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91 リゼ、炎の魔剣を考案する


「子どもなのに大人用の大きな剣を振り回して戦う少年時代編もよかったですけど、青年編で錆びたナマクラの魔剣一本で戦うリッツさんもめちゃくちゃかっこよかったです!」


 わたしはリッツさんの使っていたであろう剣のイメージをラフ画にありったけ込めた。


 なんてことない錆びた鉄の塊で、刃先はちょっと鈍い。


「魔鋼素材を使って、【重量軽減】を限界まで乗せるというのでどうですか? 他につけたい機能がなければ、ほぼ重量ゼロまで持っていけますよぉ!」

「ゼ、ゼロ……ですか?」

「数グラム以下までいけます。盾を持たないなら、結界機能とトレードオフで、どこまで妥協できるかですね。ハーヴェイさんは剣の心得があるそうなので、攻撃魔法が飛び出たりするような効果をつけるより、これが一番強いと思います。柄に純魔石もおつけしておきます。そのほか、何かほしい機能ってありますか?」


 ハーヴェイさんは悩んでいるのか、真顔で固まってしまった。


 真面目なんだなぁ。


「何でもいいですよ? 【錆び止め】とか、【お肉を串刺しにしてたき火に入れても焦げない温度調節機能】とか、【洗濯物干しにもテントの枠にも変形する機能】とか、人によってほしい機能って千差万別なので。こないだカタログお見せしませんでしたっけ?」

「拝見しました。それで……じ……実は、たいへん恥ずかしい話なのですが」


 ハーヴェイさんは言いにくそうにしている。


「光らせたい……のです」


 わたしはニヤニヤしないように、ちょっと顔を引き締めた。


「そういう要望すっごく多いですよぉ! 野営中にも明かりがあると便利ですしねぇ! あと、先陣切る役の人だとすっごくカッコいいです!」

「……面目ない……いい大人がこのような……」

「いえホント多いですから全然恥ずかしくなんてないですよ! わたしの体感だと半分以上のお客様がこっそり光る機能つけていかれますもん!」


 それはちょっと誇張だったけど、ハーヴェイさんは安心してくれたようだった。


「みなさん光らせ方にもこだわっていかれますよ! 魔力を大量に流すと光るとか、刃先に負荷がかかるとじわじわ光るとか!」


 わたしはしばらく考えてから、あっとなった。


真っ赤に燃える鉄ハーヴェイさんなので、炎のような演出にすることもできますよ! 気に入らなければ完成後でも取り外すことができますし、とりあえずで入れてしまっては?」


 ハーヴェイさんはとても小さな声でぼそぼそと喋る。


「で……できれば、普段はオフにして……ソロのときだけこっそり楽しめるようになれば、と……」

「大丈夫です、できます!」


 ハーヴェイさんは真っ赤な顔で「ありがとうございます」と言った。


 この人、かわいいのでは?


 その他のパーツも確認して、また来週、サンプルの炎演出と全体画の完成形を見に来てもらうことにした。


 一生ものの買い物だからねぇ。


 わたしもまた本を読み直して、彫り込む装飾のデザインパターン考えなきゃ。


 デザインは楽しいね!


***


 わたしはデザインの興が乗ってしまった。


 乗りすぎてしまった。


 さすがに剣を振り回すと百五十センチ超の炎が彗星のように尾を引くデザインは、やりすぎたかもしれない。


 でもこれ、めっちゃかっこよくない?


 そう思って見本品をロスピタリエ公爵邸のお庭でも振り回していたら、ディオール様が来て、笑い死にしていた。


「幻影魔術か。君は幻影魔術がうますぎるな」

「ですよね? 自分で言うのもなんですけど、めーっちゃかっこいいですよね? たーっ!」


 わたしが正眼に構えて真上に振りかぶり、振り下ろすと、炎が燃え盛って案山子が火だるまになった。


「うわーっかっこいいーっ! ……ディオール様、笑いすぎじゃありません?」

「いや……この程度の魔術を幻影で出す意味が分からんと思ってな」

「指ぱっちんでなんでも凍らせちゃう人にこのロマンは分かりません!」

「分かるとも。演出は非常に洗練されている。それだけに、威力がないと分かったあとのギャップが……」


 わたしは剣を真横に構えて、くるんと一回転。


 炎が円形にほとばしって、水平にたなびいた。


 かっこいい!


 でもディオール様は爆笑していた。


 ヤな感じ!


「もー、そんなに笑うことないじゃないですかぁ……」

「すまない。しかしまぁ……大道芸向きのトリックじゃないか? 大した腕でもない冒険者がその大演出だと、恥ずかしいと思うが」

「せっかくかっこよくできたのに……」


 でもちょっと派手すぎたかなとは思ってた!


「まあ、サンプルとして、ここまでできますよってことで見てもらいます。でも、実用的にはどのぐらいがいいんでしょうか?」

「幻影魔術がまず実用ではない」

「それを言ったらおしまいなんですよ……」


 わたしはかっこいいと思うんだけどなぁ。


 しょうがないなぁ。


 わたしは色々と悩んだ末に――


 敵にダメージを叩きこんだタイミングで白い焼けつくような光が出るような演出にしておいた。


 案山子にヒットさせると一瞬刀身がまばゆく輝き、ごく小さな炎がいくつも生まれ、花のように咲く。


 このくらいの抑えた演出で……!


 ワビとかサビとかいぶし銀とかで……!


 強い魔術師がうっかり魔力を制限しそこねて、力があふれてしまったような感じを目指すと、しまいにディオール様も感心してくれた。


「うまいな。幻影とは思えん」

「じゃあこれで行きます!」


 炎エフェクトのロマン魔剣、気に入ってもらえるといいんだけど。


***


 ハーヴェイさんは堂に入った手つきで荒削りの木の棒を振りかぶり、振り下ろす。


 わたしが盛りに盛ったエフェクトが弾けて、店内が火で染まる。


 でも、燃えません。幻影だからね!


「かっこいいですっ!」


 わたしが拍手すると、ハーヴェイさんは真っ赤になってもごもごと何か言っていた。


 照れ屋さん?


 この人かわいいなぁ。


 フェリルスさんも気になるのか、おててでわたしの足をたしたしと叩いてきた。


「なあリゼ、そのボワーとするやつ、俺にもつくのか?」

「えっと……首輪とかにすることはできますよぉ!」

「なんだとーっ! 俺は……俺は火の魔狼となってしまうのか……!?」


 フェリルスさんの瞳が生き生き輝きだした。


 きっとすごくカッコいい自分の姿を思い描いてるんだろうなぁ。


「サンプルいっぱい作ったので、好きなやつあったら教えてくださいね!」


 わたしが試作品を並べると、ハーヴェイさんは片っ端から遊んでくれた。


 そこにフェリルスさんが絡む。


 素振りをするハーヴェイさんのエフェクトをぴょーんと飛び越えたり、後ろで宙返りをしたりした。


「わーすごーい! 息ぴったり!」


 すごいけどこの……なんていうか、大道芸感!


 かっこいいんだけど!


 サーカスみたいだなぁと思っていると、ハーヴェイさんが怖そうなお顔を赤く染めて、ひたすら照れくさそうにぺこりとした。


 やっぱりこの人かわいい!


 以前からの疑問が確信に変わって、わたしはちょっと調子に乗った。


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