第57話
めっちゃドキドキする。
一番困るのはこの剣を抜いてみろと言われる事かな……あるいはあの筋肉ダルマとレスリングをしてみせろとかそういう……何なんだあのバケモン。
中庭へ向かう俺の後ろから、衛兵やら何やらがゾロゾロついて来る。
あのバケモンも怖いけど顧問魔術師とか言う奴も顔が怖えよ。俺もあんなのと冒険をするのは嫌だなあ、そりゃソニアさんやマリオンさんがいいわ。
中庭に降りた俺は、辺りを見回す。訓練場みたいだな……弓の的やら藁人形やら……村の地下室にもあったなあ、あれ。
俺は村の地下室にも藁人形にも近づきもしなかった。まあガードナーに言われてからは時々、ハンナもガードナー一味も寝てそうな夜明け前に、こっそり入ってみたりはしたけれど。
そう言えば一個ぶっ壊しちゃったんだよな、あの藁人形。誰が作って置いてたのか知らないけど、壊したままじゃ申し訳無いよなあ。帰ったら直さないと。
「それで……『ブレイド』とは……」
バケモノが急かす。まあ待て。
「……見せてみろ。『ブレイド』とやらを」
顧問魔術師。なんか嫌味な奴だなあ。まだだよ、まだ。
「ピィヨ! キッキッキ!!!」
ヒヨドリの声に、俺は空を見上げた……おお、アズサか。
馬は用意されたか? 俺は目でアズサに問う。
「キッ! キッ!」
アズサは二度頷く。大丈夫、という事か。
「どうした。『ブレイド』はまだか」
また顧問魔術師とやらが急かす。はいはい、今やるよ。
俺は六尺棒を両手で持ち、手と手の間隔を広げて行く。一杯にすると振りにくいから……1mくらいかな。
「離れていろ。巻き込まれても知らんぞ」
俺はゆっくりと意識を集中する……フリをする。本当はこんな溜めは要らない。普通に振って出す事も出来るし、むしろその方が簡単なんだが……こいつらに見せなきゃならないんで、ちょっと演技を入れてやろう。
六尺棒の先端から、木が伸びて行くかのように、眩い光の幹が、枝が伸びて行く。
「なッ……!!」
「何ィッ……!!」
魔力に共鳴し、周囲の大地が揺れる。近くに居た衛兵が尻餅をつく。だから離れてろって言ったのに。
六尺棒を柄とした、白く輝く光の剣が……6mくらいは伸びただろうか。
俺はそれをもったいぶって下段脇に構える。
普通に振ってもいいんだけどな……
魔力の引力で、そのへんの石ころだの砂埃だのが光の剣へと集まって行くが、それらは光に触れた瞬間、爆音を上げ一瞬で蒸発し激しく赤く光る。
俺もちょっと驚いていた。この技、大きな棒でやるとこんな事になるのか。
あの日、ドラゴンと対峙した時にこの技を思い出せていれば、ハンナの両親は死なずに済んだのだろうか……そう考えると、深い責任を感じてしまう。
あっ、やべえ、光の色が青に変わった。俺の感情が反映されるらしいんだよな、この剣。もういいや、やっちゃえ。
俺は六尺棒……いや剣を振り上げる。剣の持つ重力に引っ張られ、俺の体は天高く舞い上がる……ちょ、やべえ、高くね!? 俺ここから落ちても大丈夫なのか!?
「まま、待て!! 退避!! 退避!!」
地上でバッケンローダ叫び、衛兵達が蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
ハンナやビリーが見ていないだろうか? この技はハンナ達に見られたくないから、この状況を作ったんだが。
退避いいな? もういいな?
あ、俺もヤバい、俺落下してる。そろそろ行くか。
俺は大上段に振り上げたその剣を、中庭の中心部めがけて振り下ろした。