1コマ目 各種設定
「………届いた!!!」
そう呟く彼女の手元には、ヘッドギアが収まっていた。
段ボールに詰められ厳重に敷き詰められた発泡スチロールや空気袋を押しのけ出てきたのは、非常に軽く高級感あふれるもの。
「さすがは、10万」
彼女、受験生なピッチピチの高校生画智是伊奈野は、届いたばかりのVRヘッドギアを装着し、自身のベッドへ横たわる。
するとすぐに体から力が抜け、
『ようこそいらっしゃいました。これより基本設定を行っていただきます』
「ん。なるほど。了解」
突然意識が落ちたかと思えば、すぐにやってくる白い世界。
そんな世界の先にいるのは、宙に浮いた小型の機械のような者。ゲームのコンセプトとはあまりあっていなさそうな設定専用の機械のようだった。
伊奈野の本命はこのゲームでかわいいキャラクターを作ることでも強いスキルとジョブの組み合わせを作ることでもなかったため、
「見た目は私より小柄な感じで、髪はショート。眼鏡もかけられるならかけさせといて。髪の色は黒で、目の色は赤。顔はリアルの私よりも無表情が似合う感じで」
まずは見た目を準備している間に考えていたため最低限伝えておく。
急にそういったことを並べたため相手も機械であるため把握はできるが、
『りょ、了解しました』
少し困惑の色がうかがえる。
だがすぐに、
『顔や体形のベースはお客様を基にいたします。お客様は大変美形でいらっしゃいますので他の方と並ばれても違和感などは、』
「あっ。それはなし。ネットリテラシー的にアウトだから、基にするのはサンプルの物にして。私の要素は一切混ぜなくていい」
話を進めようとして、すぐに伊奈野に却下される。
彼女は受験生真っただ中であり、ちょうど先日『情報』の復習をしたばかりなのだ。ネットリテラシーに関しては厳しくなっている。
『………で、ですがお客様は非常におきれいで』
「そういうの良いから早くして。キャラクターで私の個人的な細かい要素が分かる部分はできるだけ排除」
『………わ、分かりました』
しょんぼりしていますとでもいうような雰囲気を出して従う設定用のAI。だがそれを見ても彼女は一切心が痛まなかった。
なぜなら、その危険性は『情報』で勉強したのだから!
『で、では、次にジョブやスキルの各種設定を行っていただきます』
「了解。ジョブは魔法使いか神官」
『申し訳ありませんが、僧侶という職業はありますが神官という職業は初期選択できる中にございません』
「魔法使いは?」
『そちらはございます』
「じゃあ魔法使いで」
『かしこまりました』
何故魔法使いか神官なのか。
それは単純に、ゲーム的に言うと知能系統のステータスが高そうだからである。受験生として験を担ぐ意味合いでも、知性の高い職業を選んでおきたかったのだ。
「スキルは職業に合いそうなのをおすすめで選んでもらえる?」
『かしこまりました。ではこちらなどいかがでしょう?』
そんな言葉と共に、伊奈野の前へウィンドウが表示される。
そこに書かれているのは、魔法使いの持っていそうなスキルの数々。とりあえず伊奈野としてはどれでも良かったので正直に、
「どれでもいいから、バランスよくこの中から選んでもらえる?もうそれで確定で良いから」
『了解しました。では取得スキルは『風魔法1』『MP増加1』『魔力障壁1』『詠唱短縮1』『魔法使いの心得1』の5つでよろしいでしょうか?』
「OK」
効果もあまり分かっていないが、伊奈野はそれで了承する。彼女にとって構成というものは非常にどうでもいい物なのだから。
というよりそろそろ時間を使い過ぎて(経過時間3分程度)、早く勉強をさせてほしいとイライラしているほどである。
『それでは最後に種族を決めていただきます』
「人間で」
『………かしこまりました』
即答だった。
エルフやらドワーフやら魔族やら、本当はいろいろとあったのだが、もし存在しないものを選んでロスが出てしまうとそれだけで勉強時間が減るということで彼女は無難な人間を選んだのだ。
さて、先ほどAIはこれが最後だと言っていた。
つまり、
『それではこれで各種設定は終了となります。これ以降はチュートリアルがありますので、まずはそちらのご確認をお願いします』
「了解」
『それでは良い人生を』
《称号『何度目?』を獲得しました》
視界が暗転する。プレイヤーネームすら決めることなく。
そして次の瞬間には、また周囲の風景が全く別のものに変わっていた。
そこは、
「邪魔だあああぁぁぁぁ!!!!」
「どけええぇぇぇぇ!!!!」
「俺に話をさせろぉぉぉぉ!!!!!」
「………ケイオスじゃん」