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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
30/84

3-5 みんなで反省です


モモコは途切れ途切れに聞こえる人の声に意識が浮上した。


ぼおっとする頭を起こし、なかなか開かない目を片方ずつやっとこさ開けると、見た事のない部屋にいた。膨大な書物が天井まで積まれ、床や机までをも浸食している。それを縫うように巨大なソファやデスクが島のように点在していた。


(ここ・・・どこ? 私・・・テンレイさんの部屋で・・・)


「静かにしろ。モモコが目覚めた。」


モモコは懐かしい声に耳がピン!と立った。


(ガツクさん?ガツクさんの声だ!ガツ・・・・ぎょええええ!!!)


モモコはかってないスピードで後ずさりしたがソファの肘掛に当たり、それすら乗り越え落ちる所をガツクに抱きあげられた。


「・・・・モモコ・・・俺だ。」


モモコはすっかりやつれ、人相の変わったガツクをまじまじ見・・・・きれはしなかったが(目は宙を彷徨う)声と匂いでガツクと認識した。(ガツクのなにかの破壊力のすごさがわかるというものだ)


「みみみゃーお。うううみ。(もももちろんわかってるよ~。ガガガツクさんでしょ。)」


猫らしかぬ震え声で。


「おいおい、だめだろが ガツク。いきなりその顔は殺傷能力に匹敵するって。」


ホクガンが 呆れたように言うのが聞こえる。

モモコが声のした方を見ると、ホクガン、ダイス、テンレイが 呆れ、ニヤニヤ笑い、心配そうにとそれぞれの表情でこっちを見ていた

アレ?なんか見た事ない光景になってるぞ。モモコはその違和感に目をパチクリした。



ここはホクガンの執務室。



モモコが倒れてから1日が経っていた。







「ではモモコに会ってくる。」


颯爽と立ち上がり、ドアに向かおうとしてガツクはコートを引っ張られ、眉を顰めた。


「何をする。」


引っ張ったのはダイス。ソファの背もたれ越しにむんずと掴んでいた。


「何をするじゃぁねえよガツク。お前、自分がどんな人相してるかわかっちょるんか。」


呆れたように言うダイスにガツクはコートを振り払うようにしてダイスの手を外す。


「どうでもいい。そんなことより早くモモ・・・」


「あなたの今の顔は弱ってるコモ・・・いえモモコには酷だと思うわ。」

「そうだなリーサルウェポンだな。殲滅って感じ?」

「ここにくるまで何人倒れたと思っちょるんじゃ!5人や6人じゃねえんじゃぞ!」

「あ~やっぱりな!ハハハ。見慣れてても怖すぎだよなァ。警戒レベル5段階中5。」

「か弱くて繊細なモモコが召されちゃうでしょ!あなたの気持ちなんかどうでもいいわよ!」

「せめて夜・・・いや倍増するか?もうなんかかぶせるか。・・・何やっても薄らぎそうにねえなぁ。」


これだけ言われてもいつもの事なので(・・・・・・。)気にしないガツクに3人はついて行く事にし、(せめて盾にでも・・・しかし総所の中心人物達が連れだって歩く珍しさに逆に人が押し寄せる事になり被害を増大させる)行く先々で犠牲者を増やしながら4人は動物病院に到着した。ちなみに4人は午後の予定を全てキャンセルした。補佐官達はその対応と調整に大わらわだったが、奥や軍部はおろか、その他の部から苦情や不満はなかった。この4週間近くのこう着状態が動き出したことに誰もが理解し、安堵していたからだ。




獣医は静かすぎる待合室がふと気になった。

今日は休診日の翌日である。いつもなら患者達や飼い主たちでもっと賑やかなはずだ。

おかしいなと思って立ち上がりかけたその時、「

ヒィ!」「キャアア!!」という看護士の短い悲鳴が聞こえ、ガタガタっと何か物の倒れる音が聞こえた。


獣医の脳裏に一昨日見たホラー映画が横切る。


(バカな・・・・あれはフィクション・・・・・)


そこまで考えた時、


「待てガツク!!」


どこかで聞いた事のある声が聞こえると同時に扉が開いた。


「モモコはここか?」


失神せず持ちこたえた獣医は勲章を授与すべきであろう。






モモコ・・・・・


細くなった体に点滴がつけられ死んだように眠るモモコを見たガツクから全ての音が消え去る。

銀色のゲージは冷たく己とモモコを遮断している。

しかしガツクはゲージごとモモコを抱きしめた。

そして自分への罰の様に食い入るようにモモコの姿を見詰める。



妙な意地を・・・・張り過ぎた結果がこれか。

お前にこんな無理をさせたのはテンレイだけではない。

何もしようとしなかった俺にも非はある。

いろいろ話したい事がある。したい事も。

だから・・・・・早く元気になってくれモモコ。

目を開けて俺を見ろ。



モモコのゲージにへばりつき、なにを言っても動こうとしないガツクに根負けした3人は落ち着くまで待つ事にした。でかい男3人が小さな診察室を占拠しとてもウザい空間となったが、リーサルウェポンの登場で動物や人がいなくなったので まあ、うん、問題はなかった!ということにしておこう。

診療時間が過ぎ、帰宅時間になっても帰ろうとしない獣医にホクガンは 帰っていいぞ。コレ(ガツク)キツいだろと言うも、「患者を放っておいては帰れません。」という見上げた獣医魂?に「無理すんなよ」と労わった。しかし獣医の顔色はお前が患者というほど青い。





点滴も外れ、入念な診察の後、獣医からの許可が下り退院したのは結局次の日の朝だった。

許可が下りた後、自宅に帰ろうとするガツクを皆で止め、ホクガンの執務室に無理矢理連行しテンレイの厳しく容赦ない小言に負けたガツクは髭を剃り、身支度を整えさせられた。その後仮眠を取れとうるさい親友達をガン無視し、ゲージから出しソファに置いたモモコを身動き一つせず見つめるガツクを


「今、額にバカって書いてもばれないと思わないか。」

「ワシの仕事を全部引き受けるって書いてもええかもしれん。」

「ついでに俺の名前も書いとけ。」


見飽きた男2人の会話がなされた。

テンレイはその後どうしてもさばかなければならない仕事があったので帰ったが、モモコが目覚める前には戻ってきた。

この頃日が落ちるのが早くなった夕方、ホクガンはモモコが目覚め、落ち着きを取り戻したガツクにようやく自身の企てを説明する事が出来た。


「お前らの石頭と頑固さは他人がどうこう言うよりも本人に自覚させた方が一番手っ取り早いからな。かなりの荒療治だとは思ったが、執行した。」

「痛い授業だったわ。お兄様。」

「悪かったと思ってるよ。だが必要な事だった・・・。」


ホクガンは向かいに座るテンレイとガツクに軽く頭を下げた。

ダイスはソファの背もたれに座って片手ですまんと謝った。

お互いが長い付き合いなのでこれ以上は必要ない。2人が理由があってした事なのはわかっている、だが


「モモコを巻き込んだのは許せんがな。」


ガツクはそう言ってモモコの喉を軽くくすぐった。


「そうね。もし手遅れなんて事になっていたらどうするつもりだったの。」


テンレイも思わず声が尖る。


「わかってる。でもその前に絶対お前達は何とかすると信じてた。自分達の事よりモモコの事を優先するだろうってな。お前達が変われば周りも変わる。」


ホクガンがバツの悪い顔から真剣な顔に代わる。


「俺には夢がある。それはな、」


3人と一匹はその顔を見詰めた。




「ドミニオンの独立だ。」




しんとした執務室にホクガンの響きのいい真剣な声が響く。


「属国から自治領国にしたが、先人たちのゴールはそこで終わりじゃなかったはずだ。俺の代でできたら最高だができなくても構わない。タイミングっていうのがあるからな。だがせめて次代にはやってほしいだろ。そいつらのためにも土台を残したい。」


ホクガンは立ち上がり、書物の間を器用に通ってデスクに廻り手をついた。




「ドミニオンはもっといい国になる。」




自信に溢れた顔。それは自惚れでもなんでもなく国土を愛し、仲間を信頼してきた男の当然の結論だ。


モモコは感動して(チョロイ)ホクガンを0.1%ほど見なおした。(そうでもなかった)


「そのためには今までの様に分裂していてはダメだ。そろそろ何とかしようと思ってたんだよ。モモコの事はちょうどと言っては悪いがチャンスだった。」


そこでホクガンはモモコに先ほどよりもっと深く頭を下げた。ダイスも軍隊式の礼を取る。


「すいませんでした。」

「すまんかった 。」


モモコはでかい体を縮めて謝る2人に戸惑う。

モモコとしてはつらい日々ではあったが、2人に争って欲しくないばっかりにあいまいな態度をとった自分も駄目だったと思うのだ。自分の心に素直になっていれば、たとえホクガンに誘導されたようなものだったとしても大事な人に無用に悩ませる日々を長引かせる事にはならなかっただろう。


モモコはガツクを見上げた。

するとガツクは何を勘違いしたのか(いつもの事だが)凄味がさらに増した顔で笑うと(モモコは目を微妙に逸らした)


「お前の好きなようにしろ。許せないようなら俺が報復してやろう。」


モモコがえええええ!と言うような世にも恐ろしい事を呟いた。さらに、


「そうねぇ ガツクと私がモモコの代わりにこの人達を罰してもいいわね。」

「それもいい。お前となら最高の結果が出せそうだ。」


(結果ってナニ!?負の連想しか浮かばないんですけどぉ!!)


参謀テンレイが殊更優しい声で参戦し、魔王ガツクが応えそこは地獄の審判!?的な空気になった。


モモコは2人をチラリと見た。顔色がなんかおかしく見えるのは目の錯覚だろうか。

ついでに細かく揺れてる様にも見える。




この国、いやもしかするとこの世界で最凶のコラボが実現しそうになったが、被害者が加害者を庇うという事態になり回避された。



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