表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/100

第63話

「キキィッ! キイキイキイ!」


 俺は寝ぼけ眼で抗議するアズサを天高く投げつける。


「キィィィィー!!」

「頼む!! 空からハンナとビリーを探してくれ!!」



 それから……俺は闇雲に走った。森の中を。

 上の森は木々がまばらで下生えも少ない。こっちは少し木材や薪を取り過ぎなのだと思う……って今それどころじゃない!


 この森にはどんな危険がある!? こないだみたいな巨大で凶暴な鹿はもう居ないのか? 昔居た五人組の山賊は? 狼や熊は? 邪な亜人は居ないのか!?

 大蜘蛛は!? ゾンビは、トロールは!? ドラゴンが出たりはしないのか!?



「ピイヨ……キッキッキッキッ!!」


 見上げると、アズサが……怒ってる……仕方無いんだ、すまん……


「頼むよ、探してくれ!」


「キイッ! キッ!」


 え……もう見つけたの?




「ハンナー!!」

「あっ……お父さん」

「こらぁぁぁあああ!!」


 俺の叫び声のせいか、それを聞いたビリーの声のせいか。

 遠くで茂みが揺れ、少し大きめの牡鹿が逃げて行った。


「このバカちん! 逃げられたじゃないかーっ!!」

「キキーッ! キィッキッキッキーッ!」


 ビリーが怒っている。

 寝ている所を掴まれてぶん投げられたヒヨドリも怒っている。


 ハンナは……少し気まずそうにしている。


 はあ……。

 俺はハンナの顔を見てやっと一つ思い出した。

 俺、ハンナがやりたいって言った事は全部やらせるって誓ってたじゃないか……何でそれを忘れちまってたんだ。


 ハンナは確かに、鹿狩りを見たいって言ってたな。


 それを俺が勝手に、女の子はどうあるべきかとか、生き物の命を取る狩猟はハンナに相応しくないとか想像して押し付けていたんだ。


「ごめん、ちょっとびっくりしただけなんだ、邪魔して悪かった……村の掟の通りだ。ビリーとハンナは、ちゃんと掟通り二人で出て来たんだから、問題無いんだ……」


 俺はそう言って騒いだ事を素直に詫びた。


「じゃあ俺は戻るから。宿屋にお客さんが来てるんでね。二人とも、気をつけるんだぞ……アズサ、悪いけどお前も二人についててもらえる?」


「キィ……キィーッ!」


 何か言いたい事がありそうなヒヨドリと、二人を残し、俺は帰るふりをした。

 背中を向けてとぼとぼと……

 もしかしてハンナが追い掛けて来て、お父さんやっぱり私も帰る、とか言わないかなと思いつつ。


 しかしハンナは来なかった。そっと振り返ると、もうビリーと一緒に辺りを見回していた。ああ、狩る気なんだ、まだ……



 とりあえず俺は二人が飽きて村に帰るまでこっそりずっとついて回った。

 収穫は無かったようだが、二人は無事に帰って来た。

 お客さんからはゼノン婆が代金を貰っていてくれた。


「わしまで従業員扱いしおってからに」


 すみませんでした、ゼノンさん。



 翌日。ビリーはハンナを連れてまた狩りに行った。この日は宿泊客が無かったので俺もこっそり後をつけて行った。ビリーはハンナの目の前で小柄な牡鹿を一頭仕留め、そいつを肩に担いで帰って来た。さすが獣人族、華奢なのに力持ちな奴だ。


「どうだ! 俺っち有能だろう? こいつでご馳走を作るといいぞ」


 ビリーは得意顔だった。セミを獲って帰って来た猫のようだ。


「また今度ついて行ってもいい? お父さん!」


 ハンナも帰りに弓矢を持つ係くらいにはなれたようだ。


「ああ、宿屋に泊り客が居ない朝ならいいよ」


 つまり、俺がこっそりついて行ける時ならいいと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



宜しければ是非連載中の作品もご覧下さい

伯爵令嬢エレーヌ・エリーゼ・ストーンハートには血も涙も汗もない
19世紀末欧州風の世界を舞台にしたお嬢様ドタバタ劇です

マリー・パスファインダーの冒険と航海(シリーズ作品)
17世紀前半くらいの近世世界を舞台とした航海冒険小説です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »