第17話 勇者ガードナー、出陣
勇者ガードナー達は森の中を突っ切り、先を急いでいた。
「ガードナー、この先よ! その森を出た所みたい!」
黒魔術師マリオンは、水晶玉に天秤がついたような物を左手でぶらさげていた。水晶玉の中では、赤い光の粒が明滅している。
「嘘だろしかし……こんな所にか……?」
「止まって! ガードナー! 居たわ……聖魔獣ロブロトロスよ!」
白魔術師ソニアが叫ぶ。三人は一旦立ち止まり、ガードナーを頂点とした三角隊形を組みなおす。
「大いなる加護!」
ソニアは手にしていたバトンを両手で回転させる。柔らかな桃色の光の輪が、三人の周囲を包んで行く。
「グレーターフォース、トライン!」
マリオンも杖を高く掲げ、呪文を唱えた。杖の先から広がる光が、幾重もの三角の輪となり三人それぞれの周囲に広がり包み込む。
「気をつけて! 奴の最大の武器はギカントクラッシュ、超高威力の突進よ!」
「ああ! あの白鯨騎士団を全滅に追い込んだ奴だ! だがあの一撃を凌ぎきれば勝機はある! いいか、俺が倒されてもひるむなよお前ら!」
突撃に備える三人。
「……」
何も起きないまま、1分が経過した。
三人を包み込む桃色の光が、いくつもの三角の輪が、薄まり、消えて行く……
「しまった! 魔法を張り直せ!」
「大いなる加護!!」
「グレーターフォース、トライン!」
再び三人を、桃色の柔らかい光と、幾重もの三角の光輪が包み込む。
「くそっ! 攻めて来ない……奴は学習しているんだ! 仕方が無い、こちらから仕掛けるぞ!」
「でも……! 奴には攻撃魔法は一切通用しないのよ!」
「ガードナー! 作戦を立て直した方が……」
マリオンとソニアが止めるのを振り切り、ガードナーは剣と盾を構え突進する。
「うおおおおおおおっ!!!……」
「ガードナー!」
「……」
「ガードナー?」
三人は呆然と、足元の聖魔獣ロブロトロスの亡骸を見下ろしていた。
「聖魔獣ロブロトロスが……死んでる……」
「何故だ!? そもそも黄昏の神殿の最奥に居るはずの聖魔獣ロブロトロスが、何でこんな田舎の街道の傍らの草むらで死んでるんだ!?」
ガードナーは苛立ちを隠さずに叫んだ。
「ガードナー、これ、聖魔獣ロブロトロスじゃないのよ、きっとそうよ!」
ソニアはそう言ってガードナーをなだめる。
「ソニア……でも聖なる羅針盤は間違いなくこの地点を指しているのよ……」
マリオンは動揺し、辺りを見回していた。しかし周囲には他の気配は無い。
「ゼノンのばばあめ……また適当な事を言ったんじゃねえだろうな……あいつの予言、一つも当たんねーじゃねーか!」
「やめてよガードナー! 私の先生なのよ!」
「じゃあどうするんだ! ロブロトロスの角は! あれが無いと……」
ガードナーとマリオンが言い合いを始めたその時だった。ソニアが震える手で、聖魔獣ロブロトロスを指差した。
「角……残ってる……」
「な……何ィイ!」
聖魔獣ロブロトロスは死んでいた。だがその角は残っていた。
「どういう事だ」
ガードナーは呟いた。
「どういう事だ……? この……聖魔獣ロブロトロスを倒した誰かは……ロブロトロスの角は獲らずに置いて行ったというのか!? あらゆる攻撃魔法を無効にする秘宝を!? じゃあそいつは! 何故こいつに挑んだというんだ!」
ソニアは再び、震える手で聖魔獣ロブロトロスの後ろ脚を指差した……
「後脚の肉が……少し切り取られているわ……」
「じゃあ何だ。聖魔獣ロブロトロスは後ろ脚の肉を獲られる為に殺されたのか」
「……」「……」
「聖魔獣ロブロトロスって……食えるのか?」