31コマ目 邪神の手先
帰宅後。
伊奈野は早速ゲームへとログインする。当然日本サーバは混雑しており入ることなどできず、朝と同じく海外サーバに入ることになるのだが、
「あれ?なんか、綺麗になった?」
伊奈野の目に映る光景。そこには、以前とは比べることができないほどに綺麗な光景が目に入った。
今までは少し歴史を感じるような街並みだったのだが、今ではすっかりきれいになっていた。まだ中世ヨーロッパ風の建物には見えるのだが、伊奈野の知る現実の街並みより圧倒的に新しくきれいだ。
「リフォームでもしたのかな?だから海外プレイヤーが邪魔だったとか?」
伊奈野はそんな的外れなことを考える。町の再開発などをするにあたり無関係な人間が入り込んで荒らされると困るから、海外プレイヤーが排斥されていたのではないかと考えたわけだ。
その頭には、伊奈野の魔法の影響で再建せざるを得なくなったという可能性は全くない。
「まあまだ怖いから偽装は続けておこうかな」
色々可能性は考えられるが、だからと言って理由が分かったわけでもない。伊奈野は油断せず、偽装は続けて行動することにした。
当然まだ海外プレイヤーへの排斥運動は続いており、伊奈野の判断は間違っていない。
「たぶん嫌がらせはできたんだと思うし、もうこれ以上はやらなくていいよねぇ」
そして、腹いせを何度も繰り返さなかった判断も間違ってはいなかった。
彼女の判断は黒い本へ影響を与えて動きを制限するとともに、
「………特に怪しい動きをする者はいないな」
「そう簡単に尻尾は出さないか。敵も慎重だな」
自分たちの存在が狙われることを回避できたのだから。
結局伊奈野は発見されることなく数日過ごすことができたが、数人の潜んでいた海外プレイヤーが監視していた者達によって処理されることとなる。
そんなことになっているとはつゆ知らず、ダンジョンを作成して解体してということを繰り返している伊奈野は、
「あれ?なんか今日騒がしくない?」
なんだか墓地の周辺が騒がしくなっているような気がしていた。
理由は分からないが、人が来ていると困るのでできるだけダンジョンから出る時と作るときには注意をすることにした。
ここで伊奈野がゲームの知識を全く得ない受験生なのであれば、気をつけるだけで終わっただろう。しかし、伊奈野にはそれはもう偏りまくった知識を与えてくる存在がいるのだ。
「…………で、邪神の手先が本当に面倒なんですの!今のところ全員返り討ちにできてますけど、このまま邪魔をされ続けるとどこかで誰かがストレスでミスしてしまいそうですわ」
「ふぅ~ん。確かに面倒だね。透明になれる能力ってズルいし」
「ですわよね!お嬢様もそう思われますわよね!いくら数が少ないから能力が強化されるとは言っても、やり過ぎだと思いますわ」
使用人である瑠季。彼女から伊奈野はゲームの知識を手に入れる。
邪神の手先と言う存在がいること。彼らは悪質であり強力であること。透明になれる能力を持っていること。
そう考えると、
「私が最近使ってる鯖で現地プレイヤーと海外プレイヤーが争ってたんだけど、あれってもしかしてそうなるように邪神の手先が仕向けたりしたのかな?」
「ああ。ありえますわ!(…………というかその鯖もしかしてあの鯖ですの?)」
「ん?何か言った?」
「いえ。特に何も。………もしかしてお嬢様、その鯖にもう入れなくなっていたりはしませんこと?」
「いや。大丈夫だよ。いろいろやって入れるようになったから」
「あっ。そ、そうなんですのね………」
「いろいろ」が何かを瑠季が聞いてくることはない。
ただ、普段から一緒に伊奈野とともに行動している身からすれば、その色々がとんでもないことなど容易に想像できるのであった。
「(あの鯖って確か最強プレイヤーの暴走と最強生物の召喚と大火事があったはず……)さ、さすがに関係ないですわよね?」
「何が?」
「いえ、こちらの話ですわ。それよりも、邪神の手先の話の続きなのですけど………」
浮かんだ可能性を忘れ去るように首を振り、瑠季は話を戻す。それが真実であるということは信じたくないとばかりに。
そしてひとしきりゲームの話を終えると、
「あぁ~。そういえば、文化祭どうしますの?」
「どうしようかなぁ。私としては休んでも良いかなとは思ってるんだけど」
「そ、そうですわよね。勉強が優先ですわよね……」
夏休みが終わって学校が再開して。それから1月と少し経過したといった今の時期。
学校では大きな行事の1つである文化祭が近づいてきていた。
3年生は参加自由となっており、クラスで出す物も特に必要ない。というか、どこかのラノベやアニメの世界とは違って伊奈野達の学校の文化祭はそこまで大きなものでもなく、3年生でなくともクラスの出し物などは特にないのだ。
せいぜい全クラスで合唱が行われ、希望者が個人的な出し物を行ない、各部活動が屋台などを出すくらい。
「でも、瑠季ちゃんが参加するなら、一緒に2時間くらいは参加しても良いかなぁ」
「ほ、本当ですの!?」
「えっ。あっ。うん。迷惑、かな?」
「そんなわけないですわ!めちゃくちゃ行きたいですわ!さぁ!行きましょうお嬢様!!」
「いや、文化祭まだ始まってないからね?」
あまりにも使用人ちゃんを出せなかったのでここで無理やり出します。
次回、文化祭編!?