていた。


 海賊たちを蹂躙する姿は、恐ろしさまで感じてしまう。


「バンフィールド家の強みは、その高い練度と装備の質にあります」


「数で押し切れないのか? 向こうはかき集めても精々三万だろ?」


「こちらが十万だろうと、やつらが一点突破をすれば互いに大きな損害を出してしまいます。最悪、司令官を失うかもしれません。そうなれば負けたも同然です」


 ドルフの作戦はこうだ。


「奴らに突撃させ、それを懐で迎え撃ちます。近距離、中距離に特化した艦艇を用意するのはこのためです」


 バンフィールド家の艦隊を倒すためだけに、応用の利かない十万隻以上の大艦隊を用意すると言い出した。


 だが、カシミロはそんなドルフを評価する。


(どいつもこいつも、あの小僧を低く見て数だけ揃えれば勝てると言っていた。だが、こいつだ。こいつほど真剣にあの小僧のことを警戒する奴もいない)


 カシミロは試すために質問をする。


「この編制で相手が普通に戦ってきたらどうするつもりだ?」


「確かに危険です。ですが――バンフィールド家にとっては必勝の戦法です。何十年と通用してきた戦い方を変えるというのは、非常に難しいものです」


 カシミロもそれは理解していた。


 海賊相手に何十年と突撃してきた連中だ。


 ある種、突撃に関しては芸術の域に達していた。


 一糸乱れぬ陣形や、恐れを知らぬ勇敢な将兵たち。


 こいつらが一番大事な場面で頼るのは、必勝の突撃だろう。


(こいつだ。こいつしかいない)


 ドルフが熱弁を振るう。


「確かに金も時間もかかります。ですが、バンフィールド家に勝つために必要な出費です! 艦艇を全て買い換え、人員にはこの作戦を行うだけの訓練が必要になるでしょう。ですが、それだけの価値がある相手なのです! バンフィールド家を侮ってはなりません!」


 リアムのためだけに、バークリー家の艦隊は融通の利かない艦隊になる。


 突撃対策を万全にして、通常での戦闘では弱くなる。


 今までカシミロが面会してきた軍人たちは、数を揃えて普通に戦えば勝てると言うだけだった。だが、それでは足りないと、カシミロは考えていた。


「――間に合うか? バンフィールド家も軍備を増強しているという話だぞ」


「間に合わせて見せます。いえ、間に合わせるのです! 今すぐに動き、一隻でも多く艦艇を揃えるのです!」


 ドルフの熱意にカシミロも覚悟を決めた。


「いいだろう。やってやる」


「ありがとうございます! それから、海賊たちをかき集めていただきたい」


「何だと?」


 ドルフは今回の戦いで、リアムに味方をする者たちにも圧力をかけることにした。


 リアムに増援を出させないためだ。


「リアムが正規艦隊を編成している噂があります。確認しましたが事実でした。あいつは、その艦隊を切り札にするつもりのようです」


 正規艦隊で何万隻。


 カシミロはそれを聞いて、海賊たちではどうにもならないと考える。


「――軍の中にバンフィールドの小僧を煙たがる連中がいる。そいつらをかき集めるのも悪くないな」


「おぉ、それは是非ともお願いしたい!」


 パトロール艦隊やら、貴族の軍人崩れ。


 かき集めれば数万隻に届くだろう。


 そして、カシミロに味方をするのは軍人ばかりではない。


 商人――更には第一、第二の兵器工場も手を貸すと言ってきた。


「ドルフ、集まった軍人共で艦隊を編成できるか?」


「可能ではあります。ですが、使えるとは思えません。囮程度ならなんとか、というところでしょう」


 ドルフもすり寄ってくる連中が使えるとは思っていなかった。


 カシミロも同様だ。


「兵器工場に連絡して、そいつらの装備も揃えさせる」


「よろしいのですか? 予算がとんでもないことになりますが? それに、その手の軍人は待遇が少しでも悪ければ文句を言い離反しますよ」


 そこまで金をかけて捨て駒にする価値はないと言うと、カシミロは予算など気にするなと言い放つ。


「構わん! やるなら徹底的にやれ! 多少金がかかっても、あの小僧へぶつけて少しでも消耗させることが出来れば構わない」


 そしてカシミロは、策を完璧なものにするためにもう一手用意する。


「それから海賊共はバンフィールド家の餌になってもらう」


「餌ですか?」


「そうだ。奴らが突撃にこだわるように、これまで以上に戦わせる。奴らが突撃を必勝の戦法だと疑わない状況を維持しておきたい」


 海賊たちを捨てて、勝ちに行く覚悟を決めるカシミロにドルフが冷や汗を流すが笑う。


「――名案です。これで勝利に一歩近付くでしょう」


 海賊たちだけではない。商人、兵器工場――それら全てを巻き込み、バンフィールド家と戦うとカシミロは決める。


 その姿を最初から見守っていた案内人が、拍手を送っている。


「――素晴らしい。二人とも、リアムを倒すために頑張ってくれ。私も影ながら支援してやろう」



「これは――何だ?」


 パトロール艦隊の配属を希望したら、いつの間にか複数の正規艦隊が出来上がっていた。


 三千メートルを超える超弩級戦艦のブリッジから見える光景は、整列したもの凄い数の大艦隊だ。


 視界いっぱいに戦艦が並んでいるのだ。


 宇宙空間に立体映像が映し出され、俺の配属を歓迎するセレモニーが行われている。


 俺の側にいるのは、副官として正式に俺のサポートを行うことになったユリーシアと――特殊部隊から戻ってきたマリーである。


 ウォーレスはブリッジの補欠要員として俺の側にいた。


 そして――。


「特務参謀殿、この度は俺を艦長に指名していただきありがとう! 本当にありがとう!」


 ――短髪を逆立てた体の大きな男が、本気で俺にお礼を言ってくる。


 こいつは最近昇進した【セドリック・ノーア・アルバレイト】准将だ。


 俺が乗り込んでいる旗艦の艦長である。


 そして中佐に昇進した俺は、特務参謀というとりあえず特別な役職をもらっている。


 ちなみに、セドリックはウォーレスの腹違いの兄だ。


 だが、こちらもその他大勢という扱いの皇子である。


 ウォーレスが呆れていた。


「泣くほど嬉しいのかい?」


「当たり前だ! 意味もなく宇宙をパトロールする日々がどれだけ辛いと思っている! というか、お前だけこんな優秀なパトロンを見つけやがって!」


 羨ましいのか、セドリックがウォーレスの首を絞めていた。


「ギブ、ギブ!」


 そんな騒がしいブリッジに、司令官を連れてティアがやって来る。


「リアム様、司令官をお連れしました」


 見れば四十代くらいに見える男性だった。


 結構な年齢なのだろう。


 アンチエイジングが進んでいる今の技術で、中年に見えるというのは長寿の証みたいなものだ。


「司令官、世話になるぞ」


 相手はニコニコ笑っていた。


「今話題の伯爵様のお世話をすることになるとは思ってもいませんでしたよ。ま、私は私の仕事をさせてもらいます」


 ただ媚びてくる男ではなかったが、これだけの規模の艦隊を任せられるのなら相応の人物なのだろう。


 ――こいつとは喧嘩しないことにしよう。


 面倒な相手とは喧嘩しないというのを、俺は最近になって嫌というほど学んだ。


 ――バークリー家だ。


 あいつらは本当にしつこい。


 ティアが今後の予定を俺に伝えてくる。


「リアム様、明日からは艦隊を率いて辺境基地を巡ります」


「基地巡りだと?」


「はい。顔合わせのようなものです。また、航路の安全確保を同時に行います」


 大艦隊を率いて進み、その進路の安全を確保すると言うことか。


 普通ならもっと少ない艦隊でやるのだが、これだけの規模でやるというとかなりの無駄だな。


「いっそバラバラに動いて目的地を目指したらどうだ? そうだな、競争にしよう。一番に到着し、海賊やら問題を解決した艦隊には俺がボーナスをくれてやる」


 真面目にするつもりもないので、ゲームでもしようかというと――ティアが難色を示す。


「リアム様、これはリアム様のご威光を示す場でもあります。そのような艦隊運用は――」


 ただ、助け船を出してくれる者がいた。


 マリーだ。


「あら、リアム様のご希望に添えないと? いいじゃない。これだけの規模なら、一つにまとめて移動しても無駄よ」


「これだけの規模で動くことを学ぶ場でもある。理解できないようだな」


「常に一緒でなくても、ゴール手前でまとまればいいでしょう。融通の利かない筆頭騎士様ですこと」


 二人のいがみ合いに、セドリックがウォーレスと話をしていた。


「お前のパトロンの騎士、何かギスギスしてないか?」


「いつものことだよ。すぐに慣れるさ」


 笑っているウォーレスだったが、俺の筆頭騎士と次席騎士が喧嘩とか笑えない。


 ユリーシアが俺に提案してくる。


「中佐、それでは目的地手前まで競争ということでよろしいでしょうか?」


 司令官を無視して色々と決まろうとしていた。


 俺が司令官を見れば、肩をすくめてみせる。


「どちらでも構いませんよ。緊急の用事もありませんからね」


 ちょっと規模は大きいが、俺が用意した艦隊なので好きに扱って問題ないのだろう。


「なら競争だ。そうだな、海賊を倒せば点数でも付けるか。大規模なら十点とか。点数次第で報酬を用意してやろう」


 俺の思いつきで、ゲームが始まると決まり――数日後の少将以上を集めた会議ではルール説明で盛り上がったとか聞いた。


 俺? みんなが競っているのを眺めるのが、悪徳領主というものだ。



 三千隻を率いてゴール地点――まぁ、ある惑星にやって来た。


 そこは帝国の直轄地であり、開拓途中の惑星に指定されていた。


 報酬目当てに目の色を変えて競っている連中が、ゴールに来るのはいつ頃になるだろうか?


 ブリッジで豪華なシートに座る俺は、グラスに入った飲み物を揺らしていた。


「暇だな。ウォーレス、何か芸をしろ」


「ふっ、私に一発芸を求めるのかい? 残念だが、もうネタが切れてしまったよ」


 ウォーレスに無茶振りすること数十回。


 流石にネタ切れしてしまったようだ。


 何もない場所でただ待機をして数日を過ごしているが――暇だ。


「暇すぎるな」


 豪華客船でダラダラ過ごそうと思っていた。


 確かに艦内の設備は充実しており、ちょっとしたショッピングモールもある。


 非戦闘員も多く、中にはチェーン店が出店もしていた。


 休憩や休日のクルーたちで賑わっており、艦内はちょっとしたコロニーになっている。


 だが――俺がそんなところで遊んで何になる?


 部屋にいても暇だ。


 最近素振りしかしていない。


「セドリック、ものまねをやれ」


「ふっ、伯爵――俺の持ちネタも使い切ったぜ。あと、普通に伯爵が知らない芸能人のものまねとかされても困るだろ」


 セドリックもネタ切れだ。


 万策尽きてしまった。


 すると、マリーが俺に提案してくるのだ。


「それでしたら、この地の開発を行ってはどうでしょう? 兵士たちに仕事をさせられますし、味方が合流する前に要請した補給艦隊も来ます。その前に簡易な宇宙港でも建造してみてはいかがです?」


 暇だからリアル内政ゲームでもするか。


「よし、すぐに取りかかれ。デザインはどうするかな」


 ユリーシアも俺に提案してくる。


「リアム様、地上には開拓民たちがいます。そちらも支援されれば、今後はここを中継基地として利用する際に、住民たちの協力も得やすいかと」


 正直に言えば住人に対して興味はないが、暇なので地上にも手を出そう。


 領地では将来的な収入も考えて天城に任せたが、こういうのは自分でやってみる方が面白い。


 ま、結果的に失敗しても帝国の領地だ。


 何の問題もない。


「よし、地上にも手を加えるか。ウォーレス、ビルを建てるからお前が現場監督な」


「え~」


 嫌がるウォーレスを地上に行かせ、立派な政庁を用意させることにした。


「そうだ。箱物とかバンバン建ててやろう」


 箱物とか無駄の極みだからな。


 デザイン重視で設置していこう。


 ティアが手を組んで俺を見ていた。


 その目が輝いている。


「流石です、リアム様」


 ゲーム感覚で弄ばれる住民たちの事を考えれば、俺を褒めている場合では無いと思うけどね。


 ま、他者を踏みつけてこそ悪徳領主だ。


 好きなように開発するとしよう。



 ――リアムの艦隊が、ある地方の海賊たちを根こそぎ滅ぼした。


 そんな話題が聞こえてきたのは、リアムが正式配属された半年後のことだった。


 首都星でその話を聞いた宰相は、報告の内容に目を見開く。


「凄いものだな」


 リアムの艦隊がどの程度の実力を持っているのか、人を派遣して調べさせていた。


 艦隊にスパイのような人間を配置していたのだ。


 そんな彼らからの報告は、リアムを褒め称えるものが多い。


 部下の一人が安堵した顔をしていた。


「海賊退治を競争させたそうですが、それよりも合流地点の惑星を整備してくれたのが嬉しいですね。あそこは開発費の捻出がうまくいかず、放置されていましたから」


 リアムの艦隊が競争を行い、ゴール地点となった惑星がある。


 リアムはそこに一番乗りをして待つ間に、色々と整備を進めたようだ。


 簡易の宇宙港が出来たため、今後の発展も期待できそうである。


 実際、宇宙港が出来たと聞いて、商人たちがリアムを相手に商売するため集まっている様子だった。


 そして地上だが――。


「ふむ、機能的に必要な施設を配置したか。センスがいいな」


 そもそも地上にろくな施設がなかったので、何を配置しても住民からすればありがたい話だった。


 デザイン性も重視しており、宰相的にはありだった。


(八十点だな。経験を積めば、もっと上を目指せるだろう。――軍事ばかりに目がいきがちだが、伯爵は内政手腕で有名になったからな)


 元は内政手腕が高く評価されていたのだが、いつ頃からか海賊狩りで武勇ばかり有名になってしまっている。


 放置していれば、状況をよくするので宰相も笑みがこぼれる。


 ただ――宰相も人を信じ切れるタイプではない。


「これだけの功績があれば軍も納得するだろう。伯爵の階級を大佐に昇進させてやれ。勲章もつけてやる」


「よろしいのですか?」


「この程度なら安いものだ。来年になれば准将に昇進か? 軍から離れる前には、中将の階級を与えてやれ」


(ま、この程度では喜ばないだろうから、また何か考えておくか)


ブライアン(´・ω・)「内政と軍事でバリバリ活躍して伝説を残しそうなリアム様ですが、本人が気付いていないのが辛いです」

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[一言] ハサミで付き合いしているところにグーで殴り去る領主はハサミを学んだんだよなぁ。
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