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闇と剣王祭【五】


 レイア先生から素晴らしい修業方法を聞いた俺は、それから毎日毎日ひたすら『闇』の操作に励んだ。

 これまでのように我武者羅に剣を振るのではなく、『闇を操る』という明確な目的を持って行う修業は――少し新鮮で楽しかった。


 日中は学院の授業。

 放課後は素振り部の活動。

 夜にはリアやローズたちと一緒に剣術を磨く。


 そうした基本的な日常を過ごしながらも、常に『闇』を意識した生活を送っていた。


 そんな充実した日々が一日二日と過ぎていき――いよいよ剣王祭当日を迎えた。


「――それじゃリア、行ってくるよ」


 時刻は朝の七時。

 朝支度を終わらせた俺は、玄関先でリアにそう言った。


「うん、気を付けてね。観客席で応援しているから、ちゃんと見つけてよ?」


「あぁ、わかった」


 剣王祭の出場選手は、少し早めに会場入りする必要がある。

 そのため俺は先に寮を出なければならなかった。


「行ってらっしゃい、アレン」


「あぁ、行ってくる」


 小さく右手を振るリアに見送られた俺は――真っ直ぐ生徒会室へ向かった。

 剣王祭が始まる前に簡単な作戦会議をして、それから出場メンバー全員で会場へ向かう予定なのだ。


 生徒会室に到着した俺は軽くノックをし――入室許可をもらってから、ゆっくりと扉を開けた。


「――会長、リリム先輩、フェリス先輩、おはようございます」


「おはよう、アレンくん」


「おはよう、アレンくん! 今日は絶好の剣王祭日和だな!」


「……おはよう」


 柔らかい笑顔を浮かべた会長。

 いつも通り、元気いっぱいのリリム先輩。

 朝に弱く、いまだ寝ぼけ(まなこ)のフェリス先輩。


 それぞれが三者三様の挨拶を返してくれた。


「さてと――それじゃアレンくんも来たことだし、そろそろ作戦会議を始めましょうか」


「そうだな! ちなみに、私のイチ押しは『ガンガン攻める!』だぜ!」


「できれば短めでお願いしたいんですけど……ふわぁ……っ」


 いつも通りのリリム先輩とフェリス先輩に俺がクスリと笑うと、


「っと、その前に……。アレンくんには、まだ見せてなかったわね。――はい、これがうちの出場選手表よ」


 会長は一枚のプリント用紙を手渡した。


「ありがとうございます」


 そこには千刃学院の代表選手五人の名前とそれぞれの戦う順番が記されていた。


 先鋒アレン=ロードル。

 次鋒リリム=ツオリーネ。

 中堅フェリス=マグダロート。

 副将シィ=アークストリア。

 大将セバス=チャンドラー。


「……セバス=チャンドラー?」


 そこには一人だけ、知らない人の名前が書かれていた。

 それもなんと『大将』として登録されている。


「――セバス=チャンドラー、うちの副会長よ」


 俺の呟きに対し、会長はため息まじりに答えた。


「あれ……? 副会長って、見つかったんですか?」


 確か副会長はブラッドダイヤを探しに、渡航禁止国である神聖ローネリア帝国へ行ったという話だった。

 それも――信じられないことに単なる『罰ゲーム』で。


「いいえ、依然として行方不明のままね……」


「……ということは」


「えぇ……。残念ながら大将戦は不戦敗ということになるわね……」


 会長は暗い顔で話を続けた。


「でも代役を頼んだ風紀委員長には、『興味無い』って断られちゃうし……。実力的に『大将』か『副将』を任せられるのは、もうセバスぐらいしかいないのよ……。そんなわけで『どうせ空白で出すぐらいなら、一か八かで書いちゃえ!』って登録だけはしておいたの……」


「な、なるほど……」


 確かに各校最強クラスの剣士が出張る『大将』や『副将』を任せられる人は、自ずと限られてくるだろう。

 剣士の戦いは真剣勝負だ。

 半端な実力の人を出せば、目も当てられない悲劇が起きてしまう。


(しかし、逆に言えば……。『風紀委員長』と『副会長セバス=チャンドラー』は、あの会長が認めるほどの実力者というわけか……)


 もし機会があれば一度、手合わせをしてもらいたいな……。


 俺がそんなことを考えていると、


「――だからうちの作戦は『ガンガン攻める!』に決まりよ! というより、もうそれしか手は無いわ!」


 会長は机をバンと叩き、勢いよくそう言った。


「おっ! いいね、シィ! 気が合うじゃないか!」


 リリム先輩は、会長の打ちだした『押せ押せの作戦』に強く賛同の意を示した。


 それに満足した彼女はコクリと頷き、非常にシンプルな作戦内容を語り始めた。


「作戦は至極簡単よ。見ての通り、今回私は『大将』から降りたわ。その意図はもちろん――確実に副将戦を取るため! だからアレンくん・フェリス・リリムの三人は、なんとかして『二勝』をもぎ取って! 大将戦にもつれ込む前に、早期決着を目指すのよ!」


「が、頑張ります……っ!」


「任せときな! ばっちり決めてやるぜ!」


「……一応努力だけはしてみるんですけど」


 そうしてそれぞれの返答を返した俺たちは、


「それじゃ、早速剣王祭の会場へ行きましょう!」


 意気揚々と進む会長に付いて、剣王祭の会場へと向かったのだった。



 剣王祭は高等部の全剣術学院が参加する――この国で最も注目度の高い剣術の祭典だ。


 各学院はAグループからHグループに振り分けられ、予選を戦っていく。

 そしてそれぞれのグループを勝ち抜いた上位二校のみが、本戦へと出場できるのだ。


 当然そんな大規模な祭典が一日で収まるわけはなく、剣王祭は三日に渡って執り行われる。

 初日は予選、二日目は本戦、三日目は決勝戦という具合だ。


「――さぁ、着いたわ。ここがAグループの予選会場『オーレスト国立闘技場』よ」


 会長はそう言って、目の前にそびえ立つ巨大な円形闘技場を指差した。


「こ、これはまた立派な建物ですね……っ」


 ヴェステリアにあった『大闘技場』、あれを一回り小さくしたぐらいだろうか。

 あちらが風雨に晒された歴史と貫禄のある石造りであるのに対し、こちらは鉄骨とコンクリートで組まれた近代的な造りをしていた。


「――さっ、早いところ受付を済ませましょう。『中の空気』に慣れる必要もあるしね」


 会長はそう言って、早足に受付テントへと進んで行った。


 その後、簡単に受付を済ませた俺たちは、オーレスト国立闘技場の門をくぐる。

 長い石畳の通路を抜けるとそこには――大量の剣士の姿があった。


(す、凄い……っ)


 右を見ても左を見ても――どこを見ても剣士ばかり。

 その圧倒的な空気と圧迫感に少し飲まれてしまいそうになった。


『人酔いする』とでも言えば、いいのだろうか……。


 人よりも遥かに家畜の多いゴザ村で育った俺は、あまりこういった人混みが得意ではない。


 でも、こればっかりは頑張って慣れるしかない。


「すー……っ。はー……っ」


 大きく何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。


 それから少しすると、剣王祭実行委員会による開会式が始まった。

 壇上に立った初老の男性は、簡単な挨拶とルール説明を行う。


 各校選抜の五人が先鋒・次鋒・中堅・副将・大将に就き、先に三勝した側の勝利。

 後進育成のため、各校必ず一年生を一人『先鋒』として起用すること。

 試合に持ち込んでいいのは剣のみ、防具などの持ち込みは禁止。


 特に変わったところのない――ごく単純なルールばかりだった。


 そうして最後に、


「それでは――本日のトーナメント表を公開いたします」


 壇上の男性がそう言った瞬間。

 彼の背後にあった巨大なスクリーンにトーナメント表が映し出された。


(千刃学院は……っと)


 俺がジッとトーナメント表を見つめると――その左端に『千刃学院』の文字を見つけた。

 どうやら今日最初に戦うのは、俺たち千刃学院のようだ。


(初戦の相手は……『人狼学院』か……)


 聞いたことのない名前だな……。

 俺がそんなことを思っていると、


「うへぇ……。初戦から『人狼』とかよ……。やだなぁ……」


 リリム先輩が露骨に顔を歪めた。


「リリム先輩、人狼学院を知っているんですか?」


「そこそこ有名な学院だからね……。去年も一昨年も『本戦』に出場している強豪だよ。でもまぁ、そこはどうでもよくて……、あそこはちょっとガラの悪い学院でね、個人的にあんまり好きじゃないのさ……」


「そ、そうなんですか……」


 二人でそんな話をしていると――闘技場内に通りのいい女性の声が響いた。


「――さぁそれでは、予定も詰まっておりますので予選第一試合を開始したいと思います! 千刃学院と人狼学院のみなさまはご準備を! それ以外のみなさまは、一度舞台からご退場願います!」


 どうやらもうこの後、すぐに初戦が始まるようだ。


 すると、


「頑張ってね、アレンくん!」


「君ならできる! 気合いだーっ!」


「陰ながら応援しているんですけど……」


 先輩たちはそう言って、背中をポンと叩いてくれた。


「はいっ! 精一杯、頑張ります!」


 こうして俺は目前に控えた人狼学院との『先鋒戦』を前に、気持ちを高ぶらせるのだった。

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