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第99話

「グゥギィャァァァァアアアアアア!!」


 巨大な魔獣の……断末魔のような絶叫で、俺は目覚めた……ここは……

 俺は……従者の鎧ごと、醜悪な肉塊の中に半ば突き刺さっていた。

 意識が遠のく……俺自身かなり出血しているような感覚がある。

 だめだ……抜け出さないと……


「グゥオオオオオ!!」


 ドラゴンは……苦し紛れに旋回しながら飛び回っているようだ……

 空が……回る。

 ……やったのか?

 解らん。



「ベイトー!! どこだあああ!! 脱出しろベイトぉぉぉ!!」



 あの声はビリーか……はは……あいつ、最後まで何が起きたのか解ってなかったのかもな……俺の名前もベイトのままじゃん……


 脱出か……そうしたいが……


 俺の右腕は鎧ごと完全に奴の体に突き刺さっていて……その鎧は奴の鉤爪にしっかりと握られていた。



「ブレイド! 帰って来い、ブレイド!」



 ガードナー……最後の最後に、あいつが自分の盾を踏み台にして飛べと言ってくれなかったら……この一撃を見舞う事は出来なかったな……さすが勇者だ。



「お前らが戻らねえとババアが泣くだろうが! 俺またあいつにボロクソに言われんだろよ! ブレイド! 何とかしろーッ!」



 ドラゴンがもがき苦しんでいる……奴はなんとか高度を上げたいらしい……だが実際には下がる一方のようだ……旋回しながら……少しずつ。


 脱出……鎧からは抜け出せるかもしれないが……俺は地面に落ちるな……それも俺が今体を動かせるならの話だが。


 『ブレイド』を使い過ぎたというべきか……正しく使ったというか……


 あ……

 俺の体は、死ぬ寸前まで動かせる特別な体だったような気がする。

 という事は……俺、もう死ぬのかもな。体、動かねえってそういう事だろ。


「お父さん! お父さん!」


 ハンナの声が聞こえる……幻覚でもいいから最後に一目見たいな……

 たった三か月の間だったけど、ハンナは少し成長したよな……

 初めて見た時より、少し手足が長くなった気がする。顔つきも……少し変わったかな……綺麗になったというか……成長の早い年頃だものな……


「お父さん!!」



 幻覚じゃない。ハンナは目の前に居た。良かった、無事だったのか!!

 これで何も心残りは無い。俺達は勝ったんだ!

 ゼノン、俺は……俺達は運命に勝ったぞ! あんたも、ハンナも、ガードナーも、俺も! 運命をひっくり返してやったんだ!


 ……


 まだ喜ぶのは早過ぎる!


「ハンナ……早く離れろ……ドラゴンはまだ生きている……ガードナーの所に行け……!」

「お父さん……ブレイドと一緒じゃないと行かない!」

「俺はこのドラゴンを倒しきってから行くから! 早く行け!」


 あ……思い出した……俺、前に『ブレイド』を自分の手にかけて使った事あったな。

 あの後……俺は手が痛くて不自由な思いをした。

 その痛みで、俺は……俺もこの世界に居るんだ、ちゃんと痛みがあるんだと……安心したんだ、だから、簡単に治すのは嫌だと思ったんだ。


 俺は『ブレイド』の部分だけ、この世界の住人なのかな……?


「嘘よ! 動けないんでしょ! ブレイド! 手を出して! こっちの鎧に入って! お願い! 手を伸ばして……きゃっ……!」



 だめだ……意識が……飛ぶ……


 ハンナ、逃げてくれ……あ……鉤爪……くそっ!! 奴の鉤爪が、ハンナにも……

 何とかしろッ……俺! なんとかしろ!


 地表が……いや……転移門が……迫るッ……!?


 次の瞬間、ドラゴンの尾が、転移門に触れた……たちまち尾は引き千切れ、光の微塵と化す!


「ガァアアアアアアア!!」


 苦しんでいるのか……!? 転移門に引き千切られたドラゴンの尾の先から、夥しい粘液が舞い散る……


 だが奴は旋回し……転移門へと向かう……ドラゴンの奴、このまま俺達を道連れにしようというのか!? どこまで! ハンナを殺さないと気が済まないのか!


「ハンナ! ハンナ! この呪いの目的はハンナを殺す事なんだ! ハンナが生き残らないと俺も勝った事にならない! 頼む! 生き延びてくれよ! 頼むよ! ハンナ!」


「ブレイドが……お父さんがくれた命なのよ!! 一番大事な事に使うんだから! 負けた事になんてならないんだから!!」


 ドラゴンが錐揉みに入った。もう奴は終わりだ! 転移門が……転移門が迫る……!


 ゼノンが言ってたな……転移門に魔法を使うな。何が起こるか解らないから。


 ……!!


「ハンナ! この六尺棒を引き抜いてくれ!」


 俺は、俺とは別にドラゴンに突き刺さっている、例の六尺棒を指差した。ハンナの所からなら手が届くかもしれない。


「は……はい!」


 ハンナはすぐに応え、棒を掴んで引く。従者の鎧の力もあり、それはすんなりと引き抜けた。


「左手に持たせてくれっ……!」


 意識が……くそっ……間に合え……!!


 ハンナの手が、しっかりとそれを俺の左手に持たせてくれた。


「離れるなよ……!」「はい……!」


 俺は最後の『ブレイド』を……迫り来る転移門目掛け、放った。

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