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家族

 戦いが終わり一ヶ月もすると、領内も随分と落ち着いてきた。


 いや、部下たちは忙しいよ。


 それでも、俺の方は落ち着いてきたのだ。


 屋敷の応接間。俺が相手をしているのは、越後屋――ではなくトーマスだ。


「トーマス――お主も悪よのぉ」


「え!? いや、適正価格だと思うのですが?」


 売りつけた貴金属に骨董品、その他諸々の買い取り価格を俺に見せてきたのだ。


 その額が凄すぎて笑うしかない。


 桁が多すぎて判断に困る。


 たとえるなら、もはや小銭だ。千円札を出して、数十円のおつりをもらっても深く意識はしない。その感覚に近い。金額が大きすぎて理解できない。意識するとおかしくなりそうだ。


「言ってみたかっただけだ」


「そ、そうですか。しかし、本当に全てを手放してよろしかったのですか?」


 手に入れた貴金属やらお宝やらのほとんどを売り払った。


 理由? お金だよ。


 これにより借金を大幅に減らすことが出来た。


 全額じゃないのがポイントだね。


 ――この世界の俺の家族は、いったいどれだけ使い込んだんだろうな。


「持っていてどうするよ。それにいくつかは手元に残しているぞ。この刀とか」


 気に入った刀を見せると、トーマスが感心したように見ていた。


「これは凄い刀を手に入れましたね」


「え、そうなの?」


 よく切れる刀程度にしか考えていなかったが、価値はあるようだ。


「専門ではありませんので、詳しくは分かりません。詳しい者に鑑定を依頼しますか?」


「別にいいや」


「そうですか。それから、伯爵のご要望の品はすぐにでもお届けに上がります」


 トーマスから購入予定の商品は医療機器だ。


 この際だから、色々と揃えることにした。


 あいつらの治療もあるからな。


「医者の手配も頼むぞ」


「お任せください」


 御用商人がいると本当に便利である。


 何しろ、人の手配までしてくれるからな。


 ただ、こいつもきっと俺を利用して大儲けしているのだろう。


 腹が立ってくるな。


 トーマスが俺に、


「伯爵、首都星へはいつ頃向かわれるのですか?」


「来年? 成人前には向かうと思う」


 この世界では、五十歳で成人を迎えるわけだが――貴族が成人を迎えると、色々と面倒が増える。


 首都星に向かわなければならず、そこで待っているのは修行の日々だ。


 修行というか、帝国が指定した学校に入学しなければならない。


 非常に面倒だ。


 これから領内で悪徳領主として色々としようと思ったのに、しばらく領地に戻れないのだ。


「叙勲式には必ず出席いたします。それと、今回の分の山吹色のお菓子でございます」


「越後屋、そちも悪よのぉ!」


 賄賂――心付けを欠かさないお前のそういうところが大好きだ。



 第七兵器工場は、資源衛星を利用した宇宙にある工場だ。


 採掘を終えた資源衛星を再利用しており、こうした工場は非常に多い。


 兵器を生産しているが、それ以外にも色々と仕事をしている。


 他の星間国家の兵器の研究もその一つだ。


 バンフィールド家から届けられた海賊船の数々を前に、技術大尉へと昇進したニアスは感激していた。


「凄いわ。海賊船なんて期待していなかったけど、どれもこれも軍艦じゃない。装甲の改造は趣味が悪いとしか言えないけど」


 一緒に運び込まれた艦艇を見ていた後輩――部下も同意見だったようだ。


「何であいつら、派手に改造するんですかね。それにしても今回は大漁ですね。資材も大量に手に入りましたし」


 ニアスが溜息を吐く。


「無茶をして確保したから、予算も大変よ。また、大量発注でもしてくれないかしら?」


 リアムに艦艇を買って欲しいニアスは、まだ色仕掛けを考えていた。


 部下が笑っている。


「また色仕掛けですか?」


「ちょっと、なんで笑うのよ。どういう意味で笑っているのよ!」


「何のことでしょう? でも、本当にお得意様が欲しいところですよね」


 帝国軍の採用トライアルに負け続け、第七兵器工場は予算的に厳しい状況にあった。


 なのに、無理をしてリアムから兵器やら資材を買い集めたのには理由がある。


「次こそは負けないわ。次世代艦を開発すれば、うちが巻き返すことも可能よ」


「そんなにすぐに開発できませんよ」


 達観している部下に腹を立てつつ、ニアスは仕事に取りかかる。



 俺が叙勲式のために帝国本星――首都星にやってきたのは翌年のことだった。


 首都星は凄いと聞いていたが、確かに凄かったよ。


 何が凄いって――惑星を丸ごと包み込むとか、発想がやべぇ。


 惑星を包み込む球体の金属を想像して欲しい。


 惑星丸ごと管理しているのだ。


 気象を操り、防衛の面からも強固な壁を持っていた。


 はじめて見たときは、これを考えた奴は馬鹿なんじゃないか、って思ったね。


 宇宙港からはエレベーターで惑星に降りることが出来るし、降りたら首都星はコンクリートジャングル――コンクリートではないらしいが、灰色の建物ばかり。


 まるで機械の惑星だ。


 高層ビルがとにかく高く、おまけに総人口は何百億と聞いた。


 もう、帝国って凄いという感想しか出てこなかったね。


 羨ましいかと問われれば、ここまでくると嫉妬すら出来ない。


 式典当日。


 俺のところにやって来たのは、二組の夫婦だった。


 どちらも二十代の夫婦にしか見えない。


 控え室で衣装のチェックをしていたのだが、その二組の夫婦を前に俺は首をかしげていた。


 男性がにこやかに挨拶をしてくる。


「久しぶりだな、リアム」


「――え、誰?」


 控え室が非常に気まずい空気に包まれたのが分かった。


 男性も引きつった笑みを浮かべている。


「そ、そうだな。久しぶりで分からないか。俺も老けたかな?」


「いや、誰だよ?」


 俺はてっきり、有名になった俺にたかりに来た自称親類みたいな連中かと思った。有名人になると親戚が増えるという話を前世で聞いたことがある。


 ただ、俺は前世で身近な親類すら離れて孤独だったけどね。


 調子が悪いと離れ、良くなると近付いてくる。


 こいつらはその類いの人間だろう。


 どこかで見たことがあるような気もするが、きっと気のせいだ。


 四人ともとても微妙そうな顔をしており、俺は首をかしげる。


 俺は天城に視線を向けた。


「天城、知っている人?」


「旦那様、目の前におられるのはご両親です。その後ろにおられるのが、旦那様の祖父母になられます」


 ――両親? そういえばいたな、そんな奴ら。


 俺から地位も領地も奪われた哀れな――いや、待て。こいつら、俺に借金を押しつけたよな?


 腹が立ってきた。


 親父――クリフがわざとらしい咳払いをした。


「思い出したようだな。流石に四十年以上も会わなければ顔も分からないか。父として少しショックだぞ」


 いや、父親らしいことをして貰った記憶がないから何とも言えない。


 お袋であるダーシーが笑って誤魔化していた。


「リアムったら、冗談がうまいんだから。それはそうと、買ってあげた人形は今も大事に使っているのね。でも、感心しないわよ。宮殿にこんな人形を持ち込むなんて」


 ――イラッとした。


 後ろにいた俺の祖父母を名乗る男女も同意している。


「はじめて会うが、孫が宮殿に人形を連れてくるなど悲しいぞ。もう成人するんだ。捨ててしまいなさい」


「そうよね。バンフィールド家の当主として情けないわ」


 はじめて会う祖父母が二十代にしか見えないので、何かの冗談かと思ってしまう。


 だが、この世界では普通だ。


 アンチエイジングの技術もとても進んでおり、見た目だけなら若い人間は多い。


 天城が頭を下げて部屋を出ようとする。


「別室にて控えております」


「問題ない。側にいろ。それより、俺に何の用だ?」


 苛立っている俺を無視して、両親や祖父母が俺を前に自分たちの希望を述べる。


「莫大な報酬が出ると聞いたぞ。いくらか私たちに融通して欲しい。少しばかり借金が増えて大変だからな」


「帝都での暮らしもお金がかかるのよ。余裕があるなら仕送りの額を上げて欲しいわ」


 首都星にある都――帝都での暮らしが大変だから仕送りを増やせ。


 まるで子供が親に仕送りを増やして欲しいと言っているようだ。


 立場は逆だけどね。


「既に商人から色々と購入している。支払いは任せたぞ」


「立派な孫を持ってお婆ちゃんも嬉しいわ」


 好き勝手に言っている祖父母。


 こいつらが、領地を滅茶苦茶にしたと思うと腹が立ってくる。


 俺の金だ。


 俺の領地だ。


 お前らには何もやらん!


「天城、お客様のお帰りだ。引き取って貰え」


「リアム、お前は親に何てことを!」


「知らねーよ」


 そもそも、俺の両親は前世の父と母だけだ。


 お前らなど知るか。


 俺に家族の情を求める方が間違っている。


 ――俺は悪党なのだ。


 宮殿の女官たちがいる中で、俺は両親と祖父母を叩き出してやった。


 気まずい空気に包まれる室内で、俺は天城と話をする。


「あいつらの借金は俺が払う必要があるのか?」


「必要はありませんが、商人や借金取りはリアム様から取り立てると思われます」


「――邪魔だな」


 俺の言葉に周囲の人間が息をのんだ気がした。


 天城が俺に提案する。


「仕送りの額を見直すのがいいでしょう。増額する条件は、今後互いに関わらないようにするのが一番です。旦那様の名に傷がついてしまいます」


 すぐにでも消してやりたいが、そっちも面倒そうだ。


「書類をすぐに用意しろ。端金くらい払ってやる」



 式典会場の外。


 疲れた顔をして壁に手をついて歩いている男がいた。


 案内人だ。


「おのれ――おのれ、リアム」


 口から漏れる怨嗟の声。


 ゴアズの一件から、案内人は力を使いすぎて他の世界に逃げることが出来なかった。


 日々強くなるリアムの感謝の気持ちに苦しめられていた。


「何故だ。何故、ゴアズを倒せた。斬れるはずがない。どうして、あのタイミングであの刀を手に入れた」


 本来なら手に入れるはずがなかった。


 油断していた案内人は、力を使いすぎたばかりかリアムの感謝の気持ちで体をむしばまれ力を失いつつある。


「許さない。絶対に許さないぞ」


 歯を食いしばり、向かった先はリアムの両親と祖父母がいる部屋だった。


 宮殿の廊下を歩いているが、誰も案内人には気が付かない。


 そうして部屋に入ると、そこでは四人が電子書類を前に喧嘩をしていた。


「お前たちがしっかり教育しないからこうなったのだ!」


「ふざけるな! お前だって俺に何もしてこなかっただろうが!」


 リアムが天城に用意させた書類は、仕送りの額を増やす代わりに二度と関わるなという内容が書かれている。


 リアムの両親も祖父母も、有名になったリアムから金を搾り取ることしか考えていなかったのだ。


 ハッキリ言って屑である。


 そんな四人を前に、案内人は苦しみながらも笑みを浮かべた。


「――この四人には働いて貰おう。古来より宮殿内では、人間共が権力闘争に明け暮れる。リアム、お前は家族に全てを奪われるのだ。家族こそがお前の敵だ」


 黒い煙が案内人の体から発生すると、四人を包み込んだ。


 リアムの様子を確認する余裕もない案内人は、もう選べる手段も少ない。


 それだけ弱っていた。


 リアムの祖父がハッと気が付いた。


「そうだ。当主の変更手続きを行おう。そうすれば、リアムの財は全て私の物だ」


 祖母が手を叩いて喜ぶ。


「それは名案だわ。宮殿にいる知人にお願いして、今すぐ手続きを進めましょう」


 クリフも笑みを浮かべている。


「なら、新しい跡取りを用意しよう。リアムでは駄目だ」


 ダーシーも仕方がないという顔をしていた。


「そうね。大金が手に入る領地を得られるなら、それくらい協力してもいいわ。それで、リアムはどうするの?」


 クリフが暗い笑みを浮かべる。


「金を積めば暗殺者など雇い放題だ。式典の後では目立つな。当主交代後、しばらくしたらリアムには消えて貰うとしよう」


 四人の会話を聞いて案内人は満足する。


 そして、部屋から消えるのだった。


 部屋の隅――小さな光がドアを出ていく。



 リアムが式典に参加するため、天城は別室へと向かっていた。


 帝国は人形に対して冷たい国だ。


 式典への参加は無理だと天城も理解しており、用意された部屋へと向かっていた。


 すると、何やら不思議な光景を目にする。


「あれは?」


 ドアの前でフワフワと浮かんでいた光を発見した。


 光はドアの中に入り込み、天城はドアの前に立つ。


 気になって中の様子を確認すると、生体反応が四つ。


 リアムの両親と祖父母だった。


 ドアに手を触れると、会話を盗聴する。


『当主交代の理由はどうする?』


『何でもいい。帝国貴族として、人形を側に置いているのは相応しくないとか、それで構わない。賄賂を渡せば理由など宮殿の方で考えてくれる』


『なら、暗殺者の方の手配は――』


『それでしたら知り合いに――』


 四人の会話を盗み聞きした天城は、すぐにその場を去るのだった。


 天城は思う。


(そろそろ、旦那様と離れた方がよいのでしょうね)


 自分が側にいるために、リアムの評判が下がってしまう。


 それを天城は――嫌だと感じていた。



 式典会場は外!


 管理された空は青く、太陽の光は暖かく眩しすぎない。


 これが全て人工の物だというから信じられない。


 気温も丁度良いという素晴らしい天気の中、俺は皇帝陛下の前に膝をついていた。


 遠くに見える皇帝陛下――何を言っているか聞こえない。


 空に映し出された巨大な立体映像から、陛下の音声が聞こえてくる。


 長い挨拶とか、色々とあって俺も返事をして――そして勲章を貰った。


 周囲には列席する貴族たち。


 その数の多いこと!


 貴族って沢山いるんだな、って思ったよ。


 式典は厳かな雰囲気で進み、そのままありがたいお言葉を貰って終わった。


 だが、その後に待っていたのはまたパーティーが続く毎日だった。


 聞けば、毎日のようにどこかで大規模なパーティーが開かれているらしい。


 ――悪徳貴族としては、パーティーで遊び回るのも大事なのではないか? 俺はそう思って出来る限り参加したね。


 お呼ばれすれば参加費とかいらないし。


 そんな帝都での慌ただしい毎日を過ごしていたのだが、天城は何か忙しいのか仕事をしていた。


 俺には何をしているのか教えてくれなかったが「大丈夫です。片付きました」とだけ、報告をくれた。


 片付いたなら問題ないと思い、俺は今日もパーティーに顔を出す。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここで一言 案内人がダークサイドなら真逆の人間もいるってこと…
2024/03/10 22:32 退会済み
管理
[気になる点] 教育ポットに入ってたのに、その世界の価値基準とか学んでないの?主人公ちょっと馬鹿すぎない?
[一言] ごめんなさい! 自分は千円出して数十円のお釣りだいぶ気にする卑しい存在です!(T ^ T)
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