21コマ目 宗教史
本日2話目です
魔女さんの素のしゃべり方って、もしかしてうるさい人との話が初出しでしたっけ?
弟子にしてほしい。
そんな言葉とともに頭を下げるうるさい人。
「…………なぜに?」
「あなたが先ほどから書かれているその話に非常に興味があるからです。現在少しずつですが他教に信者を奪われている状況ですので、ここから争うには他教の歴史を知る必要があるかと思いまして」
思わずつぶやいた伊奈野の独り言にうるさい人は律義に応えてくれる。
そのおかげで伊奈野は理解できたし、
「なるほど。宗教史に興味がおありなんですね」
「はい。そうなんです」
今伊奈野は世界史の勉強をしていた。だからこそ、心が惹かれたのだということも。
今までも世界史を勉強したことはあったが、小屋へ行って最初の方にはやらなかったし勉強する頻度もほかの教科に比べると低い。
だからこそ今までのうるさい人にはあまりそういったお願いをされなかったのであり、
「うぅ~ん。私の10分間の休憩時間だけであれば教えますよ」
「本当ですか!?」
伊奈野は教えるのはかまわないと考える。理由は魔女さんへ勉強を今まで教えてきたのと同じように、自分のためにもなると思われるのだから。
が、
「ちょ、ちょっと待ってください!師匠の弟子は私ですよ!」
そこに待ったをかけるのは魔女さん。
師匠と呼ぶ伊奈野を渡さないとばかりに後ろに回って軽く抱き着き、うるさい人をにらむ。
その様子にうるさい人は苦笑しつつ、
「奪うわけではありませんよ。私が弟弟子であなたが姉弟子。それでいいではありませんか」
「………むぅ」
説得しようとするも、魔女さんは不満げな顔のまま。
それはそうだろう。なにせ、
「師匠があなたへの授業をしていたら私への授業が減るじゃないですか!」
「そ、それを言われてしまいますと………」
うるさい人へ伊奈野が休憩時間を使えば、その分魔女さんに使う時間が減ってしまう。それは伊奈野から学びたい魔女さんにとって避けたいことだった。
が、それを聞いた伊奈野は、
「魔女さん。それはとりあえず渡したあれを覚えてから言ってください。私の理系知識はほとんどそこに詰まってますから」
「うっ!」
伊奈野の言葉に、痛い所を突かれたと苦い表情をする魔女さん。彼女もまだ教科書となった分厚い物の中身を覚えきれてはいないのだ。
だがそれも当たり前だろう。受験生が今まで何年もかけて覚えた知識を、専門職の人間だからって数日で全て覚えられてもらっては困る。
まだまだ魔女さんが伊奈野に教わる以前の状態でいるのは間違いないようだった。
「ということで、魔女さんはそれをやっていてください。質問はどこかのタイミングで受け付けます。うるさい人も今度テキストを渡すので以降はそれを使ってください」
「は、はい……………ん?」
「分かりました……………え?」
伊奈野の的確な言葉。
なのだが、弟子2人は違和感を憶え、
「「うるさい人?」」
「あっ。こっちのうるさい人はまだそこまでうるさくなかったんでしたね………でも使い分けるのも面倒なのでうるさい人でお願いします」
「え?は、はぁ?」
伊奈野は普段通りに言ってしまったが、まだ日本サーバのうるさい人は自身をうるさい人と呼ばれたことがない。
伊奈野はそれに気づいていろいろと理由を説明したり別の名前を考える必要があるかと思ったが、面倒なのでやめた。
うるさい人もそれでいくと言われればこれから師事する予定の相手なので強くも言えず、黙るしかない。
「ちょっ。あなた師匠に何やったのよ」
「さ、さぁ?何かした記憶もないですし、今日が初対面のはずなのですが……………もしかすると、次元の狭間の先にいる私に会ったとか?」
「あぁ。あれを封印した先にいるあなたじゃないあなたってことね。それなら納得できるわ」
弟子2人は困惑するも、他サーバが存在していることは2人も認知しているのでそう考えることで納得した。決して今のうるさい人がうるさいからという結論には至らないのである。
「さぁ。時間は限られてますし早速説明にいきますよ」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
魔女さんとうるさい人たちの考察は完全に無視して授業を始める伊奈野。
ここで教えられた知識で、うるさい人がこの世界の宗教争いで他のサーバと比べてかなりうまく立ち回れるようになるのは簡単に予想できる未来だった。
もちろん、伊奈野はそんな予想を一切しないが。
ただ、
《ワールドアナウンスです。ただいま日本サーバにおいて全英雄がパートナーを持ちました。これにより本シナリオ、『英雄たる所以』が開始されます》
「………………ん?」
気づいてないにしても。
《称号『教皇の師』を獲得しました》
というログにも、他の様々なことに気づいていないにしても、それははっきりと聞こえた。
「え?何?」
困惑する伊奈野。しかし、それを説明してくれる存在は誰一人として存在しなかった。
彼女のさらなる伝説が築かれる日も近い。