50話 『250Fダンジョン脱出RTA』2
かしこい僕は、閃いたんだ。
今のこの状況は、たぶんるるさんの呪い様ってやつのせい。
で、なんでも今――この配信は始原さんたちしか接続されていなくって、他の人たちは締め出されて。
しかもこの配信に繋がってる始原さんたちのスマホとかPCとかも、なんかロックされてるんだってね。
徹底してるね。
それがなんでこうなってるのかはさっぱりだけども「250Fダンジョン脱出RTA」とかわさわざ配信タイトル変えて、しかも設定とか全部ロックして変えさせなくなってる。
つまり?
『よくわかんないけども――呪い様は、僕に攻略されたがってる』
たぶんこれで合ってるよね。
『攻略されたがっているんなら、攻略しないと失礼ですよね』
実際、呪い様ってのが初めてここまで荒ぶったのって……最初のあのダンジョン、僕と近い階層でのことらしいし。
『なので、ここから攻略します。 250階層まで』
『ハル様……!』
【どうしてそうなった】
【草】
【最後の発想だけまったく理解できないよハルちゃん……】
【駄目だ、この幼女好戦的すぎる】
【これが無事トレンド1位を獲得した「爆裂天使」……】
【ハルちゃんに攻略されるだって!?】
【ずるい】
【呪い様ずるい】
【俺たちも攻略……されてたわ、とっくに】
【ある意味この配信そのものだった】
【草】
『なんか知らないですけども、呪い様ってるるさんのときもそうでしたけど……みなさん、僕に興味津々ですよね?』
リリさんを安心させるためにも、あえて冗談にも乗る。
なぜか僕の配信を――無言配信でも追っかけてくれてた人たちなんだ。
この人たちなら、きっと変なことは言わないはずだから。
【興味津々】
【むしろ生活そのものだね】
【人生そのものだよ】
【でも、呪われるってさ、普通はびびらない?】
【怖いとかいう発想はないのか……】
【ま、まあハルちゃんだし?】
【ゴースト系も物理で強制貫通するしなぁ】
【ああ……自分で始末できるから……】
【和風の幽霊とか、物理が効かないから怖いタイプだからね】
【洋風のは物理的に凶悪とか感染するタイプだもんなぁ】
『のろいさま……ですか、ハル様』
僕の言葉に反応したリリさんがこわごわと……やっぱ腰引けてるね君。
『よくわかんないけどそういうの。 外国でもありますよね、呪いとかいう概念。 ホラー映画とかじゃ定番の』
『え、ええ……』
【リリちゃんもドン引きのウルトラCな説明】
【でも、言われてみるとそうかもって思えるな】
【こんなに落ちついて説明されると、なんだかすって入ってくるよな】
【実際この状況やばいし、せめて使える分のリストバンドで片方はすぐに戻るってのは正しい】
【生存性的にも、たぶん、いや、確実にハルちゃんの方が高いしな】
【でも……ハルちゃんは?】
【ハルちゃんは……なんか無事に戻るでしょ、いつも通り】
【それもそっか それならハルちゃんがんばって】
【俺たちはいつも通りに楽しく観戦してるからさ】
【あ、ポップコーンとコーラ取ってくる】
【私はお酒!】
【草】
【視聴者に見捨てられ始めて草】
【ちがうぞ、信頼してるんだぞ】
【納得と思い切りがよすぎる】
【でもハルちゃんだぞ?】
【それもそっか】
【まぁ始原になった俺たち的にも、ハルちゃんならなんとでもなるとしか思えないし】
新しい配信機材の新機能、コメントのホログラム表示。
実況の読み上げ機能は……ひとりになってからでいいや。
これ、けっこう便利だね。
これなら僕でも、コメントに反応する実況とかできそう。
『でも、私……助けにきてもらっておきながら』
『その方が、僕が楽なんです』
僕が渡したリストバンドを両手に、おろおろしてるリリさんに向けて――ちょっと強めに言ってみる。
こういうときは、強引なくらいでちょうどいいんだから。
僕の自信が人にわかってもらえるかはわかんないけど、なんとなく、ダンジョンの中でなら――なんとかなる気がしてるんだ。
『これは僕のためなんです。 せっかく助けられた君が、また危険な目に遭ったら……僕が、困っちゃう。 だから……ね?』
『…………………………はい』
しぶしぶだけども、それでも言いたいことをぐっと飲み込んで、うなずいてくれる。
うん。
この子も、いい子だね。
【リリちゃんかわいそう】
【かわいそう】
【助けてくれた相手が幼女だもん、すっごく抵抗ありそうだけど】
【助けてもらったからこそ強く言えない相手に言われちゃあなー】
【もし本当に250階層になってるなら……レベルが高くても】
【ああ、隠蔽でなんとかできるだろうハルちゃんならともかく、普通にパーティー組んで挑むレベルのダンジョンだし】
【正論でしかないのがまたかわいそう】
おとなしそうなリリさんの唇が、ぎゅっと歪んでいる。
まじめな子なんだろうね……しかも相手は幼女な僕だし。
でも、そうだってわかって狙ってやってるけども――そんな僕の方から「君が帰ってくれた方が楽」って言われたらうなずくしかないのが、この子の思うところのはず。
それは――知り合いの人たちに自分の命綱を差し出して自分から残ったリリさんだからこそ。
似ている僕たちだからこそ、効くんだ。
『……わかりました。 でも、決して無理は』
『しません。 あ、僕、隠蔽だけは自信があるので、本気で危なさそうなら隠れて待ちますから。 高いくぼみとかでキャンプでもして。 ちょうどリリさんが僕のこと待ってたみたいに、じっとしてます』
250階層ってどんだけ深いかわからないけども、たぶん、何回か来たことあるレベルの深さでしょ?
それなら戦うのめんどくさくなったときとか睡眠時間とかに隠れながらやり過ごしたこともあるし、平気平気。
……るるさんの呪い様が変なことしてこなければ、だけどね。
うん、睡眠とトイレと食事さえ邪魔されなければ、僕1人ならなんとかなる。
『ほら、使って。 まずはリリさんが安全な場所に行ってください。 それを見届けないと、攻略できません』
【でも……つかえるのん? リストバンド】
【真上からずっと落ちてきたし、なにより配信映ってるから】
【あ、電波は通じてるか】
【なら大丈夫そうだな】
【さすがに、また壊れてたり……】
【おいやめろ】
【ちょっと上の連中に連絡してくる】
【あ、えみるるの配信にも顔出しとこ】
【ハルちゃんは残って、リリちゃんは離脱だってね】
【報道規制もせにゃあな……めんどうくさいが】
【他ならぬハルちゃんのためだ、仕方あるまい】
【おい、ハルちゃんに見られるから口調と内容は気をつけとけ】
【ネット上の口調は一致させとかないとね】
【そのために……えーっと、「年ROMれだっけ?ってアドバイスを参考にして叩き込んだんだからさ】
【おっとすまん】
『……どうか、ご無事で』
『はい。 リリさんも上に着いたら休んでてくださいね。 君も、疲労はそうとうなはずだから』
しぶしぶと……けれども、やだやだだってだってってならずに、リリさんがリストバンドを装着。
……それからもじーっと見られてたから、見返す。
銀色の髪の毛に蒼い目っていう――僕と反対属性な、スレンダー美人さん。
僕みたいな幼女相手でも――まぁ今は助けられた立場ってのもあるだろうけど――それでも眉毛も下がってるし、なんならちょっと腰が引けてる子。
あー、なんか新鮮。
ほら、るるさんとかえみさんはぐいぐい系だし、九島さんも九島さんでじっと観察してくる系だからね。
なんだかあれはあれでいいんだけどね……と、早く促さないと。
『さ』
『……はい』
たぶんるるさんたちと同い年くらいのその子は――ようやくに、リストバンドをかちりと起動。
リストバンドに内蔵された転移魔法――なんでもダンジョン内のトラップとか最下層からの脱出用にたまにある転移陣の応用なんだってね――
それで、一瞬にして姿がなくなった彼女。
索敵スキルでも……うん、届く範囲内に、人は存在しない。
「ふぅ。 ……あの子の情報、入ったら教えてください。 思い出したらコメント見るので。 あ、ホログラムは集中できなくなったら切りますね」
【はーい】
【任せろ】
【思い出したらで草】
【ハルちゃん、ほんとに見ないもんね、画面……】
【あ ハルちゃん、言葉、戻したんだ】
【ほんとだ、なんかちょっとだけくぐもってた感じなのが戻ってる】
【というか改めてすごい精度の通訳とAI音声だな……】
【ああ、言われなきゃどっちがどっかって普通わかんないぞ】
【ほぼラグなしの自動翻訳と合成音声か……近頃のはすごいね】
ふーん、やっぱお高いだけはあるんだね。
最新機種っていいよね。
お値段が高いのも、それとそれで満足感あるし。
【で、ハルちゃんどうするの? 本当にソロで攻略するの?】
【さっき表示された、謎のメッセージ的に250階層からの脱出RTAらしいけど】
【もしこの階層にモンスターいないんだったら、ここで待てばいいんじゃ】
【あ、さっきのはもしかして、リリちゃん安心させるために】
【なるほど】
【真っ直ぐに落ちてきたんなら、80階層に到着したるるえみたちからリストバンド降ろしてもらえば安全に帰れそうね】
【そうそう、しばらくのんびり待ってたら?】
「そういうわけには行かないみたいです。 だって、あーるてぃーえーらしいですから」
む、また言いにくい。
なんだよRTAって……ちゃんとリアルタイムアタックって言ってよ。
【え?】
【かわいい】
【かわいいけど……え?】
「RTAって、できる限り最速でってことですよね?」
お、今度はちゃんと言えた。
【そうだけど】
【ハルちゃん、それってどういう――】
――がらがらがら。
地面の石ころたちが、転がっていく音。
「――僕たちが下りた場所から、地面。 崩れ始めてます。 よかった、ぎりぎりまで保ってくれて……じゃ、走ります」
たったったっと走り出す。
……あの子がぎりぎりでリストバンド使ってくれて、本当によかった。
少しずつ崩れてたからね……もうちょっと迷われたら、僕が勝手にボタン押すとこだったよ。
【えっ】
【地面が崩れて……?】
【なにそのアクションゲーみたいなの】
【にげてー】
【なんかすごい重低音がしてるんですけど……】
【無駄によすぎる音質がこわい】
【こわいよー】
「よくわからないですけど、呪い様、僕にちゃんとあーるてぃーえーしてもらいたいらしいです……ねっ」
あ、また言えなかった。
けっこう全速で走った僕は、見えてきた階段目がけ、魔法のブーストも使ってのジャンプ。
……む、ちょっと魔力の残量やばいかも。
しゅたっと階段の最下段に着地。
同時に、がらがらがらとすごい音と土煙が上る。
「けほっ、けほっ……」
もわもわしてるのを袖でガードして……あ、新品の服の匂い。
そうだった、この服、まだタグついてる新品だったね……なのに今、土ぼこりで汚れちゃったね……。
ま、しょうがない、あきらめよう。
煙が落ちついてから、振り返ってみのと――薄暗い空間の真下に、ぽっかりとした漆黒。
……これ、この下にもそうとうの空間あるよね……だってほら、今崩れた床の残骸が下に落ちる音、まだ聞こえないし。
「………………………………」
……え?
10秒経ってもまだ、さっきの瓦礫が衝突する音が聞こえない?
……どんだけ深いの、ここ……。
「ひぇー」
【え……こわ、なにこれ】
【えぇ……】
【これ、ハルちゃんじゃなきゃ今ので終わってたんじゃ】
【ハルちゃんハルちゃん……これ、そんなかわいくて力抜けた悲鳴上げる場面じゃない……】
【草】
【リリちゃんのリストバンド けっこう強引に使わせてたのって、これのためだったのね……】
【確かに、ハルちゃんでもないのにいきなりフリーフォールしたあとさらにこれとか、ハルちゃんでもないリリちゃんには無理だよね】
【草】
【それはそう】
【ハルちゃんがちょっとおかしいだけだから……】
【ハルちゃん優しい】
【ハルちゃんのちょっとおかしい実力にふさわしい難易度だな!】
よくわからないけども、ここは250階層。
さっきの80階層から……えっと、170階層くらい落ちちゃってるってことらしい。
そうだよね……落ちる時間長すぎて、抱っこしてあげてたリリさんが、真っ暗闇で落ちてるのに落ちついちゃったレベルの時間だったもんね……。
……けど、なんか耳元ですんすんすんすんって聞こえたような?
風切り音って、あんな音だったかなぁ……。
「250階層にお邪魔モンスターとかボスモンスターとかいなくてよかったです。 じゃ、ここから上がっていくのでカウントお願いできるでしょうか」
まぁ、今のがボスって言えばボスかなって思うけども。
【任せろ】
【ちなみにえみるるは40階層に到達 これで最速だから……】
【さっきの80階層まで、単純に同じ時間掛かるね 休憩も入れると、早くて2時間くらいで宝箱のあったフロアに到達かな?】
「ありがとうございます。 じゃ、あーるてぃーえーっていうからには、ちょっとがんばってみましょうか。 なんか挑戦されてますし」
結局RTAって発音できない僕。
きっと男のときでも――滑舌よくない僕じゃ発音できなかっただろうし、もうあきらめよう。
さて。
緊急出力的な魔力は――たぶん、あと1回分。
大きな回避とかに使っておしまいな分だけ残す。
それ以上は、考えなくていい。
だから――ここからは、本気で行こう。
余力とか後先も考えず、ただただ今の僕が、出せる全力で。
実にシンプル。
それがベスト。
【え?】
【待って】
【待ってハルちゃん、確かに危ないけど】
【なんでそんなに好戦的なのよ】
【草】
【えぇ……】
助けがくるのは、わかってるんだ。
なら、僕はできることをするまで。
るるさんもえみさんも……たぶん九島さんも、来てくれている。
手を、伸ばしてくれている。
なら。
「みなさんが来てくれるなら、僕は80層にたどり着けばいいだけ。 なので、そこまでで全部使い切る感じで行こうって思います」
【まさかの全力宣言】
【まだ全力じゃなかったのね……】
【えっと……爆発しながら落ちる以上のはないと思うんですけど……】
……うん、いいね。
こういうぎりぎりの戦いって、男だったときでも最初のころだけだったから……どきどきするよね。
普段はモンスターたちに見つかることもなく、安全圏から一方的にってのが好きだけども……たまにはこういうのも楽しいよね。
こういうスパイスが好きだから潜ってるのかもね、僕って。
そう思うと――こういう機会を与えてくれた呪い様ってのには、ちょっと感謝したくなってくるよね。
◇
【:】
【……♥】
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