１５コマ目　お詫び

取引できないということによるお詫びとして渡されたスキルスクロール。それを伊奈野はさっそく使用した。

光があふれだし、伊奈野へと吸い込まれていく。ただスキルを獲得するだけにしてはあまりにも派手な演出に思えるのだが、伊奈野は特にそこを気にすることはなかった。

が、

「あっ。音声とか切ってるから何獲得したか分かんない」

スキルを獲得しても内容がさっぱり分からない。

とりあえず確認のために、

「ステータス………は色々と書いてあった気がするから、ログで良いかな」

ただ名称を確認するだけなのであれば、さすがに初期からは変化しているであろうステータスの中から探すよりログを見たほうが楽だ。

ということでログを見てみると、

「ん？全然知らないスキルのレベルが高くなってる。勉強関係っぽい名前だね……」

最新のものからログは表示される。上の方には少し前までのものが表示されるのだが、ちょうど今は勉強関係で獲得していたスキルなどのレベルが上がっていたためそれ以外の称号やらスキルやらレベルアップを確認することはない。

伊奈野は当然視界に入らないものを気にすることもなく、ログの下の方に目をやり、

「えぇと。獲得したのは『龍落とし』『連射』『設置』『濃度変化』『エフェクト変更』ですね」

「おぉ。まあ、まずまずといったところだねぇ」

「そうなんですか？私はあまりスキルのことを考えたことがなかったので結果がどうなのかとかさっぱりなんですけど」

「ん～。簡単に説明しておくと『龍落とし』が物理攻撃へのカウンターができるスキル。『連射』はその名の通り魔法や弓とかを連射できるスキルだね。『設置』は活用できる幅が広いからいろいろと試してごらん。『濃度変化』も効果は名前通りで、薬の調合なんかをするときに便利なスキルだね。その道の人は喉から手が出るほどには欲しいものだと思うよ。そして最後の『エフェクト変更』は…………」

店主さんは最後の説明で少し難しい顔をする。説明が難しいのか、伝え方が難しいのか。伊奈野はそこで言いよどむ理由は分からなかったが、

「名前から考えると、何かで出るエフェクトを変えられるんですよね？何の時のエフェクトなんですか？」

「何の時、って言われると難しいんだけど、基本的に全般だねぇ。魔法を使うときもそうだし魔物を倒したときもそうだし」

「あっ。結構幅広いんですね……何に使えるかどうかは別として」

「そうだねぇ。なんかそっちの世界から来る子供なんかは表現をマイルドにするためみたいな理由で持ってるスキルだと思うんだけど、私たちが持ったところでねぇ」

「あっ。なるほど。確かにそれは使えそうにないスキルですね」

子供たちの刺激を弱めるためのスキルらしい。しかも、そういう使い方のものということはエフェクト変更の効果があるのは自分だけということになる。

使われることはおそらくないスキルだ。

「まあ、私がしばらく使うことがないのは他のスキルも同じですし、大丈夫ですよ」

「そうかい。それなら良い………というわけではないけど、とりあえず弟子の頼みは聞いてやったから私が何かするということでもないしねぇ」

「気にしなくていいですよ。デメリットがあるわけではないんですから」

「まあそうだねぇ」

そんな風にして、特にそれ以上スキルのこともログのことも触れられないまま話は流れていった。

その後はまた休憩時間が終わり伊奈野が勉強を再開して、

「うちのお得意様はこんなに威圧感があったのかい」

「驚くわよね。少し前まではまたちょっと威圧感の種類が違ったのよ」

「おや、そうなのかい？種類の違う威圧感が出せるとはまた随分と凄いねぇ」

「すごいですよね………ああ、そういえば大商人様。先ほどのスキルスクロール、普通のスキルのスクロールではなかったですよね？」

「ああ。あれはレアスキルのスクロールだね。普通のより高いから、お詫びとして渡すにはちょうどいいと弟子は考えたみたいだけど」

「師匠はスキルをあんまり使ってるのは見ないから、お詫びとしてよかったのかは分からないわね」

「そうだねぇ…………」

いつもとは少し違うメンバーで個室内の雑談が行われる。

店主さんがいるとまた内容も変化があって、普段とは違った雰囲気が形成さえるのであった。当然、伊奈野はその内容や雰囲気を気にしていないし気づくこともないのだが。

ただ、黒い本(グリモワール)はそのページを増加させるペースが少し上がっているようではあったが。

それからまた伊奈野が休憩して雑談や授業を行い。そしてまた勉強して休憩が来てと繰り返され。

そんな風なことが４回ほど繰り返されたといったところだろうか。

伊奈野が休憩を終わらせて勉強を始めた１０分後くらいに、

「師匠がいらしていると聞いたのですが」

「おや。教皇。久しぶりだね」

「ええ。大商人もお久しぶりですね。お変わりないようで何よりです」

伊奈野のもう１人の弟子がやってきた。

それも、

「あれ？あんたも来たのかい？」

「あっ。はい！私も来ましたよ！！」

もう１人新しい人を連れて。

「あれ？宗教勧誘少女ちゃん？」

「「「「宗教勧誘少女ちゃん………？」」」」