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第93話

 若い女性陣が入浴する間、俺とガードナーは五人の山賊亭のリビングに居た。


「この鳥は俺達を見張っているつもりか」

「ビリーが何か言い含めてたな」


 アズサがじっと俺達を見ている。


「それで。これでいいのかよブレイド」


 ガードナーの問いに対する答えは、今の俺には無かった。


 ゼノン婆はあれからずっと塞ぎこんでいた。今もリビングの片隅で小さくなっている。


「ゼノン……ハンナは白紙の運命を持っていると言ってたな」


 ゼノンの答えを期待せず、俺は続ける。


「両親を亡くした直後のハンナは、まさに真っ白だったよ。名前を聞かれてもすぐには答えられない。生き残りの村人が全員ベラルクスに避難すると聞いてもついて行こうとしない……俺もその時感じたんだ。不吉な予言を。この子はここで死ぬはずだったんじゃないかと」


「お前までそんな事……」ガードナーが言う。


「俺は……とにかくハンナを生かしたかった。ただ生きているだけ、というんじゃなく……だけど最初、ハンナは本当に真っ白だった。自分が何をしたいのかも解らないと。だから俺は誓いを立てた。ハンナが自分からやりたいと言いだした事は、全部応援すると……ははは、最近は頑固で困る事も多いけどな」


「だからってお前……まさか……今回の事も、ハンナちゃんの言う通りにする気か?」


 俺はそのガードナーには答えず、ゼノンに問い続ける。


「なあ……ゼノン。運命が白紙なのって、もしかして俺もじゃないのか?」

「……え?」

「……何故、そう思う」


 首を傾げるガードナー。ゼノンはようやく、口を開いた。


「婆さん程の占い師が俺を特定出来なかった理由さ。運命は連なる輪、婆さんそう言ったな。勇者ガードナーは見える。勇者ガードナーが『ブレイド』に出会うのも見える。ベラルクスの住民が『ブレイド』に会うのも見えた。だけどブレイドという人間は見えない。そうなんだろ?」


「……意味が解らんぞ」


「……お主が占い師になればええのに。わしなどより余程占い師向きじゃ」


「ハンナがブレイドによって救われたのは見えたが、ブレイドがハンナを救うのは見えない。そしてその後はハンナが見えないからハンナの目を通したブレイドも見えない」


「もう一度説明してくれないか?」


「そうじゃ、ブレイド。わしにはお前が見えないんじゃ。理由は解らん。お前は白紙どころか、運命そのものを持っていない。じゃが、お前を見ている人々は見える……ドラゴンが現れて消えた村に、運命が白紙の少女と、運命そのものが無い男が住んでいた……これが『ブレイド』で無ければなんじゃ? と……わしは……お主を初めて見た時に思った……」


「でも、ウナギが捕れる事は占ってくれたよな? いつか」


「下手糞な見習い漁師に捕まるウナギの運命が見えたんじゃ。まだ解らんのか」


「ああ……そうか……」


「だから、全く解らんのだが」


「ワシがブレイドを『ブレイド』だと特定出来なかった理由じゃ……『ブレイド』を見る人々は見えても、ブレイドという人間は見えんのじゃ」


「? うーん……」


 俺は運命の手が迫ってると思っていたんだが……無かったのか。

 俺には運命そのものが無かったと。

 誰かが、俺は『伝説』に疎いとも言っていたな……まあ……伝説の事はもういいか。

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