第44話
「俺っちガードナーに頼まれたんだ! ブレイドを見張りながらハンナの護衛もしてくれって。ガードナーって本物の勇者なんだぞ、あいつに頼まれるって凄いんだぞ、俺っち有能だからな!」
ビリーは上機嫌で言った。ショートパンツの後ろの尻尾用の穴から伸びる、フワフワの長い尻尾がピンと立っている。上機嫌というか、有頂天だな。
なる程有能な密偵だ。勇者ともなると持っている人脈も違うなあ。あの男、あっさり引き下がったと思ったら、そういう事だったか。
「あの、それは……ガードナーさんの勘違いなんだよ、私はベイトという宿屋のおやじで、ブレイドじゃないんだよ」
「ええっ!? ガードナーはブレイドだと思ってるらしいぞ!?」
さっきからヒヨドリはビリーの口を閉じようと翼でパタパタやっているが、全く成果を上げていない。
「どうしよう、アズサ、ガードナーに手紙を届けてくれないか、この人ブレイドじゃないって言ってるって!」
とにかく喋るのをやめさせたいヒヨドリと喋るのをやめないビリー。見ている分には面白いな。
「アズサは何でさっきから怒ってるんだ! 意味わかんないぞ!」
「キィィィー! ヒーヨヒヨヒヨ!!」
「仲良しでいいなあー。ねえ、お父さん?」
「ほんとだね、ハンナ」
いくつかの農園が並ぶ道を過ぎると、次第に山が迫って来る。道は山間を抜けて行くので登る必要は無いらしい。
「夕方までにペンサコラに着きたいから……一気に行こう」
先頭のバートンが声を掛けて来る。誰に言ったんだろう?
「それじゃー俺っちの出番だな!」
ビリーが応えて隊列の前に出ようとする。
「キキッ! キィキィキーヨ!」
「あっ、そうか」
ヒヨドリが何か言うと、ビリーは慌てて踵を返しこっちにやって来た。
「ガードナーに頼まれてたんだ。ブレイド? ベイト? どっちでもいいや、あんたも俺と来てよ」
「あの……どういう事でしょう……」
肩のヒヨドリはもう取り繕うのを諦め、溜息をついている。
「このへん大蜘蛛がたまに出るから。念の為前に出て警戒すんの。ここじゃ俺っちの仕事だけど、ガードナーがブレイドにもやらせろって言うんだ」
「あ、あの……私戦闘は苦手ですので……」
「でしょ! そう言うんでしょブレイドは! 俺っち解ってたぞ! 思い出したから!」
俺がそう答えると、突然ビリーは逆立ちをしたり、くるくる回ったりして……踊りだした。
「ブレイドがそう言ったらこう言うんだ! 読むぞ!」
ビリーはショートパンツのポケットから丸めた紙を取り出して広げる。
「……ハンナが……に……たら……るだろ、ちゃんと……ってあげるのがお……の……だろ……」
「私も見ていいですか?」
ビリーが見ている紙切れを。ハンナが横から覗く。
「読める?」
「読めますよー」
「じゃ読んで」
「はい、ハンナが大蜘蛛に襲われたら困るだろ、ちゃんと守ってあげるのがお前の仕事だろ、ブレイドが文句を言うようならそう言って説得しろ……ガードナー」
「……だぞ!」
とりあえず……ハンナは最近の読み書き修業の成果が出ているな。
さて。俺は六尺棒を手に、隊の前へ進む。
「いいの……お父さん?」
「あはは……ビリーを説得する方が面倒だ」
俺はハンナにそう囁いてから、ビリーに言った。
「じゃあ君はここでハンナの護衛をしてておくれ。ガードナーからも頼まれてるんだろうけど、私からも頼むよ」
ビリーは暫く腕組みをして考えていたが。
「ブレイドも凄い人なんだよな? じゃあガードナーにもブレイドにも仕事を頼まれる俺っちも凄いって事だ!」
そう、上機嫌で答えた。