三章エピローグ
ライエル( ゜∀゜)「本日は『セブンス 8巻』の発売日!」
モニカ(゜∀゜)「買ってください!」
幼年学校の第一校舎。
窓から日差しが差し込む中、俺は机に肘をついていて手にアゴを乗せていた。
「――どうしてこうなった」
どう考えてもおかしい。
子分のウォーレスが、俺に泣きついてくる。
「リアム、小遣いの増額を! 何としても増額してくれ!」
そんなウォーレスを呆れてみているのが、クルトである。
「ウォーレスは相変わらずだね」
「五月蠅いよ! こっちはリアムの屋敷で贅沢が出来ると思ったのに、セリーナがいて地獄だったんだぞ! 少しくらい贅沢をしてもいいじゃないか!」
何をしても怒られるウォーレスを見ていたが、こいつが悪いのでセリーナを責められない。
こいつが皇子として毒にも薬にもならないと言われた理由が分かった。
別に厄介ではないが、ただのお荷物だ。
そんなお荷物の面倒を見ることになったのも誤算だが、一番の問題は――ロゼッタだ。
「ダーリン、昼食はどこで食べるの? 学食?」
鉄の女と思っていたロゼッタが、実はチョロインだった。
簡単に頬を染めたこいつにはガッカリしている。
ただ、可愛いので捨てるのも面倒に感じている自分に気が付いた。
裏切ったら容赦しないが、それまでは面倒を見ようと思う。
「購買部でパンを買う」
「パンね。任せて。人気のパンを買ってくるわ」
誰がお前にパンを買ってこいと言った?
自ら進んでパシリになろうとするお嬢様がいていいのか?
「別にいい。ウォーレス、お前がパンを買ってこいよ」
すると、ウォーレスが自慢の青い髪を払いのけるようにかきあげて、
「無理だ。昼食時の混雑を知らないのか? 私では人気のパンなど買うことすら出来ない」
自信満々に、パンすら買えないと言い出した元皇子様にはガッカリだ。
クルトが冷めた目を向けていた。
「ウォーレス、本当に役に立たないね」
「ふっ、何とでも言えばいいさ。だが、元皇子にパンを買ってこいなどというリアムがおかしいと思わないか?」
そんなウォーレスにもう一度言うのだ。
「ウォーレス、パン買ってこいよ」
「リアム、本当に勘弁してくれ。昼食時のパンの争奪戦は私には過酷すぎる」
こいつは嘘を言っている。
「嘘吐け。俺が行ったときは、混雑なんかしていなかったぞ」
みんな整列して、お行儀よくパンを買っていたはずだ。
流石は貴族のボンボンたちが通う幼年学校だ。
クルトが首を横に振りながら、
「それはリアムだからだよ」
と、分からないことを言う。
ロゼッタが困っていたので、パンは諦めることにした。
「なら、学食に変更だ」
「学食ね。任せて、一番いい席を確保しておくわ」
だから、お前は何でパシリとか小間使いみたいな事をするの?
そういうのは、させるから楽しいのであって、自分から進んでやられても嬉しくないんだよ。
「確保はいい。大人しくしていろ」
「そ、そうね。そうするわ」
シュンとしてしまうロゼッタを見ていると、まるで俺が悪いことをしたみたいじゃないか。
ウォーレスは普通に俺にたかってくる。
「リアム、昼食のデザートを所望する」
「お前は水でも飲んでろ」
俺は思うのだ――思っていた学生生活と違わないか、って。
首都星。
そこでは、宰相が役人たちを集めていた。
集められたのは、クラウディア家を長年監視していた者たちだ。
代々、クラウディア家を監視してきた家も少なくなく、全員が不満そうな顔をしている。
宰相は笑顔だった。
「今までの忠勤、大変ご苦労だった。君たちには新しい仕事を用意しよう」
だが、納得できないようだ。
「宰相! 今更変更など受け入れられません。いっそ、バンフィールド家を監視するようご命令ください!」
「そうです! 亡き陛下のご命令は生きております!」
「バンフィールド伯爵の監視をさせてください!」
長年やってきた仕事を奪われ、新しいことをしろと言われても彼らも困るのだ。
その気持ちも理解していた。
「そうか。では、君たちには死んでもらうとしよう」
「――宰相?」
机の上に、彼らが長年集めた貴族たちの弱みを見せる。
リアムの婚約式に祝辞を送ったら、ブライアンが資料を全て宰相に提出したのだ。
使えそうな情報を隠しているそぶりもなかった。
今はこうして、不要な役人たちを処分する理由になっている。
「――随分と調べていたようだな。まさか、私のことまで調べているとは思わなかったよ」
宰相のことまで調べ上げていた。
人を覗き、苦しめるためだけに特化した集団。
宰相からすれば、使い道もあるのだが――自分の手を噛むような者はいらなかった。
「こ、これは――」
「言い訳は必要ない。お前たちが消えれば、私は安心して枕を高くして眠れる。そのために、お前たちには消えてもらう」
役人たちが、抵抗しようと身構えると――控えていたティアが剣を抜いた。
レイピア――突きに特化した剣で、役人たちの急所を全て一突きにする。
倒れる役人たち。
宰相は、ティアに拍手を送る。
「素晴らしい腕前だ。士官学校でも期待できそうだね」
ティアは刃の血を拭い、鞘に戻すと役人たちを見下ろしていた。
「この程度、造作もありません。リアム様に敵対した小役人を処分する機会をくださり、ありがとうございました」
リアムを罠にはめた連中だ。
ティアからすれば敵である。
宰相はティアを見ながら、
「士官学校へはすぐに入学するのかな?」
ティアは頷いて答えた。
「はい。来年度には入学する予定です」
宰相は部下たちが死体を片付けるのを見ながら、
「それで――伯爵の今後の予定はどうなっている?」
幼年学校の四年生となると、卒業も近い。
三年もしない内に卒業すれば、リアムは大学か士官学校のどちらかに進まなければならない。
そのどちらに進むのか――宰相は問うている。
ティアは、
「リアム様は、今のところは士官学校を優先するとのことです」
「そうなると、修行終わりは大学になるな。さて、それまでにこの戦いは終わるかな?」
バークリー家との戦いが、リアムが無事に修行を終えるまでに終わるだろうか?
宰相はそれを気にしていた。
ティアは、リアムを信じ切った目をして答える。
「意外と早く片付くかもしれませんね」
部屋を出て、仕事に戻るティアは――眉間に皺を寄せていた。
廊下を早足で歩き、苛立って文句を呟いている。
「何が狂犬のマリーだ。リアム様の敵を残しておいて、忠犬のつもりでいる駄犬が」
忌々しいマリーのことを思い出す。
婚約式の時だ。
リアムが、アヴィドを無事に完成させたとして、次席騎士――筆頭騎士の次の地位を用意してしまった。
――調子に乗っている。
そして、婚約式の裏側で起きたことを思い出していた。
――婚約式の当日。
予定もほとんどが終わり、騎士たちにも酒が振る舞われていた。
その席で、筆頭騎士であるティアに、マリーが近付く。
「お前がクリスティアナね」
呼び捨てにすると、周囲の空気が凍ったような雰囲気になる。
静まりかえる宴会場で、ティアは酒を飲みつつ視線だけをマリーに向けていた。
「どうした、駄犬」
マリーが素早く剣を手に取り、ティアの喉元に刃を当てる。
だが、ティアのレイピアも――マリーの胸元に当てられていた。
マリーが不気味な笑みを浮かべ、
「短い間でしょうが、筆頭騎士として励みなさい。その地位は、私のものなのだから」
互いに刃を離す。
ティアも冷たい目を向けていた。
「お前には次席の地位も重いだろう。ロートルは引っ込んでいろ。いや、化石と言った方がいいのかな?」
ティアは、石化されていたマリーを笑った。
そんな挑発したティアに対して、マリーは口調が荒くなる。
「小娘が――今すぐ首をはねてもいいんだぞ」
互いに火花を散らす二人。
周囲は困っている騎士もいれば、そんな二人を蹴落として自分が筆頭の地位にと考えている者もいた。
我関せずという立場の騎士もいる。
リアムが領地を受け継いだときとは違い、大勢の騎士たちがそこにはいた。
リアムに仕官したいと望んだ騎士もいれば、助けられた恩を返すために仕官した騎士もいる。
中には、最近力を付けてきたバンフィールド家に期待した騎士もいる。
成り上がりたい者たちも大勢いた。
ただ、伯爵家の規模を考えると、まだ騎士の数は少なかった。
今後、続々と集まってくるだろうが――まとめられるかは疑問だった。
リアムの騎士団は、未だに寄せ集め状態である。
忠誠心が高いだけでまとまっており、問題も多い。
何より、実力のある騎士たちをまとめ上げる人材がいない。
ティアかマリーがその候補なのだが――二人とも協力するつもりなど一切無かった。
「駄犬、お前はリアム様に不要だ。すぐに消してやる」
ティアがそう言えば、マリーは言い返す。
「ミンチ女こそリアム様に不要だ。すぐに証明してやるよ」
二人は、互いを敵だと認識していた。
幼年学校の第一校舎。
「円卓の騎士とか、十二騎士とか――かっこよくない?」
そんな残念なことを言うのは、ウォーレスだった。
クルトが冷めた目を向けている。
「また始まった。ウォーレス、今度は何を思い付いたんだい?」
「いや、だから、選ばれた有能な騎士たちに番号を付けるんだ。後宮の書物で読んだんだけど、かっこいいだろ?」
「それ、漫画じゃないか」
漫画にそんな騎士団が登場しているらしい。
有能で、とても強い十二人の騎士。
王がそんな騎士たちに特権を与え、特別感を出しているようだ。
その話を、校舎裏でしている俺たち。
「十二人も強い騎士を集めるとか面倒だよな」
俺がそう呟くと、クルトが説明を付け足してくる。
「リアム、本気にしない方がいいよ。ウォーレスの知識は、ほとんどが漫画だからね。そもそも、十二人くらいすぐに選べるし」
「え?」
「いや、だって、単純に考えてみてよ。僕の実家にだって騎士が沢山いるんだよ。そこから十二人を選ぶなんて簡単じゃないか」
「でも、選ぶ基準とか――」
「条件次第だけど、クリアする騎士はいると思うよ」
「なら、すぐにでも――」
「駄目だよ。特別扱いなんて問題も多いんだ。そもそも、ウォーレスの言う十二騎士って、敵側の話だからね」
ウォーレスを見ると、俺から視線をそらしていた。
どうやら、図星だったようだ。
だが、こいつを少しだけ見直した。
悪の道に入ろうとする根性だけは認めてやる。
真面目系悪徳領主のクルトからすれば、非効率的に見えるようだが――簡単に言えば、悪の軍団的な集まりのことだろう?
四天王とか、そういう感じだ。
なら、俺もそういう騎士団が欲しい。
何か最近、悪徳領主として活動していない気がする。
まぁ、そもそも幼年学校にいるのだから、何も出来ないけどな。
「――円卓か、十二騎士か」
俺が呟くと、ウォーレスが手を挙げる。
「リアム、私は円卓の騎士団を設立するから、そちらは選ばないで欲しい!」
勝手なことを言うウォーレスだが、確かにかぶるのはまずいな。
何か良い案を考えておくとしよう。
そう思っていると、クルトが俺たちを見て呆れていた。
「リアムがウォーレスに毒された」
ウォーレスがクルトを見ている。
「お前――私に対して失礼すぎるだろ」
男三人で話をしていると、俺たちを見つけたロゼッタが手を振ってやってくる。
「ダーリン! 見つけましたわ!」
笑顔で駆けてくるチョロインを見て、俺は思うのだ。
満面の笑み。
ふわりと跳ねている縦ロールの髪。
揺れる胸。
可愛い走り方――そこに、あの鉄や鋼で出来たようなロゼッタはいなかった。
「――どうしてこうなった」
「どうしましたの、ダーリン? な、何か不満がありまして? も、もしかして体調が優れないとか!? すぐに医務室に――」
「違う。そうじゃない」
俺を心配してくるロゼッタに嘘はないだろう。
これが嘘で、俺を騙そうとしているとしたら――まだ楽しめたかもしれない。
なのに、それらしい気配が一切無いのだ。
鋼のような精神を持ったロゼッタは、いったいどこに消えてしまったのだろう?
「――本当に、どうしてこうなった?」
ブライアン(・ω・` )「クラウディア家はともかく、個人としては最高の奥方を得られたと――このブライアンは思うわけです」
ブライアン(*´ω`*)「さすがはリアム様でございます。このブライアン、感服しましたぞ」
ブライアン(´;ω;`)ノシ「そして皆様、寂しいですがまたしばらくのお別れでございます」
若木ちゃん(゜∀゜)「次は『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』をよろしくね! 三月中に更新再開よ! 私の活躍をちゃんと見てね!」
三章はいかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
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