第85話 / 疎通 /
「あー。ガードナーねー。俺っちの有能さにやっと気付いたんだろうけど、俺っちもうベイトの子分でメリダ村の住人になったから、お前とは冒険に行かないぞ」
五人の山賊亭に現れたガードナーを見るなり、ビリーはそう言った。
ガードナーはそれには特に反応しようともしなかった。
「ババアも元気そうだな」
「おおお武名名高き勇者殿、ご無事で何よりですじゃ」
ゼノン婆は顔は笑顔で、言葉には棘を込めて応える。
「ハンナちゃーん! 元気だった? これおみやげ! カラカスの揚げまんじゅうよ!」
「私は飾り紐。カルタヘナの露店で見つけたの。ハンナに似合うかなって」
「ええっ! ありがとうございます! お父さん! おみやげいただいちゃいました!」
あっちは人として正しい交流をしているな……ソニアさんもマリオンさんも元気そうで良かった。
もしガードナーがまた来たら、今度こそ最初から正直に言おう、真っ先に今までの事を謝ろう。俺はそう決意していたはずだった。
しかしいざ本物が帰って来てみるととても言い出せない。今まで散々嘘をついて来たせいでもあるが……何だろう、奴の三白眼には、本当の事を言いたくなくなる魔力があるというか……
◇◇◇◇◇
何事も無かったかのように挨拶して、今までと同じように五人の山賊亭に入り、ゼノンに軽口を叩く……ここまでは予定通りだとガードナーは思った。
ベイトにはいつもと変わった様子は無い。いつも通りソニアの胸元とマリオンのドレスの深いスリットをチラ見している……ように、ガードナーからは見える。
ポンコツ猫がまだ居るだろうというのも想定通り。ベイトは親切な奴なので猫には懐かれるだろう。だが……本当はダイニングに入ったらすぐに、少なくともこのボケ猫を張り付かせた事だけは謝罪しようと思っていたのに……ガードナーはそのタイミングを逃してしまった。
その後には本題である『ブレイド』の譲渡からの盗難という大きな謝罪を成功させなければいけないのに。ガードナーの時間はどんどん過ぎて行った。
「何してるのよガードナー。それを渡すんじゃないの?」
マリオンがガードナーの所まで来て囁いた。
◇◇◇◇◇
俺はガードナーが持っている六尺棒にも気付いていた。そう来たか。
いや、俺はもう言い逃れはしないと決意していたのだ。
むしろガードナーから言われる前に、俺がブレイドですとちゃんと言って、謝罪するつもりだったのだ。
なのに……
そこまでこれみよがしに俺がついた大嘘の証拠を誇示されたら、怖くて何も言い出せないじゃないか……
確かに、俺はそれを自分がブレイドだと名乗った上で、ガードナーに渡せと言ってそれを置いて来た。だがいくら何でもそれがただの棒である事はとっくに解っているだろうに。わざわざそんな物を持って来るか?
悪いのは嘘をついていた俺だけど、そこまでされたら謝罪の糸口すら見つからなくなってしまう。どうすりゃいいんだ。
「ベイト」
来やがったあああああ!?
「エールを一本……キンキンに冷えたのをだな……」
「は、はい! エールを一本! キンキンで!」
俺は地下室へダッシュしていた。