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3.歴史のお勉強

 うぅっ! と唸るようにして睨みつけると、旦那様は髪を指に絡ませて遊びながらこちらの様子をじっくりと眺めていた。


「放して下さい!」


 髪を指に絡ませて遊んでいる旦那様の手から取り戻し、そっぽを向く。

 まるで子供のような態度だったけど、構っていられない。


「なるほど……」


 苦笑の漏れる旦那様。

 絶対、わたしが子供っぽい事を笑われているのだと感じた。

 

 悪かったですねぇ!

 夫婦になりましたけど、そもそも男女間の事なんてさっぱりなもので!


「まだまだアレかと思ったが……思ったほどでもないんだな」

「何がですか?」


 口調が険しくなるのはあしからず。

 しかし、旦那様はその先を説明する事は無く、ふいっと外を見てわたしに言った。

 まるで、話を逸らす様に。


「領地に入ったぞ」


 街道を進むだけでは外の様子は代わり映えしない。

 一応街道には立札があるけど、旦那様はそれを見なくても分かるようだった。

 今も、外を見てもいないのにそう言われた。どうやら大分前に領地には入っていたらしい。


 外は穏やかで、街道も整っているおかげで、馬車の旅はそこまで苦痛ではない。

 まあ、この街道は軍事理由で整えられたのだけど。


「リンドベルド公爵家は、戦争になれば真っ先に戦場になるところだった」


 先ほどの空気を霧散させるかのように、旦那様が話し出す。

 切り替えが早い旦那様に、まだまだモヤモヤが残るわたし。

 これが人生経験の差か……。


「おかげで、色々有利な条件で領軍も持てた。それが今日(こんにち)まで続いている結果、国内の貴族からは喧嘩を売られなくなったな」

 

 それはそうでしょうよ。

 だって、喧嘩売ったら滅びる可能性の方が高いし。

 

 国家に属していながら独立国並みの軍事裁量権がある。特に戦時中は、いちいち伺いを立てるのも面倒だから、勝手にやりますよと命令を無視することも出来る。

 まあ、戦争に関してはリンドベルド公爵家が一番経験豊富だから、過去でも皇都から文句を言われたことがないらしいけど。

 ちなみに、軍閥家系のほとんどは家系を辿ればリンドベルド公爵家の出身が多いとの事だ。

 だからと言って、味方と言うわけではない。

 

 というのも、現在の軍閥家系はもともとリンドベルド公爵家が主軸となる戦争で名を上げた者が領地と爵位をもらって独立していったという歴史がある。

 そのため、戦う事でしかその名を広めることしか出来ない者がほとんどだが、リンドベルド公爵家から独立した以上、リンドベルド公爵家の領地で起こる戦争に我先にと大きな顔をして参加できなくなった。


 その辺はやはり領地持ちの貴族様ですからね。

 頼まれてもいないのに、勝手によそ様の領地に入ることはできません。


 では、どうするか。

 政治の中央で軍閥派閥を作り上げて、リンドベルド公爵家と並び立ち、国軍の援軍として参加するしかない。


 しかし、当然リンドベルド公爵家は甘い家系ではない。

 戦争の度に面倒な派閥が自分たちの領地で好き勝手に暴れまわるのを許容できなかった。

 そのため、即座に戦争を収めることが更に求められることになり、どんどん戦争の短期化に成功。

 リンドベルド公爵家の名声は上がる一方。


 まあ、つまるところ、醜い嫉妬でリンドベルド公爵家を仮想敵として見ているが、喧嘩を売っても敵うわけないので、リンドベルド公爵家は他の家門から手を出されず平和という事だ。


 正直、この家に裏切られたら国滅ぶでしょとか普通に思うけど、リンドベルド公爵家が国家に牙を向くことはない。

 それがまるで刷り込みの様に国民に浸透している事実。


 とにかく、リンドベルド公爵家がどれだけ国に貢献してきたかは分かっている。

 それは国民全員が。

 だからこそ、みんなリンドベルド公爵家には一目置くのだ。

 

 戦争で傷つくのはほとんどがリンドベルド公爵家の領地。

 むしろ、盾となるためにその土地をもらったとしか思えないし、実際そういう事のようだ。

 初代が、この国を守る盾になると決めた。

 それが脈々と受け継がれて今に至ると。


「土地的には問題ない。農地も多いし、大地も肥沃だ。そのため自前で戦時中の食糧だって賄えるだけの倉庫がある。危険もあるが、今の時代は“戦争”という一番の危険がないと思うと、本当に良い時代になった。祖父の時代はまだ戦争の種が燻り、さらには伝染病だ」


 本当に激動の時代に生き抜いてきたんですね、リンドベルド公爵家は。

 常に戦争の歴史が付きまとい、その分家臣の結束は固いようだ。

 というよりは、ロックデルがあれなだけじゃないの? って言いたい。


 結局のところ、わたしは完全なる異分子。

 突如と現れた不和の芽になり得る存在と……

 

「過去の評判を消せたら幾分ましになるでしょうか?」

「さてな、まあ全員が噂を鵜呑みにすることはないとは思うが、私の妻の座を狙っていた者はとやかく言ってくるとは思う」


 先々代は皇女様、先代は確か先々代の右腕だった人物の娘だったはず。

 旦那様は先々代に似たのかも知れないけど、母君にも似たんだと思う。なにせ、噂で聞くお義父様とは全く性格が違うから。


「最近では政略結婚など流行らないな。こういう時代だからこそ、器量のいい人間を選ぶべきだと思っている」


 逆では?

 そんな風に思ったわたしに旦那様が答える。


「確かに戦時中にも、器量のいい人間は必要だ。だが、その前に同盟のための政略結婚の方が重要だ。それに、今でこそ平和になって学校に通う者も増えてきたが、当時の知識人は特権階級者ばかりだ。必然的に上の人間の求める器量を持っているのも特権階級者の娘だ」


 そうですね。

 むしろ、今だってまだまだそうだ。

 だけど、今は都市部の市民はそれなりに裕福で、読み書きも出来るようになってきている。

 読み書きができるようになった人間は、当然大変な仕事を忌避する様になり、そのため貴族や豪富などの下働きや重労働な汚れ仕事などは、読み書きができない人が多いという訳だ。

 

「平和な時だからこそ内政に力を入れたい。それには、戦時中とは違う役割の人間が必要だ。度量があって、人を引き付けるような人物。言いなりではなく、自分の意思をしっかりもっている人物が好ましい。時には当主に歯向かうくらいの度胸もほしいところだ」


 歯向かう度胸ってところでこちら見ないでくださいます?

 生意気だって言いたいんですかねぇ?


「今もやはり政略結婚は主流とは言える。一応、私たちの結婚も政略結婚のような物だ。隙を見せればどこから横やりが入るか分からないぞ」


 実際、騙し討ちの様な結婚ですからね。

 皇女殿下なら諦めもつくけど、評判最悪なわたしじゃあ納得できないのも分かる気がする。


 ただ、今はこの環境を手放したくないと思うくらいには馴染んでいますので、せいぜいイイ子のフリはいたしますとも。

 というか、別れさせられたら、この子たち飼えないわ。

 

 だってこの子たちすっごく食べるんだよ。

 結構なお値段になるんですよ、うちの子たちの食費。ただ飼うだけではうちの子たち最高に可愛い! って言っていられない位のお値段です。

 ベルディゴ伯爵家に戻されたら、どうやって食費捻出しようかなぁって頭悩ませるレベル。

 いや、伯爵家の規模からいえば出せなくはないけど、絶対当主である父親は許さないだろうね。


 本当は少ししたら帰るのかなぁって思っていた。

 帰ったら寂しいけど、その分領地行きも隣国公務もなくなる! ってちょっと思ってもいました。

 だけど、なんだかかんだで居ついていますから、食費だけでなく、たくさん運動できる場所は提供しませんと。

 皇都邸も広いけど、レーツェルの体格から考えると狭いだろうからね、本気で動き回るには。

 

「ああ、見えて来たぞ。領都、アインホルンが」


 旦那様の言葉に馬車の窓から覗くと、次第に近づいてくる都市。城壁に囲われて、さらには深い堀と川。

 城塞都市として名高いそこは、堅牢な要塞のような都市だった。




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